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復興道路・復興支援道路 復興・創生期間内に9割完了

東北地方整備局 気仙沼、桑折、新思惟など続く長大橋の施工

国土交通省東北地方整備局
前 道路部長

山田 哲也

公開日:2017.07.27

今年度は110kmを新規供用
 新思惟大橋下部工に着手 ピア高は96mに達する

 ――平成29年度開通予定個所は
 山田 今年度は管内で約110kmの新規開通を予定しています。
 復興道路関係では、三陸沿岸道路として南三陸道路の南三陸海岸~歌津間4.2km、本吉気仙沼道路の大谷~気仙沼間7.1kmと山田~宮古南間14km、宮古中央~田老間の部分開通4km、田老~岩泉間6kmを今年度開通します。
 また、相馬福島道路では霊山道路12km、阿武隈東~阿武隈間5kmが開通予定です。
 そのほかの高規格道路では、日沿道の鷹巣大館道路(Ⅱ期)1.7km、東北中央道の福島~米沢間26.6km、米沢~米沢北間9kmを開通させます。
 ――今年度発注予定の工事のうち、代表的な工事は
 山田 三陸沿岸道の宮城県内では、気仙沼道路の波板大橋と鹿折(ししおり)橋、大峠山橋の下部工に着手します。波板大橋は橋長145mのPC5径間連結ポステンコンポ桁橋、鹿折橋は橋長120mのPC2径間連続ラーメン箱桁橋、大峠山橋は橋長276mのPC5径間連続ラーメン箱桁橋です。
 また、同道の岩手県内では田野畑道路で新思惟大橋と平井賀大橋の下部工に着手します。新思惟大橋は橋長394mのPC4径間連続ラーメン箱桁橋、平井賀大橋は橋長221mの鋼5径間連続鈑桁橋です。


新思惟大橋供用イメージ(左写真)/同橋遠景イメージ(右写真、鋼アーチ橋は思惟大橋) 

 新思惟大橋は非常に深い渓谷に下部工を構築するため、橋脚高は最大で96mに達します。基礎は大口径深礎を予定しています。
 橋脚設計では構造特性を考慮し、地震時の慣性力に対し十分な耐力を確保(許容応力度内)しています。


主な橋梁下部工着手橋梁一覧(拡大して見てください)

気仙沼湾横断橋の上部工に着手
 下部工も玉石含む地盤でプレボーリング活用し杭を打ち込み

 ――平成29年度で上部工に着手する主な橋梁は
 山田 復興道路と復興支援道路の最大橋長となる2橋に着手します。


主要橋梁上部工一覧

 復興道路の最長橋梁は、三陸沿岸道路(気仙沼道路)の気仙沼湾横断橋です。当該橋梁は橋長1,344mの鋼3径間連続箱桁+鋼7径間連続箱桁+鋼3径間連続斜張橋です。
 復興支援道路の最長橋梁は、相馬福島道路(霊山~福島)の桑折高架橋です。当該橋梁は橋長1,218mの鋼3+5+4+3+4径間連続箱桁です。
 ――気仙沼湾横断橋の進捗状況は
 山田 全ての下部工に着手し、すでに陸上部の7基が完了しています。現在は河川部および湾内に構築する7基(P1、P4、P9~A2)について工事を進めています。地盤は玉石を含み、鋼管矢板で締め切ろうとしましたが、なかなか通常の打ち込みやオーガーでは施工できません。そのため先行してプレボーリングにより砂柱に置き換えました。一方で杭体の周りに砂の支柱を造るものですから、地下水を引っ張りやすくなり、仮締め切り時の盤膨れを防ぐために別途対策を行う必要があります。また、下部工は塩害対策として、エポキシ樹脂塗装鉄筋を採用しています。


気仙沼横断橋陸上部の下部工 P2橋脚から終点側を望む

気仙沼湾横断橋下部工水中部(P12橋脚、手前)

