道路構造物ジャーナルNET

⑬ 新技術の活用による鉄道高架橋の検査の効率化を目指して

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 コンクリート構造

荒巻 智

公開日:2023.10.16

4 各測定時間帯に対する変状の判別性

 変状1および2を対象として2021年10月15日(当日の天候は晴れ)に計測した剥離部と健全部の温度を図-3、4に示します。現地で測定した気温と、赤外線により測定した剥離部および健全部の温度の傾向は概ね一致していることが確認できます。9時から18時は剥離部が健全部よりも温度が高く、19時から翌8時は剥離部が健全部よりも温度が低くなっています。この温度差は、剥離部の空洞内は健全部のコンクリート内に対して温度変化しやすく、周辺の気温変化の影響を受けやすいために生じています。


図-3 変状1を対象とした剥離部と健全部の温度

図-4 変状2を対象とした剥離部と健全部の温度

 変状1および2を対象として2021年10月15日に計測した健全部と剥離部の温度差および剥離の判別性を図-5、6に示します。長田らは、剥離部と健全部の温度差と判別性について、判別性〇は0.5℃以上としており、本検証においても概ね温度差±0.5℃程度が判別性○の境界であることが確認できました。また、変状1よりも変状2の方が健全部と剥離部の温度差は小さくなっています。そのため、同一時刻において変状1よりも変状2の方が判別性は低下する傾向がありました。しかし、変状1と変状2で判別性が〇となる時間帯は概ね同様でした。


図-5 変状1を対象とした健全部と剥離部の温度差および剥離の判別性

図-6 変状2を対象とした健全部と剥離部の温度差および剥離の判別性

 変状1および2を対象とした各測定日の日較差と各測定時間帯の判別性を表-3、4に示します。すべての調査日、時間帯において、風速は5m/s以下でした。降雨が判別性に与える影響は認められませんでした。また、変状1、変状2ともに日較差が概ね10℃以上の日は、10℃未満の調査日と比較して、夜間(22時以降)の判別性が良好でした。そこで、日較差7℃以上10℃未満と10℃以上の2グループに分け、各時間帯の判別性を確認するため、判別性〇、▲、×について1.0、0.5、0と点数を与え、各時間帯の点数の平均を算定しました。点数で示した日較差および時間帯ごとの判別性を表-5に示します。なお、測定を実施しなかった時間帯は算定から除外しています。ここでは、平均0.8以上の点数について、概ね判別性が高い時間帯とし、青字で示しています。

表-3 変状1を対象とした各測定日の日較差と各測定時間帯の判別性

表-4 変状2を対象とした各測定日の日較差と各測定時間帯の判別性

表-5 点数で示した日較差および時間帯ごとの判別性

 日較差が7℃以上10℃未満の調査日における判別性について、昼の調査時間は10時から15時の間で判別性が高く、夜は2時から4時の間で判別性が高くなっています。ただし、夜間の判別性が高い時間は短く、作業効率は低くなっています。
 日較差が10℃以上の調査日における判別性について、昼の調査時間は9時から17時で判別性が高く、夜は24時から7時で判別性が高くなっています。ただし、変状2では17時、6時、7時で、判別性〇が占める割合が50%未満となっています。

5 赤外線カメラによる年間の調査可能日数

 本調査結果に基づく赤外線カメラの適用条件を表-6に示します。なお、本表では表-5において判別性の点数が0.8以上の時間帯を基本としましたが、作業効率などを考慮し、0.8以上でも適用不可としている時間帯があります。また、降雨による影響は認められませんでしたが、赤外線カメラの故障を考慮し、雨天時は中止としました。

表-6 本検証から得た適用範囲

 24時間ごとの調査結果を日較差で場合分けしたことにより、例えば、天気予報から測定可能日などを判定することが可能となりました。ここで、気象庁のデータ5)を用いて、2021年度を対象として、表-6で得られた適用条件を採用した際の調査可能日数を確認しました。
 本検証から得た適用条件を満たす日数を表-7に示します。昼間の適用条件を満たす日数は200日、夜間は203日となりました。ここで、土日祝日を約130日間とすると、適用条件を満たす日数×(365-130) / 365が実際に調査可能な日数となります。これを考慮すると、年間の調査可能日数は、昼は129日、夜は131日となりました。
 打音法と費用対効果を比較する際には、調査可能日数、1日当たりの調査可能量、赤外線カメラの購入費用や画像解析を含む調査員の人工、高所作業車・足場の費用や作業員の人工を考慮して年間の費用を算出することで可能と考えています。
 なお、本検討から得た適用条件は、限られた条件下の結果であるため、道路交差部など第三者影響のリスクが高い箇所に採用する際には、初回検査時に打音検査と併用して実施し、赤外線で確認した剥離箇所と照合して精度を確認する必要があると考えています。また、本検証では南側の片持ちスラブを対象としました。北側では日照条件が異なり、また、鉄道高架橋の中間スラブはバラストや路盤コンクリートなど床版上面の構造が熱分布に影響を与える可能性があります。そのため、南側に面していない部材、ならびに鉄道高架橋の中間スラブなどバラストや路盤コンクリートを有する部材のほか、補修された表面被覆工の塗膜厚が厚い部材などを対象にする場合は、別途、同様の調査を実施し、その適用性を確認する必要があると考えています。

表-7 本検証から得た適用範囲を満たす日数

6 おわりに

 連載第13回となる本稿では、新技術の活用による鉄道高架橋の検査の効率化を目指した取り組みの一例について紹介しました。将来にわたる労働人口の減少に対応すべく、新技術を活用しながら、一つひとつの課題に地道に取り組んでいくことによって、構造物の健全性を維持していく予定です。そして、お客様にとって安全な鉄道サービスを提供するとともに、地域の方にとっても安全な構造物を実現していきたいと思います。

 1年余りにわたって毎月読んでいただきました読者の方々、執筆の機会を与えていただいた㈱鋼構造出版の井手迫様に感謝して、『JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理』を終了させていただきます。ありがとうございました。

参考文献
1)本郷等,渥美知宏,清水谷美佳:ドローンを用いた土木構造物の調査の試行,日本鉄道施設協会誌,vol.56,No.2,110-111,2018
2)(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造,丸善,2007.1
3)長田文博,山田裕一,虫明成生,赤松幸生:熱画像による鉄道高架橋コンクリートの剥離診断手法の開発,土木学会論文集,No.760/V-63,121-133,2004.5
4)虫明成生,小野尚哉,渡辺佳彦,長田文博:夜間時の赤外線カメラを用いた高架橋コンクリートの剥離診断(その2),土木学会 第58回年次学術講演会,V-404,2003.9.25
5)気象庁HP:過去の気象データ検索,各地の気温,降水量,風などhttps://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

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