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計1,006枚の既設床版を撤去し、新設床版に取り替え

NEXCO中日本 東名多摩川橋第2STEPの現場施工について

公開日:2023.06.28

STEP2 重交通量の中、『島部』を施工 昼夜で規制車線数を変更
 取替床版の幅は6.4m PC床版の橋軸方向長さは2.5m

 さて、記者はこのほど完了したSTEP2も取材した。STEP2は重交通路線の東名を供用しながら施工している本工事の中でもとりわけ難しい施工STEPである。なぜならば、供用車線を左右に囲まれた孤立した『島部』の施工であるためだ。STEP2は交通運用上の都合により、上下線は平日昼間や土・日・祝日は6車線を確保した上り線車線分離規制を行い、平日夜間において、交通量の少なくなる概ね19時以降に5車線を確保した上り車線分離+夜間1車線規制を行っている。即ち上り線の夜間は3車線から2車線走行となる。そしてSTEP2の床版のSTEP1に先行設置した床版との境界部は夜間だけ施工範囲となり、昼間には交通開放しなくてはいけない第二走行車線の中で設定している。
 STEP2での取替床版の幅は約6.4mであり、ステップ1の床版幅7.2mに比べて若干狭いものの、対象面積は6.4m×全長495mで合計3,200㎡に達する。同面積の既設床版を撤去し、プレキャストPC床版202枚を敷き詰めていく。床版厚は既設床版厚200mmに対し、新設床版厚は220mmと厚く若干重くなっている。そのため事前に桁を当て板補強し、さらに橋脚も部分的に補強した。PC床版の橋軸方向の長さは2.5mで製作しており、標準的な2.0mより少し長めなのは弱点となる目地の数を極力減らすための工夫である。と言ってもスリムファスナーを使っているため、目地幅は210mmと狭く、目地に使うUHPFRCも圧縮強度180N/mm2以上であるスリムクリートを用いるため耐久性の高い構造である。


プレキャストPC床版割付図

STEP2の施工ヤード幅 昼間は約4.3m
 既設床版の切断 事前に床版下に仮支持材を設けて施工

 STEP2の施工ヤード幅は、昼間は約4.3mである。床版取替に使うハイウェイストライダーはそのヤード幅ぎりぎりの3.95mとし、長さは14m×高さ5.35mで運用した。これを125mピッチで4台配置し、1台の機械で既設床版の撤去から新設床版の架設までを行った。その際、ハイウェイストライダーの施工間隔は125mピッチの等間隔で川崎側から東京側へ施工していき、その間隔は最後まで等間隔になるよう施工計画を立案した。施工の流れはSTEP1と同様である。

 STEP2の既設床版は1本の主桁、2本の縦桁で支えられている(下図)。いずれもサブマリンスライサーで事前に桁との縁を切り、長さ(橋軸)2.5×幅(橋軸直角)約3mずつにカッターで切断して、スタッドジベルを打つ部分のみ馬蹄型ジベルの残り厚さ(20~30mm)をグラインダー仕上げして平滑化する。スタッドジベルを打たない部分は、そのまま残置する。そしてフランジブラスターで仕上げてフランジ上面塗布後、必要な箇所にスタッドジベルを設置し、スポンジ型枠を配置していく。昼間は騒音が生じる工程を中心に作業を進めていった。


NEXCO中日本現場公開時の発表資料から抜粋

上フランジ上面の切断・研掃状況

 既設床版の切断に際しては、一方は主桁と縦桁、もう一方は縦桁のみの支持となり、アンバランスで「床版がひっくり返ってしまう可能性がある」(大林組・大林道路JV)ため、事前に床版下に仮支持材を設けて施工した。

 夜間はまず規制帯を広げる。この作業も非常に危険であり注意して行わなくてはいけない。仮設防護柵は450mm幅のコンクリート製防護柵を用いているが、当日の床版撤去の際にトレーラーの入退出や床版取替部など該当箇所のみバルカンバリア(移動式防護柵)など動かしやすいものに変えておき、スムーズに規制帯を広げられるようにした。


夜間規制状況

STEP2の施工状況 昼間と夜間の車線規制の仕方が違うのが分かる

 床版を搬出・搬入するトレーラーを規制帯に入れる際は、後尾警戒を必ずつけて低速走行させた。また、退出も後尾警戒車を巡回させているので、そのタイミングにあわせて退出した。

