道路構造物ジャーナルNET

創造的復興の象徴としての橋梁復旧、土嚢存置した本復旧護岸を模索

八代復興事務所 100㎞の道路復旧、10橋の橋梁架替えなどを所管

国土交通省九州地方整備局
八代復興事務所
所長

徳田 浩一郎

公開日:2021.07.30

渡地区 推定水位は相良橋の橋上さらに3mに達していた可能性
 橋梁形式 地元住民の思いや愛着も存在

 ――今回損傷受けた構造物は、なぜ流されたのか? 検証していますか? 今まで、私もかなりの水害で被災した道路の現場を見てきましたが、橋でいうとクリアランスの低さや河積阻害率の高さ(橋脚本数の多さ)、さらに個人的な意見ですが、直接基礎形式をとっているものが多く被災していると思うのですが
 徳田 基本的には水位が橋の高さを卓越した箇所の橋梁が流されたと考えています。ただ、橋脚下部の洗堀などの影響がなかったかどうかというのは検証が必要になりますし、また、本橋を復旧するにあたっての高さをどうするのかというのは、慎重に考えなくてはいけません。
 例えば、今次水害の一番ひどかった箇所の1つとして渡地区があります。最終的な水位は推定ですが、相良橋の橋上さらに3mに達していたと考えられます。しかし、そうした高さに対応する橋を造るには、相当のアプローチが必要になりますし、今後、遊水池や引堤など様々な水害対策を考慮する必要があります。そうしたメニューの中で復旧後のH.W.Lを想定し、道路や橋梁を復旧してもいいのではないかと考えます。今後、ますます厳しくなる気象条件の中、橋梁が流失しないとは言い切れません。検討会では有識者の皆さんに橋梁が流されにくい橋梁構造の助言を頂きたいと考えています。

渡地区から相良橋に行く道すがら(2020年7月10日井手迫瑞樹撮影)

相良橋の仮橋はかかるも(左)、現在も渡地区の復興は進んでいない(右)(井手迫瑞樹撮影)

相良橋に隣接する被災したままの球磨川第二橋梁(井手迫瑞樹撮影)

 ――基礎形式を杭基礎構造などに変えるということは考えませんか
 徳田 当該地は主に地盤である岩盤が露出しているので、(構造設計的には)杭基礎を採用することはないと考えています。流失した橋梁については、供用年次が古いということもあります。流失要因として下部工の洗堀が先行されて傾き、上部工の流失を招いたかというと、それは分かりません。ただ基本的には水位の上昇により上部工が流失し、それに引っ張られる形で下部工も倒れたということが考えられます。むろん、直接基礎なので、洗堀により基礎が露出すれば支えるものがないことから橋脚ごと倒壊したという事例もないとは言えないと思います。

 ――例えば天狗橋は、あれほどスレンダーですが、橋は流されていません。こうした橋はアプローチとなる盛土を復旧すれば、すぐ使えるわけですよね。しかし橋桁が流されたらそう簡単に復旧できません。北海道の東部で起きた水害の後には耐震的なアプローチだけでなく水害への強さも考慮して杭基礎にする橋梁も現れましたが、そうした検討はしないのでしょうか
 徳田 まさにそこを考えるための検討を有識者に行ってほしいのです。上部工だけのアプローチでいいのか、いま仰られたように少し掘り込んで杭を打つのか、そういうアドバイスが出てくる可能性もあります。ただ、河川内の仕事は非出水期にしかやれません。なおかつ杭基礎などを施工するには締め切った上での施工が必要になります。復旧の時間的速度も考慮すべきで悩ましいところがあります。そうした点も考えて橋種を選定していく必要があります。

天狗橋(井手迫瑞樹撮影)

 ――その橋種については、どのように考えていますか。できるだけ河積阻害率を下げ、クリアランスを上げたいということがあろうと思いますが
 徳田 県知事が言われている「創造的復興」というキーワードがあって、それをどう捉えるかです。全国的にいっても10橋が流失するということは極めて特異なことです。その点を考えても流失した橋梁の復旧は、「創造的復興」のシンボルたり得るのではないかと考えています。さらに流失前の橋梁は、(アーチやトラスなど)特殊な形式が多く、地元住民の思いや愛着も存在します。そうした意見や将来管理する自治体の考えを聞きながら、検討会の中で橋種を選定していく必要があると感じています。

1つ切土すると、山の上まで数十m全て切っていかなくてはならない
 ジャイロプレス工法を使い鋼管の建込み

 ――河川護岸の対策上工夫しようとしている点はありませんか
 徳田 基本は原形復旧が基本です。もちろん損傷原因に応じて再度災害防止の対策は取ります。護岸も強くしたいのですが、これも色々な意見があって、強い護岸にするだけでいいのかという意見もあるのです。球磨川として白いコンクリートの壁が延々と連なることが景観上良いのか? ということですね。河道掘削などもメニューに入れていく方針です。
 基本は水位を下げることですから、流域的な治水をどのように行うかも問われています。

 ――民間に行ってほしい技術的提案や開発について
 徳田 応急復旧と先ほど言いましたが、緊急的には土嚢が一番早くてよいのですが、土嚢の前に本復旧の護岸を行うと河積阻害率を高めてしまいます。基本は土嚢を撤去して本復旧のためのブロックを積むのですが、その場合は現在、対面2車線で供用している道路を1車線減じる必要があり、片側交通規制で施工しなくてはなりません。

片側交互通行規制を実施中の施工現場(井手迫瑞樹撮影)

