道路構造物ジャーナルNET

高知橋補修・補強工事では四国地整初のECI方式を採用

2022年新春インタビュー② 四国地方整備局 「四国8の字ネットワーク」の整備に注力

国土交通省
四国地方整備局
道路部長

鈴木 学

公開日:2022.01.01

橋梁2,740橋、トンネル173施設を管理
 20年後には管理橋梁の71.8%が架設後50年以上経過

 ――管内の橋梁の内訳は
 鈴木 当整備局では2,740橋を管理しています(2021年4月1日現在)。そのうち、鋼橋が682橋(24.9%)、RC橋が601橋(21.9%)、PC橋が810橋(29.6%)、溝橋が641橋(23.4%)、混合橋などが6橋(0.2%)となっています。延長別では、15m未満が1,460橋(53.2%)、15m以上が1,280橋(46.8%)で、そのうち100m以上が358橋(13.1%)です。
 架設年次別では、50年以上経過した橋梁が1,040橋(38.0%)と最も多く、次いで40年以上50年未満が527橋(19.2%)となっており、20年後には71.8%が50年以上経過となります。路線別では、国道56号が673橋(24.5%)と最も多く、次いで国道11号が637橋(23.2%)となっています。


橋梁内訳

 ――トンネルについては
 鈴木 173施設を管理しており、延長500m未満は113施設(65.3%)、延長1,000m以上は21施設(12.1%)です。管内で最も長いトンネルは2019年に完成した国道32号の新猪ノ鼻トンネルで4,187mとなります。
 工法別では、NATM工法が84施設(48.6%)、矢板工法が89施設(51.4%)です。建設年次別では、建設後50年を超えるトンネルは56施設(32.4%)と最も多く、次いで10年以上20年未満が42施設(24.3%)となっています。路線別では、国道56号が74施設(42.8%)と最も多く、次いで国道55号の35施設(20.2%)となっています。


トンネル内訳

Ⅲ判定の橋梁は約7%、トンネルでは約26%
 Ⅲ判定橋梁のうち、設計および補修工事着手率は91%

 ――橋梁の定期点検結果を教えてください
 鈴木 2014年度から2018年度までの5年間で橋梁2,686橋、トンネル160施設の定期点検を実施しています。
 健全度判定区分の内訳は、橋梁ではⅠが最も多く1,930橋、次いでⅡが568橋、Ⅲが188橋、Ⅳが0橋でした。トンネルでは、Ⅰが0施設、Ⅱが119施設、Ⅲが41施設、Ⅳが0施設でした。
 ――点検を進めてみての構造物の損傷・劣化状況について教えてください
 鈴木 鋼橋は腐食が主な損傷で、約8割で主桁などに腐食による損傷が発生しています。重交通が原因の疲労き裂については管内ではあまり発生していません。
 コンクリート橋はうき、剥離、鉄筋露出が主な損傷で、主桁などにうきが発生している橋梁は約3割、剥離、鉄筋露出が発生している橋梁は約5割となっています。
 トンネルでは、ひび割れ、うき、剥離が多くなっています。
 ――点検結果にもとづいた対策の進捗状況は
 鈴木 Ⅲと判定された橋梁から補修・補強工事を進めています。2014年度から2018年度の点検橋梁では、Ⅲ(188橋)の補修(設計を含む)に91%着手し、Ⅱ(568橋)では51%着手しています。残る橋梁についても計画的に補修を進めています。
 ――具体的な対策内容は
 鈴木 鋼橋の腐食による劣化であれば塗替えや部分的な当て板、コンクリート部の損傷はひび割れや断面補修が多くなっています。





