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淀川左岸線(2期)豊崎IC 豊崎入路建設工事における60m以上の支持層を有する鋼管矢板井筒基礎

阪神高速 日本初のカプセルホウパイラによる脚付き鋼管杭を用いた手法を採用

公開日:2023.04.13

 阪神高速道路は、2025年大阪・関西万博に向け建設中の淀川左岸線(2期)豊崎ICのうち豊崎入路淀川渡河部に位置する、2径間連続鋼床版箱桁橋のP1~P3の橋脚基礎工において鋼管矢板井筒基礎を採用しているが、その施工に際して、支持層が60m以上に達するため、周辺地盤の締め付けによる施工不良(深くなるほど摩擦する表面積が多くなるため杭が入らなくなる、また深くなるほど継手部の競りや反りが大きくなってしまう、粘性土が介在する土質では固結してしまう)を避けるべく、日本で初めてカプセルホウパイラによる脚付き鋼管杭を用いた手法を採用した。鋼管矢板基礎の支持形式としては、支持層が約60mと深いことから鋼管杭の約半数を支持層まで到達させ、残りの鋼管杭を比較的良好な中間支持層で打ち止める脚付き型を採用するとともに、鋼管の閉合を確実に行うために千鳥打ち(一本飛ばし)で、中堀り併用の圧入工法(カプセルホウパイラ工法)にて施工している。阪神高速道路㈱大阪建設部 坂井事業調整担当部長によると、長尺鋼管杭の施工事例としては、徳島自動車道 新町川橋(徳島県徳島市)国道45号気仙沼湾横断橋(宮城県気仙沼市)、国道45号気仙大橋(岩手県)陸前高田市)の事例があるが、脚付き型の支持形式で中堀り併用圧入工法により施工した事例は全国で初めてということだ。なお、河川内橋脚の施工は、国交省の許可を得て通年施工で行うこととした。なかでも鋼管杭の圧入は昼夜間作業で行い出来形および工程管理を行った。(井手迫瑞樹)


鋼管矢板施工状況 既設桁に極めて近接した箇所で施工している

新御堂筋の淀川大橋から最小離隔0.65m 溶接継手部は3~4箇所
 鋼管矢板の約半数を支持層まで到達させ、約半数を比較的良好な中間層で打ち止める

 鋼管矢板井筒基礎に用いる鋼管杭の本数はP1が22本、P2が32本、P3が30本の合計84本を使用した。杭長を考慮して溶接継手部は3~4か所としている。各橋脚基礎とも200tクレーン付き台船で鋼管杭を施工した。鋼管杭の中詰めコンクリートは縦吊り専用バケット、底版、頂版、柱部のコンクリートは、河岸から配管圧送により打設していくものとした。

鋼管矢板仕様/設計条件

 施工箇所は、新御堂筋の淀川大橋から最小離隔0.65mと、極めて近接した箇所に建設している。
 地盤条件(P2)は中間層がOs22(砂層)、支持層がOs23L(砂層)で、平均地盤深さは中間層でOP-33.96(GL-30.85m)、支持層でOP-55.46m(GL-52.35m)となっている。H.W.LはOP+6.744mである。


既設桁との最小離隔は0.65mしかない

 支持形式における『脚付き型』とは鋼管矢板の約半数を支持層まで到達させ、残りの鋼管矢板の約半数を比較的良好な中間層で打ち止める構造である。脚付き型鋼管矢板基礎の井筒部底面は、比較的良好な中間層に止められるが、井筒部底面地盤の地盤抵抗が不明確であることから、井筒底面地盤の鉛直地盤反力は無視することにした。

 脚付き型鋼管矢板基礎に作用する水平荷重は、井筒部は井筒として考慮するが、脚部は井筒部底面地盤の鉛直反力を無視し、杭部分を井筒型に換算した脚頭部前面地盤の水平地盤反力および脚部周面地盤の鉛直せん断反力ならびに脚部先端地盤の鉛直地盤反力で支持させるようにした。

杭は千鳥打ち(1本飛ばし)で施工
 60mを超える杭の鉛直精度が課題

 施工は、導枠を使ってまず半円状に杭を配置していくが、杭は千鳥打ち(1本飛ばし)で施工していく。その施工も支持層(60m前後)まで達する杭と中間支持層(40m前後)の杭長を交互に配置するものとした。また回転防止治具を設置し、所定の精度を保持した。


