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あと施工アンカーの種類は3つに大別

創立20周年を迎える 日本建築あと施工アンカー協会

一般社団法人 日本建築あと施工アンカー協会
会長

山本 忠男

公開日:2015.05.16

東日本大震災で現場検証

 ――耐久性能の継続的な検証はどのように行っていますか
 山本 東日本大震災では津波被害を受けた三陸沿岸を2011年6月に調査しました。主に防潮堤や建築設備を見て回りました。防潮堤が30%、建築設備が57%、その他13%という内訳ですが、防潮堤では金属拡張系と接着系が同程度の割合、建築設備は圧倒的に金属拡張系が多く、その他は金属系と接着系の比率は約7対3でした。
 防潮堤では主に照明設備で接着系が使われていました。構造物の損傷は酷かったですがアンカーそのものは健全な状況を保っていました。
 防潮堤の電気設備の配管の固定などではステンレス系の金属拡張アンカーが使われていましたが、こちらも問題ありませんでした。
 このほか、非常時活動の一環としまして、東日本大震災の際の津波被害調査やあと施工アンカーの20年史なども発刊しています。毎年2回は協会機関誌を発行して活動の普及に努めています。

国土交通省などと共同研究を進める
 耐アルカリ性能は接着系ではむしろ上昇する

 ――協会が他機関と行っている共同研究は
 山本 まず一つ目は、国土交通省が行う建築基準整備促進事業に応募しまして、建築研究所との共同研究として、平成20~22年度の3年間「あと施工アンカーの長期許容応力度に関する検討調査」業務を行い、平成23年3月に最終成果報告を完了しました。
 あと施工アンカーの長期耐久性を求められる箇所で使えるようにするためにはどうしたら良いかを調査したものです。20年度は文献調査、21年度は機械設備とりわけクリープ装置関係の設計や検証、22年度は引っ張りクリープ、せん断クリープ、樹脂の硬化状況、へりあき(アンカーボルトの中心から材料と直角方向に測ったヘリまでの最短距離)などを検証、調査しました。引っ張りクリープの検証は、試験体としてD19のアンカーボルトを用いて、小型のばね式試験機と大型のカウンターウェート式試験機を使って、先付けアンカーとあと施工アンカーの比較を、気中および恒温、恒湿の環境で、引っ張りクリープ、せん断クリープなどの性能を試験しています。クリープにかける荷重としては、アンカーが持っている付着耐力の1/3の荷重を90日間連続でかけて耐久性能を調査しています。
 せん断クリープの検証は角型鋼管の試験体を2つ並べて両面せん断のような形でばねで引っ張り試験しました。こちらはM12とM20のサイズのアンカー筋を先付けとあと施工アンカーで施工し、所定の埋め込みを行い、載荷して変位量を計測しています。樹脂の方は通常の円柱状のコンクリート試験体に穴をあけてエポキシアクリレート樹脂と骨材または不飽和ポリエステル樹脂で充填剤した試験体と通常のコンクリートで充填した試験体と比べると圧縮強さは樹脂系充填剤の方が2倍の強さを有することが分かりました。
 また、へりあきも各種実験とFEM解析を行い実験と解析の間に違いがほとんどないことが分かりました。
 まとめとして、先付けとあと施工アンカーの間では一定の荷重による変位量はほとんど変わらず性能に大きな違いがないことが分かりました。課題として1つ残ったのは引っ張りクリークで変形が終息しなかったことです。これは試験当時、東日本大震災で試験機が壊れてしまったためです。そのため、検討調査終了後建築研究所が2年間課題を引き継い で研究していただきました。
 また、笹子の事故を受けて、接着系あと施工アンカーの耐アルカリ試験も行いました。樹脂硬化後、あと施工アンカーの円柱型供試体を30㍉毎の厚さで輪切りし、pH13.2のアルカリ水溶液に1000時間、2000時間、4000時間浸漬して、浸漬してない試験体との押抜き強度比較を行いました。
 その結果、有機樹脂系(エポキシ樹脂系およびエポキシアクリレート樹脂系)接着アンカーの性能は浸漬していない供試体と比較してもほとんど性能は落ちておらず、無機系の接着アンカーでは逆にアルカリ分が促進され強度が上昇するという結果がでました。
 それから平成23年から3年間UR都市機構と「静充填型あと施工アンカーの実用化に関する研究」について共同研究を行いました。目的は住民の一部退去を伴わず確実な耐震補強を行うためのあと施工アンカーの施工性能確認試験です。アンカーメーカー13社、25工法が参加し、付着強度、振動・騒音などの各種試験を行っています。

JR東日本と耐久性を共同試験
 JCIとは耐アルカリ性試験方法の確立を研究

 ――現在進行中の研究は
 山本 まず、JR東日本との共同試験があります。「接着系あと施工アンカーの耐久性に関する共同試験」を現在行っています。これはJR東日本が進めるあと施工アンカーの規格改定に向けた疲労特性、耐アルカリ性、長期持続荷重特性に関する載荷試験を平成27年12月までの予定で進めているものです。
 (編注)同研究は、有機系接着アンカーのほか、無機系接着アンカー、拡張式金属アンカー、拡底式金属アンカーも対象として、耐アルカリ性試験、長期持続荷重試験、耐疲労試験、静的耐力試験を行っている。

 それから協会が日本コンクリート工学会(JCI)に委託する研究として、平成28年3月まで「接着系あと施工アンカーの耐アルカリ性試験方法の確立」を行っています。研究委員会の委員長は名古屋大学の中村光教授です。接着系あと施工アンカーに関する信頼性の高い耐アルカリ試験方法を確立するための研究です。試験方法がJCIから公表されることで、評価基準の作成に必要なデータの蓄積が促進され、あと施工アンカーの信頼性と安全性の向上を図ることができます。

維持管理は専門技術者の配置を推奨

 ――笹子トンネルの事故を受けて維持管理で何か独自の対策は考えておられますか
 山本 これからの課題として受け止めていますが、個別の工法を協会が(認証などを行っていくということなど)対応する体制は整っていません。

(編注)維持管理について、土木分野では2014年3月に刊行した「コンクリートのあと施工アンカー工法の設計・施工指針(案)」の中で触れられている。あと施工アンカー工法の維持管理は特有の技術的判断が求められる場合が多いため、コンクリート構造物の維持管理に関する技術的能力を有するとともに、専門技術者などのあと施工アンカー工法に関して十分な知識と経験を有する技術者を配置することが良いと指摘されている。同指針(案)では点検項目・方法、診断についても具体的な項目などを挙げてわかりやすく説明している。

 ――今後の協会の重要な取組みとして何かありましたら
 山本 土木・建築ともに耐震補強工事を中心とした市場に向けてあと施工アンカーを安心して使ってもらえるよう標準施工、認証製品の普及に注力していきたいと考えています。そのためにも普及活動、講演や講習の回数を増やすことも考えています。資格制度は5年に1回更新しており、その際にただ更新するだけでなく、新しい技術を伝えるべく努力していきたいと考えています。また国土交通省の認定資格制度としても取り入れてもらえるよう働きかけていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました。

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