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IHIインフラシステムが現場に最適化した門型床版取替機を設計・運用

NEXCO西日本 中国道川西高架橋 伊丹空港の高さ制限を回避しつつ床版取替

公開日:2022.08.18

 NEXCO西日本関西支社は中国自動車道中国池田IC~宝塚IC間の大規模更新工事の一つとして、川西高架橋(橋長643m、4径間連結合成鈑桁×7連+2径間連続非合成鈑桁+3径間連続非合成鈑桁)において既設RC床版部のPCaPC床版への取替えを行っている。床版取替については、川西高架橋は特殊な事情を有する。伊丹空港が間近にあるため約24mの高さ制限があり、クレーンでの施工が困難であった。そのため、IHIインフラシステムが開発し、中日本高速道路の床版更新の現場で実績も有する自走式床版取替機「Sphinx」を参考に川西高架橋の現場用に再設計した機械を1シーズンあたり4機投入して、高さ制限を回避する形で床版の撤去・架設を行っている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

 


川西高架橋の桁および床版下面の損傷状況(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

橋の路面高から24m程度しか空頭がなく大型クレーンは使えない
 合成桁部は中間支点部となる箇所の桁を連続化 桁補強も

 川西高架橋の高さ制限は、現場が伊丹空港の2本の滑走路の進入表面に該当することから生じている。滑走路方向の進入表面勾配が50分の1のところにちょうど川西高架橋が位置しており、54m(川西高架橋範囲での最低高さ)の高さ制限に同橋の全延長が該当している。橋脚高を考慮すると橋の路面高から24m程度しか空頭がない状態となる。大型クレーンではブームを伸ばしただけで24mを超えてしまうため、使うことが出来ず、施工高さを8mに抑制できる門型架設機を採用したものだ。


川西高架橋周辺の空港制限高とその影響

 さて、床版取替前に本橋の単純鈑桁×4連の合成桁部は、4径間連続合成鈑桁へ構造変更するために、中間支点部となる箇所の桁端部を連続化し、合わせて必要な桁補強を行う。桁端部については両側に支保工を設置して、支点(橋脚上)から左右に約2.6mの部分を切断し、現行の鈑桁と同じ高さ(900mm)の新設桁を架設、高力ボルトで締めて連続化する。脚上の支承点は連結に伴い2か所から1か所に代わるが、その分、沓にかかる荷重も大きくなるため、下フランジの幅を広げるなどして断面性能を確保した。連続化することで支間中央付近の曲げモーメントの低減も期待できる。ただし、固定脚部では既設の支承高に新設する支承高が収まらないため、新設桁の桁高を100mm程度変化させることで対応している。


桁の撤去状況①

桁の撤去状況②

桁架設状況

支承設置状況

主桁連結後の状況

 桁端部の切断、補強材の設置に当たっては既設桁の塗膜を剥がす必要がある。既設塗膜は鉛など有害物質を含んでいるためそのまま切断はできない。そのため、IHで該当部の塗膜を除去した上で、切断および設置を行った。IHは首都高メンテナンス東東京の機械を用いた。


IHは首都高メンテナンス東東京の機械を用いた

床版取替は上下線全幅を3分割施工
 1シーズンの施工で門型架設機4機を用いて4箇所を同時施工

 同橋の床版取替においては、上下線全幅(約29m)を3分割し、中分→上り→下りの順で施工している。また、それぞれの施工区間を8分割し、1シーズンの施工で門型架設機4基を用いて、4箇所同時施工している。既に春に中分側の4箇所、348m(105m+75×2m+93m)の施工を完了しており、現在は5月GW明けから8月のお盆前までの期間を用いて中分側のもう4か所の施工を行っている。

 また、中分の床版取替は、既設床版は(中分範囲における)上下線の中央側と外側に4分割して撤去し、新たに設置するPCaPC床版は、上下線それぞれに配置する形で2分割施工した。また、上下線側の撤去架設はそれぞれ既設撤去は3分割、新設PCaPC床版設置は当該部全幅の一枚パネルで施工する。


架設概要図①

架設概要図②(断面図)

橋軸直角方向への水平移動機能を付与 22.8tの吊り上げ荷重を有する
 吊り上げはシングルフック 直橋対応と斜角対応の2種類の機体を用意

 これまでの床版取替機から大きく設計を変更した点は橋軸直角方向への水平移動機能を付与した点だ。今回、3分の1断面ずつ取り変えるものであるが、床版を撤去・架設する床版の重心位置は必ずしも門型架設機の真ん中には来ない。吊る重心の位置によっては、クレーンの位置そのものを橋軸の直角方向にずらす必要がある。門型のフレーム自体は軌条レール幅に沿って前後にしか動かないが、物を吊下げるクレーンとしての機能としては、橋軸方向だけでなく、橋軸直角方向にも動くように、横梁を追加して吊り上げに用いる電動チェーンブロックを支えるフレームを左右に動くようにした。吊り能力は、同橋のPCaPC床版パネルが橋軸2m×橋軸直角方向9~10m、床版厚250 mm、最大重量約19t(床版本体17t+吊具など2t)というサイズであることを踏まえ22.8tの吊り上げ荷重を有している。さらに7t(既設床版パネル撤去用)、2t×2(各種治具などの吊り運搬用)の吊り上げ荷重を有するサブの吊り装置も装備している。
 寸法は長さ(橋軸)が22mで幅8.25~10.3m、全高8m強(クレーンガーダーの高さは7.9m)に一元化し、複雑な機能を有せず、効率的な運用が行える機体を実現した。但し、JR福知山線との交差部は斜角を有しているため、直橋対応と斜角対応の2種類の機体を用意している。


2種類の機体を用意した

 一方でクレーンガーダーの高さが7.9mと非常にクリアランスが少ない。床版を運んでくるトラックの荷台高さを考えれば、揚程高はさらに限られる。そのため床版架設に用いる吊り上げ設備のフックは写真のようにシングルフックとした。そして床版上面上に配置する治具(吊天秤)を用いて4点支持としているが、根元は1点で吊り上げるため、どうしても不安定となる。そのため吊天秤の下部に油圧ジャッキを仕込み、それを操作することでバランスを取る仕組みとしている。


シングルフック(井手迫瑞樹撮影)

下部の油圧ジャッキ(井手迫瑞樹撮影)

 同装置はレールによって移動しながら、さらに床版架設位置の左右位置や偏心の修正などを施すことが出来る。従来の門型架設機ではいちいち止めてからでないと、そうした修正作業を行うことが出来なかったが、同装置はそれを行うことが出来るため、門型架設機が該当部に到着すればすぐに床版を下げての架設作業に取り掛かることが出来るため、非常に効率の良い施工を行うことが出来る。


敷設されたレール(井手迫瑞樹撮影)

床版の積み下ろし(井手迫瑞樹撮影)


門型架設機はレールに沿って移動しながら把持する床版を回転させ、重心を調整することが出来る(井手迫瑞樹撮影)

床版の横移動(井手迫瑞樹撮影)

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