道路構造物ジャーナルNET

水性塗料と有害物質を飛散させない安全な素地調整

首都高速 鋼橋塗装設計施工要領を新たに制定

首都高速道路株式会社
技術部長

並川 賢治

公開日:2017.08.25

素地調整「3種Z」を新たに加える
 素地調整「1種相当」も定義

 ――要領では具体的な素地調整手法を示していますね。ご紹介いただけますか?
 並川 新要領で定めた素地調整方法は以下の表のとおりになります。








 ――塗膜に有害物質が含まれているかどうかは、どのように確かめていますか?
 並川 橋梁台帳の記録から既存塗膜の塗装仕様や塗替え履歴を確認すれば、鉛やPCBの有無がわかります。数は多くありませんが、記録が残っていない場合は、現地で確認することにしています。

――塗膜の除去方法もしくは錆の除去方法、活膜の出し方はどのように行うか教えてください
 並川 鋼材面が腐食している場合は素地調整1種相当、既存の塗膜の上に塗装すると層間剥離が起きやすい塩化ゴム系塗装仕様の塗替えは素地調整2種、活膜残存部は素地調整3種としています。素地調整3種は従来、腐食や塗膜損傷面積によってA・B・Cの区分がありましたが、本要領では上塗り塗膜を全面的に薄く剥いで有害物質を含む下塗り塗料に手を付けない「素地調整3種Z」といった区分を新たに加えています。
 素地調整1種ではなく1種相当と呼ぶのは、ブラスト工法による素地調整程度と区分するためです。首都高速道路の塗替塗装工事においては、コンプレッサーなど大型の後方設備を用いるブラスト工法を採用できる現場がきわめて限定され小型の動力工具で鋼材面を露出させる方法を採用する現場が多いので、その場合の素地調整程度を定めました。

 ――素地調整の標準工法の具体的な施工法は?
 並川 素地調整1種相当は、一次施工に「集塵機能付きダイヤモンドホイール」を使って粗々に塗膜を除去し、二次施工に「電動ブラスト面形成動力工具」、いわゆる「ブリストルブラスター」を使って鋼材面を完全に露出させた上でアンカーパターンを形成します。電動式のブリストルブラスターは集塵機能がありませんので、作業面に水を噴霧することで湿潤環境を構築します。しかし、普通の水ですと露出した鋼材面がすぐ錆びてしまいますので、Ph調整された「電解質アルカリイオン水」を使います。


 素地調整2種は、一次施工に「集塵機能付きダイヤモンドホイール」を使うのは素地調整1種相当と同じですが、二次施工には電動ブラスト面形成動力工具よりも作業能率に優れる「集塵機能付きディスクサンダー」を使います。この施工では塗膜粉塵を確実に集塵するために回転数を通常の毎分12,000回転から毎分9,000回転まで落としています。


 下塗り塗料が活膜の場合には素地調整3種Zを用います。下塗りの塗膜は、鉛などの有害物質が含まれる場合が多いことから、粗目のサンドペーパーで下塗り塗膜を剥がすことの無いよう、ディスクサンダーに装着するサンドペーパーの番手を40番に指定しています。

添接部や狭隘部の動力工具も定める

 ――添接部や狭隘部の素地調整は
 並川 添接部や狭隘部の素地調整は、平滑部と比べ手間がかかります。そのため、これらの部位の素地調整は、平滑部と異なるこれらの部位に適する動力工具を定めています。
 鋼材腐食損傷部は素地調整B1種、塩化ゴム系塗装部は素地調整B2種としています。この2つは同じ動力工具を使います。具体的にはボルトヘッド以外の一次施工に「ダイヤモンドホイールミニ」、ボルトヘット部の一次施工に「ブラスト面形成動力工具」を使います。どちらも集塵機能がありませんので湿潤環境を構築するために電解質アルカリイオン水を作業面に噴霧します。二次施工には「カップワイヤー」を使います。


 塗膜劣化部は素地調整B3種になります。使用する動力工具は「カップワイヤー」です。塗膜劣化部を除去し、下塗り塗膜を露出させないように施工します。

IH塗膜除去工法 素地調整2種や1種相当の一次施工に適する
 現時点では機械の台数が少ない

 ――首都高メンテナンス東東京が開発したIH塗膜除去工法を採用しない理由は?
 並川 IH塗膜除去工法は、鋼部をIHによって加温し、塗膜の接着を緩めて剥離・除去を容易にするもので、粉塵の発生が極めて少なく、産業廃棄物として処理することができますので、有害物質を含む塗膜に対してきわめて有効な素地調整方法です。さらに騒音がほとんど出ないなど、環境負荷がきわめて少ない上、作業効率でも優れています。そのため、素地調整2種や1種相当の一次施工に適用するのが良いと考えています。しかし、現段階では機械の台数が少なく、標準工法として採用しておりません。機械の確保ができ安定して施工が行えるようになった時点で、考えたいと思っています。

安全かつ高い作業効率で塗膜を除去できる工法の開発目指す

 ――ブラストや塗膜剥離剤は?
 並川 ブラストは既存塗膜を完全に除去し、かつ塗料にとって理想的なアンカーパターンを構築しますので、条件が揃い適用可能な現場では採用することが出来ます。しかし、代表的なオープンブラストは、多量の粉塵を伴いますので、既存塗膜に鉛などの有害物質が含有している場合は、事前にこれを除去し施工環境を改善しなくてはなりません。このような場合、一次施工としてIH塗膜除去工法や塗膜剥離剤などの使用が有力と考えられますが、いずれの工法も効果的に使用するためには条件がありますので、施工時期(既設、昼夜)、工程、コストを総合的に考えて採用する必要があると考えています。
 バキュームブラストやモイスチャーブラストなど塗膜粉じんの飛散を抑制した工法が従来から存在しますが、オープンブラストと同等以上の後方設備が必要となる上、施工能率はオープンブラストと比較すると大きく後退します。バキュームブラスト工法は鉛などの有害物質を含んだ塗膜を除去する場合に、一次施工が必要となるのはオープンブラストと同じであり、現段階ではメリットは少ないと考えています。モイスチャーブラストは湿潤環境の形成という点で優れていますが、バキュームブラストよりもさらに施工能率で劣る上、水処理が必要となり市街地での施工に現時点では不向きです。

 このような背景から、繰り返しになりますが、首都高速道路の塗替塗装工事は、コンプレッサーなど大型の後方設備を用いるブラスト工法を採用できる現場がきわめて限定されることから、小型の動力工具で鋼材面を露出させる方法が主流になります。しかし、この工法は効率面だけ見るとブラスト工法に劣るため、有害物質を含んだ塗膜を安全かつ高い作業効率で除去する塗膜除去工法の開発を目指し、「橋梁における塗替え塗装の効率的な塗膜除去工法に関する研究」を今年度から行います。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム