道路構造物ジャーナルNET

待ったなしの維持管理対策

阪神高速道路 40年以上経過している構造物は4割強

阪神高速道路
保全交通部長

谷口 信彦

公開日:2019.06.20

橋脚100基でASR対策進める
 産地ごとの骨材特徴も調査し、今後に備える

 ――大規模修繕での橋脚補修は基本的にASR反応に対するものでしょうか
 谷口 そうです。当社ではASR橋脚を外観の劣化度で4区分に分けており、主に劣化が激しいⅣとⅢについて大規模修繕の対象として対策を進めていきます。
 ――それぞれの基数は
 谷口 外観劣化度Ⅳが約30基、外観劣化度Ⅲが約70基、合計で約100基です。
 ――100基の箇所は集中しているのですか、点在しているのですか
 谷口 松原線、東大阪線、堺線、神戸線などで発生しています。
 ――現在の劣化がひどくなくても遅延性の骨材の進行によりASRが発生するという観点から、骨材由来の把握などは実施していますか
 谷口 外観劣化度の低いものでも、ASRと評価しているものは経過観察をしています。現時点で外観劣化度の大きなものを対象に大規模修繕で対策していきますが、外観劣化度の小さいものでも、ASRが疑われる橋脚については追跡的に調査をしています。現時点で外観劣化度Ⅱのものでも、劣化が進行して外観劣化度Ⅲになればその時点で対策を行っていきます。また、産地毎の骨材の特徴について調査しています。また、ASRが疑われる橋脚を対象として、建設当時に使用された骨材の岩種判定を実施しており、追跡的な調査の参考にしています。
 ――ASR対策の進捗状況は
 谷口 従前から表面保護や鋼板補強などを実施してきましたが、最近では西船場JCTで橋脚梁部4基の再構築 を行いました。引き続きPC桁等大規模修繕工事において、ASR対策を行う予定です。また、松原線のPC桁では、ASRと疑われる損傷を確認しており、あわせて補修を行う予定です。


ASR橋脚の梁撤去状況

橋脚梁の再構築状況

 ――今年度の予定は
 谷口 現在3件のPC桁等大規模修繕工事を入札公告しており、その中で74基のASR橋脚の補修を予定しています。
 ――ジョイント取替えおよびノージョイント化は
 谷口 最近では神戸線(湊川~京橋)のリニューアル工事で行いました。路面からの作業で長期間の規制は難しいので、全面通行止めによる集中工事の中で実施しました。ノージョイント化は36レーン、ジョイント補修は136レーンです。そのほか、高性能床版防水工、SFRC舗装を施工しました。

床版防水工 神戸線で施工、湾岸線でも実施へ
 北神戸線で塩害損傷が散見 リフリート工法などで対応

  ――今年度の床版防水工は神戸線のみでしょうか
 谷口 これから関係機関と調整を行っていきますが、秋頃に湾岸線のリニューアル工事を計画しています。工事対象区間は鋼床版が主体ですので、SFRC舗装が主な工事になると思いますが、RC床版があれば高性能床版防水工を行うことになると思います。


床版防水工法①ハードフレッシュ工法

床版防水工法②HI-SPECシール工法

 ――今年度の支承取替えは
 谷口 上部工耐震において支承部の補強を実施していきます。
 ――塩害は
 谷口 北神戸線において凍結防止剤を散布する影響で塩害による損傷が認められます。法令に基づく定期点検が一巡して路線全体の状況が把握できましたので、これから計画を立てて、損傷の補修を進めていく予定です。
 ――塩害による損傷を具体的に
 谷口 コンクリート桁や床版の鉄筋の断面減少が発生しています。対策としては、リフリート工法などを念頭に計画を策定することを考えています。


コンクリート構造物の塩害

鋼橋塗替え 近年抑え気味であったが、今後は拡大方針
 塗膜剥離剤+2種ケレンで対応

 ――2017年度および2018年度の鋼橋塗替えの実績と今年度の予定は
 谷口 発注ベースで、2017年度が約28,000㎡、2018年度が約29,000㎡です。2019年度は4号湾岸線の2箇所22径間で約58,000㎡の予定です。
 ――阪神高速道路全体の鋼桁の数量を考えると、30,000㎡弱というのは少なく感じますが
 谷口 これまで塗替えが抑え気味のところもありましたが、腐食が進めば大きな損傷に発展しますので、今後、拡大していきたいと思います。
 ――厚労省から3月に、3種、4種ケレンの活膜作業時でも必要な対策を行うという文書が出ました。鉛などの有害物質を含有する既存の塗膜処理について、阪神高速道路ではどのような塗膜除去および素地調整の方法を考えていますでしょうか
 谷口 現状では、鉛等を含有する既存塗膜ははく離剤を使用し、2種ケレンで素地調整を行っています。


塗膜剥離状況

素地調整完了状況

上塗り完了状況

 ――1種ケレンは
 谷口 鉛等有害物質を含有する塗料のかき落とし作業における労働者の健康障害の防止について」(通達)より剥離等作業は湿潤化して行うこととなっていることから、はく離剤を使用した2種ケレンで行っています。
 ――ケレンが十分でないと再劣化も起きやすくなるかと思いますが
 谷口 素地調整程度が塗膜の耐久性にとって重要なのはご指摘のとおりです。継続して1種ケレンを達成する素地調整技術の情報を収集しつつ、必要に応じて技術開発を進めていきたいと考えております。

新技術 Hydro-Jet RD工法を既存床版撤去に採用
 路面のすべり抵抗調査車両「RT3 Curve」も導入

 ――阪神高速道路独自の新技術や新材料がありましたら教えてください
 谷口 UFC床版のほか、WJを用いた床版撤去工法「Hydro-Jet RD工法 」、京都大学と共同研究で開発を進めている非破壊検査技術、通常速度で走行しながら路面のすべり抵抗を調査する車両「RT3 Curve」などがあります。




Hydro-Jet RD工法 

 非破壊検査技術は、鋼板接着補強時に設置するアンカーボルトを活用して鋼板接着補強床版のひび割れなどを発見し、健全性を評価するものです。RT3 Curve(下写真)は去年の夏から実際に本線上の調査を始めています。

 ――ありがとうございました
(2019年6月20日掲載) 

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