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流された10橋の内、4橋の橋脚、3橋の橋台に着手

国交省八代復興 球磨川沿い国・県道の復旧復興が進む

国土交通省
九州地方整備局
八代復興事務所
所長

徳田 浩一郎

公開日:2022.10.28

 国土交通省九州地方整備局は、2020年7月に生じた豪雨による氾濫で大きな被害を受けた、球磨川沿いの国道及び県道約100kmと橋梁10橋の復旧および復興を進めている。既に橋梁は4橋で全橋脚の工事契約を完了し、さらに橋台については3橋で契約手続きを進めている。上部工は中央部のスパンが流された西瀬橋について桁が工場製作中で、今年度内にも復旧の予定だ。その詳細について、同局八代復興事務所の徳田浩一郎所長に聞いた。(井手迫瑞樹)

球磨川水系流域治水プロジェクトの水位を基準に道路も橋梁も復旧
 国道側の道路から復旧が進む 4橋で全橋脚の工事契約を予定
 

 ――管内の復興状況から 
 徳田 河川では球磨川中流部の権限代行9支川に加え、本川中流部の復旧・復興を行っており、道路については、球磨川沿いの両岸延長約100kmと橋梁10橋の復旧・復興を行っています。


事業概要(国土交通省九州地方整備局八代復興事務所提供、以下注釈なきは同

 現在の進捗状況は、道路については粛々と進めていますが、具体的に何kmというのは公表しておりません。スポット的に本復旧を進めています。河川の流域治水プロジェクトが昨年3月に公表(八代河川国道事務所ホームページに掲載)され、ダムなどの対策後水位が明らかになりましたので、その水位を基準に道路も橋梁も復旧していきます。
 道路についても対策後水位にあわせて設計を行い、順次、終わった箇所から発注しています。主に、国道219号側が進んでいます。対岸の県市町村道については、JRの復旧計画が未定であり、その計画がはっきりしないと道路の高さなどを含めて、調整ができません。そのため、まずは国道側から進めています。
 橋梁は、坂本橋、松本橋、大瀬橋、沖鶴橋の4橋で全橋脚の工事契約を予定しています。橋台については坂本橋、鎌瀬橋、松本橋、沖鶴橋の4橋で手続き中です。上部工については、西瀬橋の契約が完了して桁を工場製作中です。
 ――進捗が早いですね。JR九州とのことや、県道との接続をどのようにするかを考えると、もう少しかかると思っていました
 徳田 それらの課題はありますが、(それでも進捗のスピードは)まだ遅いと思っています。対策後水位が決まり、ほとんどの橋梁が新しい箇所に架設されますので、用地などを含めてこれから着手していきますが、できるところから発注していく姿勢は変わりありません。橋梁に優先順位はありませんが、用地などの現地のさまざまな事情があり、発注時期が違ってきます。

道路擁壁工事を約30件施工
 復旧位置決定に当たっては4点を考慮

 ――道路については
 徳田 現在、擁壁工事を約30件施工しています。

 ――擁壁工事は河川のですか
 徳田 違います。坂本町の西部地区や荒瀬地区、川嶽地区、球磨村の神瀬地区などで道路の擁壁を立ち上げています。球磨村の伊高瀬地区では延長約1kmの擁壁工事を行っています。現道の低い箇所を擁壁で対策後水位以上に上げていくものとなります。


擁壁工事実施例①(神瀬付近)(井手迫瑞樹撮影)

擁壁工事実施例②

 ――具体的な対策後水位は
 徳田 「ハイウォーター+余裕高」という言い方をしています。
 ――余裕高というのは
 徳田 場所によって違いますが、概ね1.5mとなります。
 ――擁壁は治水兼用となりますか
 徳田 治水兼用ではなく、道路としての護岸という位置づけとなります。
 ――擁壁部には別に護岸をつくるわけではないのですよね
 徳田 護岸兼用となります。それが治水と言われれば、兼用となりますが。

