道路構造物ジャーナルNET

橋梁残部の撤去方法および新橋の設計はこれから

岐阜県・国交省 川島大橋の撤去・架替えへの軌跡

公開日:2022.05.31

 国土交通省中部地方整備局岐阜国道事務所は、各務原市内の木曽川渡河部に架かる川島大橋において、国の権限代行による災害復旧事業を進めている。川島大橋は、各務原市川島松原町~川島笠田町の木曽川渡河部に架かる橋長343.5mの鋼5径間連続下路トラス橋で、岐阜県が管理している橋梁である。下部工は壁式橋台、壁式橋脚でケーソン基礎(支持地盤は砂礫層)が採用されている。また、下流側には、ほぼ同じ長さの下路トラス橋(歩道橋、単純桁5連)が下部工を拡幅して併設されている。昨年5月の豪雨により、河床が2015年時の河床高と比べて約6m洗掘され、底部に約70cmの空洞が発生、P4橋脚の傾斜により上流側の支承において上流側水平方向に約39cm、鉛直方向に約23cmの変位が起き、上部工にも上弦材の座屈や上横構の変形、桁の変位など損傷が生じたため、復旧を断念し、新橋に架替えるもの。車道だけでなく、歩道橋についても撤去している。歩道橋については、約300m下流側に橋長395m、歩道幅員4mの歩行者用仮橋をかけて供用すべく工事を進めている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

豪雨時の流量は6,000㎥/s P4橋脚の局所洗掘生じる
 道路管理者と河川管理者は、情報と危機感を共有して、リスクに対応する必要

推定される損傷メカニズム
 5月20日からの豪雨でP4橋脚が傾斜した同橋だが、2018年の法定点検では基礎工の異常は確認されていない。また豪雨時の流量は約6,000m3/sで、10,000m3/s以上の流量を流すことができる同川においても、川島大橋の観測所では過去35年間で5番目に高い水位となったが、同規模の出水がなかったわけではない。ではなぜ洗掘の進行により橋脚が傾斜するに至ったのか。岐阜大学の原田守啓准教授は「河道内の地形、水量、水の流れ方など、P4橋脚の局所洗掘が進む悪条件が見事なまでに重なった」という点を指摘した。原田准教授は、橋梁および河川管理者から得た情報をもとにシミュレーションを行った結果、長年の流れの作用で澪筋が右岸側に寄っていたこと、3,000m3/sという流量が継続的に流れる状況がちょうどP4橋脚の周辺の局所洗掘が最大となりうる状態であったこと、さらに洪水の終盤の流量の減少が速く、通常の場合に生じる洪水の後半に上流から土砂が運ばれて洗掘孔が埋め戻される作用が働かず、洗掘されたままの状態で洪水が収まったことによりP4橋脚基礎のケーソンが支えを失い、洗掘が激しい上流側に傾いてしまったというメカニズムが推定できるとした。

 木曽川では、上流に設置されたダムへの土砂堆積などにより河床高が低下しており、古い橋ほど基礎の上の土被りが薄くなっている傾向にある。「川島大橋のような洗掘による橋梁の被害は、古い橋ほど可能性が高くなっている。また、堤防を越水するような洪水ではなく、今回のような水量はさほどではなくても悪条件が重なることによる洗掘により橋が損傷するケースも出現した。道路管理者と河川管理者は、情報と危機感を共有して、リスクに対応する必要がある」(原田准教授)と警鐘を鳴らしている。これは木曽川だけでなく全国の古い渡河橋において考慮すべき事例といえる。

 岐阜県も、今回の川島大橋の損傷を受けて、その危機意識は高まっている。「3月に改訂した県の橋梁点検マニュアルでは、河川内水中部の点検を充実させるべく、今までの点検に加え根入れ部の状況確認も行うことにした。また異常出水が起きた直後の変状の有無も必ず確認するようにもした。但し、これらの前提として河川の特性を知るところから始めなくては、洗掘などによる河川内橋脚の適切な把握は困難であり、川島大橋の事例はそれを裏付けしている。直轄河川に関しては国の機関と連携して、河道の状態の情報を提供していただくと共に、県管理河川に関しても、河川担当との連携をより密にし、河川巡視の際に橋梁に変状や破損を確認した場合はすぐに情報を共有し、道路担当が調査を行えるような体制を組んでいきたいと考えている」(岐阜県)。

P4橋脚の底面の根固め工および固定化(グラウト充填)工を施す
 「河川内の工事としては驚くような」大量の土砂を動かして右岸側の流路を埋め戻す

損傷状況の把握と緊急対策工
 同橋を管理していた岐阜県では、損傷を把握するため、まず河床洗掘により沈下と傾斜が発生したP4橋脚(右図参照、以下注釈なきは岐阜県提供)と、橋脚の転倒モーメントが支承を介して伝わり、鉛直、水平変位、ねじりによる影響が発生しているとみられる上部工の変状をP3-P4径間を中心に計測した。計測はP4橋脚で沈下、水平移動量および角度、P3-P4上部工で、沈下、変形、伸縮、路面高、橋梁全体で変形の増加量、新たな変形の有無をそれぞれ計測した。計測には自動トータルステーション、傾斜計、ひずみ計、3次元データ計測などを必要に応じて使用し、冒頭のような損傷を把握した。


計測実施状況

傾斜したP4橋脚(国土交通省発表資料より抜粋)

 その上で、橋梁の補修あるいは撤去までの間にある出水期を乗り越えるため、左岸側の河床を掘削して水替工とし、その土砂を右岸側に移し、河床高や橋脚周りの土被りを増やすことで、河川の流れを左岸に導く手法を採用した。被災直後の応急対策として袋詰め玉石をヘリコプターで投入する洗掘対策を行い、P4橋脚の底面の根固め工および固定化(グラウト充填)工を施した。また、上部工については、上弦材と上横構の変形が顕著であった。上横構は上弦材の中間に格点部を設けて、斜めに配置されている。格点部に取り付く一対の上横構は一方は引張力、もう一方は圧縮力に抵抗してバランスが取れているが、これが座屈したことにより、上弦材の中間に横方向の曲げが生じて力のバランスが崩れ、上弦材を曲げ、ひいては上部工全体に影響を与えてしまう。そのため、まず上弦材の格点周辺を左右からサンドルで挟み込み補強し、さらに座屈した上横構の代わりのバイパス部材を新たに設置して力のアンバランスを解消する変形抑制を図り、曲がった上弦材の耐荷力を補う補強工を施した。


袋詰め玉石をヘリコプターで投入/グラウト充填概要図

グラウト充填対策状況


上部工補強要領図/上部工補強step


上部工応急対策状況写真

 その後、台風シーズンを前に、出水期をのりきるため、またその後に想定された上部工の撤去工事を円滑に進めるために「河川内の工事としては驚くような」(原田准教授)大量の土砂を動かして右岸側の流路の埋め戻しが行われた。


澪筋掘削状況/土砂運搬・仮置き状況/夜間作業状況

締切作業状況(左・中)/押土・埋め戻し状況


2021年5月末から7月20日にかけての河道の変化

 

 これらの対策の成果が8月に起きた豪雨時における次の結果である。
 8月に生じた豪雨は、木曽川にピーク流量1万㎥/s以上の水量をもたらした。しかし、川島大橋付近のP4橋脚付近は、左岸側の掘削と右岸側の大量の土砂を投入していたおかげで洗掘がこれ以上進むことなく、橋の変位の増加も起きず、やり過ごすことができた。

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