杭は千鳥打ちで施工

回転防止治具の設置

 次いで掘削はカプセルホウパイラ工法を採用している。同工法は、専用の鋼管(構造用の鋼管とは別)中にオーガー式掘削機を装備して掘削するもので底部には回転スライド式ボトムシャッターを備えている。回転スライド式ボトムシャッターは、孔底で掘削が完了するとカプセルパイプの底蓋となるもので、水中掘削や含水率の高い砂礫等の排出時の掘削土と濁り水の漏出を防止し、排土効率を高めている。

カプセルホウパイラ施工手順




カプセルホウパイラ施工中写真

 同工法は、常に杭下端付近で掘削できるため河床堆積層などの玉石を含む硬い地盤や、50mを超える井筒基礎でも施工可能である。また、専用のカッティングツースによって鋼管矢板継手部の障害物を破砕しながら施工できるメリットも有している。

 施工における課題は60mを超える杭長の鉛直精度確保である。打設時の鋼管矢板圧入精度管理は、①内外の導枠に設計杭芯の通りおよび杭端までの距離を記載する、②打設中に作業員がスケール測定と傾斜計による測定により、平面位置、傾斜精度をリアルタイム管理する、③鋼管矢板圧入時の鉛直精度管理として、測量架台(河川上)および陸上部基準点からトランシットを用いて2方向で管理するといった手法を採用した。


導枠のマーキング詳細図/測量状況図

杭芯のマーキング

鋼管矢板の打設状況(千鳥打ちであることが分かる)

杭は1か所当たり、深さ方向に3分割して施工し、溶接で継手する

超音波式孔壁測定を実施し、高い鉛直精度を確保
 潜水士による目視調査を実施し、継手部の嵌合状況も確認

 さらに、鋼管矢板打設後における60mに達する鉛直精度を確実に測定するため、超音波式孔壁測定を実施、鋼管矢板の傾斜規格値は1/100であったたが、P1では1/285、P2では1/341、P3に至っては1/446という高精度で施工することが出来た。また、測定結果の図面については、天端位置を陸上部からの測量で計測し、それに孔壁測定器による計測結果を加えることで、鋼管矢板天端から下端までの矢板の変位量を算出し、その変位量をもとに杭頭部~継手下端部の傾斜値を算出した。


孔壁測定概要

孔壁測定状況写真

孔壁測定概による測定結果例

 底版部の出来形検証としては、鋼管矢板下端部の掘削底において、潜水士による目視調査を実施し、継手部の嵌合状況も確認した。継手の嵌合状況を気中確認できるのは4段目の切梁までであるため潜水士による目視点検・写真撮影の結果、しっかりと嵌合していることを確認した。


左右の鋼管同士の継手嵌合状況の確認 しかし気中確認できるのは4段目の切梁まで

P2橋脚 鋼管矢板下端部(OP-16.77掘削底において、潜水士による目視調査を実施

 次いで、継手部の止水工の施工である。水中にあるため、継手部は基本的に全内空面積(1個所あたり約0.025m2)にモルタルや止水材を注入しなければならない。そのために圧入している継手管内部の土砂を排出しつつモルタルを打設する必要があり、その範囲は31.69mの深さ(P2の場合)に及んだ。

継手止水工 P2橋脚施工数量


継手止水工施工概要図および施工フロー

 土砂の排出には専用の洗浄ロッド(右図)を使った。超高圧二重管スイベルと二重管ロッドを通じて、高圧水とエアーが供給されているもの。まず外部から供給される水を使って、先端に設けた噴射ノズル部から高圧水(0.9~39.2MPa)を吐出して継手管内の土砂を除去する。ノズルの口径や先端形状は、対象土質や深度に応じて最適化する。噴射された高圧水により土を破壊・撹乱する。そうして生じた土砂をエアーにより吐出口から外部に排出する。エアーが不要な場合や、エアーを止めた時に土砂の逆流を防止するための逆止弁を取り付けている。逆止弁の構造はエアーを上部に向かって吐出する構造にしており、排土効率を向上させている。洗浄率は、継手1箇所に3室(両側の継手鋼管と嵌合部)のうち1室でも設計深度まで洗浄できていれば洗浄率100%とみなした。

