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橋梁形式は合成鈑桁+トラス+非合成鈑桁。1橋で3橋分の対応を求められる

NEXCO中日本 中央道深沢橋床版取替工事 移動機構に新設橋の技術を用いた半断面施工用床版取替機を採用

公開日:2023.02.01

 NEXCO中日本名古屋支社は、中央自動車道の土岐IC~多治見IC間に架かる深沢橋の床版取替工事を進めている。同橋は、橋長が上り線143.4m、下り線149mの鋼単純合成鈑桁橋+鋼単純上路トラス橋+鋼2径間連続非合成鈑桁橋。床版取替えは上下線計4車線のうち、常時3車線を確保するために半断面施工で行われており、トラス橋部と非合成鈑桁部では本現場用に施工者のIHIインフラ建設が新たに開発した半断面施工用床版取替機を用いていることが特徴だ。鋼桁補強工および耐震補強工もあわせて行われ、各橋梁形式での対応が求められることから、「1橋で3橋分の構造(合成鈑桁橋、非合成鈑桁橋、トラス桁橋)を同時施工している」(IHIインフラ建設)現場を取材した。


深沢橋床版取替工事 全体概要図(NEXCO中日本名古屋提供。注釈なき場合は、以下同)

供用後50年が経過 既設床版に浮き・剥離、ひび割れなどの損傷が発生
 鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は最大で4.21kg/m3

橋梁概要と損傷状況
 同橋は土岐市泉町久尻に位置し、市道147号と深沢川を跨ぐ橋梁で、1973年の供用から50年が経過している。平面線形はR=805で、縦断勾配4.6%、横断勾配4%である。建設時のRC床版厚は210mmで、1997年度に床版を10mm切削後、SFRCによる上面増厚50mmを実施(防水工は未実施)していることから、取替前の床版厚は250mmとなっていた。


深沢橋全景(A1側から)

 土岐IC~多治見IC間の2021年度交通量は18,920台/日、大型車混入率は28.2%で、「中央道のなかでは交通量が多く、昼夜連続車線規制を行うと朝夕に渋滞が発生しやすい」(NEXCO中日本)ということだ。
 凍結防止剤は同区間で約6.9t/km(2021年度)を散布している。主にその散布の影響により、床版下面では浮き・剥離、鉄筋腐食に加えて、亀甲状のひび割れが部分的に発生していた。上面は増厚部の浮きと土砂化がほぼ全面で確認され、界面は過年度に樹脂注入による補修を行ったものの、部分的な剥離が見られた。舗装面はポットホールが頻発していた状況だった。


既設床版下面の損傷状況(左側から3枚)/床版上面の状況

 鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は最大で4.21kg/m3に達し、平均でも1.24 kg/m3(P1~P2)となっていることから、さらなる劣化の進行が懸念された。このため、抜本的対策として上下線の床版全面3035.7㎡をプレキャストPC床版に取替えることにした。

下り線の施工は2022年に完了 上り線は2023年に施工
 JCT近接のため、半断面施工で床版取替

床版取替工事 全体工程
 床版取替は、下り線走行車線側が2022年5月~8月、同追越車線側が同年8月~12月に完了しており、2023年5月~8月に上り線走行車線側、同年8月~12月に同追越車線側を実施する。各床版取替面積は、下り線走行車線側が750.6㎡、同追越車線側が795.9㎡(下り線合計1546.5㎡)、上り線走行車線側が737㎡、同追越車線側が752.2㎡(上り線合計1489.2㎡)である。


床版取替順序

 半断面施工としたのは、下り線の東京側にある土岐JCTが現場に近接していたためだ。NEXCO中日本名古屋支社では、高速道路の広域迂回ができる箇所は車線数を減少させて施工が可能としている。上り線については一宮JCTから東海北陸道と東海環状道を経由して土岐JCTを使用することで迂回が可能だが、下り線は「渋滞が少しでも伸びてしまうと土岐JCTを使用した迂回ができなくなってしまう」(NEXCO中日本)。そのため、床版取替工事期間中は下り線2車線と上り線1車線の合計3車線を確保する必要があり、半断面施工を採用した。


