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揚重機を3箇所に設置し、レール付き台車、ハイウェイストライダーで現場を徹底して機械化

NEXCO中日本 弥富高架橋で約19,800㎡の床版を取替え

公開日:2022.07.19

 中日本高速道路桑名保全・サービスセンターは、同事務所が所管する東名阪道初の大規模リニューアル工事として、弥富高架橋(下り線)の床版取替工事を行っている。同工事は床版取替面積が約19,800㎡にも及ぶ膨大なものであり、従来工法のように床版を本線から搬出入すると、現道交通に大変な影響を与えてしまう。そのため、本工事では下り線2車線に活用できる場外搬出入のための揚重機を3箇所に設置し、それらとの間を台車で結ぶことで施工を円滑化、本線への影響を極小化する方法を採用した。また、床版架設も、ヤードの狭さや高圧線などの環境条件からクレーンが使えないため、床版架設・撤去機『ハイウェイストライダー』(詳細は後述)を用いた施工も行っている。同現場を取材した。(井手迫瑞樹)


弥富高架橋位置図

東名阪自動車道位置図

上空から見たヤード

交通量 新名神供用前は10万台、現在も6万台 大混率は28%に達する
 床版防水は未設置 損傷度はⅢから最大Ⅴに達している個所も

損傷状況と損傷メカニズム

 弥富高架橋は、1975年10月22日に供用された延長約1.6kmの連続非合成鋼鈑桁橋(詳細は別表)である。1日交通量は上下線で新名神供用前は10万台を超え、現在も約6万台を超える交通量が走っている 。とりわけ大型車混入率は約26%に達している 。既設床版厚は元々220mmであったが、既往の増厚により270~280mmに達している個所もあり、ジョイント近傍も増厚に伴う縦断調整を行っている個所がある。増厚の一方で床版防水は未設置である。これは「物理的に交通量も激しい東名阪道では、通行規制などを行って高機能床版防水まで施工する時間的余裕がなかったため」(同事務所)。これらの疲労卓越と床版防水未設置ゆえの土砂化の進行に起因して、既設RC床版は「上下両面から補修が為されて、まさに絆創膏だらけの状態」となった。通行中も「路面がものすごく揺れているのがわかる状態」(同)で支間の中央付近に行くとそれが顕著になる。桁の常時振動と交通荷重による疲労で床版が大きく損傷している状態といえる。床版の損傷度区分はⅢで、より詳細なパネル区分でいうと損傷度Ⅲから最もひどい箇所ではⅤに達している個所もあった。亀甲状のクラックが生じている個所も少なからずあり、増厚断面で再劣化している個所も生じていた。


床版の損傷状況写真(井手迫瑞樹撮影)

弥富高架橋の撤去した床版(井手迫瑞樹撮影)

橋脚梁を広げ、主桁を一本増設し、橋梁幅員を1.42m広げる
 トラッククレーン+ベントによって架設

増設梁と増設桁を設置し、幅員を増やす
 さて、本工事では、1日断面交通量6万台 を擁する利用者の走行を阻害しないため、上り線を用いた対面通行を選択せず、下り線 1車線を確保した施工を実現するために半断面施工を行うこととし、架設方法を工夫することで急速施工を実現して工事の影響を最小化している。資材の搬出入を桁下から実施することで、トレーラー等の工事用車両が頻繁に本線から規制内に出入りすることで生じる交通のボトルネックを解消し、従来と比べて安全性が高い急速施工を実現する工夫を施すことを実現した。床版設置面積 は約19,800㎡、PcaPC床版への取替枚数は半断面施工であることから実に1,608枚に及ぶ工事となっている。

施工ステップ図/橋梁一般図(横断図/側面図、平面図)(NEXCO中日本提供、以下注釈なきは同)


