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ロッキングピアや長大・特殊橋梁の耐震補強も対策進める

NEXCO西日本関西支社 大規模更新・大規模修繕が本格化

西日本高速道路
関西支社
保全サービス事業部長

中村 順

公開日:2018.03.01

市川橋など8橋で床版および主桁の取替え工事進める
 中国道の吹田JCT~中国池田IC間の更新事業を計画

 ――大規模更新・大規模修繕事業のここ数年の実績と今後の予定について、詳細に述べてください。また、発注の工夫、施工上の対策、同事業における新技術・新工法の活用などについて、現場ごとに行っている対策を詳細に述べてください
 中村 関西支社では、中国道の福崎管内において床版取替および橋梁主桁取替工事を実施中です。平成28年度から本格着手しており、現在までに2橋の床版取替が完了しています。現在は市川橋(225m、鋼2+3径間連続非合成鈑桁)、福崎新高架橋(13.5m、プレテンPC単純I桁)、安志(あんじ)橋(76m、鋼3径間連続非合成鈑桁)、須賀沢橋(90m、鋼3径間連続非合成鈑桁)の各上下線8橋の床版および一部で主桁取替工事を対面通行規制下で進めているところです。
 今後は名神、中国道、近畿道、西名阪道、阪和道といった都市部の重交通区間での更新事業に着手していきます。重交通区間は、連続高架形式が多く、複数の鉄道や主要道路と交差・並行していると共に、駐車場、駐輪場、公園など様々な高架下占用物件も多く存在します。沿線には住宅街や工場、商業施設等が近接している個所もあります。そのため重交通区間の工事着手に際しては、今まで以上に関係機関との密接な協議調整、連携が必須となります。
 ――それは私も、初の「大規模更新事例」といえる九州道の向佐野橋で感じました。10万台を超える交通量をさばきながら床版を取り替える計画を通すために、実に計画提起から実現まで干支を一周したと聞きました
 中村 そうした重交通路線では、工事実施に伴う交通規制により、高速道路および周辺道路での交通混雑が予想されるため、工事による社会的影響を如何に最小限にするかが最重要課題となっています。
現在は中国道の吹田JCT~中国池田IC間の更新事業を計画しています。
 ――道路延長と交通量、構造物は
 中村 延長は10km強、交通量は1日7万台程度です。ただし、今年度末には新名神(高槻~神戸間)が完成し、約2万台の通過交通はそちらに回ることと想定され、開通後の交通量は一定量低下するものと考えています。向佐野橋は10万台の交通量をさばきつつ施工しましたが、3車線道路でした。当該区間は約5万台となりますが車線数は2車線しかありません。おまけに周辺街路では1日交通量10万台の中央環状線が走っていますが、その直近で行われる工事であるため、中央環状線も車線を絞る必要もあると想定されます。厳しい工事です。
 構造物は、ほぼ橋梁、一部土工で構成されており、区間の手を入れなくてはいけない構造物を一挙更新・修繕する方針です。本工事の実施に際しては、先に述べたように大規模な交通規制が必須であり、大きな社会的影響も想定されることから、交通規制の期間を極力短縮するような工事計画、架設計画などが求められます。現在、中国道(福崎地区)で行っているような対面通行規制下の工事はできないと考えています。このため、民間の最新技術を最大限に活用し、工事期間の短縮を図る必要があると考えていることから、今年度中に、技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による工事発注を計画しています。受注業者は来年度の第2四半期を目途に決める予定です。高速ネットワークによる迂回路をお願いすることとなる阪神高速道路との協議・調整等も必要と想定されることから、工期を動かすことは極力避けなくてはなりません。
 ――5万台ですか。4万台が、床版取替の難易度の分水嶺という話を聞いたことがありますが、その交通量を超えていますね。道谷第二橋で行ったような半断面床版取替工法などは考えておられないのですか
 中村 具体的な工法は、受注者との協議に拠りますのでなんとも言えません。ただし、我々は近畿道や名神高速といった箇所での床版取替も行っていかなければなりません。中国道のさらに倍に達する交通量と主要な迂回路がないという悪条件(近畿道)を想定して如何に工事を進めていくか、ということもシミュレーションしながら、中国道のリニューアル工事を進めていくことになろうかと思います。
 なお、福崎管内の工事では、平成30年春に市川橋の上り線の床版取替、平成30年の秋と31年の春に福崎新高架橋の主桁取替を予定しています。


市川橋の損傷状況


市川橋の床版取替(上:床版撤去、下:新設PC床版パネルの設置)

