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パンタグラフ式ジャッキでたわみ取りを効率化

NEXCO西日本 新名神吉祥寺川橋 P5付近で上下勾配が変わる難易度の高い送り出し

公開日:2023.10.24

 西日本高速道路は、現在、新名神の城陽JCT・IC~大津JCT(仮称)間の新設工事を進めている。その中で、難易度の高い吉祥寺川橋他2橋(鋼上部工)工事と大戸川橋他2橋(PC上部工)工事について、スポットを当てた。今回はそのうち吉祥寺川橋他2橋(鋼上部工)工事をレポートする。(井手迫瑞樹)

合成床版にSCデッキスタッドレスを採用
 特殊ナットを採用して合成床版の設置を効率化

 吉祥寺川橋の名の由来となる吉祥寺川は大戸川に合流する一級河川である。本工事では同河川を跨ぐ吉祥寺川橋の上下線の他、切土部を挟んで北には上中野橋上下線、南には宮川橋上下線の架設も行っている。


吉祥寺川橋橋梁一般図(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

宮川橋上下線一般図

上中野橋(上り線)橋梁一般図

 橋梁概要は、主構造物となる吉祥寺川橋が上下線とも橋長421m、有効幅員13.76mの鋼8径間連続合成3主鈑桁橋で鋼重は上り線が1,318t、下り線が1,317tとなっている。次いで橋長が長いのが南側に位置する宮川渡河部に架かる宮川橋で、上下線とも橋長186.4m、有効幅員13.76mの鋼4径間連続合成3主鈑桁橋で、鋼重は上り線が545.5t、下り線が537.3tとなっている。


吉祥寺川橋全景(井手迫瑞樹撮影)

宮川橋遠景/上中野橋(手前)と奥は大戸川橋(いずれも井手迫瑞樹撮影)

 残る上中野橋は向谷川渡河部に架かる橋梁で、上下線で上部工形式が異なっている。上り線は橋長68.7m、有効幅員13.51mの鋼片側剛結3主鈑桁橋で、鋼重は285t。下り線は橋長36.6m、有効幅員14.26mの鋼ポータルラーメン3主鈑桁橋で、鋼重は65.3tとなっている。

 合成桁である吉祥寺川橋と宮川橋は、合成床版(SCデッキスタッドレス)を採用している。SCデッキスタッドレスでは、従来、底鋼板に溶接していたスタッドを省略し、床版の押し抜きせん断強度に優れた節付き突起リブを使用している。スタッドを省略することで、底鋼板上での配筋時やコンクリート打設時に、作業員の移動や作業を阻害しない。また、鉄筋は高さ調整のためのスペーサーを設置することなく、リブ上に置くだけでよいため、配筋作業の手間も軽減できる。発注時は現場打ちPC床版であったが、これを変更した。合成床版は、従来であれば現場で底鋼板を架設してボルト締めを行い、塗装のための吊り足場を設置するが、今回は特殊なナットを採用して、工場で予めワンサイドボルトでパネルを仮添接(パネルに下からボルトを挿した状態で、底鋼板が落ちないように樹脂で固めた状態に)し、添接部は塗装を施した状態で現場に搬入した。その上で、現場で底鋼板の上部から添接板をはめてナットで締めるだけにした。樹脂は外さなくていいように、添接板の孔を拡大し、添接板の中に隠れるようにした。


合成床版架設状況

特殊ナットを使用した

コンクリート打設前の合成床版底鋼板(井手迫瑞樹撮影)

 そのため、塗装など吊足場を設置しての作業が不要になり、高所作業を極力削減し、安全性の向上を図ることが出来る。

途中に縦断の変化点 近似円弧のラインに軌条の送り出しを設定
 5回に分けて送り出し

 さて、架設方法は、吉祥寺川橋と宮川橋が送り出し工法による架設、上中野橋はクレーンベント架設による施工を行う。

 中でも難しいのが、吉祥寺川橋の架設である。
 吉祥寺川橋は、P5が縦断の一番低い箇所になっており、A1からA2に向かって送り出しを進めるが、A1からP5は下り勾配、P5からA2は上り勾配という特殊な送り出しを強いられる。桁高は2.8mで統一されているが、途中に縦断の変化点があることで送り出しの難易度が高くなっている。


吉祥寺川橋上下線架設要領図

途中に縦断の変化点がある(井手迫瑞樹撮影)