全体施工図


施工上の課題

 まず、半断面施工の実施のためには、現状では幅員が足りない。これは、工事施工中の1車線供用時に、大型貨物等の車輛が停止した際に、後続車が摺り抜けられ、かつ救急車輛等が活動できる幅員として5,250mmを確保することを交通管理者と協議して決めているからである。この5,250mmの運用幅員が、走行・追越と両面で必要な全幅を東名阪道は有していないことから、走行側からの床版更新を先行し、必要な幅員分を拡幅する計画としている 。そのため、まずはプレキャストコンクリート製の延長梁部材を使って既存橋脚の梁を広げ、主桁を1本増設し、橋梁の幅員を1.42m広げることにした。現状の下り線において半断面施工ができるほか、将来上り線の床版取替をする際、下り線を5,250mmの幅員を有する対面1車線とし、上り線を全断面で床版を取替えることが可能となり、全体の工程を短縮することも見越している。
 梁の延長部材はプレキャストRCブロックを外ケーブルで緊張した梁を用いている。梁は側道にクレーンを設置し、ベントで支持しながら架設した。新旧界面部は、目地のみ現場打ち無収縮モルタルを使う。プレキャストコンクリートは現場打アンカーと、さらにアウトケーブルによりプレストレスで締めて一体化させる。アウトケーブルは、上下線のみのセパレート橋脚については、添付写真のように拡幅梁から既設梁までを直線で締める形(中分スペースを利用できる)でおこなう。上下一体の壁式橋脚(交差道路のある箇所で採用)では端から橋脚の「脇の下」(柱と梁の隅角部近傍)まで締める形で定着部を設けている。端から端まで締めないのは、定着部が、交通量の多い側道の県道側に出っ張ってしまい、新たな俯角が生じてその対策を行う必要が出てくるためだ。


現場打アンカーの施工


RC梁の施工状況①

上下線のみのセパレート橋脚については拡幅梁から既設梁までを直線で締める形でおこなう(左)
上下一体の壁式橋脚(交差道路のある箇所で採用)では端から橋脚の「脇の下」(柱と梁の隅角部近傍)まで締める形で定着部を設けている(右)

増設桁の設置状況

 アンカーを施工する際は、鉄筋位置による不具合も考えられるため、プレキャスト側の孔を大きめにあけて、削孔位置が多少違っても必要なアンカー本数が設置できるよう対応している。RC梁は揖斐川工業(IKコンクリート)が担当した。PC鋼材はエスイーの19S15.2を4本(49橋脚)2本(4橋脚)、総計204本配置 している。

 延長梁の設置完了後は、下り最外側に増設の鋼桁を1本、約1.6kmに渡ってトラッククレーン+ベントによって架設していった。増設桁の重量は403tに及んだ。

揚重機 3箇所に設置して床版を搬出入
 550tCCで夜間に2回に分けて設置

門型揚重機の設置
 さて、次に取り組んだのは床版搬出入のための揚重機の設置である。揚重機は1.6kmに渡る工区の 両端と中間部の3か所において、本線脇の側道上に設置することで本線規制内に直接のアプローチを可能とした。木曽川左岸および弥富IC付近の両端部に設置した2基の揚重機は主に床版を搬入するために使われ、中間部の揚重機は主に撤去された床版を本線外に搬出するために使われる。よって床版取替の工程は、端部から中央に向かって2班体制で行われている 。
 揚重機は門型で桁を跨ぐ形で設置するタイプと一部の桁を撤去して開口部を設け、ステージ状の台を使うタイプを用いる。さらに厳密にいうと、門型揚重機は長島IC側(木曽川側)がが下り線の桁を完全に跨いで設置するタイプ、中間部は既設床版上に一方の脚を置く構造とした 。いずれも床版を揚重クレーンで吊り上げ横移動させて台車に載せ替える方式だ。

