道路構造物ジャーナルNET

熊本市~西原村~緑川に架かる橋梁を回る

熊本震災報告②

公開日:2016.05.07

 道を戻って、昨日あまり見ることが出来なかった九州道木山川橋に移動する。あいにくの雨だが、旧知の技術者に出会い損傷状況を聞くと橋軸方向に最大80㌢移動し、40㌢戻ったのだとか。桁衝突の痕跡は多く、その言葉を裏付ける。場所によっては桁連結板が落ちている箇所もある、主桁が沓座から脱落している箇所も少なからずあった。桁は。橋軸方向だけでなく、橋軸直角方向にも移動していたことは痕跡からも明らかだ。一部で少し傾斜が疑われる橋脚もあった。


再び木山川橋へ

連結板の脱落部/傾斜が疑われる橋脚もあった

(左)P22 橋脚橋座のRC 壁の破壊 上沓と下沓の直角方向ずれ(ピン支承)(読者提供)
(右)上部構造主桁の支承からの脱落

 木山川橋の取材を終えて、西へ向かう。緑川沿いの橋を調べるためだ。まずは、熊本市南区と益城郡嘉島町町境の緑川を渡河する城南橋から南側(左岸)へ向かおうとするが、段差のため不通になっていた。堤防道路も損傷のため不通になっており、来た道を引き返してより西側の釈迦堂橋へ。ここは通過することができた。緑川を左岸に沿って東進すると九州道緑川橋を越えて上益城郡甲佐町に入り、県道239号が緑川を渡河する田口橋に到達した。


城南橋は段差で不通になっていた

堤防沿いの道路も通れなかった/釈迦堂橋から南岸へ

 同橋は1968年にオリエンタルコンクリート(現オリエンタル白石)が架設したPC橋である。左岸側橋台部に段差が生じており、中間部では伸縮装置の損傷、桁の衝突痕が見られる。右岸側は桁部の伸縮装置の歯が橋台部に乗り上がるような形になっている。桁下に回ってみると、支承が大きく損傷しており、部材が下に落ちている箇所もあった。また橋軸直角方向の移動の痕跡も見られた。


左岸部の橋台の段差/田口橋の橋名板と/詳細

中間部では盛り上がっている箇所や/離隔を生じている箇所/歯が裏返ってしまっている個所などがあった

右岸部では桁部の伸縮装置の歯が橋台部に乗り上がるような形になっている

桁下から見ると支承が大きく損傷している

支承プレートの一部が下に落ちている/桁が横移動していることが分かる

 橋軸直角方向の動きがさらに顕著に見られたのが、田口橋の東隣で緑川を跨ぐ県道38号の乙女橋である。乙女橋は昭和40年7月に供用されたコンクリート橋である。南側から見ると一見大した損傷は生じていない。ジョイントもずれはあるが、今まで見てきた橋と比べれば軽微だ。分離している歩道橋にも損傷はない。ん? 何か変だ。歩道橋に高欄がない。当然である。本桁部分が大きく東側に横移動していたのだ。桁下に回ると簡単に分かる。桁が大きく東側に動き、支承のボルトが揃って損壊している。場所によっては桁が支承から完全に脱落している箇所もあった。


乙女橋の左岸部。橋台と桁の境界部に段差が生じている/「昭和四十年七月竣工」と読める

伸縮の損傷はそれほどでもない/しかし良く見ると車道と歩道との間に大きな離隔が生じている

桁がこんなにずれたのだ/支承1個分まるまるずれている

桁下から見ると大きく横ずれし支承を損傷させているのが分かる/拡大図

別のピアでも横ズレが見られる/一番ひどい箇所では桁が完全に支承から脱落していた

 最後に秋津川橋の橋台背面の復旧工事を写真に収めて、取材は終了した。


秋津川橋橋台背面の復旧工事

福岡側橋台への桁衝突(読者提供)/P1橋脚上の支承、下フランジの損傷(読者提供)

P3橋脚終点側の橋座水平押し抜きせん断(読者提供)

3.今後
 まず直近で考えなくてはならないのは梅雨、台風時の二次災害だろう。熊本県は川が多く、水による災害は常に備えなくてはならないが、今回は多くの崩落が見られるため、二次災害には特に注意しなくてならない。特に阿蘇地域は平成24年の九州北部水害でも甚大な被害を受けた。対策は急務である。


九州北部水害で落橋した阿蘇市内の橋/滝室坂では仮橋で対応した

 将来においては道路の線形だろう。阿蘇大橋は全橋が崩落、阿蘇長陽大橋および戸下大橋は一部が損傷、落橋していた。西原村の大切畑地区では1車線が丸ごと崩壊していた箇所もあった。また自然斜面に近接している道路では、多くの落石や倒木により道路が遮断された。この状況にどう立ち向かい、災害に強い「地方の生活幹線道路」を確保するかである。コストとの兼ね合いになるが、できるだけ斜面や崩落し易い崖と離した線形を確保する必要があるのではないか、と感じた。生活道路として現道をできるだけ復旧し、活用するのは当然だが、代え難い幹線道路は今回の災害の教訓を鑑みて、より安全・安心な場所へ移設する必要があるのではないだろうか。

 構造面を論じるのは難しいが、桁の横移動が大きかったことから橋軸直角方向の変位について、より考慮する必要があるのではないかと感じる。特に桑鶴大橋や今回のルポでは触れなかったが、大分道並柳橋のような巨大な橋梁になるほど、支承交換などの復旧には多くの時間を要する。そう単純な話ではないと思うが……。加えて段差が多く生じていたことから、段差防止工の設置や盛土の強靭化なども考慮すべきだろう。(了)

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