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計1,006枚の既設床版を撤去し、新設床版に取り替え

NEXCO中日本 東名多摩川橋第2STEPの現場施工について

公開日:2023.06.28

 NEXCO中日本東京支社は、大規模更新事業の一環として、東名多摩川橋の床版取替工事を行っている。首都圏の重交通区間で現況の上下3車線を供用しながら施工し、交通への影響を最小限にしていることが特徴だ。そうした施工計画を実現するため、様々な新技術・新材料を採用している。(井手迫瑞樹)

1日交通量は約10万台、大型車は約22%に達する
 上下線間に横桁を設置し、その上にさらに縦桁を設置

 同橋は1日約10万台の交通量を誇る重交通路線に位置し、大型車混入率は約22%(2021年度 集計値)に達している。1968年4月の供用以来、55年が経過し、その間床版防水や床版上面の断面修復・下面の鋼板接着など様々な補修補強を行ってきたが、床版下面のコンクリートの浮き・剥落、鉄筋露出、鋼板接着部のコンクリート損傷、伸縮装置近傍の劣化、地覆外側のコンクリート剥落などが生じていることから、今回、床版を取り替えるに至った。


東名多摩川橋(井手迫瑞樹撮影)

主な補修履歴(NEXCO中日本発表データより再構成)

既設橋全体図

既設橋断面図(NEXCO中日本提供、以下注釈なきは同)

 同橋は上下線とも橋長495m、幅員31.3m(有効幅員14.5m×2)の鋼3径間連続合成鈑桁×3連という構造である。設計示方書は昭和39年の鋼道路橋設計示方書で、既設床版厚は200mmである。上下線の中央分離帯の付近では、地覆端部同士のクリアランスは実に20mmしかないものの、上下線の桁はセパレートになっている。まず上下線間に横桁を設置し、その上にさらに縦桁を設置することにした。車が走行しない部分を補強して、仮設の交通運用期間中に車を通しても桁や床版に損傷を与えないためのもので、縦桁はちょうど20mmのクリアランスの個所に置き、縦桁を下側の型枠替わりとし、クリアランスの内部を無収縮モルタルで埋めて上下線の床版を一体化した。その後、2021年11月から上り線の張り出し床版部、次いで、上り線の中間床版、中央分離帯も含めた中央部の床版、下り線の中間床版、下り線の張り出し床版という順番に5つのSTEPに分けて床版を取り替えていく。床版取替は1ステップごとに200枚強、計1,006枚の既設床版(1枚当たり最大サイズは橋軸2.5m×橋軸直角7m、重量約7t)を撤去し、新設床版(同、床版厚は220mmのため、重量は約9t)に取り替えていく。


STEP図

上下線中央部の横桁設置状況

ハイウェイストライダー、サブマリンスライサーを採用
 ラップ区間の間詰部にUHPFRC製の埋設型枠『スリムNEOプレート』を設置

 鋼桁が死荷重合成桁で建設されていることや、きわめて限られた規制幅内で施工する必要があるため、床版取替の現場で通常用いるクレーンは使えない。その代わりとして、中央道弓振川橋で使用実績があり、東名阪道弥富高架橋などでも使っている自走式門型床版架設機『ハイウェイストライダー』を活用している。


ハイウェイストライダー遠景と定格荷重(井手迫瑞樹撮影)

 既設床版と桁の先行切断は『サブマリンスライサー』、桁上面のケレン作業は『フランジブラスター』、床版間詰部の材料には『スリムクリート』など、同工事元請の大林組が開発し、中央道などの現場で施工実績のある諸工法・諸材料を採用している。加えてSTEP2とSTEP4では、床版中央部(中央分離帯左右部)の施工においては昼夜で規制幅が異なるため、一部で間詰コンクリートの施工と走行部分がラップする箇所がある。そのため、ラップ区間の間詰部にUHPFRC製の埋設型枠『スリムNEOプレート』を設置して、その上に舗装を舗設することで夜間の車線規制内で施工し、朝までに交通開放することで交通に影響を与えないようにしている。同部分の間詰材は桁下からUHPFRCを注入し、埋設型枠と一体化させる。

馬蹄型ジベルの撤去に苦慮
 上フランジ上面はフランジブラスターで研掃

 さて、実際の施工である。
 各ステップに共通することとして、同橋は死荷重合成桁で建設されているため、床版切断前に床版を一時的に撤去することによる施工中の鋼桁の座屈を招かないため、適切に当て板補強を行ったうえで、床版の撤去に臨む必要がある。当て板補強の際は、同橋は鉛が含まれるため、塗膜剥離剤(エコクリーンバイオ)を使用して接合面の塗膜を除去した上で補強している。