 上部工はA1~P3間が発注済み、P4~P10は発注予定です。またP10~A2(斜張橋部)は発注手続き中です。

上部工は斜張橋形式を採用
 風洞実験等行い慎重に設計・施工進める

 ――上部工は斜張橋形式など非常に特殊ですね
 山田 当整備局で道路部所管としては初の斜張橋形式(左イメージ図)の採用です。設計風速は100年間の再現確率で最大26.5m/秒を想定し、構造形式は逆Y型の主塔と一面吊のケーブルによる斜張橋です。一面吊りのケーブルは、15mの主桁ブックを吊っている構造ですので、輪荷重や風等の影響を受けやすく疲労による損傷が懸念されます。そのため3次元の弾性模型(縮尺1/200)による風洞実験を実施し、各部位の負荷状況を把握して設計しています。また、架設完了時には初期値計測によるモニタリングを実施し設計検証を予定していることから、国土技術政策総合研究所や土木研究所などのご指導いただきながら慎重に取り組んでいきたいと考えています。


気仙沼湾横断橋陸上部完成イメージ

桑折高架橋は下部工を全面展開
 上部工も今年度発注 平成30年夏に跨線橋部を送り出し

 ――桑折高架橋の進捗状況は
 山田 現在は全ての下部工に着手しており、今年度中に全ての上部工を発注する予定です。


桑折高架橋下部工

 ――上部工はJR東北新幹線や東北本線の上を跨ぎますね
 山田 新幹線を跨ぐ部分を含む3径間(205m)はJR東日本に委託し、平成30年夏頃に送り出し架設を行う予定です。送り出し架設にあたっては地震の慣性力を考慮し、仮受けの状態でも倒壊しない安全設備としていします。また、架設時期は、在来線のJR貨物列車の運行状況と架設可能時間を考慮して決定しています。


新幹線跨線橋部は205mに達する

RC床版は多重防護対策を施す
 フライアッシュや高炉スラグ、エポ鉄筋を検討 

 ――RC床版の予防保全はどのように考えていますか。とりわけJR直上の床版劣化により(凍結抑制剤を含む)漏水が生じれば大きな影響が出ますが
 山田 縦断線形(4%勾配の凸型)と平面曲線(R1100m)を有しているため、橋面水が片側に集まりやすく、凍結融解や凍結抑制剤に由来した塩害が生じる可能性があります。そこでRC床版については、多重防護の考え方を検討しています。
 凍結抑制剤散布による塩害対策については、南三陸国道事務所で試行的に実施しているフライアッシュセメントや高炉スラグセメントの活用を検討しています。また、荷卸し時の空気量を6%程度確保することで耐凍害性の向上を図ります。
 床版防水工についてはシート防水を基本にしていますが、床版端部や排水桝部、地覆高欄立ち上がり部にはウレタン樹脂系の塗布型防水を併用する予定です。
 橋面の表層は、機能性砕石マスチックアスファルト合材の使用を予定しています。機能性砕石マスチック舗装は、十分に締め固めると水密性が高くなる一方、地覆付近の締め固め密度が車道部と比較すると約3%低下することが、昨年の施工状況把握でわかりました。横断勾配の低い側の地覆付近では橋面水が集まりやすく、冬期には塩分を含む橋面水が床版に浸入する恐れがあることから、その弱点をどこまで解消できるか現場でいろいろと試行しています。たとえば、基層上面の端部に接着性の高い乳剤を散布することや、基層合材に水密性の高い改質Ⅲ型-W(たわみに対する追従性もある材料)を東北中央道で試行することで、施工性や仕上がり状況を確認しました。
 ――床版内の鉄筋は桑折だけでなく、凍結抑制剤を散布する全ての橋梁で防食鉄筋を採用することは考えないのですか
 山田 東北地方整備局の所管する橋梁は、定期点検結果を分析してみると、(凍結抑制剤を含む)塩害による損傷はまだ顕在化していません。
 NEXCOでは凍結抑制剤の散布量が直轄国道の2倍を越え近年塩害が顕在化しつつあり、床版や桁端部で損傷が起きていると聞いています。当局所管の橋梁床版では、まだそれほど深刻な損傷が生じていません。今後も定期点検の結果を観測しつつ、とりわけ山間部を通る自動車専用道路でどれぐらいの凍結抑制剤を散布すれば(塩害による)影響が出てくるのかを見極めながら、防食鉄筋の採用を検討していきたいと考えています。