 弥富IC側の端部の揚重機のみ現場条件の制約があり、一部の桁を撤去して開口し、ステージ状の台を使って本線直下から路面上に持ち上げるリフトアップ方式を採用している。
 門型揚重機の設計・施工は、床版を揚重するという性能は有しながら、地震などによって生じる慣性力が働かないようできるだけコンパクトに設計することに努めた。その結果、基礎は中層混合処理+フーチング構築によってL2相当の基礎耐力を求められるように補強されており、杭の施工は不要とした。
 門型揚重機の架設は、いずれも1回目に桁の高さまでを脚部として桁横に設置し、その上のヘッド部分を2回目に架設する手法を採用した。門型架設機の施工は、550tクローラークレーンを用いている。施工はいずれも夜間の23~翌6時までの間に行った。


門型揚重機の設置①(井手迫瑞樹撮影)

門型揚重機の設置②(井手迫瑞樹撮影)

 門型揚重機は2台の巻き上げ機で床版を吊り上げるものの、1台に1つの床版を吊る能力(7.5t)を持たせ 、アクシデントでたとえ1本が切れたり外れたりしても耐えられるようにしている。また、落下防止床を設けて床版の落下を防ぐ方策を施すなど、様々なフォールトトレランスの概念を施している 。側道上に設置された門型揚重機の柱の基部には、トレーラーが1台分が通り抜けられる空間を作っており、運ばれてきたPCaPC床版あるいは撤去する既設床版を揚重機直下で荷台からスムーズに吊り上げ、あるいは搭載できるようにした。


門型揚重機外観

門型揚重機による既設床版の搬出状況①(井手迫瑞樹撮影)

門型揚重機による既設床版の搬出状況②(井手迫瑞樹撮影)

 弥富IC側も当初は門型揚重機の計画だった。しかし至近に高圧鉄塔と高圧電線があり、門型揚重機 を架設するためのクレーンが施工中に接触する危険性があったため、門型揚重機の設置を断念した。


中間足場と床版借受(安全性確保のため設けている)

ハイウェイストライダー 円状のフレーム 7.5t吊×4の電動チェーンブロック
 偏心による過負荷に対応、省力化・省人化を追求

新型床版架設機『ハイウェイストライダー』の特徴
 床版の撤去・架設は新型床版架設機「ハイウェイストライダー」を全部で4台用いて施工している。内訳は撤去専用機が2台、架設専用機が2台。これを用いて2班体制で施工し、1日当たり12枚(24m)分の長さの床版を撤去・架設している。


半断面機の組立状況

 桑名保全・サービスセンターの牧野副所長によると、「まだ施工速度を上げる余地はあるが、パイロット工事としての最初の1車線(半断面の走行車線側)とのこともあり、作業員の方の習熟も兼ねて、現在の施工能力とするように工事受注者と調整した」とのこと。

 ハイウェイストライダーは、本体フレームとビームと走行装置が各々分かれた状態で、トレーラーに積載して現場に運搬する。それらをトレーラーの車上で本体と接合して一体化させることができるため、クレーンが不要で狭いヤード内での設置が可能である。さらに本体の油圧ジャッキを用いて、現場に合わせて前後左右に張り出して、自らトレーラーから降りて展開・設置できる。前のビームを架台で支えるのは人間が通りと向きを変えなくてはいけないためで 、架台に高さ方向のジャッキとスライド機能があり、ビームが自在に展開できるようになっている。 支持は6点で行っている。本現場での運用は幅3,950mm×長さ26,000mmとした。幅は、下り1車線を5,250mmの幅員で運用しなくてはいけないこと、既設床版の幅員、人が通らなくてはいけない横の隙間を考慮した。長さは1日当たりの作業量(6枚)を考慮した。


『ハイウェイストライダー』と自走式台車(井手迫瑞樹撮影)

『ハイウェイストライダー』と自走台車②(井手迫瑞樹撮影)

 

 吊り機構にも工夫を施している。吊り装置は1本7.5t吊りの電動チェーンブロックを 4本備えている。床版荷重は最大でも11tほどであり、一見いかにもオーバースペックに見える。しかし「現場の勾配や機械の故障などによる偏心はいつ起きるかわからない。以前施工した弓振川橋での経験を生かして、その場合片方2台のフックで支えていかなければならない場合も出てくる」(大林組JV)。片方でも7.5t×2=15tの能力を有することで、そうした事態にも対応できる安全性を確保している。