 そのまま応急復旧護岸を利用して本復旧を行うか、土嚢の前に護岸を立ててやらなければいけないか? 土嚢の前に護岸を立ててやるとすると、河積阻害率が上がるために河川管理者からはNGが出ます。それをクリアする方策が欲しいと考えています。一部ではジャイロプレス工法を使い、鋼管の建込みを考えていますが、コスト的には高いので、全ての箇所で使えるようなものではありません。コストを縮減し、河積阻害率も侵さない、これに代わる工法を切望しています。
 例えば、土嚢の前面にパネルを設けてアンカーで入れて、土嚢を内包したまま本復旧を行うとか、そういうやり方で施工するしかない箇所もあり得ます。


ジャイロプレス工法の施工現場(上:八代復興事務所提供、下:技研製作所提供)

 ――横にJR肥薩線があるから、切土を新たに設けるスペースもありませんね
 徳田 そうです。極めて条件が限定されています。球磨川自体、一部を除いては、川から崖地までの距離が極めて狭く、いわゆる切り立った構造になっています。1つ切土すると、山の上まで数十m全て切っていかなくてはならないのです。よって切土を広げるのは現実的ではありません。同時に一部の開けた箇所に水が溢れたのもこの地形によるところが大きいと考えています。

JR肥薩線と切り立った崖。切土は現実的には難しい(井手迫瑞樹撮影)

 ――本当に厳しい現場ですね
 徳田 河川も道路も、今話したような条件に基づいて、集落の復興計画も含めた全体の計画が明確にならないと、ロードマップの作成は行えません。今年と来年である程度方向性が出れば、復旧メニューの明確化やロードマップも作れるということです。

 ――ロードマップが出ないと橋梁の設計もままなりませんね
 徳田 橋梁の設計業務自体は、所与の条件が決まったらすぐに動けるように、既に発注しています。コンサルタントさんには負担をかけてしまいますが……。

通年で使うタイプのLIBRAを採用
 プレガーダー橋とLIBRAを使い分け

 ――現場の仮橋はプレガーダー橋とLIBRAがありましたが、この使い分けを教えてください
 徳田 プレガーダーは一般的な仮橋として通年で使うことを念頭に置いています。LIBRAは、コストは高いですが架設工期を短くできます。流失した上部工を撤去するための足場として用いました。ただし径間長が短いため出水期には存置できません。渇水期だけで架設して施工し撤去する必要がある場所はLIBRAを採用しています。



相良橋、鎌瀬橋、坂本橋ではプレガーダー橋を採用した(井手迫瑞樹撮影)

沖鶴橋では工事用仮桟橋にLIBRAを採用した(八代復興事務所提供)

 ――今後も撤去工はありますよね、松本橋とか……
 徳田 そうですね。ただ松本橋は坂路から入っていくため、同橋の撤去自体に仮橋は必要ありません。

 ――大瀬橋でも撤去でLIBRAを使っていますが、少し違うタイプのように見えます
 徳田 大瀬橋は通年で使うタイプのLIBRAです。そのため、通常タイプと違ってかなりスパンを飛ばしています。大瀬橋の撤去だけに使うだけでなく、同仮橋を使って左岸側にわたり、松本橋の撤去に向かう車両が渡るために使用します。
まず、橋台付近から下部工の鋼管を1スパン施工し、次に上部工を1スパン設置します。その後、設置した上部工から次のスパンの下部(鋼管)工の建て込みを施工し、上部工を設置することを繰り返していきます。なお、大瀬橋の仮橋は、橋長100mでありスパン長20mの5径間としています。


大瀬橋の撤去及び松本橋への連絡に使う仮橋はスパンを飛ばしたタイプのLIBRAを採用した
(井手迫瑞樹撮影、右下写真のみ八代復興事務所提供)

松本橋の現況(井手迫瑞樹撮影)

 ――これはなぜプレガーダーでなく、LIBRAを使ったのですか
 徳田 6月の非出水期までに仮橋を架けて、次の非出水期である11月の松本橋撤去にすぐに取り掛かれるようにするためです。通常のプレガーダーでは、大瀬橋のところに渡す仮橋を架けるには工期が足りなかったのです。
 ――復旧のための新しい技術開発について
 徳田 のり面防災については、現在も無人機による作業を行い、危険を低減しています。難しい現場はそうしたICTを積極活用していくことになろうかと思います。求めるのは安全で素早く確実に施工できる技術です。
 ――今後の発注及び施工について
 徳田 明示するのはなかなか難しいですね。例えば護岸について言いますと、連続して被災していますから、大規模に出せばよいかというとそれはできません。護岸を本復旧する場合は、当然直上を走る道路の片側交互通行規制が必要になってきます。せいぜい1工区当たり2~300m程度でしょう。規制を考えると同時に施工する箇所のタイミングも慎重に図らねばなりません。また、JR肥薩線が並行する県・市町村道路については、JRさんとの調整が必要になります。また、復旧のための技術者確保も課題です。
 ――河川内の工事用仮桟橋の設置など、どこまで河川管理者は許してくれるのでしょうか
 徳田 河川内については、河川管理者と相談しながら進め川側に張出す仮橋の架設など協議して行きたいと思います。
 実際には、JR肥薩線の敷地を仮設道路や施工ヤードとして使わせていただいています。非常にありがたいことです。

JR肥薩線を道路復旧の迂回路として活用している例(井手迫瑞樹撮影)
 ――ありがとうございました

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