道路構造物ジャーナルNET

⑬ 新技術の活用による鉄道高架橋の検査の効率化を目指して

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 コンクリート構造

荒巻 智

公開日:2023.10.16

1 はじめに

 鉄道構造物は、道路構造物のように通行止めを行って迂回させながら補修、補強工事等の措置ができないことが多く、維持管理上の特徴として、大規模な構造物の取替えが非常に困難であることが挙げられます。したがって、構造物を、丈夫で、美しく、長持ちさせていくための維持管理を適切に進めていくことが求められますが、労働人口減少に伴い、維持管理技術者の確保や技術力の維持が喫緊の課題となっています。
 そこで、西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本という)では、新技術の活用による鉄道コンクリート高架橋の維持管理業務の効率化を目指して検討を進めています。具体的には、ドローンによる写真撮影1)、撮影した画像による画像診断,赤外線カメラを活用した画像診断などです。
 本報告では、JR西日本の鉄道コンクリート高架橋の片持ちスラブを対象として第三者影響を防止するために、打音法に代わるコンクリートの剥離検知の手法である赤外線カメラ(今回、検証に使用しました赤外線カメラは、日本アビオニクス(株)のInfReC R550)を活用した調査を実施し、その適用条件および年間の調査可能日数の検証を行った内容について紹介します。

2 赤外線カメラを活用したコンクリート剥離検知調査の概要

 鉄道コンクリート高架橋の状態を把握する検査として、鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物(以下、維持管理標準)2)では、全般検査が定められています。全般検査は、通常全般検査と特別全般検査に分けられ、通常全般検査は目視を基本としています。

 山陽新幹線では、過去、コンクリート片の落下事象が頻発したことから、高架下活用箇所や第三者影響が想定される箇所においては、通常全般検査による目視確認に加えて、目視では確認できない、かぶりコンクリートの剥離を確認することができる打音法による調査を実施しています。高所作業車を使用した打音法による調査状況を写真-1に示します。しかし、打音法による調査は、高所作業車や足場を活用するため、目視調査と比較して第三者影響につながる浮き箇所をその場で叩き落すことができる反面、作業効率が低いこと、調査を実施する作業員の主観で剥離の有無を判断するため客観性に欠けることが課題となっています。そこで、調査の作業効率の向上、客観性を有する高架橋のコンクリート剥離検知手法の確立を目的として、打音法による調査に代わり、コンクリート表面の浮き等の変状を検出する手法であり、かつ非接触で一度に広範囲を調査できることが特徴である赤外線カメラを用いた調査手法に着目して取り組むこととしました。


写真-1 高所作業車を使用した打音法による調査状況

表-1 長田らおよび虫明らの調査に基づく適用条件

 過去のJR西日本での研究結果から得られた赤外線カメラを活用した調査の適用条件を表-1に示します。赤外線カメラを活用したコンクリートの剥離調査では、気温の変化に応じて剥離部と健全部に温度差が生じることを利用して、撮影した熱画像から剥離部を検出します。長田らは、鉄道コンクリート高架橋を対象とし、 環境条件が異なる部位に対して熱画像と気象条件の1年間にわたる時系列観測(9時から17時)を行うとともに、 熱収支モデルによる数値解析を行い、 適用条件の定量化を実施しています3)。また、虫明らは、夜間(21時から翌5時)に時系列観測を行い、適用条件を提示しています4)。なお、長田らの検証結果は維持管理標準の付属資料に取り入れられて、現場で使用されています。

 ただし、上記検証を実施してから現時点で15年程度経過しており、赤外線カメラの性能が向上していることから、適用条件が変化している可能性があります。また、打音法よる調査に代わり赤外線カメラを活用するためには、年間を通じた調査可能な日数を確認して費用対効果を検証する必要があると考えました。

 そこで、既往の検証時以降、新たに配備し性能が向上した赤外線カメラを使用して、剥離部の判別のしやすさ(以下、判別性)を確認しました。さらに、赤外線カメラの活用に向けて打音法に対する費用対効果を確認するために、赤外線カメラの年間調査可能日数を算定しました。

3 山陽新幹線片持ちスラブを対象とした調査方法

 本調査の対象は、経年49年、3層3径間、地表面から床版天端までの高さ13.5m、橋長26.0mのラーメン高架橋であり(図-1)、南面の片持ちスラブを調査対象としました。片持ちスラブを対象としたのは、一般的に側道に沿って位置しておりコンクリートが剥落すると第三者影響のリスクが高いからです。南面を対象としたのは、日照による温度変化の影響が大きいこと、部材厚が小さく温度変化しやすいことによります。なお、調査箇所のコンクリート表面に最も近い鉄筋はD13であり、設計かぶりは25mmです。


図-1 調査対象高架橋の概要図

 調査対象の変状概要を写真-2に示します。かぶりコンクリートに介在する空洞の大きさが異なると、赤外線による剥離検知性能にも違いが発生する可能性があると考え、剥離の程度が異なる2つの変状に着目することとしました。変状1は目視で剥離の確認が可能な変状で、変状2は目視で剥離の確認が困難ですが打音では確認可能な変状です。なお、両変状ともに表面被覆工が施工されており、その仕様は不明でしたが、塗膜厚が薄いため、温度変化への寄与は限定的であると考えています。


写真-2 調査対象の変状概要

 赤外線カメラ撮影状況を写真-3に示します。赤外線カメラの操作性等を考慮し、変状を見上げる角度でカメラを構え、カメラから変状まで6.5m、高さ3.5mの位置で撮影を行いました。


写真-3 赤外線カメラ撮影状況

 撮影に使用したカメラの性能を表-2に示します。参考に、長田らおよび虫明らが使用したカメラの性能も示しています。最小検知温度差が0.1℃から0.025℃に向上し、画素数は320×240から640×480に向上しています。これは、画像解析をする際に、剥離部とその周辺の健全部の温度差を詳細に判別が可能となったことを示しています。なお、赤外線カメラは、太陽光の影響が小さく昼間の調査に適している長周波帯を測定する機種と、太陽光の影響が大きいが周辺の反射による影響が小さく夜間の調査に適している短周波帯を測定する機種に分かれています。ここでは、夜間も調査しますが、昼間での調査を主な使用と考え、長周波帯を測定する機種を選定しました。

表-2 赤外線カメラの性能(長田ら、虫明らの使用したカメラは日本アビオニクス(株)のTVS-600シリーズ)

 撮影期間は2021年1月から2021年12月までの約1年間、撮影頻度は月1回、撮影時間帯は2021年1月から2021年6月までは9時から17時、2021年7月から2021年12月までは9時~翌9時としました。撮影と同時に記録したデータは、気温、風速、日照時間や天気です。
赤外線画像による剥離判別の概要を図-2に示します。撮影した画像は、赤外線カメラ付属の解析ソフトを使用してコンター図上の剥離部と健全部の温度差を計測し、剥離部と健全部の色の違いの明確さにより剥離部の判別性を判定することとしました。なお、判定は、明確に判別可能を○、不明瞭を▲、判別不可能を×としました。


図-2 判別性の判定例

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