 本工事について助言を行っている京都大学の木村亮教授は「継手洗浄の結果からすべての室にモルタルが充填できないことは明らかであり、継手のせん断剛性をモルタルがすべての室に充填されていることを前提とすることは改める必要がある」と指摘しており、本現場でも3室のうち、どれかが充填されていないパターンを考えて、せん断剛性の検討を行った。さらに「継手のモルタル充填が3室すべてに必要か、それともいずれかにモルタルが充填できていればよいのかを考えて、せん断剛性の検討をすると充填の必要性がさらに明らかになり、設計の高度化、合理化につながり、実施工とあった鋼管矢板の設計ができると考える。また、継手の洗浄結果から、継手が完全に閉合されているといった考えにはならないことを安全の観点から理解しておく必要がある」(同)という今後の改善点も明らかになった。

 また、そうした設計を行う場合、「3室全体の個別検討を行う必要はなく、一番厳しいパターンのみの検討で良く、1室の充填で剛性としては問題ないという結果になるのではないか。但し、今回の継手部の鉛直精度の高さは中掘り工法の併用による効果と考えられ、圧入のみの鉛直精度とは異なることに留意しておく必要がある。さらに、圧入に関しては、圧入時間と圧入量のデータを残し、圧入の繰り返しによる周辺摩擦の低減や回復傾向を地盤種別に残すとさらによい。地盤が固く圧入が難しい場合は中堀併用を行うことが施工として有利である結果を残しておくべきである」(同)とした。一方で、「中堀り工法併用の場合、施工費用は高くなるため、バイブロ+打撃でも1/200程度の精度で施工できれば、鋼管杭施工の選択肢が増えていいのではないか。」(同)と木村教授はコメントしている。


鋼管矢板打設完了状況

継手部 32箇所中3箇所において洗浄できない箇所
 二重管ストレーナ(複相式)を用いて、漏水対策として背面薬液注入を実施

 こうした手法を用いてもなお、32箇所中3箇所において洗浄できない箇所が生じた。おそらく、鋼管杭のプレカットも止水の弱点となっていることが想定されるが、そうした箇所については、二重管ストレーナ(複相式)を用いて、漏水対策として背面薬液注入を実施した。その結果、井筒内水位を低下させながら、掘削、底盤コンクリートの打設を行い、底盤までのドライアップを行うことが出来るようになったものである。


P2橋脚では32箇所中3箇所において洗浄できない箇所が生じた

背面薬液注入工

 なお、鋼管杭のプレカットについては、一般社団法人 鋼管杭・鋼矢板技術協会 鋼管矢板基礎チームの鈴木氏も「プレカットのメリットデメリットを明確にし、現場条件に合わせて採用の可否の判断ができるように今後検討していきたい」とのことである。
 木村教授は、今回の豊崎河川内橋脚鋼管井筒基礎の施工について、「継手の閉合、鉛直精度もよくできており、一定評価できる。継手の止水についてもモルタル注入量で管理するのでなく、今回得られた知見をもとに鋼管矢板井筒基礎施工時における鉛直精度の高度化が図れることを期待したい」とコメントしている。

 杭打設完了後の鋼管矢板井筒基礎内側掘削は、100tクレーン台船によるクラムシェルバケット掘削により行った。各橋脚の深さおよび工法、面積はP1が掘削深さ19.67m、面積60.32m2、P2が同20.77m、127m2、P3が同20.77m、11.83m2であり、底盤および頂版コンクリート打設厚、打設時のロットごとの厚さは、P1が底盤2,4m、頂版4.0m、P2が底盤2,5m、頂版5.0m、P3が底盤2,5m、頂版5.0mとした。底盤コンクリート配合は30-57.5-20BB、水中不分離性コンクリートを使用した。


中詰めコンクリート打設方法

底版コンクリート打設計画図


井筒内掘削/底面シート設置/敷砂/生コン圧送状況

底版コンクリートは水中不分離コンクリートを使用して打設

頂版コンクリート打設計画図

頂版コンクリート打設状況写真

 施工に要した人数は鋼管矢板圧入工で延べ23,139人に達している。

 元請は清水建設・東亜建設工業・大豊建設JV。一次下請はヤマト工業(鋼管矢板打設)、きんそく(基準点・水準点測量)など。主要二次下請は、横山基礎工事、吉野建設、天野土木(鋼管矢板打設)、藤井組(導杭・導枠打設)など。

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