道路構造物ジャーナルNET

渦励振対策や伸縮装置、桁内の維持管理の工夫も紹介

多摩川スカイブリッジの橋面上の景観について

公開日:2022.03.11

鋳鉄製の親柱を橋梁両側に配置 色は「ブルーがかったシルバー」
 ステンレスフレーク入り塗料で長期耐久性を向上

親柱
 羽田側は貼り文字、川崎市側は鋳物に直接彫り込む「彫文字」、川崎側と羽田川の両端部に左右1つずつ計4か所に設置している。
 多様なデザインが可能な鋳鉄製を採用しており、羽田側は幅4.5m×高さ1.2m、川崎市側は同2×1mのサイズとした。重量は羽田側で1.2t、川崎市側で0.5tにおよぶもので、これだけの鋳造品を製作できる工場は国内でも少なく、親柱の製作に当たった昭和鉄工の協力会社が有する八戸市内の工場で鋳込んだ。橋梁に馴染む色彩として、「ブルーがかったシルバー」(JV)を採用、塗装にはステンレスフレーク入りの塗料を採用し、長期耐久性の向上に努めている。
 親柱には橋梁名や河川名などの文字を入れるが、羽田側は貼り文字、川崎市側は鋳物に直接彫り込む「彫文字」を採用し、アクセントを付けている。

羽田側は貼り文字、川崎市側は鋳物に直接彫り込む「彫文字」を採用

外側から見た親柱 ブルーがかったシルバー

検査路はアルミ製など軽くて耐久性の高い『KERO』などを採用
 維持管理専用の孔を設置 孔埋めは防食および採光用として期待できるシリコン栓用いる

検査路
 検査路は、川崎側のA1~P2は、アルミ製検査路『KERO』(日軽エンジニアリング製)、羽田側はFRP製検査路(宮地エンジニアリング製)を採用した。いずれも軽量性と長期耐久性の観点から採用したもの。

川崎側に設置されたアルミ合金製検査路『KERO』

 河川部は景観性を考慮して、橋外面の検査路や吊り金具は一切付けていない。その代わりに、カーリングやアイナットを取り付ける専用孔を設置した。アイナットは1,000個を桁内に保管し、専用孔(φ24.5mmとφ32.5mm)には取り外しが容易で、防食および採光用として期待できるシリコン栓(微細なアルミ線を挿入して強度を上げている)を、現場溶接部のスカーラップに生じる孔には、同じく透明型のエラキャップを採用した。シリコン栓およびエラキャップの製作はK・Sマスターズ。

シリコーン栓やシリコーン製エラキャップが採用された箇所

シリコーン栓とエラキャップ

 また河川内橋脚部には、点検時における特殊高所作業の支点作成用のアンカー孔を事前に作成している。2月上旬には同設備を用いて特殊高所技術による点検、軽微な修繕を行った。


特殊高所技術による点検、軽微な修繕

防護柵や高欄をアルミ製にしたことで設計時より400t軽く
 それを補うため間詰コンクリートを軽量コンから普通コンへ変更

死荷重の変化(キャンバー対応)
 こうした長大橋の架設において、最も気を付けるべき点の一つに、キャンバー変化がある。「万が一、全ての桁架設後に、キャンバーで大きな差異が生じれば、もう一度ベントを設置して、調整しながら架け直すという重大な手戻りが生じる」(JV)ため、当初設計や解析はもちろん、製作・架設時においても段階ごとに精査し直して、キャンバーの変化については細心の注意を払った。
 そして実際に架設計画を進めていったところ、防護柵や高欄は、設計段階において鋼製で計画していたものをアルミ製にしたことなどから、結果的に死荷重が400t軽くなることが分かった。そのため、間詰部を予定していた軽量コンクリートから普通コンクリートに替えることで死荷重を増やし、キャンバーを整えた。その上でP5側の支承の沓座モルタルを最終的に打設し、固定した。
 P5橋脚上の支承は1,200tタイプの巨大な可動ゴム支承「Hips」(ビービーエム製)を2基用いている。

