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狭隘な架設ヤード 送出し回数は上下線あわせて18回におよぶ

京阪電気鉄道 新名神高速道路 淀川東高架橋 鉄道や府道などを跨ぐ約180mの桁を送出し架設

公開日:2022.08.03

不測の事態に備えてエンドレスキャリーは送出し能力の倍の4基を設置
 レーザー式距離計により送出し長をミリ単位で管理

リスク対策
 本架設では京阪本線上空の送出しを制限時間内に確実に完了させるため、および施工時の安全性を確保するため、さまざまなリスク対策が行われている。
 推進装置であるエンドレスキャリーは、1主桁に1基(合計2基)で能力的には十分であったが、送出し途中での故障などの不測の事態に備えて、1主桁に2基(合計4基)設置した(なお、第1回では4基すべて使用して送出しを実施した)。
 さらに万が一、エンドレスキャリーが使用できなくなった場合の対策として、台車に水平ジャッキ付レールクランプ(補助推進設備)を設置した。これにより制限時間内に送出し、または引戻しを行うことで、京阪本線上空部での張出し状態を確実に回避して、運転士の視覚不安の除去などの鉄道の安全確保を図った。


水平ジャッキ付レールクランプを補助推進設備として設置した

 第1回では、補助推進装置を使用せざるを得ない状況になった場合は、既に送出した長さが計画送出し長の1/2を超えていればP3側への送出し、1/2未満であればP2側への引戻しという判断基準を設けて施工した。
 送出し中の反力管理は、各支持点の反力を集中管理システムにより自動計測し、計測値が設計反力の120%を超えた場合は送出し作業を一時中断して、設備や桁の異常の有無を確認後、オペレーターが手動で荷重調整をすることとしている。また、送出し距離は、レールに原則1mごとにマーキングして台車移動量の確認を行うとともに、レーザー式距離計により集中管理室でミリ単位での管理を実施している。


レール上のマーキングとレーザー式距離計

 架設桁と手延べ機の安定性確保では、台車にサイドストッパーを設置して転倒防止を図るとともに、台車と架設桁、および手延べ機と橋脚上の設備をワイヤー・レバー・ブロックでつなぎ、架設桁と手延べ機の固定を確かなものとした。
 逸走防止対策としては、台車にレールクランプ装置を配置して、送出し休止時には台車設備と軌条設備を確実に固定すると同時に、人力で設置可能な歯止めを車輪の後方に設置した。また、軌条設備の後方端部には鋼製の逸走防止を設置した。


レールクランプ装置と歯止め/逸走防止ストッパー(右写真撮影=*)

 橋脚と台車の耐震性能については、P2橋脚およびP3橋脚はレベル2地震動の1/2を確保した。前方台車と後方台車はレベル1地震動の1/2を確保する設計とした。

第1回の送出し部材長は142.7m
 送出し前に手延べ機の上げ越しを行う

第1回送出し
 5月10日には第1回送出しとなる下り線の送出しを実施した。桁長は65.2m、鋼重は519tで、手延べ機と連結構(77.5m)をあわせた送出し部材長は142.7m、総重量約775tに達した。
 P3橋脚到達前の計画たわみ量が1,366mmとなることから、事前の対策として、送出し前に手延べ機の上げ越し(たわみ処理)を実施している。前方台車と後方台車に内蔵した40t鉛直ジャッキ(1軌条×4基)を用いて、前方台車側を約350mmジャッキアップし、後方台車側を約130mmジャッキダウンすることで、手延べ機先端を1,562mm上げ越した。これにより、P3橋脚および橋脚上の設備に干渉させることなく、また、P3側にたわみ処理用設備を設けることなく送出し当日に手延べ機先端を到達させることを可能にした。


たわみ処理要領図/前方台車と後方台車に内蔵した鉛直ジャッキ(右写真撮影=*)

 府道の通行止め確認が完了し、京阪本線の最終電車が通過した午前0時30分から送出しが開始された。P3橋脚上までの46.4mを1.0m/分の速度で連続的に送出し、約1時間後には手延べ機先端をP3橋脚上に到達させている。その後、前方台車と後方台車のジャッキ調整によりたわみ処理を行って手延べ機をP3橋脚上の設備にタッチさせて、ラッシング固定を行っていた。作業は、予定よりも早く午前2時30分過ぎには完了した。


第1回送出し(下り線)の様子。京阪本線と府道の上空を架設桁が送出されていく

手延べ機がP3脚上の設備に到達する

送出し完了(撮影=*)

 上り線の第1回送出しは、5月13日に実施している。


上り線の第1回送出し後の状況(撮影=*)

第1回送出し後、軌条桁上から(撮影=*)

P2~P3径間には常設足場を設置

今後の施工予定
 第2回、第3回を7月に実施した後、前述したように渇水期に第4回~第9回の送出しを行って桁降下を実施する。手延べ機先端がP4橋脚に到達する第5回では、送出し設備のP4橋脚前面に設置したブラケットで手延べ機先端を仮受した後、ジャッキアップを行うことでたわみ処理を行う。
 P2~P3径間は京阪本線の上空となるため、供用後に点検や維持管理が難しくなることから、常設足場を設置する。常設足場は日鉄エンジニアリングのNSカバープレートを採用した。同製品は、耐久性に優れた塗装ステンレス(本現場では「フッ素ラミネートステンレス鋼板」を採用)を外装に使用した橋梁用高機能外装材で、内皮材、芯材、外皮材の三層から成るサンドイッチパネルと橋梁本体への取付に必要な金具を組み合わせているものだ。常設足場の役割とともに、橋梁を風雨、日射、塩分などの劣化要因からも守ることができる。


常設足場設置イメージ(NEXCO西日本提供)
※完成イメージのため、実際の形状と異なる場合がありますので、予めご了承下さい。

 架設桁への常設足場の設置は、第8回と第9回送出しの前、第9回送出し後に分割して行う。設置にあたっては、架設ヤードのP2橋脚と京阪本線側の間に専用の足場を構築して、その上で組立てと設置を行う予定となっている。P2~P3径間の全長に常設足場を設置するが、京阪本線を跨ぐ上空75°の範囲のみ送出しに合わせて設置し、それ以外の範囲についてはNEXCO西日本が府道を規制しながら架設していく。


常設足場設置用の専用足場(撮影=*)

 桁降下はサンドル降下を採用し、ジャッキと仮受設備を盛替えながら、1回あたり150mmずつ段階的に施工していく。降下量はP2橋脚が3.0m、P3橋脚が2.3m、P4橋脚が1.3mとなる予定だ。

 元請は、鹿島建設。一次下請けは、宮地エンジニアリング、平野クレーン工業。二次下請けは、松田建設(上り線)、山建(下り線)、大瀧ジャッキなど。

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