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奈良県 国道168、169号のアンカールートを整備

奈良県
県土マネジメント部長

山田 哲也

公開日:2018.10.16

2,350橋と134箇所のトンネルを管理
 建設後50年以上経過したトンネルは全体の38%に達する

 ――次に保全について管内の橋梁およびトンネルの内訳は
 山田 奈良県は2,350箇所の橋梁と134箇所のトンネルを管理しています。


 50年以上経過している橋梁は680箇所と29%を占めます。トンネルは51箇所が建設後50年を経過しており全体の38%に達します。トンネルについては全国平均を10%上回っています。
 橋種別では、RC橋が最も多く1,243橋、次いでPC橋が520橋、鋼橋が445橋、混合橋141橋の順です。

 橋長別では、100m以上の長大橋は117橋と全体の5%程度です。500m以上の高架橋もあり、七色高架橋、大宮高架橋、慈恩寺高架橋、三輪高架橋、下田高架橋が該当します。一方で、15m未満の橋梁が1,477橋と全体の約63%を占めています。

 トンネルの工種別は矢板工法が81箇所と6割を超えています。次いでNATMが43箇所、素掘り工法が9箇所となっています。

 延長別では1,000m以上の長大トンネルが14箇所あります。そのうち2,000mを超えるトンネルは、国道309号の新川合トンネル、水越トンネル、県道37号桜井吉野線の新鹿路トンネルの3箇所です。

橋梁 健全度Ⅲが158橋、Ⅱが957橋
 30年以上経過した橋梁から経年劣化する傾向が顕著

 ――定期点検の進捗状況と結果は
 山田 橋梁、トンネルとも今年度で定期点検は一巡します。平成28年度末までに橋梁で1,211橋、トンネルで15箇所の点検を完了しています。橋梁は、健全度Ⅱが最も多く957橋、次いでⅢが158橋、Ⅰが96橋でした。特徴としては最も健全なⅠが少ないことが挙げられます。トンネルはⅡが9箇所、Ⅲが6箇所となっています。

 ――橋梁、トンネルとも、未点検の個所が多く、平成29年度、30年度で終わらせるのは大変ですね
 山田 昨年に赴任してから、奈良県として、まずは5年に一回の定期点検を如何にこなすかということに全力を傾注しています。その上で、(健全度Ⅲの施設に対して)5年以内に修繕に手を付けるべく、予算の増加、設計のスピードを上げることが課題です。特にトンネルのように、最後の2年で100箇所以上の点検を行うような偏った点検計画であると、設計、予算措置も大変になります。30年以降に全ての解析結果がまとまった後、修繕費をどのように計上していくかを考えていかなくてはいけません。県が支援している市町村はさらに厳しい状況ですので、メンテナンス会議などにおいて、議論していく必要があります。
 ――点検を進めてみての劣化状況は
 山田 Ⅲ判定が生じた橋梁点検結果の傾向として、30年以上を経過したころから経年劣化が生じています。部材別ではRC橋では主桁および下部構造、PC橋では支承、主桁、下部構造、鋼橋では主桁、支承に劣化が比較的集中しています。



判定区分Ⅲの橋梁① 中和幹線 上品寺大橋(1981年供用、橋長22m) 床版裏面にエフロの氷柱ができている

判定区分Ⅲの橋梁② 天理王子線 保田橋(架設年次不明、橋長36.8m)、鋼製沓に層状錆が発生している

 RC橋主桁の損傷要因としてはひび割れ、鉄筋露出、鋼橋主桁は桁端部の腐食、断面欠損、支承では伸縮装置からの漏水による腐食、下部構造では橋台の洗堀が多くなっています。

凍結防止剤の影響による損傷の疑い
 ASRはおおむね終息と判断

 ――腐食を要因としている損傷が多いですが、凍結防止剤の影響は
 山田 国道168号、169号は山間部を走るため、凍結防止剤を散布しています。両国道の平野部と山間部の健全度Ⅲ部材の割合を比較してみると、山間部の方がⅢ判定の割合が多く、凍結防止剤の影響による損傷が疑われます。

 ――ASRに起因した劣化は
 山田 2013年までに行われた前の定期点検の結果、13橋でASRの恐れがある橋梁があがりました。その後の詳細調査の結果、ASRによる劣化は終息している、またはASRには起因していないということが分かり、ひび割れ補修などの対策を行いました。
 ――塩害やASRで特に損傷が著しい部位というのは見受けられますか
 山田 極端に多くなっている部位というのは見られません。ただ、支承では凍結防止剤を散布する山間部の橋梁で健全度Ⅲが7%、凍結防止剤を散布しない平坦部で2%と3倍以上になっており、桁端部からの塩分を含んだ漏水によって損傷が拡大している状況は否めません。現在、切迫した損傷はありませんが、今後は桁端部に対する予防保全的な手当ても考えていかねばならないと感じています。