打設前の支承『Hips』/打設モルタルの製造

モルタルの打設状況

固定完了後のHips

渦励振による疲労損傷を避けるため桁内にTMDを設置
 TMD重錘が最大19cm上下に動いてもバネの強度に影響しない装置

TMD(チューンド・マス・ダンパー)
 多摩川スカイブリッジは、橋梁が河口部に面しており、周囲に遮蔽物がほぼない。そのため、一定方向から一定の強さの風を受け続けることになり、渦励振による疲労損傷が生じることが懸念された。部分模型を用いた風洞試験の結果、風速25m/s以下(車両走行が想定される範囲)において、渦励振が発生し、たわみ渦励振の発現振幅が許容振幅(71mm)を上回ることが分かった。

遮蔽物はほとんどない

 そのため、渦励振の抑制策として、景観性を悪化させずに対策可能な、桁内部へのTMDの設置を行うこととした。風洞試験の結果を踏まえ、渦励振を許容振幅内に抑えるために、TMDによる付加減衰(対数減衰率)の目標値を0.05とし、最も渦励振による影響を受ける中央スパンの中央部付近の上下線に稼働マス重量3.7tfのTMDを10基ずつ計20基配置することとした。

上下線に20基配置されたTMD
 多摩川スカイブリッジは中央スパンが200mを超える長大橋であり、橋桁重量が重いため固有振動数が低くなることから、それに合わせたTMDを設置する必要があった。TMDの固有振動数は約0.5Hz(固有周期で約2秒)と「相当ゆっくりと揺れるものとした」(製作したニチゾウテック談)。このため通常のバネ支持方法では、バネ自体の強度が弱くなるため対応できず、バネの作用応力度や疲労強度等の設計条件を満足するバネ機構を考える必要に迫られた。通常の1段タイプでは設計条件を満足しないため上下2段のバネを配置して対応することとした。これにより前述のTMDの固有振動数を実現するとともに、TMD重錘が最大19cm上下に動いてもバネの強度に影響しない装置を実現することができた。

TMD本体(2段組)/人力での加振しての載荷試験
 なお、TMDは、橋梁の桁の工場製作時に桁内に収める形で設置し、部材の一部などを桁架設後に搬入し、装置を最終形に調整した。その後、TMD単体の人力での加振および桁直上における動的載荷試験により、前述の目標付加減衰が確保できていることを最終確認している。

桁内部空間全長602mに渡ってLED照明、台車レール、検査路を配置
 不意の損傷にも対応 桁内に維持管理ストックを保管

箱桁内検査路の設置および維持管理ストックの保管
 多摩川スカイブリッジの桁高は最小2m~最大7mと大きく変化する。そして橋長は602mにおよぶ。その内部空間を適切に点検・補修していくため、箱桁内部全長に渡ってLED照明とトロリー用の台車レール、検査路を配置した。桁高が高い箇所(桁高4m以上)では、1層の検査路だけでは近接点検できないため、2層構造としている。天井面にはトロリー用レールを設置して、荷揚げ用にトロリーを9台設置した。主桁のところどころに点検時の足場設置兼採光用の孔があり、これも桁内を明るくしている。
 さらに、桁内には先述した1,000個のアイナットの他、維持管理用の資材として足場用ブラケット(300基!)、軽量敷板、EPS発泡スチロールブロック、アルミ高欄20m用の予備資材を保管して、不意の損傷時に即座に対応できるようにしている。


検査路は桁高に応じて段数が変わる

台車

各種予備資材を保管して、不意の損傷時に即座に対応できるようにしている

 基本設計はパシフィックコンサルタンツ、詳細設計及び製作・施工は五洋・日立造船・不動テトラ・横河・本間・高田JV。舗装工の一次下請は鹿島道路、二次下請はエコワーク、フタミ、大阪防水建設社。

供用を待つ多摩川スカイブリッジの全景

供用目前の内覧会の様子/明日(2022年3月12日)、供用を開始する

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