道路構造物ジャーナルNET

鋼構造物の防食上大事な9項目を網羅

土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会の成果を出版へ

九州大学
准教授

貝沼 重信 氏

公開日:2018.10.16

腐食進行性を直接評価
 地際腐食の非破壊検査技術も

 ――⑥は
 貝沼 層状などの悪性さびが生じた際のさびの除去方法や内在塩分と表面塩分の評価などについてまとめています。現在、耐候性鋼材でも表面塩分量が議論の対象になっていますが、そもそも腐食表面の塩分自体を適正に測定・評価できません。腐食進行性を決定づける塩分は、均一に分布していない内在塩であり、鋼素地極近傍に集中しやすい塩化鉄を多く含むさび(塩化物イオンネスト)に濃縮しています。
 適正な塩分量測定やさびの状態判定が難しいこと、特に、安定化処理した場合には、さらに判定が難しくなることなどから、先程の話のように、腐食進行性(鋼材の腐食減耗量)を直接評価することが重要であることを示しています。
 耐候性鋼材の適用可否の目安は、飛来海塩マップ(0.05mdd未満の地域)ではなく、橋梁の架設予定地で直接、飛来塩分を測定すること、建設直後から橋梁への飛来塩分量や腐食進行性を橋梁部位あるいは貼付・暴露した小片裸鋼板などで評価する必要があると考えています。飛来海塩マップが開示されたことで、飛来塩分量が調査されることもなく、耐候性鋼が適用可の目安地域に橋梁が架けられることがあります。また、想定外の飛来海塩に曝され、供用後わずか10年で約2.5mmも板厚減少するなど、深刻な問題も起きています。
 多くの耐候性鋼橋では、このような問題が生じていませんが、飛来海塩や凍結防止剤の影響を受ける環境で重度な腐食損傷が一旦生じてしまうと、普通鋼と比べて、さびが緻密で固く、孔食しやすいことから、ブラスト処理しても塩類を含むさびが十分に除去できません。そのため、耐候性鋼の採用に際しては、塩害腐食時には塗膜に仕様変更後も塗膜下腐食しやすいなど、防食性能回復が普通鋼よりも難しくなり,高コストとなることを十分に理解しておく必要があると思います。
 ――⑦は
 貝沼 レーザー散乱光を用いた表面粗さ測定機器、レーザー光による表面処理、大気中犠牲陽極防食技術、地際腐食の非破壊検査技術など多数の新技術を紹介しています。
 ――地際腐食の非破壊検査技術とは
 貝沼 鋼製橋脚のコンクリート地際(鋼部材がコンクリートに埋め込まれている部分)などを対象とした検査技術です。
 ――この技術は鋼コンクリート複合構造ならあらゆる所に援用できそうですね。
 貝沼 適用できると思います。
 ――探査技術の具体的な手法は
 貝沼 渦電流探傷(ECT)技術です。従来のECTセンサでは、地際部を横断させて腐食損傷を探傷する必要があるため構造物では適用できません。そこで、地際部からコンクリート内部に磁力線を侵入させられる縦巻きコイルを開発しています。磁力線の経路が腐食減肉している場合、磁力線の多くは、透磁率が低い腐食部を通過しないため、インピーダンスの変化により電圧が変化します。この電圧変化はコイルが最大断面欠損部の直上を通過したときに最大となるため、電圧変化から腐食深さを推定できます。
 鋼製橋脚の地際部(全長が数メートル)にも適用できるように、ガイドレールを介して自動探査するシステムを構築しています(写真7、左)。地際コンクリートからの検査深さは20~30mm程度で、検査範囲は約4mです。都市内高架橋の鋼製橋脚で推定精度を検証した結果、±1mm程度の高精度で腐食深さが推定できることが分かりました。
 また、コンクリートなどの地際部や気液界面における鋼部材の腐食速度を推定するための腐食センサも開発しており、そのセンサも紹介しています。
 ――これは鋼部材の腐食速度を感知できるものですか
 貝沼 そうです。これを地際部などの対象部位に設置して、降雨や結露、大気環境による腐食電流を一定期間モニタリングすることで、防食すべき範囲や防食方法を選定する際に活用したいと考えています。たとえば、波形鋼板ウエブでは床版張出しに対して桁が高い場合には、ウェブに当たった雨水がコンクリートとの境界部に滞水します。一方、桁が低い場合はウェブに雨水が当たらず、滞水しにくいため、地際部でマクロセル腐食が生じにくくなります。しかし、結露による滞水の影響などもあるため、感覚や経験に頼らず、センサで評価した方が良いと思います。いずれにしても、橋梁架設後に腐食性が高い部位と低い部位を把握して、腐食環境に応じた防食性能を確保する必要があると思います。一旦,地際部が腐食してしまうと素地調整がほぼ不可能になってしまいますので。
 ――センサの特徴は
 貝沼 電子基板に用いられるガラスエポキシ基板に30ch以上の作用極と1chの対極を鉄めっきしたセンサを開発しています(写真8、右)。このセンサの特徴は、マクロセル腐食(各作用極と対極の電位差)に加えて、ミクロセル腐食の鉛直方向分布をそれぞれ腐食電流と交流インピーダンスのモニタリングにより推定できる点にあります。地際部の腐食は、従来、マクロセル腐食に着目されてきましたが、基礎研究でミクロセル腐食の影響も大きいことが判明したため、このセンサを開発しました。また、様々な防食方法の効果をこのセンサを使って定量的評価したいと考えています。今後は、センサを商品化するとともに、高精度かつ短時間にセンサ出力を測定できるロガーも開発したいと思います。
 ――材料分野の新技術は他にありませんか
 貝沼 腐食性イオン固定化剤入り有機ジンクリッチペイントがあります。そのほかには、Al-5%Mgプラズマアーク溶射、セメント系防食下地材などをまとめています。また、アルミニウムめっき関連では、55%Al-Znめっきボルト(めっき浴の温度は610~650℃程度)を紹介しています。このボルトは、アルミニウムめっきではネジ部のめっき層が厚くなるため、55%Al-Znに少量のSiを添加して、めっき厚を調節しています。また、ボルト締付時に工具の接触部でめっきが損傷しやすく、その防食も求められるため、アルミの耐食性と亜鉛の犠牲陽極防食を兼備しています。アルミニウムめっき鋼板と55%Al-Znめっきボルトの異種金属接触腐食については、経験上問題がないとされていますが、現在、電気化学試験や大気暴露試験で検証しています。
 ――⑨は
 貝沼 技術者が知っておくべき皮膜の防食機構などについて、土木系の書籍には書いていないこともまとめています。
 ――土木系の書籍には書いていないこととは具体的に何を指しますか
 貝沼 例えば、水膜厚と鋼材の腐食速度などの基礎事項、塗膜下腐食の発生機構、無機と有機のジンクリッチの防食機構、フッ素塗膜の劣化機構などです。