 ――球磨川橋梁復旧技術検討会での議論の推移と、復旧橋梁の位置と構造形式はどのようにするのか、また、地域の復興計画と構造物の被災に対する強化も含めて個別の構造物の詳細を教えてください。水位衝突の位置などで橋梁の架設位置を変えていることや、前回のインタビューでは親しまれてきた橋梁なので、できるだけデザインを変えたくないと仰っていました。また、基礎が洗掘されて被災しているケースもあると思います。耐震的には直接基礎でよくても、水害を考えると基礎杭を打設する考え方もあり、そのような事例もあります。橋台や橋脚の背面土砂が流出しても、橋台・橋脚が耐えて、背面さえ埋めれば復興できるという考え方であり、それらを含めてどのような構造物にしようとしているのか、教えてください
 徳田 第1回の検討会では、被災原因の推定と復旧コンセプトを確認しています。全体コンセプトは「創造的復興」で、県知事が言われている熊本県のコンセプトを踏襲しています。第2回では坂本橋、鎌瀬橋、沖鶴橋、西瀬橋の復旧位置を確認、第3回では深水橋、神瀬橋、大瀬橋、松本橋、相良橋の復旧位置を確認、第4回では深水橋、坂本橋、鎌瀬橋、神瀬橋、大瀬橋、松本橋、沖鶴橋の橋梁形式および天狗橋、西瀬橋の復旧方針について確認しています。
 第4回で9橋の橋梁形式および復旧方針が決定されました。残る相良橋については引堤計画があり、その計画との兼ね合いで検討を先延ばししました。7月末には復旧位置も見直し(上流側に変更)、橋種も決定しました。これですべての橋梁形式が検討会で了承されました。


流失橋位置一覧

 ――復旧位置については
 徳田 決定にあたっては、①狭窄部、水衝部、支派川の分合流部、②変形交差となる範囲、③既存施設の移設が困難な範囲、④土石流や土砂流出、法面崩壊等が発生もしくはその恐れがある範囲――を回避すべき範囲として整理しました。例えば、深水橋ではこれら4点を考慮して現橋位置の下流側約200mに復旧位置を決定しました。このようにして1橋ずつ検討しながら復旧位置を決定しています。

架替えはアーチが3橋、トラスが2橋、鋼床版箱桁が3橋
 天狗橋は流下断面外の堤防位置まで橋台を引いて側径間を架替え

 ――②の変形交差となる範囲とは
 徳田 現道の急カーブ区間に交差点ができることを避ける、という意味です。
 ――④を避けようとすると場所はかなり限られます
 徳田 事前調査はしており、斜面の事前調査が確認できている箇所や法面対策が完了している箇所を考えています。
 ――形式については
 徳田 深水橋と神瀬橋は鋼単純アーチ橋(ローゼ桁)、坂本橋、相良橋は鋼2径間連続トラス橋、鎌瀬橋は鋼単純アーチ橋(ニールセンローゼ桁)、大瀬橋、松本橋、沖鶴橋は鋼2径間連続鋼床版箱桁橋となります。

橋梁形式一覧

 天狗橋と西瀬橋は部分的な被災である上、地元自治体および管理者からの要望により、原形復旧を基本とします。天狗橋は元のA1橋台が堤防から突出していたため、流下断面外の堤防位置まで橋台を引いて、側径間(A1~P1)を架替えます。

天狗橋、西瀬橋の対応方針


天狗橋の現況。A1橋台背面が流失している(井手迫瑞樹撮影)

 ――中央径間は治さなくていいのですね
 徳田 そうです。西瀬橋は4径間のうち、1径間が流出したので、その1径間を復旧します。
 ――天狗橋は橋台背面が完全に流出していました
 徳田 橋台位置が飛び出た位置にありました。
 ――天狗橋の名称の由来がその形から、とも思いました
 徳田 名称については諸説あるみたいです。確かに鼻が出ているように見えますね。現橋の前にも何度か流出しており、その前は吊橋でした。その時も天狗橋という名前でした。形状ではないような気がします。

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