夏井高架橋など4橋が完了予定

 ――今年度施工中の主な橋梁は
 山田 三陸沿岸道路の岩手県内では、29年度および30年度の完成を目指して4橋が施工中です。吉浜釜石道路の新白木沢橋は橋長250mの鋼4径間連続合成鈑桁橋で、29年度に本体工を全て完了予定で、舗装や付属工を施工した上で30年度の開通開始を目指しています。


新白木沢橋

 宮古田老道路の長内川橋は橋長194mのPC3径間連続ラーメン箱桁橋です。上下部一体発注の橋梁で、本体は平成29年度に完成予定です。開通は32年度を予定しています。


長内川橋の架設状況(左)P1~P2間の張出し架設状況、(右)P2橋脚から起点側を望む

 久慈北道路の夏井高架橋は、橋長497mのPC7径間連続ラーメン箱桁橋です。同橋も上下部一括発注で施工しており、本体工は29年度に完了予定で、30年度の開通予定です。


夏井高架橋の進捗状況(左)A1橋台から終点側を望む、(右)P3橋脚の片持ち架設状況

 釜石山田道路の小佐野高架橋は橋長460mの鋼4+4径間連続箱桁橋です。上部工架設は完了しており、現在は床版工を施工中です。同橋も30年度に開通を予定しています。


下部工施工時の小佐野高架橋

「速さ」対策はPPP活用
 「コンクリートの品質」は施工状況把握シートと表層目視評価などで対応

 ――ほか、構造物とりわけ復興道路、復興支援道路において、工期内に施工するための「速さ」とコンクリート構造物の長期耐久性向上を両立させる施策についてお聞かせ下さい
 山田 「速さ」という観点で言うと、東日本大震災から10年で復興の目処を付けるということで、発注者支援業務としてPPPを取り入れました。要は発注者とゼネコンやコンサルタント、用地買収のチームが13チーム作られ、そこで発注はもちろん事業を進める上での工夫などを行うことで、工事のスピードアップを図っています。従前は整備局の職員だけで行っていた業務を官民の力を合わせて進めているわけです。
 一方で、復興道路・復興支援道路に限らず、東北地方はそのほぼ全域が積雪寒冷地域であり、建設されるコンクリート構造物は凍害の危険性があります。さらに管内で管理する道路構造物は、冬期に散布する凍結抑制剤(塩化ナトリウム)の影響により塩分環境下におけるスケーリング劣化(コンクリート内の水分が凍結融解を繰り返すことで生じるコンクリート表面のモルタル剥離)が進行する恐れがあります。


建設中の主要トンネル一覧

 復興道路・復興支援道路では、短期間に大量のコンクリート構造物を建設しており、施工中に生じる初期の不具合を抑制しなければ、将来、同一時期に多数の構造物で補修が必要となる事態が生じてしまいます。
 そこで両道路を中心に、現場打ちの橋脚、橋台、函渠および擁壁を対象に、「施工状況把握シート」と「表層目視評価」を活用して入念な施工を心がけ、施工段階でのコンクリートの品質確保を図っています。同手法は整備局全体に浸透しつつあり、施工現場での品質確保に対する意識向上と、構造物の品質のばらつきが抑制され、ひび割れ発生頻度も低減しています。
 一方、プレキャストPC桁はコンクリートの空気量を試行錯誤した結果、6%程度とすることで、極めて高い耐凍害性を有することを実験により確認しました(参考:平成29年3月「東北地方における凍害対策に関する参考資料」)。また、このコンクリート配合仕様と内部鋼材を被覆鋼材とすることで、複合劣化に対応できる「高耐久PC桁」の採用(参考:平成28年2月「高耐久PC桁設計・施工のポイント[プレテンションけた橋げた編]」など)を管内で標準化し、取り組んでいます。
 また、塩害対策としては、平成8年頃から日本海沿岸に位置する橋梁を皮切りにエポキシ樹脂塗装鉄筋の採用などを行っています。

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