 さらに吊装置の上部は円(リング)状のフレーム(φ1,800mm)となっている 。4点が回転するリング構造により、吊荷を安定させた状態で、電動で吊荷の回転が可能である。また、電動チェーンブロックにより、容易に吊荷の姿勢調整が可能で施工効率も向上させることができる。また、水平移動機構により、吊荷重心位置への移動が可能だ。

 これは、運搬してきたPCaPC床版を如何に安全かつスムーズに90°回すか? ということに焦点を当てて設計したもの。「床版はどうしても線状構造物なので、橋軸方向に長い状態で持ってきて、架ける時は90°必ず回さなくてはいけない。場合によってはさらなる微調整も必要でそれもスムーズに行わなくてはいけない。しかも人間の力を借りずに回すことがベスト」(同)。



桁下の足場は SPIDER PANEL を採用した


床版の撤去状況①

床版の架設状況②

床版の架設状況③

床版の架設状況④

 円状にする利点は、円の中に吊り重心が入っていれば、床版が大きな偏心を起こさないことである。しかし、弥富高架橋の現場で難しかったのは、既設床版を撤去して、橋軸直角方向に1.42mほど長い(2×6.92m)新設床版をかけなくてはいけないので、機械自体は既設床版の上にしか乗っていないにもかかわらず、 新設床版が既設床版よりも外側に張り出すので、吊荷の重心位置が外にずれる。そうすると致命的な状況まではいかずとも作業が出来なくなってしまう。このため、ハイウェイストライダーの中心よりも外側で吊って、中心位置まで移動できる装置が必要となった。サークルを横にスライドする機構を付けたり、それでも重心が入らない場合、床版上の吊り治具に重心を調整する機能(カウンターウェイト)を付けるなど2段階で対応している。また、床版の吊り上げ、吊り降ろしも電動チェーンブロックで行うことができる。結果的に床版回転時の介錯や床版の上げ下げを人力で行う必要が殆どなく、現場の省人化、効率化に大きく寄与できている。

 ハイウェイストライダーは所定枚数の施工後も組み直すことなくレール上を自走できる。現場での設置・撤去は最初と最後だけでよく、これも施工の効率化に大きく寄与している。

台車運用 数か所に分岐レールを作って離合箇所を 作る
 床版架設機、仮設防護柵自体も安全を重視しつつスリム化

レールの設置、台車の運用
 さて、現場では床版などの運搬のためにレールが4本配置されているが、中の2本は床版を運ぶレールで、外の2本は門型架設・撤去機が通るレールとなっている。無人運搬台車のレール幅は1,435mmであり、台車や床版架設機の交通渋滞を起こさないよう、数か所に分岐レールを作って離合箇所を 作っている(分岐レール部は先行で床版を作り、最初に離合箇所を作った)。


軌条設備と分岐部

 実際は、「我々としてはヤードが広いほうがよく、あと250mmでもヤード幅が欲しかった。それがあれば高欄を先行切断しなくてもよかった」(大林組JV)。下り線部の供用車線は5,250mmで運用しているが、道路構造令にない特例値として供用車線側の幅員幅は5,000mmにできないか? ということを検討していた。しかし、それは関係機関との調整が難しかった。幅2mぐらいのトレーラーが事故を起こした時に同じく2m幅程度のレスキュー部隊が遅滞なく駆け付けられるようにする必要があるためだ。最終的には5,250mmで落ち着いた(同)。

 狭いヤードの中で仮設防護柵を立てなければならず、内側の作業範囲を数cm単位で削る施工計画が必要であった。床版架設機の幅3,950mmも最小値として認めたものであり、それに対応して機械もスリム化し、仮設防護柵自体も安全を重視しつつスリム化した。


防護柵の設置準備(アンカー削孔)

仮設防護柵設置状況

下り線の車線規制の幅員は最終的には5,250mmで落ち着いた/上り線から見た下り線の施工状況

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