現場状況。東京(A2)側は土岐JCTに近接(大柴功治撮影。以下、撮影=*)

耐震補強、B活荷重対応、床版取替工事対応の桁補強を行う
 補強材の兼用により補強量の減少と施工性向上を図る

鋼桁の補強
 鋼桁補強は耐震補強とB活荷重対応、床版取替工事対応のために行うものである。それらを同時に施工して補強材を兼用することで、補強量の減少と施工性の向上を図ったことが特徴だ。施工は、後述する構台構築と足場設置後、床版取替工事に先行して2021年8月から開始した。課題になったのは、橋梁形式ごとに異なる補強方法が求められ、“1橋で3橋分の対応”をしなければならなかったことだ。
 A1~P1間の合成鈑桁部は、当て板補強および対傾構増設と外ケーブル補強を併用するとともに、仮設縦桁と仮設横桁の設置を行った。仮設縦桁および横桁以外は、B活荷重と床版取替工事の両方に対応するもので、ステップ解析に基づいて死荷重増加が最小となるように補強量を決定した。仮設縦桁および横桁は、半断面施工のためG2桁~G3桁間の既設床版を切断することで、床版が連続版から片持ち版となり、床版取替用のクレーン荷重に耐えられなくなるために設置した。当て板補強は下フランジ下面に設置したが、当て板のみでは補強鋼重が増加してしまうため、外ケーブル補強を併用して桁の応力改善を図った。外ケーブルは橋軸直角方向の床版切断が完了し、合成桁から非合成桁の状態になってから緊張を行った。


合成鈑桁部の桁補強概要図(拡大してご覧ください)/仮設横桁の設置作業

外ケーブルの挿入と緊張完了

 P1~P2のトラス橋部は、支点付近の下弦材と、全長にわたって下横構と対傾構の当て板補強を実施した。いずれもB活荷重対応と耐震補強兼用の補強である。さらに、床版取替工事対応ではトラス主構間に縦桁2本を増設し、床版取替完了後にトラス主構間中央に設置された既設縦桁を撤去することで、床組を構成する横桁の補強を不要とした。床版取替工事後には支承取替工のための補強も実施する。


トラス橋部の桁補強概要図

増設縦桁設置作業と設置後(左・中央)/対傾構補強材取付作業

 P2~A2の非合成鈑桁部は床版取替工事にともない合成桁とすることで、補強量を少なくした。補強内容として、床版取替工事前に中間支点(P3)周りに横桁を増設するほか、下フランジ下面の当て板補強、対傾構補強を行った。


非合成鈑桁部の桁補強概要図/増設横桁取付作業/対傾構取付作業

 施工は、下り線A1側から1車線規制で上部桁の補強部材を橋面上から搬入して行い、次に市道を規制して、下弦材の補強部材を荷揚げするという工程で進めた。上り線は下り線の床版取替と並行して施工している。なお、床版取替工事中には、既設コンクリート床版に接触する腐食損傷部の部材取替も行った。

IHIインフラ建設が開発した半断面施工専用床版取替機を初適用
 鉛直ジャッキとツインジャッキによる移動で厳しい曲率と勾配の現場でも施工可能

床版取替機の採用
 トラス橋部と非合成鈑桁部の床版取替では、IHIインフラ建設が開発した半断面施工専用の床版取替機を初適用している。クローラークレーンでは作業半径の関係で、1日当たりの床版架設枚数は2枚が限界であったことに加え、床版の搬出・取り込み方向が1方向で固定となるため、橋面上で2台以上の同時施工が不可能であったことから床版取替機を採用することにしたのだ。


本工事で初適用となった半断面施工専用の床版取替機(撮影=*)