トンネル 幅員狭小な箇所が多い
 できるだけ効率的に維持管理したい

 ――トンネルの点検を進めてみての劣化状況は
 山田 分析まで至った数が少ないので、傾向などはまだはっきりしません。現状では建設後の経過年数や施工法別による判定結果の差は見られません。ただ、トンネル延長当たりの変状数(変状数/m)については、施工年数が新しいほど減少する傾向が見えます。損傷要因については浮きや剥離によるものが多く見られます。
 補修方法としては、幅員狭小なトンネルが多いため、片側交互通行による規制を伴った工事が発生しがちです。できるだけ効率的に補修・補強できる工法を望んでいます。

 ――劣化状況は目地方向のみですか、道路軸方向の損傷はありますか
 山田 多くは、目地方向のひび割れですが、道路軸方向の損傷も一部あります。しかし、道路軸方向のひび割れで、Ⅲ判定のものはありません。

耐震補強 対策残は137橋
 70橋を2022年までに優先施工

 ――耐震補強の進捗状況は
 山田 緊急輸送道路上の橋長15m以上の橋梁は476橋あります。そのうち、平成8年道路橋示方書に対応済みの橋梁は339橋(71.2%)です。残る137橋のうち、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上のエリアにある70橋について2022年までに耐震補強を完了させる予定です。残る67橋も2027年までに対策を施します。
 ――昨年度、今年度の実施状況は
 山田 2017年度実施した橋梁は9橋です。18年度は継続で7橋、新規に2橋の耐震補強を予定しています。今年度はJR関西本線を跨ぐ小林跨線橋(441.5m、大和郡山市小林町)について橋脚巻立て、近鉄橿原線を跨ぐ上品寺跨線橋(187.23m、橿原市上品寺町)の橋脚巻立てなどがあります。小林跨線橋は鋼板巻立ておよびRC巻立て、上品寺跨線橋ではRC巻立てで施工しています。河川条件が厳しい箇所では薄いPCMで巻立てる方法も採用しています。
 ――長大特殊橋(通常の桁橋以外の)で耐震補強がまだ施されていない橋梁はありますか
 山田 あります。ただし、長大特殊橋においては、過去に行われた3プロの際にも、フルで補強しているものもあります。

 ――支承取替やジョイントの交換などについて、実績および予定は
 山田 昨年度(2017年度)、今年度共に新八滝橋(1975年供用、橋長33.5m、単純鋼I桁橋)で支承を取り替えています。
 伸縮装置の交換は17年度が17橋(内、埋設は7橋)、18年度が14橋(同2橋)です。

長寿命化修繕計画 前期分は2橋を除き完了
 現行分 Ⅲ判定158橋中対策着手済は36橋

 ――長寿命化修繕計画の進捗状況は
 山田 奈良県では2010年に作成した長寿命化修繕計画(橋長15m以上の橋梁が対象)に基づき、早期に補修が必要な損傷橋梁76橋について、2016年度末までに工事に着手しています。
 2017度末までに五月橋(架替工事)、尾曽橋(設計済み)を除き工事は完了しています。
 また、2014年度からは近接目視点検による定期点検が義務化され、現在は点検結果から判定Ⅲと診断された施設を最優先に対策(設計・施工)を実施しています。
 2017年度末の実施状況はⅢ判定158橋中、工事完了が12橋、工事中が4橋、設計済・設計中が20橋となっています。
 今後奈良県では、近接目視が一巡した段階で、全橋梁を対象として、長寿命化修繕計画を更新し、判定Ⅲと診断された施設の対策を優先的に進めるとともに、予防保全型の維持管理に移行していく予定です。
 ――具体的な補修補強事例は
 山田 2010年策定の長寿命化修繕計画に基づいて補修した事例として、王寺跨線橋があります。王寺町においてJR和歌山線を跨ぐ箇所に供用されている橋長255mの9径間単純RC中空床版桁+3径間単純PCポステンT桁橋+単純PCプレテンT桁橋です(1972年架設)。同橋では橋脚および床版の補修補強(ひび割れ注入、下面からのPCMによる断面補修)などを行っています。


王寺跨線橋の補修補強(左:施工前、右:施工後)

上部工補修補強 今年度実施予定は22橋
 床版防水 実施率は未把握 2017年度は27橋で実施

 ――経年劣化や疲労による上部工の損傷および過去2年の対策は
 山田 上部工の補修補強は、2017度44橋で実施し、2018度22橋で施工する予定です。
断面修復やひび割れ補修などがメインで、床版の取替えなど、大きなものはありません。床版の断面修復は下面からの補修が主です。
 ――床版補修の際の防水は
 山田 現在では必ず舗装打ち替えの際に床版防水工を施しています。ちなみに2017年度は27橋で床版防水工を施工しました。ただし、全橋梁における防水工実施率は把握していません。
 ――床版防水はどのような防水工を施工されていますか
 山田 基本的には塗膜系防水工法を採用しています。
 ――ポステンT桁橋におけるグラウト充填不良などを原因とした上縁定着部の損傷、プレストレスロスなどはありますか
 山田 確認したところ、顕著なものはありませんでした。

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