道路構造物ジャーナルNET

鋼構造物の防食上大事な9項目を網羅

土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会の成果を出版へ

九州大学
准教授

貝沼 重信 氏

公開日:2018.10.16

剥離剤やIHなどを取り上げる
 WJによる塗膜剥離技術も

 ――最近の素地調整の課題としては、鉛やPCBなど有害物質を含有する塗膜除去がありますが、その対応は資料に含まれていますか
 貝沼 その塗膜除去方法については、剥離剤やIH(電磁誘導加熱式被膜剥離工法)などを取りあげています。また、国内では比較的新しい足場養生シート――米国発の技術で熱収縮型プラスチックフィルムを利用したWJ(ウォータージェット)による塗膜剥離技術があります。高い強度と耐水性、に加えて施工性に優れた熱収縮フィルムを使うことで、従来、都市内高架橋などで適用し難かったWJを採用しやすくなると考えています。

 ――ほか④の内容について
 貝沼 部材の取り換えの際には、腐食再発による部材減耗を考慮して、板厚を元板厚よりも増して、サイズを大きくすることを推奨しています。たとえば、桁端部で著しく減耗した腐食部位を切除して取り換える場合、ボルト継手が一般に採用されますが、ボルト継手は腐食しやすいため、早期に腐食してしまうケースがあります。この場合には、コスト高になりますが、増厚した取り換え部材を漏水の影響を受けないところで既設部材とボルト接合することで、補修部の早期腐食を予防できます。

溶融純アルミニウムめっきについて詳述
 溶射上の塗装における留意点とは

 ――⑤は
 貝沼 塗装と金属皮膜(溶射とめっき)です。あまり知られていない溶融純アルミニウムめっきについて詳しく述べています。
 ――塗装の内容から具体的に
 貝沼 塗装に関しては、塗膜の早期劣化や局部腐食の主要因である塗膜下腐食に着目しました。ブラストしても腐食の程度によっては、鋼素地内部にさびや塩類が鋼素地に埋め込まれるため、十分に除去できないことが多々あります。このような状況で塗り替え塗装すると、塗膜が健全であっても塗膜下に残置された塩類による浸透圧作用によって、塗膜下に水分が引き込まれ、腐食が再発します(写真4)。


写真4

 耐久性やLCCの観点などから、密着性の高い重防食塗装が採用されていますが、塗膜下腐食が発生すると、この腐食(マクロセル腐食)は部材面方向ではなく、主として板厚方向に進行するため、さらに素地調整しにくい状況になります。
 ――塗膜下深くに入った錆や塩の除去はどのような手法があるのですか
 貝沼 レーザー光、酸、WJ(ウォータージェット(音速を超えるもの))などとブラスト処理を組み合わせる必要があると考えています。
 ――レーザーブラスト+ブラストなど㎡あたり単価は恐ろしいコストになりそうですね
 貝沼 一般に橋梁全体を同様な方法で素地調整されますが、腐食状況が局所や部位で著しく異なる場合については、素地調整品質が過不及になるため、腐食部がまた先行して早期腐食します。そのため、腐食状況によって、どのような方法でどの程度の素地調整品質となるのかを明確にしておく必要があります。
 腐食部から進行性の高い局部腐食が再発したことで、腐食面積が全部材表面積の数パーセントであっても塗替え塗装されることもあります。腐食部から塗替え後に腐食を再発させないように、例えば、重度な腐食部(局部)のみにレーザー光などによる前処理後にブラストするなどいくつかの工法を組み合わせて、腐食再発が予防できれば、塗替え周期が長くなります.その結果、構造物全体の防食性能が向上するため、コスト縮減につながるはずです。
 ――次に金属溶射は
 貝沼 金属溶射の損傷事例を数多くまとめています。溶射上に塗装した皮膜に鋼素地に達する傷がついた場合やRC床版と鋼部材との境界部などで部材全面に溶射できない場合などでは、腐食環境によっては溶射の耐久性が著しく低下します。これらの劣化現象や対策についても記載しています。

 ――溶射上の塗装は伊良部や本牧など採用事例が増えていますが……
 貝沼 先ほどお話したように、鋼部材全面が完全に溶射されており、鋼素地に達する傷に相当する欠陥や損傷がなければ問題はないと思います。しかし、コンクリートと鋼部材の取り合い部などの未溶射部などが塩類による腐食性の高い環境に曝されれば、犠牲陽極作用により溶射皮膜層側面(溶射膜表面は塗装されているため、犠牲陽極作用が生じない)が局部的に促進劣化(写真5、右上)するため、溶射皮膜が早期に消耗・消失して、部材が腐食することになります。
 ――純アルミニウムめっきは
 貝沼 25年使用された海上油槽桟橋の部位レベルの腐食性調査とコア抜きによるめっき劣化調査をすることで、不明な点が多かった純アルミニウムめっきの消耗形態と防食性能について取り纏めています。腐食性が高い部位における1年間の腐食量は,小片裸鋼板を貼付・暴露した結果から約0.2mmでした。純アルミニウムめっきは知名度が低いため、採用実績は少ないですが、桟橋、飛来塩低減のための防風壁、検査路のグレーチングなどに採用され、高い防食性能を発揮した実績があります。
 委員会では皮膜を2つ視点で議論しています。1つは皮膜自体の耐久性、もう1つは防食性能です。例えば、アルミニウムめっきでは、表層のめっきが劣化・消失しても、その下にアルミニウムと鉄の合金層があります。塩類による腐食性が高い環境では、めっき層が消耗すると合金層が腐食するため、あたかも鋼素地が著しく腐食しているような外観となります。また,合金層の犠牲陽極作用により鋼素地が防食されます。したがって,目視点検で赤褐色のさびが厚く生成され、めっきの防食性能がなくなったと外観上判断される場合であっても、先程の25年使用した海上桟橋では、鋼素地が腐食していませんでした(写真6)。


写真6

 溶射も同じことです。下地にさびが残っていると溶射皮膜がわずかな領域で付着しないことがあります。それでも未付着部に対して、犠牲防食作用が生じる腐食環境であれば、防食性能上問題が無いため、皮膜に損傷があっても早期に対策する必要はないと思います。

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