 初適用となった本機は、移動機構にPC橋の張出架設用移動作業車(ワーゲン)の仕組みを一部取り入れることで、より厳しい曲率と勾配の現場でも施工できることが特徴である。「今後、都市部での工事が増えると、現場条件はさらに厳しくなる。その中でも施工できるように開発した」(IHIインフラ建設)ものであり、「新設橋の技術を用いたことで、すべての橋梁に対応できる」(同)ことも大きな特色となっている。床版取替用で開発すると、建設時の現場条件によっては適用できない箇所が発生する可能性があるが、新設橋の技術に着想を得たことで、建設当時のあらゆる現場条件に適用できるというわけだ。
 一般的な床版取替機はH鋼などを使用したレールを敷設して、その上を車輪で移動して床版の撤去・架設を行ってく。取替機はレールの接線方向にしか向かないので、曲率が大きくなると取替機の先端を床版の中心に合わせられず、撤去・架設が困難になる。また、縦断勾配が4%以上になるとレール上の車輪駆動による移動が困難になるとともに、曲線で変化する横断勾配に対してはレール上の取替機が不安定になり、転倒する恐れも生じる。
 これらの課題を解決するために、本取替機では脚部を車輪構造とせずに、鉛直ジャッキとツインジャッキを用いて移動する構造を採用した。これにより、「尺取り虫のような」小刻みな移動ができることから、取替機の向きを調整でき、鉛直ジャッキによる縦横断勾配への対応も可能となった。


鉛直ジャッキは1脚につき上部側と足元側に各1基を設置/ツインジャッキは片側2基を設置(撮影=*)

前後4本の門型支柱脚で吊上げ装置を設置した主桁を支持
 約1カ月間の試験施工で安全性と施工手順を確認

 床版取替機の大きさは橋軸方向約13m×橋軸直角方向約4m×高さ約7mで、床版の吊上げと吊下げを行う主桁を伸ばした状態では橋軸方向が全体で約19mとなる。重量は21.5tである。取替機が高すぎるとドライバーからの見た目的にも不安定感があるので、できるだけコンパクトなものにするべく開発している。また、本体の組立用ボルトが多いと高速道路に落下する危険性が増すため、特に上部の本数をできるだけ減らすようにしたという。
 構造は吊上げ装置を設置した主桁を前後4本の門型支柱脚と先端サポートで支持するものとなっている。


床版取替機一般図/後方からの床版取替機(撮影=*)

 組立は15mの移動用ガイドレールを敷設後、約7.8mの走行用サドルを16t吊ラフタークレーンでレール上に設置する。左右2本の走行サドル両端には鉛直油圧ジャッキ(合計4基)が設置されており、これにより縦横断勾配に対するレベル調整を行うとともに、取替機移動時のレール持ち上げも行う。本体はトレーラーで搬入後、内蔵されている油圧ジャッキを用いて自力で支柱脚を張出し、走行用サドル上に固定していく。その後、支柱脚を伸ばして本体を上昇、レベル調整を行い、チェーンブロックなどを取り付けて主桁を伸ばしていく。先端サポートで主桁を固定後に吊上げ装置を取り付けて組立完了となる。取替機本体の組立については、基本的にトラッククレーンを使用しない構造としている。


床版取替機の組立

 床版撤去・架設後の取替機の移動は本体を下げた後に、先端サポートと主桁を格納したうえで、走行用サドルの下部に取り付けたツインジャッキ(片側各2基)を用いて本体を後方に動かしていく。鉛直ジャッキでレベル調整後、走行用サドルのアウトリガーに荷重を受替えてレールを持ち上げて、同じくツインジャッキでレールを所定位置まで動かして、レール降下と固定を行うというものだ。ジャッキストロークは各約300mmで、約6mの移動が可能となっている。
 本床版取替機の初適用にあたり、IHIインフラ建設では千葉県市原市で約1カ月間をかけて試験施工を行い、安全性と施工手順を確認している。現場と同様の縦横断勾配を再現し、実際現場で施工するチームで臨んだほか、作業手順を動画に残して注意点などを加えることにより、他の作業者でも安全、確実に施工ができるようにした。本床版取替機は、床版の撤去・架設を1台で完結でき、工事規模に応じて柔軟に追加投入できることが特長の一つである。


約1カ月間をかけて試験施工を行った

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