酸化チタンによる光触媒劣化の促進試験法を提案

 ――最後にこれからの研究内容で何かありましたら
 貝沼 腐食防食学会の建設小委員会のHP-Xe試験WG(主査 貝沼重信)で酸化チタンによる光触媒劣化の促進試験法を提案して、標準化するための活動をしています。
 酸化チタンを含む塗膜では、光の直接的な樹脂劣化と酸化チタンによる光触媒劣化の両者があります。フッ素樹脂塗料はフッ素樹脂の主鎖結合が紫外線の分解エネルギーよりも少し大きいため、紫外線では劣化しません。しかし、白色顔料であるTiO(酸化チタン)による光触媒作用により劣化します。
 提案する促進劣化試験は、Xenon照射と過酸化水素水噴霧を併用して光触媒反応を促進させる試験です。過酸化水素水による促進試験法は、自動車用塗膜の試験法として提案されています。過酸化水素水を噴霧することで、光触媒反応を引き起こすOHラジカルを大量に放出させ、酸化チタンを含む塗膜の光触媒劣化に対する耐久性を早期に評価できます。
 この試験を活用すれば、従来の仕様規定から性能規定に変更できます。例えば、この促進試験を何時間やって、光沢度保持率が何%以上といったように性能規定できます。これにより、これまでできなかった光触媒劣化を定量評価できるため、発注者側が使用環境や部位の重要性などに応じて、適切な酸化チタンを配合したフッ素樹脂塗料を選定できるようになります。
 ――自然環境においてOHラジカルによる劣化はどのようにして起きるのですか
 貝沼 光触媒劣化は紫外線と吸着水のある条件(水が塗膜に浸透するような高温高湿、濡れ時間の長い部位)で、OHラジカル(ヒドロキシルすなわち水酸基に対応するラジカルで樹脂質の分解を引き起こす)が発生して、OHラジカルが酸化チタン周辺の樹脂を分解し、拡大するために生じると言われています。水酸基ラジカルの分解エネルギーは、有機物全般の結合よりも強いため、光触媒作用により劣化が生じます。
 ――ありがとうございました
(2018年10月16日掲載)

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