道路構造物ジャーナルNET

渦励振対策や伸縮装置、桁内の維持管理の工夫も紹介

多摩川スカイブリッジの橋面上の景観について

公開日:2022.03.11

 川崎市と東京都が建設を進めてきた多摩川最下流部に位置する多摩川スカイブリッジがこの2022年3月12日、ついに開通する。当NETでは、今まで数回、同橋の建設記事を掲載してきたが、今回は橋面工を中心とした同橋のディテールにスポットを当てた記事を掲載する。(文、写真=井手迫瑞樹)

車道部舗装の鋼床版 投射密度は300kg/㎡
 ステンレス製で流量断面も増やした排水溝『サビナガッター』を採用

 同橋は、川崎市の国道409号と、東京都の都市計画道路環状8号線を結ぶ。工事延長は約870mであり、そのうち675mが橋梁形式で、その中でも600m強が鋼3径間鋼床版箱桁(複合ラーメン)橋となっている。

多摩川スカイブリッジ

車道部舗装
 鋼床版部は、基層は防水層を兼ねてグースアスファルト舗装とし、表層は改質密粒度アスファルト舗装としている。施工は車道部の総幅員約7.5mのうち、上下線片側ずつを施工した。1回ごとの施工長は約70m。

ショットブラストは投射密度を300kg/m2とした/カチコートXの塗布


グースアスファルトの施工

 施工は、まず、鋼床版表面をショットブラストで研掃した。投射密度は平均で300kg/m2とした。これは添接部や溶接部が多く、そうした箇所の浮き錆を確実に除去するには、1回打ちではなく、複数回、異なる方向からブラストをかけて確実に施工する必要あるため(錆を確実に除去しなければ舗装のブリスタリングを招きかねない)。その後、カチコートで防水、グースアスファルト基層、次いで表層を全面的に施工した。それと並行して標識柱や車両用防護柵を施工した。

多摩川スカイブリッジの建設を記念して川崎側の基層には小学生の手によって絵が描かれた

表層まで完了した車道部の舗装

自転車道・歩道部
 自転車道の舗装は通常のアスファルト舗装を採用した。自転車道部と車道部の境のコンクリート地覆は、6m間隔に通水孔がある。通水孔は1か所当たり幅200mm×高さ150mmと大きなものとなっている。斜め勾配に流れてくる雨水を確実に通水するためだ。
6m間隔に通水孔が配置されている


通水孔部の拡大表示

 通水した水は、マウントアップ構造の歩道を利用して、歩道・自転車道境の橋長全面に設置している排水溝から両端部に設置されている6か所の排水桝を通じて、橋外面に確実に排水できるようにした。その結果、桁外面の導水樋を端部のごく一部以外、一切なくしている。

鋼製排水溝詳細図
 その排水溝『サビナガッター』(巴製作所製)も工夫している。材質はステンレス製で長期耐久性に配慮している。また、排水溝前面(自転車舗装端部)に深さ30mm×幅50mmの「溝」を作ることで流量断面を増やし、大雨警報クラスの30mm/hの降水時にも自転車道が冠水しないようにした(降水量がそれ以上になると自転車道を走る人がそもそもいなくなり、水は排水溝だけでなく、自転車道それ自体が巨大な排水路となり、端部の排水桝から水を落とすことが想定できる)。排水溝後方上面にはヒンジ機構を仕掛けており、簡単に開け閉めできるため、清掃も楽に行うことが可能で機能の維持をし易くしている。加えて排水溝の蓋は本体と鎖で繋がっており、盗難を抑止できる。

ステンレス製排水溝『サビナガッター』の配置状況


同配置完了状況(歩道舗装まで施工が完了した状況)

 歩道面の舗装は、基本的に脱色アスファルトを用いた。赤みがないベージュ色の舗装を志向した識者からの指導の下、さなげ石という比較的入手しやすい(つまり維持管理し易い)自然石を用いたアスファルトで景観的に優れている。さらに600mを超える長い橋であるため、歩行者に飽きを感じさせないように、約30mピッチで真鍮製のサインプレート+小型の舗石からなるアクセントを配置した。舗石はさび色とし、サインプレートには橋周辺の動植物や橋から望むことのできるランドマーク、歩行者の現在位置などを記すなど、目を楽しませるものになっている。

さなげ石を使った歩道部の舗装。手前はアクセントとして一定間隔で配置されている舗石/舗石拡大部

様々な情報が描かれているサインプレート

景観を考慮し、横桟形式のアルミ製高欄を採用 安全性考慮し様々な工夫
 車両用防護柵は、レールにLED照明を内包、衝突時の破損を避けるため外側にレール配置

高欄・車両用防護柵
 橋梁の最外部に位置する高欄は、通常、子供の転落を防止するために縦桟を使う。しかし、縦桟では利用者からみて眺望性を阻害すること、さらに橋の形(水平性)を考慮すると景観的にも合わないことから、眺望性を阻害せず、広がりのある河川景観と調和し、橋梁の水平性などとも調査する横桟形式の高欄(三協立山製)を採用することにした。


 ここで課題となるのは安全性である。よじ登り易い横桟では、子供の安全性に疑義が生じるためだ。それを抑止するため、地覆の高さを100mm上げると共に、高欄の高さを1,200mmとし、従来より100mm程度上げた。また、トップレール(一番高い位置にある桟)の径を220mmの楕円形状とすることにより子供がつかみにくい大きさ・形とした。さらに支柱の角度はRを2回付け、歩道側に65°の傾斜を設けると共に、横桟自体も支柱の外側に配置し、座りにくくかつ寄りかかりにくくしている。遠目から見ても中に包むような形状となっており、外へ出ることを柔らかくいなす様な景観になっている。
 素材は防食性能の優れているアルミ製を採用した。添接ボルトはめっき防食した鋼製のボルトを採用しているが、絶縁ワッシャーを使用して電位差による腐食の発生を防止している。
 また、地覆コンクリートとのアンカーぶりにはシール材で防水処理を施すが、勾配が一番激しい箇所のみ、わざと開放口を作り、水が逃げられるようにして発錆を防いでいる。アンカーボルトはSGめっき処理したボルトを採用し、ここでも耐久性を高めている。加えて、地覆コンクリートそのものにもけい酸塩系のコンクリート改質剤『RCガーデックス』を採用し、塩害や中性化の抑制に努めている。

横桟方式のアルミ製高欄(内側からの近景、遠景)

横桟方式のアルミ製高欄(外側からの遠景、近景)


高欄と車両用防護柵

横レールを3段に配置。真ん中のレールは車道と反対側の自転車道側に置いていることがわかる

 車両用防護柵は、アルミ製の横レールを3段に配置した(日軽エンジニアリング製)。そのうち中間のレールは、LED照明を内蔵し車道に照射することで、照明柱を立てることによる景観性の悪化を防止している。その中間レールを守るために、上下両段のレールを車道側に配置、真ん中のレールは自転車道側に配置し、車が衝突しても、中間レールは損壊しないようにしている。

 LED照明に送電する電線の配置は橋長全体に通る主線と3ブロックに分けた形で配電する従線で構成されている。仮にLED照明に故障が生じても、どのブロックで起きているか、大まかな情報が分かるため、補修対応を手早くできる。

LED照明によって照らされた橋面

伸縮装置 SEFジョイントとマウラ―スイベル・ジョイントを採用
 P5は本橋から見て橋軸方向両側にジョイントを配置 滑り止めに摩擦素子コート

伸縮装置部
 伸縮装置は、A1、P2はSEFジョイント(横河NSエンジニアリング製)、P5はマウラースイベル・ジョイント(日本鋳造製)を採用した。いずれもフィンガージョイントなどと比較した結果、維持管理性や走行安全性などを考慮して選択した。とりわけP5においては、東京都の環状八号線ランプ橋と立体交差しているが、ジョイントは通常のように橋軸直角方向に配置されておらず、環状八号線ランプ橋の桁を分ける形で、スカイブリッジの桁の左右両側、橋軸方向に配置されている。そのため、環状八号線ランプ橋の桁の伸縮にも、多摩川スカイブリッジの桁の伸縮にも対応する複雑な性能が求められ、「現状で対応可能な伸縮装置はマウラースイベル・ジョイントと判断した」(JV)。


SEFジョイント

マウラースイベル・ジョイント
 伸縮装置上面のフェースプレート部には、スリップによる事故を防ぐために摩擦素子コートを施している。高硬度のアルミナ結晶粒子を高密度に転圧し、粒子保持特殊樹脂で連結組構し、防錆と摩擦力を付加することですべり止めを行う工法で表面摩擦力を長期間保持出来、同時に防錆効果を維持できる。

摩擦素子コートしたジョイントの鋼材表面

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