道路構造物ジャーナルNET

観光客に歴史的名所をスムーズに回ってもらいたい

奈良県 国道168、169号のアンカールートを整備

奈良県
県土マネジメント部長

山田 哲也

公開日:2018.10.16

 奈良県は、県土の80%以上を山間部が占める。北西の奈良盆地などに人口が密集しており、観光資源も集中している。一方で県南にも吉野郡、高市郡の町村が風光明媚かつ歴史的な名所を遺している。そうした町村を南北に貫く国道168、169号は紀伊半島のアンカールートとして、改良が進められている。その話題を中心に、耐震補強や維持管理面の話題も含めて、奈良県県土マネジメント部長の山田哲也氏に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

企業立地件数は過去最高の34件に増加  「アンカールート」は県事業+権限代行で効率的に整備

 ――奈良県の地勢の特徴、道路の整備方針、構造物整備の考え方は  山田部長 奈良県は北西に奈良盆地を有し、北東部は大和高原および宇陀山地、南部は吉野山地からなります。県土面積の約80%が山地で占められています。  道路整備は骨格幹線道路ネットワークに位置づけられた道路を重点的に整備しています。最優先で事業促進しているのが京奈和自動車道で、平野部を南北に貫く背骨として早期の全面供用を期待しています。特に奈良国道事務所及びNEXCO西日本が整備を進める、大和北道路は、文化財を考慮して地下水位を下げないように大深度地下をシールドトンネルで抜いていきます。また、残りの大和御所道路橿原市域も平野のため橋梁が多く、基礎の施工には万全の対策が必要です。あわせて、奈良県では、そのアクセス道路の整備を進めています。  東西軸は国道25号名阪国道、第二阪奈有料道路、南阪奈道路と大和高田バイパスがあります。名阪国道が無料であるため、多くの大型車が奈良市内に入ってくるので、東西軸の適正化を図る必要があると思います。  奈良県は古くて格式の高い文化財や、雄大な自然が重要な資産としてありますが、それらの資産には、道路整備の際に特に慎重な配慮が求められます。  奈良県が主体的に事業を進めているのは、南部の紀伊半島アンカールートに位置づけられている、国道168号、169号です。両補助国道は、奈良県の背骨であり、県事業と国土交通省の権限代行事業と合わせて整備を進めています。山や河川が多い国道168号、169号は必然的に構造物が多い傾向にあります。

 ――骨格幹線道路ネットワークの次に重視している道路網の整備は  山田 県の将来的なビジョンを踏まえた、目的志向の道路整備の推進です。県全体のマネジメントを考えると、企業立地や観光振興、生活利便性や安全・安心に配慮した道路整備を行う必要があります。  奈良県内への企業立地件数は過去最高の34件、全国でも過去最高の11位に上昇しています。京奈和自動車道の開通により、延伸効果、アクセス性の向上が奏功していると感じています。  観光振興についても、昨今インバウンドのお客様が非常に増えています。その方に奈良市内をスムーズに回ってもらうネットワーク、また奈良県全体の観光地を回ってもらうための道路ネットワークの構築が、大きな整備方針になっています。

パークアンドライドも積極的に活用  自転車道延長75kmを五輪までに整備目指す

 ――観光振興という点でもう少し詳しく  山田 奈良市内については、奈良公園周辺の渋滞がひどく、定時性が確保されず、渋滞が観光振興上のネックになっています。たとえば、平城宮跡から奈良公園を経て春日大社等の重要観光拠点をつなぐ直通バスはわずかな便数しか走っておらず、平城宮跡から他の社寺を巡るバスについても定時性が確保できないため、路線バスは運行されていない状態です。  定時性を確保するためには、国土交通省が所管している名阪国道や奈良県が所管している大宮通り、その周辺道路について交差点改良事業を進めていくべきだと思っています。また、パークアンドライドも活用すべきで、2011年から毎年期間限定で実施しています。今年のゴールデンウイークには車に乗っている方々が500円で1日間市内観光できる周遊バスに乗り放題となる木簡型一日乗車券という試みを行い、好評でした。奈良公園周辺の渋滞は、観光目的の車両に起因するため繁閑期の差が大きいのも事実です。 ?まずは年間を通じ約9割の需要には(交差点改良などで)対応しつつ、ピーク時にはパークアンドライドなども組み合わせて全体の円滑化を図っていくのが合理的だと思います。特に幹線道路が全通し、交通の流れが劇的に緩和されるまでは、このように工夫しながらマネジメントすることが、当面の速攻対策として必要だと思っています。  ――交差点改良は効果的だと思いますが、一方で奈良県は用地買収が非常に難しいと聞きます  山田 おっしゃる通りです。本来は、交差点改良する部分と歩道を広げるための用地買収を同時に進めることが望ましいと思います。ただ、用地買収が難しく簡単にはいきませんがその中で奈良市内の世界遺産を周るルートとして、いわゆる地域内の幹線部分は少し幅広く計画を立てて景観にも配慮できればと考えています。  ――京都や神戸、大阪では自転道の整備なども積極的に進めていますが、奈良県は  山田 京奈和自転車道の整備を目指しています。同自転車道は京都市の嵐山から奈良県内を抜けて和歌山港に至る総延長約180kmの事業になります。奈良県内では奈良市から五條市までの延長約75kmを所管(右図、奈良県発表資料より抜粋、下写真も同)しており、2017年11月には大和郡山市内の4.4kmを初供用しました。東京五輪が開催される2020年の概成に向けて取り組んでいきます。  また、この路線だけでなく、沿線の観光拠点とのリンクや、既存の自転車道である「ならクル」(奈良まほろばサイク∞リング)と連携することにより、観光周遊の有力な手段としての活用を考えています。


開通した京奈和自転車道の一部
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