 一般的な下り勾配で送出すと、送出す桁の一番低い点が送り出し先の橋脚の高い箇所を超えていかなくてはならないため、起点を高くした送り出しをせねばならず、その分、桁の降下量が大きくなる。同橋の場合、その降下量は10mとなり、降下作業に大変な危険を伴う。
 それを回避するために講じた策が、送り出しの軌条を片勾配の送り出しではなく、近似円弧のラインに軌条の送り出しを設定して、すり鉢形状に送り出しを行っていく手法である。桁は円弧のラインにそってしならせながら送り出しており、そうすることで、据え付ける支点上の距離を等間隔にすることが出来ている。同手法を用いることで、送り出し後の桁の降下量を、約半分の5mまで抑えることが可能となった。

 一方で、横断勾配はG1からG3に向かって上り2%勾配であり、「同勾配に対応した設備を組むため、特に問題はない。さらにほぼ直橋であり荷重が偏る心配がない」(元請の川田・宮地JV)ということだ。
 送り出しは、5回に分けて行われる。送り出し装置+油圧ジャッキおよびレールクランプジャッキを用いて、1m/10minの速度で送出す。A1、P1、P3、P5、P7は推進機構を有した送り装置を配置し、P2、P4、P6は従走式のシンクロジャッキを配置して送り出しを行っている。





送り出し装置+油圧ジャッキおよびレールクランプジャッキを用いて、1m/10minの速度で送出す
(下2枚写真のみ井手迫瑞樹撮影)

 1回目が今年の2~4月に上下線のA1~P2間105mを送り出した。次いで2回目は6、7月に行われ、同P2~P4間108mを送り出した。3回目はこの9月に施工されたものでP4~P5間70mを送り出し、4回目は11月にP5~P6間65m、最後の5回目は2024年2月にP6~A2間104mを送出す。


1回目送出し前の地組状況


1回目送出し状況

2回目送出し前の桁地組状況


2回目桁送り出し状況

3回目桁地組状況

3回目桁送り出し状況

たわみ量は最大で2.5m
 従来1~2日要していたのを30分程度で完了

 送り出し施工後は、桁のたわみ取りが必要になるが、そのたわみ量は、送り出し量が最大となるP5~P6(65m)で2.5mに達する。これをスムーズに行うため、手延べ機にパンタグラフ機構を有する自社機材を使用し、従来1~2日を要していた作業を30分程度で完了できるようにした。パンタグラフ式ジャッキは鉛直方向の油圧ジャッキを手延べ桁先端から2ブロック目に鉛直ジャッキを内蔵させ、そのジャッキで手延べ桁先端を持ち上げる。先端を上げた状態で、片持ち梁で橋脚に到達した際に所定の高さになるようにコントロールしてタッチさせ、到達した橋脚を反力にしてジャッキを縮めることで手延べ桁を上げて、たわみを取り除いていく機構である。北陸新幹線の架設工事などで既に実績を有している。

手延べ機にパンタグラフ機構を有する自社機材

 送り出し完了後は、既設橋脚への桁降下作業が必要であるが作業中の転倒防止対策として1橋脚ごと順番に150mmずつ降下していくことで桁の線形上のバランスを崩さないように安全へ配慮ながら作業を進めていく。降下作業を行っていない全箇所は橋脚設備と桁とを互いにラッシングして安定な状態にさせておく手順である。

 施工前にはBIM/CIMを用いて橋桁および合成床版、さらには橋脚、橋脚上に設置する機械一式をシミュレーション配置する。桁の地組や送り出し、合成床版の設置などの手順を可視化させることで、作業員に施工手順を徹底させ、施工効率や安全性の向上を図ると共に、見学会などの資料としても活用していく。


BIM/CIMやMRなども用いている

 支承の防食は溶融亜鉛めっき防食、桁および合成床版(外面部)は、ふっ素樹脂トップコート仕様で対応する。また、桁端部は、大戸川橋同様にセットバックジョイントを採用し、桁端や支承の漏水による腐食を未然に防ぐ構造としている。

 元請は川田工業・宮地エンジニアリングJV。一次下請は長谷川建設(架設)、鉄電塗装(塗装)、藤井建設、山口建設工業(床版工)、ジャッキは大瀧ジャッキ。支承は吉祥寺川橋がビービーエム、宮川橋が住友理工。(※橋梁名は全て仮称)

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