NEOプレート上面は、昼間の交通開放時には舗装をかける
 STEP2はSTEP1に対して1/3の施工効率

 夜間の規制帯設置完了後はまず残った半断面の床版を切断撤去し、昼間に撤去した床版とともにハイウェイストライダーで吊り上げてトレーラーに載せて搬出する。さらに縦桁部上面をフランジブラスターで研掃した後、搬入した新設床版をトレーラーごとハイウェイストライダー内に入れ、プレキャストPC床版を長手方向の状態で吊り上げ、90°回転させて設置した。


床版の撤去状況

床版の架設状況

 

 床版の撤去・架設後は、間詰材の施工に入る。そこで課題となるのが昼間開放車線部の間詰材部の交通開放である。従来手法では間詰材が固まらない養生時間内での打設となり、交通開放までに時間がかかり、朝の通勤ラッシュへの影響がでる。それを防ぐため、縦継ぎ手部と横継ぎ手の開放車線にはみ出している部分は、180N/mm2以上の圧縮強度を有するUHPFRC製の埋設型枠『スリムNEOプレート』を間詰部上面に設置し、間詰材の注入は桁下から施工する方法を採用した。NEOプレートの幅は目地部分が210mmであるが、かかり代を入れると350mmとなる。


縦継ぎ手部と横継ぎ手の開放車線にはみ出している部分に設置したスリムNEOプレート


STEP2のスリムNEOプレート設置状況、スリムクリートは桁下から打設する

 NEOプレートの上面は、昼間の交通開放時には舗装をかける。床版防水が不要であるため、基層は本設として橋梁レベリング層(FB13)を使い、表層のみ仮設材を用いる。厚さは本設と同じく基層40mm、表層40mmとした。表層は全体の床版を架設した後、改めて舗設し直す方針だ。


仮舗装設置状況

 それでも実際の施工時間は20時~翌朝4時までの8時間ほどしかなく、6時には昼間に供用する車線を開放する必要があるため、1班1日1枚、4班体制のため1日4枚を取り替えていく施工効率となった。これは第1ステップに比較して3分の1の施工効率である。さらに、施工に際して、「始めたら最後まで施工しなくてはいけない」(大林組)ため、サブマリンスライサーの施工など前作業をどこまでできるかを調整しながら施工判断した。「舗装を4時までに完了しないと開放できないので、各段階のどこで止めるかを判断して、フローの最後の床版取替をしていくかを、日々コントロールした」(同)ということで、おしなべて安全側の判断にならざるを得なかった。


昼間に撤去床版の搬出を待つトレーラー

施工シミュレータをスリムNEOプレートの設置行程などで適用
 作業員数および作業時間とも1/6ずつ縮減

 STEP2の施工に際しては、限られた時間の中で多くの工種を完了させなくてはいけないため、大林組とトヨタ自動車が開発した『施工シミュレータ』を用いたうえで施工に臨んだ。
 施工シミュレータは床版設置後に主桁を固定するための無収縮モルタル打設や、隣り合う床版と接合するためのスリムNEOプレートの設置作業工程で適用した。施工場所である高速道路や施工機械、新しい床版等の目に見える部分を3次元のCGで表示することでバーチャルな現場を構築し、そこで働く実際の作業員の動きを再現し、施工機械や他の作業員との連携作業を見える化した。
 そのシミュレーションの結果、当初計画の工程では待機している作業員が多く、無駄が多く発生していることが分かった。このため、施工順序や次工程へのタイミングを見直すなど改善を施し、その無駄を省き、作業員数および作業時間とも1/6ずつ縮減することができることを確認した。

 実際の施工においても安全に配慮している。昼間の固定規制は4.3~4.7m、夜間に行う1車線の規制幅3.25mを足してもヤード幅は7.55~8mに過ぎない。その幅の中で6.4mの床版を取替える必要がある。そしてハイウェイストライダーの脚の幅は3.95mと床版に比べてアンバランスとなる。「ハイウェイストライダーが一瞬でも不安定な状態になり、道路側に転倒するような状態は絶対に避けなければならない」(NEXCO中日本)。既設床版を先行して切断する、新設床版に置き換えていくなど状況が変化していく中で、仮設の支持材を追加で設置、鋼板で荷重分散させるなどの対策を施し、機械の安定性を確保しながら施工した。また、移動時と施工時には脚周りの機構を変え、施工時はストッパーで固定するような機構としている。
 現在はSTEP2を完了し、中央分離帯部の床版を取替えるSTEP3の工程を進めている。


STEP2の完了状況

 設計及び製作・施工の元請は大林組・大林道路JV。一次下請は、野口工務店、トーソー、木田組、宮本組、壺山建設、コンクリートコーリング、第一カッター興業、シンコーハイウェイサービス。床版製作は日本高圧コンクリート。プレキャスト壁高欄の製作はベルテクス。

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