ジョイントは221箇所、支承は5支承線で取替
 塗り替え2016年度は7橋43,000㎡、17年度は6橋33,000㎡

 ――支承の取替や、ジョイントの取替およびノージョイント化について、今年度の施工予定個所数と取り替える際の工法・種類をお答えください
 中村 ジョイントについては、損傷に応じて取替を実施しています。支社管内で平成29年度に発注した個所は211箇所です。内訳は滋賀(高速道路事務所管内、以下略)33箇所、大阪57箇所、福崎41箇所、姫路80箇所となっています。支承の取替についても、損傷に応じて取替を実施しています。管内において平成29年度の施工箇所は5支承線です。内訳は神戸4支承線、福崎1支承線です。
 ――2016年度の鋼橋塗替え実績(橋数と面積)と2017・18年度の鋼橋塗替予定は
 中村 2016年度の塗替塗装発注橋梁数は7橋(43,000㎡)です。内訳は京都(高速道路事務所、以下略)管内が5橋19,000㎡、阪奈管内が1橋13,000㎡、神戸管内が1橋11,000㎡となっています。2017年度の塗替塗装発注橋梁は6橋33,000㎡を予定しています。内訳は大阪管内が2橋13,000㎡、阪奈管内が1橋9,500㎡、福知山管内が3橋10,000㎡です。2018年度については選定・精査中です。
 ――塗り替えに際して、旧塗膜はストックホルム条約で廃棄を義務付けられているPCBを含む塗膜や、周辺環境はもちろん作業者の健康を損なう鉛などの有害物質を含む塗膜をどのように除去するかで各発注者とも悩んでいます。管内ではどのような方法で旧塗膜の除去および素地調整を図っていますか
 中村 PCBを含有している既設塗膜は近畿道などで残っており、今年度一部で塗替工事の発注を行っています。塗り替えに際しては、2014年5月に厚労省から出された文書に基づいて、まず旧塗膜を塗膜剥離剤で剥がし、さらに塗膜剥離剤では剥がれない無機ジンクリッチペイントや添接部、隅角部と素地調整については保護具着用・飛散養生を施したうえでオープンブラストを行っています。除去した塗膜は法律に基づき処分いたします。
 ――溶射などの新しい防食の採用は
 中村 新しい防食としては、鋼桁端部にアルミニウム・マグネシウム合金溶射(TAPS溶射)を計画的に実施しています。管内では約1,200㎡/年程度です。今年度は中国道西下野VA上り線、矢野川橋上り線、中国猪名川橋上下線で実施しています。
 ――耐候性鋼材を採用した橋梁は管内でどの程度ありますか。また健全度の状況についても教えてください
 中村 耐候性鋼材を使用した橋梁は、管内に1橋ございます。京都縦貫道の深沢高架橋で、耐候性鋼材が用いられています。同橋は国交省から移管された区間にある橋梁です。供用から20年が経過していますが、上部構造部材において、現状では軽微な変状の発生が確認されている程度です。
 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、NEXCOでも道路に面する斜面や、古いのり面、盛土構造などをどのように補修・補強して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがありましたらお答えください
 中村 関西支社管内では旧タイプのグラウンドアンカーの老朽化対策や盛土内浸透水の排除およびのり面排水施設の更新・修繕を計画的に実施していきます。具体的には名神高速道路梶原地区(京都高速道路事務所管内)のり面補強工事としてグラウンドアンカーの増し打ち工事を発注しており、今年6月より現場に着手しています。なお、今年度内にグラウンドアンカー工事をもう1件発注する予定にしています。

NSカバープレートを西名阪道 美陵高架橋鉄道交差部で採用

 ――新技術やコスト縮減策について
 中村 鉄道交差箇所において、常設足場の採用を検討しています。 
鉄道上において、橋梁点検や調査、維持作業などを実施する際には、鉄道会社との協議を行った後、き電停止している時間帯で作業を実施しなければなりません。迅速な対応が困難なことから、検査路に代わる常設足場(NSカバープレート)の構築を検討しています。常設足場を設置することで、①鋼桁、桁下下面および付属物などの点検・補修のための足場機能、②鋼桁の腐食環境の改善による橋梁部材の劣化抑制機能、③床版コンクリートの剥落、ボルト、付属物の落下による第三者被害の防止、④床版取替時などにおける作業用吊足場としての機能――などを期待しています。現在、西名阪道の美陵(みささぎ)高架橋において近鉄との交差部約30m区間で設置工事中です。

美陵高架橋に設けられた常設足場

 ――ありがとうございました
(2018年3月1日掲載)

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