当板補強状況

 そして車線シフトによる固定規制後にサブマリンスライサーを用いて、桁下から40mm程度を先行して切断していく。ただし、同現場は死荷重合成桁として建設されており、床版と鋼桁間が馬蹄型ジベルで接合されていた。ステップ1の際は、馬蹄形ジベルの根元部分までをワイヤーソーで切断することは難しく、上フランジ面より30mmの高さに設定して水平切断した。既設床版の大部分は鋼桁と縁を切ることが出来るため、それらはハイウェイストライダーで容易に吊り上げ、撤去することが出来た。撤去後は桁上面に残ったコンクリートを橋梁上面からチッパーで斫りこんだ後、馬蹄形ジベルの根元を電動スライダーで切断し、さらにグラインダーで平滑仕上げした。そしてバキューム機能を備えた、桁上面の研掃装置であるフランジブラスターで研掃処理したあと、必要な箇所に桁と床版をつなぐためのスタッドジベルを打ち、上フランジ上面に塗装を施した後、スポンジ状の型枠を設置して、再びハイウェイストライダーを使って架設する工程を繰り返した。


サブマリンスライサー/馬蹄型ジベルの根元部分

グラインダーで平滑仕上げし/フランジブラスターで研掃

自走可能な床版架設機『ハイウェイストライダー』 1日で最大12枚施工
 吊り機構を円状にして床版の偏心を妨げる
 

 ハイウェイストライダーは最大長さ14.0m、最大幅3.95m、最大高さ5.35m、重量29.4(組立後)という構造で、1日設置ごとに3枚の床版の撤去・架設を行うことが出来る。東名多摩川橋では同機を4台運用しており、最大で1日12枚の取替が可能だ。同機は1度組み立てれば前後4柱に2輪ずつ合計8軸の車輪を用いてそのまま自走できるため、クレーンの盛り替えに大きな時間を要しない。現場からの搬出入は、門型架設機の中にトレーラーが入り込み、床版を門型架設機が把持して床版の積み下ろしを行う。
 ハイウェイストライダーは、あらかじめ架設機をほとんど組んだ状態で、トレーラーに積載して現場に運搬する。現場に合わせた前後左右上下方向の伸縮および固定はクレーン自身で展開できる。前のビームを架台で支えるのは人間が通りと向きを変えなくてはいけないためで、架台に高さ方向のジャッキとスライド機能があり、ビームが自在に展開できるようになっている。支持は6点で行っている。


ハイウェイストライダーの搬入

 吊り機構にも工夫を施している。吊り治具は1本7.5tの吊り荷重を擁する治具を4本備えている。床版荷重は最大でも12tほどであるが、現場の勾配や機械の故障などによる偏心はいつ起きるかわからず、弓振川橋などでの経験を生かして、その場合片方2台のフックで支えていかなければならない場合も出てくる。このため、片方でも7.5t×2=15tの能力を有することで、そうした事態にも対応できる安全性を確保している。
 さらに吊り材の上は円(リング)状のフレーム(φ1,800mm)を有している。これは、「運搬してきたプレキャストPC床版を如何に安全かつスムーズに90°回すか?」ということに焦点を当てて設計したもの。床版は細長い構造物であるため、橋軸方向に長い状態で持ってきて、架ける時は90°必ず回さなくてはいけない。場合によってはさらなる微調整も必要でそれもスムーズに行わなくてはいけない。


ハイウェイストライダーの吊り機構/床版撤去状況

 吊り機構を円状にする利点は、円の中に吊り重心が入っていれば、床版が大きな偏心を起こさないことである。同現場で難しかったのは、既設床版を撤去して、橋軸直角方向に機械の幅より2mほど長い(6.4m)新設床版を架設しなくてはならず、結果的に円状の吊り重心から架設時の重心が外れてしまう点である。そうなると、致命的な状況まではいかずとも作業が出来なくなってしまう。そのため、円状のフレームを横にスライドする機構を付けたり、それでも重心が入らない場合、床版上の吊り治具に重心を調整する機能(カウンターウェイト)を付けるなど2段階で対応している。
 また、床版の吊り上げ、吊り降ろしも電動チェーンブロックで行うことができる。結果的に床版回転時の介錯や床版の上げ下げを人力で行う必要が殆どなく、現場の省人化、効率化に大きく寄与できている。
 東名多摩川橋の現場においては、ハイウェイストライダーはタイヤ式で自走できるようにしているため、現場での設置・撤去は最初と最後だけでよく、これも施工の効率化に大きく寄与している。

UHPFRCを床版表層に重ね打ちすることで床版上面の耐久性を向上
 壁高欄はEMC壁高欄を採用

 床版の継手構造は、従来の大林組の現場と同じくUHPFRC(スリムクリート)を間詰材に使ったスリムファスナーを採用している。5断面分割施工のため、縦方向の継手が4ラインに発生するが、その継手部もスリムファスナー構造とした。間詰工は基本的に現場練りして、橋梁上面から施工する。


スリムファスナーとスリムクリート

 床版上面は東日本高速道路などで先行して用いられているPC床版上面に薄層(20~30mm厚)のUHPFRCを重ね打ちすることで耐久性の向上を図っている。
 両端部の壁高欄もわずかな現場打ち部以外は全てEMC壁高欄(1ブロック=5m、4t)を用いて、施工時間の短縮、コンクリート工の生産性向上に努めている。


EMC壁高欄

STEP1の床版架設完了状況

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