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第70回 長寿命化計画とマネジメント

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.11.16

1.はじめに

 最近よくある質問は、「インフラ・メンテナンスでやる気のある自治体は?」「新技術の導入をどうしたらよいか?」ということが多い。何度もここにも書いているし、講演などをすると、質問でよく出る。
 これらに関しては、答えても恐らく理解できないのだと思う。これに特化した講演もしたが、人気がなく主催者に申し訳ないくらいであった。しかし、多くの講演会などの主眼がずれているということも問題である。あとは、欲張りすぎで、真意がずれてしまっていること。まあ、これはこの世の中の病理の一つであろう。

2.やる気のある自治体は? どこ?

 これは正直よくわからない。周りの評判だけで答えるのは無責任だと思うので、「よくわからない」と答えることにしている。すると、「そんなことはないでしょう。いくつか、教えてくれ」と言う。しかし、本当によくわからないのだ。
 これは、最大の原因は役所の隠蔽体質による。隠すつもりはないかもしれないが、そうなってしまっている。要は、失敗したときのことを考えてのことだろう。個人的に変わった職員(失礼)がいて、何かやっているチャレンジャーがいれば、何かやっているように見える。そういうところはいくつか聞いているし、そして、お互いにやり取りはしている。しかし、そこが組織的にできているかどうか? というと、どうもそうではない。とにかく、今は個人の力によるところが大きく、それは、上司や周囲が評価してやるべきだと思う。私自身相当変わっている。
 新技術導入の話もそうなのだが、何かやるときに思い切ってやらないと何もできない。常に安全を考えているとかえってリスクを背負い込むことになる。しかし、失敗や他人の評価を恐れるがあまり、新たなことはやろうとしない。できないのである。
 インフラの老朽化は、新たな国難である。実は起こるべくして起こっているのだが、その事実もゆがめられている。この世に永久などというものはない。すべては人工物である。当然、物を作って使用していれば古くなる。古くなった時にどうするかである。高度成長期に、多数作られたものが寿命を迎えようとしているから問題なのである。


こういった橋をどうするか? が今後の問題

 話していて、まず一番にがっかりするのは、かつて作成したであろう「長寿命化計画」である。これを、見直すというところが出てきており、それは正解であると思う。しかし、かつてのまま、将来の維持管理費が長寿命化によってきれいに右肩下がりになり、予防保全をすることによって、従来の1/2、1/3に減少する“はず”ということをいまだに信じているところが結構多い。
 これはそもそも論になってしまうが、そんな考えではこれからの厳しい現実の世界は乗り切れまい。そもそも、長寿命化計画はどう作られたのか? 考えてほしい。心ある方々は気づくであろう。私はここでは言わない。そして、じゃあ、長寿命化のために何をやっているのか? である。点検し、ひび割れを拾って、ひび割れ補修をする。それで終わりか? それでは、長寿命化にはなるまい。点検の一巡目が終わり、その状況を考えればわかるはずである。
 今、この段階で「長寿命化計画」と言っているようでは先が思いやられる。「マネジメント」なのである。何が違うか? 私なりに考えると、マネジメントは常に考え、見直し、軌道修正していくことにある。これが日本の組織では困難なのであろう。いまだに、作る時代の組織であり思考なのである。


今後のマネジメントで必要なこと

 そして、今後は補修となっていくわけであるが、現在、有効な補修材料、補修方法が見えないのが最大の問題である。この補修方法などの状況によっては「長寿命化」という言葉自体存在しえなくなる。今そこにある、ひび割れをふさいだからといって永久に大丈夫なわけはない。当面の間水の侵入は防げるかもしれない。しかし、それは何年間なのか? 皆さん簡単に「水(の侵入)を防ぐ」という。しかし、これは至難の業である。水はどこからでも侵入する。相当工夫しないと水は止められない。
 数ある自治体の中には、若手職員が思考して、様々な方策を取り入れているところがある。「ドローンの活用」「市民との共同による橋の清掃、セルフメンテナンス」「職員による直営点検、セルフメンテナンス」と、話を聞くと感動する。しかし、感動するのは、この人たち個人に対してである。この方々は個人的にも魅力があり話していて面白い。こういう方がいる自治体が将来的には生き残っていける可能性があるのだろう。しかし、これが組織としてどうか? というと私にはわからない。
 世の中では様々な評価をする人たちがいるが、自分で考え実行することがどれだけ重要か? それを考えてほしい。
 さらに、「首長にやる気があれば……」ということもよく耳にするが、これもよくわからない。少なくとも私の所属している富山市に関しては、インフラ・メンテナンスに関する意識は、前の森市長も、今の藤井市長も非常に高いと感じる。それはなぜか? 話していて、理解してくれるからである。今までそういう経験はない。おそらく稀有の市長なのだろうと思う。危機意識が高いのだろう。(私が評価するのは僭越であるが)それによって職員の意識も大きく変わるということは、間違いないであろう。リスクマネジメントができるということである。しかし、こういう首長が全国にどれだけいるかというと、かなり疑問である。評判の高い方はいるが、それが本当かどうかは、いずれ結果が出るであろう。

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