損傷と対策事例

国道32号高知橋 桁下クリアランスがなく、路面電車も往来する厳しい現場環境
 パイルベント橋脚の補強工を実施中

 ――補修・補強工事を進めている橋梁の具体的事例を教えてください
 鈴木 高知駅南側に架かり、江ノ口川を渡河する国道32号高知橋があります。耐震補強と補修工事を行う現場は、桁と川面のクリアランスがない上に、道路利用者に加えて路面電車が走っており、さらに周辺には第3次救急医療機関や多数の宿泊施設があります。これらの現場環境を踏まえて、第三者への影響を最小化した上で、施工の実現性かつ品質確保が可能な工法の選定を行う必要があり、工事発注の際に、工事の仕様を確定することが困難な状況でした。そこで、当地整としては初の設計段階から施工者が関与するECI方式(技術協力・施工タイプ)を採用することとなりました(編集部注:施工は大成建設)。
 主な対策内容は橋脚補強工、支承取替工、伸縮装置取替工、床版補修工などです。現在は、パイルベント橋脚の補強工事を実施しており、2024年度末までに工事を完了する予定です。



高知橋の概要と現場環境

 ――高知橋の諸元と、健全度および損傷状況は
 鈴木 1964年に架設された橋長34m、幅員36.7mの3径間単純合成鈑桁橋です。下部工はパイルベント橋脚ですが、1981年に中央部の架替工事(上下部)を実施しているため、部位ごとに施工年度が異なっています。


高知橋 橋梁一般図

 健全度は2018年度点検でⅢとなっており、主な損傷は支点上の主桁ウエブ、桁端部下フランジの断面欠損、支承の腐食、床板の剥離・鉄筋露出です。
 ――現場環境が厳しい中で、パイルベント橋脚の補強工事ではどのような工夫を行っていますか
 鈴木 パイルベント橋脚の補強については、潮位の影響を受けない深梁工法を採用しています。深梁の取付けは潜水士による水中作業のため、干満による施工時間の制約を受けない施工方法となっています。


施工中の高知橋

パイルベント橋脚補強工事・バックホウ掘削(深梁設置のための床掘)

2020年度の上部工補修・補強実績は90橋
 鋼橋では当て板が約3割、コンクリート橋では断面修復・ひび割れ注入が約7割

 ――上部工補修・補強の実績と今後の施工計画についてお願いします。また、床版防水の施工状況や施工方針を教えてください
 鈴木 2020年度に完了した上部工の補修・補強実績は90橋で、そのうち鋼橋が58橋、RC橋が12橋、PC橋が20橋です。対策内容は、鋼橋では当て板が約3割、コンクリート橋では断面修復・ひび割れ注入が約7割となっています。2021年度は20橋で補修または補強を行う予定で、鋼橋15橋、PC5橋となります。RC橋での施工予定はありません。
 床版防水工については、既設橋は舗装打替えなどの補修に合わせて施工するなど随時対応しています。
 ――コンクリート床版の損傷状況はいかがですか。また、増厚や床版更新、部分打替えなどの事例はありますでしょうか
 鈴木 漏水・遊離石灰が1,069橋、床版ひび割れが777橋、剥離・鉄筋露出が534橋で確認されています。管内で更新や増厚などの床版補強を実施した事例はここ数年ではありません。

塩害による損傷は海岸部の橋梁37橋で確認
 耐震補強の進捗率は2019年度末時点で約86% 2026年度までの対策完了を目指す

 ――塩害やASRによる劣化は確認されていますでしょうか。劣化が確認されている場合はその状況と対策例をお願いします
 鈴木 塩害については37橋で確認されています。すべて海岸部の橋梁で飛来塩分の影響によるものとなっています。山間部では凍結防止剤を散布していますが、本州などの雪氷地域と比較すると散布量自体が大量でないことから損傷の発生は限定的です。
 対策事例としては、2020年度に国道11号川茂川橋(愛媛県四国中央市)で腐食した鉄筋の腐食速度を緩和する電気防食にて補修を行いました。


