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2500t積みの台船上に上下2段積みのテーブルリフトを3点に配置し、昇降操作して撤去・架設

兵庫県 昨年の台風21号で被災した鳴尾橋が9月復旧へ

公開日:2019.08.20

本復旧
 本復旧は12月20日に契約、1月7日から材料の手配を始めるとともに並行して設計を詰め、3月初頭から三井E&S鉄構エンジニアリングの千葉工場で橋桁の製作(橋長60m、幅員10.65m、鋼重220t)を進めた。桁の製作にあたっては、暫定供用のための応急復旧時に支間長が(40mm程度)変わっていたことを鑑みて製作に反映している。支間長が設計と変わっているのは、阪神・淡路大震災などによる影響でわずかに橋脚などの移動があった可能性がある。またボルト構造の一部を溶接構造にすることでボルト本数の削減(入手本数の削減)に努めた。

復旧スケジュール

 6月末には桁製作を完了し、7月5日に浜出しを行い、4,000t積み台船で西宮まで約580km海上輸送した。6月中旬からはジャッキの受け点を中心に既設桁を補強し、桁撤去に備えた。


海上輸送されていく桁

 撤去・架設に使う台船は幅21m×長さ55mの2,500t積を用いた。「本来はもう少し大型の台船を用いたかった」(三井E&S鉄構エンジニアリング)が、P2-P3橋脚間に進入して架設・撤去する手法であるため、その支間長に収まる必要があり、コンパクトな台船を使用することにした。架設計画で気を配ったのは「ジャッキを突くポイントと数」(同)である。撤去にせよ架設にせよジャッキの位置と数により、桁を補剛するポイントを決めなくてはいけないし、バランスも配慮しなくてはいけない。波により動揺する台船による施工であるからジャッキの多さが安定を約束するという単純なものでもない。縦断勾配もP2側へ約3%下り勾配と比較的大きい。


台船艤装図

実際の台船とジャッキ、桁の配置状況(撤去時)

 「桁の撤去・架設時の安定はジャッキのシンクロに架かっていた」(同)。当初のコンサルの設計案ではジャッキを4か所に配置して桁を受けていたが、荷重とジャッキの能力を考慮して受け点を3点に減らし、ジャッキのシンクロに関わる負担を減らした。さらにジャッキの選定については、水平力が確保できるテーブルリフトを有する会社は5社あるものの、「6台ものジャッキを集中制御できる技術を有しているのは、今回採用した宇徳だけであった」(同)ことから、同社のテーブルリフトを採用した。
 ジャッキの間にはクロスのワイヤーを入れており、ジャッキのストロークと同期させることによって水平耐力を20%確保できる機構に成っている。新桁架設時は既設桁と同様に受け点部を補強した。具体的には板厚12mm×高さ140mmの板を2枚設置して補剛した。また、P2側は50mm、P3側は150mmしか設置時の余裕(遊間)がないため、桁端部にはウェブとフランジにスポンジガードを付けて桁の擦過を防いでいる。台船も最接近時は橋脚のフーチングとの距離が僅か2m程度しかないため、接触を防ぐためにプリズムを用いた自動追尾TS(トータルステーション)で台船位置をリアルタイムで計測することで台船と周辺の桁、橋脚との位置を管理した。また2重の安全策で緩衝材を船に設置して施工した。

 桁の撤去・架設桁の仮置きは鳴尾浜のヤードで行った。2,500t積み台船上のテーブルリフト設置やサンドル、その他の設備の艤装(総計約600t)は地蔵浜ヤードで400t吊油圧クレーンにて行った。その後、撤去日前日(7月1日)までに台船を鳴尾橋北岸に移動させた。

既設桁撤去作業のタイムスケジュール

 撤去日当日となる2日は、潮位がDL(工事用基準面)+100程度となる8時15分ごろから11時ごろまで事前に設置したアンカー6か所に係留索取り付け作業を開始した。台船が桁下に進入を始めたのは潮位が最も低く(同+30㎝)なる11時頃だ。その後、4.2m程度ジャッキアップして桁を持ち上げ、さらに潮位が上がる13時半ごろまで待機した上で、撤去桁を搭載した台船を退去させた。既設桁は上部の舗装や付属物がそのままの状態で搭載するため、重量は鋼桁単体の倍近い420tに達する。ジャッキアップは6台のテーブルリフトをコンピュータ制御により連動させており、アンバランスが生じないよう慎重に施工した。



撤去作業のステップ

内部に潜り込み/ジャッキアップして

桁を引き出す

 退去後は、13時半から30分かけて4.2mジャッキダウンさせ仮泊し、翌日に水深の確保できる場所を曳航し鳴尾浜に移動後1400t吊FC船で桁を陸揚げした。

 新設桁の架設は、潮汐の関係から撤去の約2週間後の7月17日に施工することになった。


新設桁の架設タイムスケジュール

 台船は前日までに鳴尾橋北岸へ移動し、当日は、DL+150という最高潮位に近い7時に作業をスタート。7時50分ぐらいまでに4.2mのジャッキアップを完了し、桁が両側の壁高欄を十分に超える高さまで到達した後に、8時ごろにP2-P3間に進入し、ジャッキダウンを始め、9時半ごろには50mmを残して潮位の低下を待った。その後11時半~12時に残る50mmのストロークを下げて桁を両橋脚に預け、受け点にタッチアップを施した後に、潮位が最も低下(DL+30㎝)する12時半ごろに台船を桁下から撤去させた。



新設桁の架設ステップ

架設地に近づき/ジャッキアップし

既存の高欄を交わしてジャッキダウンしていく

橋脚に預けた後はジャッキを下げて、台船が退去していった

 撤去・架設の施工は元請7人、船舶(深田サルベージ建設)14人、架設(植田建設工業)9人、テーブルリフト操作(宇徳)4人の34人体制で行った。

今後
 今後は、地覆・壁高欄や舗装の施工を行い、9月下旬の供用を目指す。工期を少しでも短縮するために、壁高欄の外型枠を鋼製にして吊足場の設置・撤去の手間を省く。壁高欄の内型枠にはKKフォームを採用し、型枠撤去工を省略した。また伸縮装置はP2側がゴムジョイント、P3側が鋼製ジョイントであるが、P3側について既設との取り合いを調整しやすくするためにフィラーで調節できる構造を採用した。
 舗装は鋼床版上にショットブラストを施工後、グースによる基層を舗設し、表層を施工する。
 元請は三井E&S鉄構エンジニアリング、下請は植田建設工業、深田サルベージ建設、宇徳、近畿鉄筋コンクリート、NIPPOなど。(2019年8月20日掲載、文:井手迫瑞樹、写真:實末哲也、井手迫瑞樹)

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