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地山等級Eパターンも存在、湧水も発出し、掘進も困難極める

新白河BP 南湖トンネルで山岳トンネル自動化セントルを実装

公開日:2021.03.26

 福島県が復興支援道路として事業を進めている国道294号新白河バイパスにおいて、白河市の松平定信が作った日本最古の公園である南湖公園の直下に建設を進めている南湖トンネルの工事が終盤を迎えている。同トンネルは延長474mと短いながら、内空断面は高さ10.8m×高さ16mと高速道路並みに大きい。土質は火山性凝灰岩や砂岩と頁岩の互層などで、地山等級はDⅠ、DⅢ、Eパターンと非常に悪く、ほぼすべての延長で補助工法としてAGFを採用している。Eパターン部においては中央導坑先進拡幅掘削工法や早期閉合パターンを採用するなど工夫した。地山が悪く構造的な補強が必要であるため、主鉄筋としてD22、配力筋としてD19をそれぞれ250mmおよび300mmピッチで配筋し、その上で覆工コンクリートを打設した。そのコンクリート打設においては山岳トンネル自動化セントルを導入し、施工の省人化および効率化やコンクリート品質の向上を図っている。その内容をまとめた。また、コンクリートは基本的には中流動であるが、今後の省人化、省力化を図るため、約1割の区間で高流動コンクリートを採用している。野心的な同現場を取材した。(井手迫瑞樹)

N値換算2~4しかない層も 中央導坑先進拡幅掘削工法を採用
 AGF区間は9mに1回薬液注入、各種機材を大型化し効率を向上

トンネル掘削
 同トンネルの工期は2018年3月23日から2021年8月31日である。ただし、実際の本体工であるトンネルの掘削に着手したのは2019年の12月からである。
 本体工着手前は、主に地盤改良に努めた。前述のように地盤が悪く、バックホウを少し動かしただけでも「100m以上離れた箇所でさえ有感地震のような振動が起きてしまう」(西松・壁巣JV)ことがあったためだ。坑口付近には民家が至近に連坦しているため、振動だけでなく騒音防止用の鋼製の壁まで構築して施工に備えた。

様々な路盤対策(西松建設提供、以下注釈なきは同)

坑口付近の人家連坦状況(井手迫瑞樹撮影)

坑口付近の対応

 さて、トンネルの掘進に際して、現場を悩ませたのは、その土質の悪さである。とりわけ地質等級Eの箇所では、地盤の一軸圧縮強度は0.04~0.14MPaで、N値換算すれば2~4しかなく、本来NATM工法の適用範囲外であり、標準支保パターンの適用ができないためだ。

南湖トンネルの地質的課題
 FEM解析などを行った結果、終点側坑口(ただし掘削開始側)は、補助工法として地盤改良工(上部からセメント改良を行う)を行い、その他は全てAGFによる補助工法(右写真)を併用して掘進していくことにした。AGF施工区間(約400m)は、47シフトに分け、9mに1回ずつ薬液注入を施し、支保幅は1mとした。地山が悪いことからリアルタイム計測はもちろん、変位を抑制するために、瞬結タイプの吹付コンクリートを施工するが、その吹付ロボットも当初設計より大型化・複数化した。当初設計では22㎥/hを1台であったが、これを30㎥/hと22㎥/hの機械を1台ずつ合計2台用いて施工した。さらに掘削機に用いるツインヘッダーのバックホウも0.8㎥/hから1.2㎥/hと大型化して作業性を向上させた(右写真)。ずり運搬に用いるサイドダンプも2.3㎥から3.0㎥に、ダンプトラックも10tから25tにそれぞれ積載量を大型化し、施工効率の向上に努めた。
 工事上の大きなネックになったのがEパターン部を中心とした地山がとりわけ悪い部分である。延長164mが該当するが、ここでは中央導坑先進拡幅掘削工法を採用した。


中央導坑掘削の施工順序
 同工法は、まず全断面のうち、幅6m×高さ6.4mの小さなトンネルを掘るもの。目的としては地山の先行データの取得と変位状況の確認、小断面を先行掘削することにより(支保工設置までの放置期間短縮による)ゆるみを抑制することなどがある。先行掘削30mごとに完全断面を掘削していくが、その8mごとに今度はインバートを早期閉合していく(右図)。トンネル掘削時からインバートコンクリートを打つ部分の下に一次支保工を入れ、8mごとにインバートも含めた完成断面を構築するもの。インバートは本来後打ちするものであるが、「早期閉合を行わないとトンネルが崩れてしまう可能性がある」ためこうした手法を取った。

中央導坑掘削の施工状況

 これらにより、本来は11ヶ月程度の期間で貫通できるはずであった。それを妨げたのが突発湧水の発生である。

 同トンネルは本来、湧水が出ることは予想されていなかった。しかし、D-Ⅰ区間の中央辺りを掘進していた時、突如毎分300ℓに及ぶ水が湧いてきたのだ。「どうも那須火山の浸透水を掘り当ててしまった」(同)ため、水抜きボーリングによる被圧水位の抑制、ポンプによる強制排水に努めた結果、事なきを得たが2か月程度対策に追われた。

 このように条件が非常に悪いながらも、2021年1月20日には、「ほぼ設計通りの工期」(同)で貫通することができた。

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