川茂川橋での塩害対策

 アルカリ骨材反応による劣化が確認された橋梁の主な事例としては、国道11号新本津川橋(上り)(香川県高松市)があります。1972年に完成した単純PCポステンT桁橋で、主桁下面および側面にPCケーブルに沿ったひび割れや部分的な析出物が、下部工にもひび割れが確認されていました。補修としては、2014年度に伸縮装置取替え、亜硝酸リチウム先行注入によるひび割れ注入工を、2018年度に床版防水工、ケイ酸リチウム系含浸材シラン混合型による表面含侵工を実施しています。


新本津川橋(上り) ASRによる劣化と対策

 ――耐震補強の進捗状況と具体的事例は
 鈴木 緊急輸送道路を構成する15m以上の橋梁939橋について、耐震性能2を満足する耐震補強を進めています。2019年度末時点での進捗率は約86%で、2026年度までの対策完了を目指しています。
 2020年度施工の主な事例では、国道32号福家高架橋(香川県高松市)で落橋防止装置の設置、橋脚巻立て、沓座拡幅、国道11号かちどき橋(徳島県徳島市)で変位制限装置の設置を実施しています。


耐震補強事例

 ――特殊橋での耐震補強事例がありましたら教えてください
 鈴木 近年では事例がありません。

鋼橋塗替え 2021年度は9橋合計25,980㎡を予定
 防災要対策箇所は継続的に対策を実施中

 ――2021年度の鋼橋塗替え実施(予定)の橋梁数と面積は。塗替え時における溶射などの重防食の採用がありましたら教えてください。また、有害物質を含有する既存塗膜の処理方法について
 鈴木 2021年度は、国道11号新加賀須野橋(徳島県板野郡松茂町、3,200㎡)や国道33号仁淀川橋(高知県吾川郡いの町、10,500㎡)など、横断歩道橋を含めて9橋合計25,980㎡の塗替え塗装を予定しています(横断歩道橋2橋を除くと合計22,480㎡)。
 溶射等重防食の採用事例としては、国道56号保場川橋側道橋(愛媛県宇和島市)、国道55号岬大橋(高知県室戸市)で支承に対する亜鉛アルミニウム合金溶射を行っています。沿岸部などの腐食が進行しやすい環境下にある橋梁について採用をしています。


塗替え事例

金属溶射による支承防錆事例

 ――支承取替えおよび伸縮装置取替えの2021年度の施行(予定)数は
 鈴木 支承取替えが1橋、伸縮装置取替えが6橋となります。


伸縮装置の取替え

 ――耐候性鋼材を採用した橋梁数と現状の健全度は
 鈴木 管内では59橋の採用事例があります。健全度はⅠ49橋、Ⅱ10橋、Ⅲ0橋となっており、劣化・損傷が確認されている橋梁はありません。また、これまでに耐候性鋼材の補修実績もありません。


耐候性鋼材を採用した橋梁 国道56号宇和島道路保田大橋(愛媛県宇和島市)

 ――全国的に異常気象による土砂災害が相次いでいるなかで、具体的な防災対策の要対策箇所と進捗状況、およびその事例を教えてください
 鈴木 1996年度と2006年度に道路防災点検およびその再確認を行っており、毎年梅雨や台風時期前には法面などの点検監視を実施しています。また、大雨や台風等による土砂崩れや落石などの恐れがある箇所については、法枠工や落石防護工など安全性を高める対策を継続的に実施してきました。
 具体的な対策事例としては、2019年度に国道55号徳島県海部郡美波町久望地区で、法面崩壊の恐れのある箇所に対して、吹付モルタルによる法面対策を実施しています。
 各地の甚大な災害を受けて、政府では「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」を閣議決定しており、当整備局でも対策を進めていきます。


防災対策事例

 ――新技術・新材料などの活用事例は
 鈴木 トンネル点検で「走行型高速3DトンネルシステムMIMM(ミーム)」を、橋梁点検で「構造物点検ロボットシステム『SPIDER(スパイダー)』」を活用した事例があります。


新技術の活用事例
 ――ありがとうございました
(聞き手=大柴功治)

 

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム