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新設鋼桁を既設PC桁の撤去に活用

NEXCO中日本 手取川橋架替えに日本で初めてステンレスクラッド鋼を採用

公開日:2023.12.01

開断面箱桁にすることで桁内部や床版裏面の点検がしやすくなる
 鋼重は約1,800tと既存PC橋より軽量化

 さて、開断面箱桁を採用した理由は、①鈑桁構造では、ほぼ全ての部材が外面に露出されるため、クラッド鋼の使用量が増加するが、箱桁構造であれば外面にクラッド鋼、内面に炭素鋼という使い分けが可能なため、材料コストを抑えられる、②また、今回、河川を跨ぐ橋梁であるという条件から、比較的支間長の長い橋梁形式であったことも、構造上、開断面箱桁に適した条件であった、③桁高が比較的高い開断面にすることで桁内部や床版裏面の点検をしやすくし、維持管理性を向上させる――という狙いがある。同橋は橋長547m(支間長は約70m)の鋼8径間連続開断面箱桁橋だが、鋼重は上下線とも各約1,800tと既存のPC橋よりも軽量化でき、下部工や基礎工の補強を不要とした。さらに桁高は2.65mと十分な高さを確保しており、内面からの点検が可能である。


開断面箱桁を採用した(井手迫瑞樹撮影)

 鋼桁の板厚は、供用時だけでなくPC桁撤去時の仮設桁として使う時点を考慮して設計・製作された。板厚は中間支点上において、上フランジがで最大79mm、下フランジでも最大41.5mmに及ぶ。また、支間部においても上フランジ厚71mmという部材がある。A1~P1間は河川区域内、汀線が高架下に及ぶこともあり、ベントの設置が難しい事から、PC桁架設時においてもベント支持で施工された区間であり、撤去時のコンセプトである建設時と逆手順での施工が不可能な区間であった。そのため、同区間35m分を鋼桁から吊りながら撤去しなければならず、撤去時に新設桁へ架かる荷重が大きくなるため、同部分の上フランジ厚は施工時の照査により増厚となった。

 撤去工を行う際は、撤去フレーム(撤去するPC桁ブロックを吊上げて運搬台車に載せる装置)という専用の鋼製機材と、PC桁の小割ブロック分および運搬台車の荷重がかかる。とりわけ上フランジ部には、撤去フレームと運搬台車の移動用レールが桁の両側に2条ずつ合計4条敷設しており、施工時の荷重に耐えなければならない。こうした点も考慮して解析したが、A1~P1間以外のP1~A2区間に働く最大荷重は桁撤去時ではなく、PC床版架設を進めていく段階で合成前死荷重とほぼ同じ断面力が作用する状況が最大断面力であり、それでも板厚の増加は不要となる結果となった。但し、撤去工事の荷重による桁の変形を防ぐため、対傾構(5mピッチ)や上横構などを密に配置し、撤去時に鋼桁にかかる荷重を支持している。


撤去フレームと運搬台車の移動用レールを桁上から見る

鋼桁架設 P4付近を起点に120tCC2台で両側に架設していく
 撤去フレームを全部で8基使用し、PC桁架設時の逆回しで撤去

 鋼桁の架設は、橋軸方向に最大10m×橋軸直角方向に3.2mの半断面ブロックを120tクローラクレーン2台で架設していく手法を採用した。P4付近を起点に両側に架設していき、架設後は仮添接した後、接合部全体を風防設備で覆い、溶接を施していった。PC桁上の地組は5月末から6月末の1か月程度で完了したが、その後の溶接は7月末までかかった。なお両端部には橋台の背面まで仮設の橋桁を繋いでいる。


施工ステップ


半断面ずつ施工している

 桁の地組完了後は撤去フレームを設置した。全部で8基使用している。撤去フレームの重量は1台38tである。撤去フレームは上部のタワー部分と既設の橋桁を抱え込む足場の部分からなる。足場は、上部構造から上フランジに荷重がかかるような構造で斜吊りされている。切断した既設PC桁ブロックを横移動させて引き出し、上に吊り上げて、ブロックを内側に横移動させ、運搬台車に吊降ろし、外部に撤去していく工程を繰り返す。


組立て中の撤去フレーム/完成して運用中の撤去フレーム(いずれも青色の設備、井手迫瑞樹撮影)

 撤去は基本的にPC桁架設時の逆回しで施工する。まずP2、P4、P6左右のヒンジ連結部を起点に張出し架設の逆パターンで左右のバランスを取りながら撤去する。また、前述通りA1~P1間の端部は吊り材、P7~A2の端部はデッキリフトで撤去しているが、これもPC桁架設時の手法に準じている。さらにP1、P3、P5、P7も同様に張出し架設の逆パターンで撤去していく。

実物大の施工実験も実施 現場で実際に作業する技能者が携わる
 L2相当の耐震性は確保

 こうした撤去の施工手順や、フレームの構造、桁への影響、偏心やたわみの状況などを確認するため、実物大の施工実験を行った。


よくぞこのような実物大試験施工を行ったものだ(JFEエンジニアリング・ピーエス三菱JV提供)

 実物大試験前に、まずはフレーム構造やそれを支える桁の構造などを事前に解析により再現し、試験で発生する挙動を算出しておき、それらと実測値に大きな乖離がないか、解析により挙動を正確に再現できるかどうかを検証した。

 撤去フレームそのものは単純な骨組み構造であり、「その挙動を解析で再現することは難しくなく、フレームのたわみなども実測との整合性は高いことが確認されている」(JFEエンジニアリング)。その一方で、撤去フレームから桁への力の伝達は、解析上では鉛直荷重で入力しているが、実際にはより安全になるように桁を巻き込む構造でフレームと桁を一体化させている。この点が解析で正確に再現するのが難しかったため、実物大の施工実験を行った。その結果、フレームによる偏心荷重によって生じる桁支点反力の偏心は、実測値では解析値ほどの不均衡にはならず、安全側の挙動を示すことが確認された。


試験施工時のフレーム計測結果

 また、試験施工は現場で実際に撤去フレームや足場の架設、PC桁の撤去に従事する技能者により行ったため、実施工の手順確認としても大きく寄与している。

 L2相当の耐震性は確保している。とりわけ架設桁の下部工に当たるベントの耐震性などはL2相当を確保した。しかし上部工の桁の耐震性(施工中の仮設材の取付部)は注意を要する。そのため、撤去フレームなどが転倒したとしても、供用路線側に倒れないように左右の転倒防止工の強度を変えた。

PC桁切断は最大で3.5mスパン 断面は6ブロックに小割して撤去
 柱頭部 切断しながら鋼桁をジャッキダウン

 PC桁の切断は架設時と同じ長さで橋軸方向に最大で3.5mスパンごとに撤去している。断面はさらに6ブロック(両側張出、上床版、底版、両ウエブ)に小割切断して撤去する手法を採っており、ブロック単位の最大荷重は約20tに抑えた。桁下環境に配慮し、足場内は厳重に養生した上でコンクリートカッターと乾式ワイヤーソーを用いて切断している。


既設桁の切断順序

 なお、P7~A2間は一部を大ブロックに切断した。1台200t×2基の自走デッキリフター(内宮運輸機工製)で、支えながら1日がかりで切断し、切断したPC桁の撤去の際もこのリフターで上り線をくぐらせて桁を撤去した。くぐる際のリフターの載せたPC桁と上り線の桁下クリアランスは200mmしかなかった。撤去後も近傍にある民家に万一のことが無いように鋼桁を支える機材としてデッキリフターを利用している。
 A1~P1桁端部は、既設桁を半断面ずつ切断して撤去していた。


P7~A2間の撤去桁ブロック/鋼桁を支えるデッキリフター(井手迫瑞樹撮影)

A1端部は半断面に桁切断し撤去していた(井手迫瑞樹撮影)

橋脚間のPC桁切断状況(井手迫瑞樹撮影)

既設桁の切断イメージ①(左から撤去前、張出し部の切断、引き上げ、新設桁上への引き込み)

既設桁の切断イメージ②(台車による搬出、その他ブロックの分割撤去)

撤去フレームを利用した床版の撤去、横に引き出し、上に揚げ、荷台に乗せて運んでいく
(JFEエンジニアリング・ピーエス三菱JV提供)

 撤去に際して最も難しいのが柱頭部である。柱頭部は新設鋼桁のジャッキダウンに合わせて切断する手法を採る。即ちジャッキダウン分の高さ(MAX300mm~MIN150mm)を切断しながら降ろしていく手法を採った。ジャッキダウン量は約5.7m(約3m+桁高2.65m)に及ぶことから慎重な作業が必要となる。とりわけ切断面は完全な水平を担保できないことから、ゴム材や圧縮材などを利用してベントの受点の水平状態を確保した上でジャッキダウンを行うと共に、さらに変位制限装置も設置して、事故が起きないよう厳重な安全対策を施した上で施工していく方針だ。

 加えて、今回の工事で最も第三者被害リスクが高いのは、近接して供用している反対車線を通過する一般車に、桁や仮設物が倒壊、飛散するなどして被害が発生する状況だ。それを防ぐため、例えば中間支点部の撤去時においては、桁の滑動防止とベントの転倒を防止すべく、既設橋脚と桁とをつなぐ設備を目的に応じた構造で設置する。中間支点部(橋脚上)を撤去する際は。作業の進行に従って、桁の位置が下がっていくため。設備自体の長さが変化が可能な構造にしている。


上下線の離隔は殆どない(井手迫瑞樹撮影)

 桁撤去およびジャッキダウン完了後は、壁高欄一体型のプレキャストPC床版を専用の門型架設機2基を用いて、中央から両側に架設していく。プレキャストPC床版同士の接合は縦締めPC鋼材を配置し、2方向PCとすることで疲労にも強い、耐久性の高い構造としている。

ステンレスクラッド鋼 LCCを縮減し、省人化も可能な新技術
 PC桁の架け替えなどで積極的に提案

 JFEエンジニアリングは、今回のステンレスクラッド鋼を用いた鋼桁の採用について、「防食性/耐摩耗性に優れ、PC桁に比べて軽量であることが最大の特徴。厳しい塩害環境下かつ飛砂による摩耗が懸念される環境下で、塗装そのほかの防食手法が劣化しやすい箇所や、峻険な山間部など塗替えが難しい箇所においては非常に効果的な鋼材であり、防食工法と考えている。人口減が想定される中で、LCCを縮減し、省人化も可能な新技術として、PC桁の架け替えなどで積極的に提案していきたい」(同社・鎌田淳司常務執行役員)考えだ。


銀色に光る新設桁、これからジャッキダウンに入る(井手迫瑞樹撮影)

 詳細設計および製作・架設はJFEエンジニアリング・ピーエス三菱JV。主要一次下請は、ワイエス架設、丸和工業、京和建設、三ブリッヂ工業、金子建設(桁架設)、エンジニアナカヒラ(現場溶接)、ダンテック(溶接部非破壊検査)、コンクリートコーリング、東洋機械(切断工)。

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