道路構造物ジャーナルNET

⑫ 打継目移動制限装置による無筋コンクリート橋脚の地震対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 コンクリート構造

坂岡 和寛

公開日:2023.09.16

3 試験施工

 南海トラフ地震により被害が想定される、紀勢線(田並~田子間)の田並川橋りょう(写真3)において、試験施工を実施しました。この橋梁は1940(昭和15)年の施工です。上部工は、起点方が鉄筋コンクリートT型桁(支間12.9m)、終点方は鋼下路鈑桁(支間11.0m)で、下部工の無筋橋脚は直接基礎です。打継目から採取したコアの状況(写真4)より打継目は一体化されていない部分があることがわかりました。


写真3 田並川橋りょう全景 / 写真4 打継目より採取したコア

 移動制限装置は直径φ=75mm、長さL=900mm、12本の鋼棒を設置しました。鋼棒には、衝撃を緩和する緩衝材、遊間を確保する間隔材(厚み20mm)を取り付けて、装置全体を躯体中に埋め込んで外面に露出しないようにしました(図6,写真4~6)。そのため日常のメンテナンスは不要です。緩衝材は硬質ゴムを、間隔材は樹脂発泡体目地材を用いました。

図6 打継目移動制限装置

写真5 移動制限装置設置状況 / 写真6 完成

 この試験施工により、移動制限装置は一般的なRC巻立て工法に比べ簡易で、工期やコストは5割程度で施工ができることがわかりました。

4 詳細解析

 地震により損傷した無筋橋脚は打継目で分離した不連続な離散現象となるため、一般的に用いられるFEM解析では評価が困難です。そこで、不連続体の数値解析手法であるマニフォールド法(Numerical Manifold Method、以下NMMという)を用いて数値解析を実施しました。

 NMMはShi3)により1991年に開発された不連続体解析手法で、解析対象であるジョイントループ(物理メッシュ)を独立な数学メッシュ(カバーメッシュ)で覆い、変位をカバーメッシュの要素に離散化するため、各ブロック内部の詳細な応力・ひずみ状態についても追跡することができます。

 移動制限装置を設置した橋脚を対象にNMMによる解析を行いました。解析に先立ち、妥当性の検証するため、仮想振動台上の単一ブロックのすべり運動とロッキング運動という2つの典型的なブロック挙動を対象に理論解との比較を行い一致することを確認しました。また第3章に示した振動台試験についても再現解析を行い、挙動や移動制限装置の効果が再現できることを確認しました。

  移動制限装置の効果や適用範囲を確認するため、表2に示すように移動制限装置の有無や、地震動、橋脚高さ、支持地盤を変化させた様々なケースについて検討しました。モデル図を図7に示します。

表2 解析ケースの一覧


図7 解析モデル

 図8に移動制限装置の有無による打継目に生じるずれの比較を示します。同一条件の結果を移動制限装置がない場合を横軸に、移動制限装置がある場合を縦軸に示しています。移動制限装置を設置していないケースでは最大400mm以上のずれが生じているのに対して、移動制限装置を設置しているケースのずれはおおよそ遊間の20mm程度となっており鋼棒によりずれが制限されていることを確認できます。


図8 移動制限装置の有無による打継目ずれの比較

 図9に移動制限装置の有無による上部回転角の比較を示します。おおむね移動制限装置有無の比率α※が1.3~0.6の範囲に分布し全ケースの平均は0.91となっており、移動制限装置を設置しているケースの回転角が小さくなっていることがわかります。これにより移動制限装置の設置により上部の回転が助長されることはないと想定されます。
 ※α:移動制限装置がある場合の応答値を移動制限装置がない場合の応答値で除した値


図9 移動制限装置の有無による上部回転角の比較

 図10に打継目の損傷がない場合と移動制限装置を設置しているケースの基礎回転角の比較を示します。打継目の損傷がない場合とは、打継目でずれや回転が生じない一般的なRC巻立てのような躯体の耐力を増加させる耐震補強を行った場合を想定しています。これに比べて、打継目が損傷し上部にずれや回転を許容する移動制限装置を設置したケースでは基礎回転角は大幅に小さい(α=1.0の破線よりも下にプロットされる)ことがわかります。これにより、本工法の目的のひとつである「移動制限装置には、遊間を設けることにより、打継目を完全に固定せず、回転挙動や多少のずれを許容することで、基礎の応答を少なくする」は概ね達成できたと考えられます。


図10 打継目損傷の有無による基礎回転角の比較

5 簡易設計

 実務設計においてNMMのような動的解析を用いて移動制限装置に使用する鋼棒径や本数を決定することは困難です。そこで、容易に実務に用いることができる静的な簡易設計手法を以下のように整理しました。

 ① 移動制限装置に作用する荷重は、打継目より上部の重量および列車重量に設計水平震度を乗じた水平力を、動的試験結果4)より1.5倍し、さらに各個撃破係数より1.3倍とする。ここで、各個撃破係数とは施工誤差等の原因で各鋼棒に均等に衝突せず、鋼棒に作用する水平力が不均等となることを考慮した係数で鉄道構造物では一般的に1.3が用いられる。
 ② 橋脚には基礎の降伏震度を超える応答は作用しないと考えられるため、設計水平震度は基礎の降伏震度とする。なお、列車荷重に乗じる設計水平震度は線路方向0.20、線路直角方向0.30とする。
 ③ 新設構造物と同様に列車荷重(EA-17牽引重量(35kN/m))を考慮する。
 ④ 打継目の摩擦は無視し全水平力を鋼棒に作用させる。
 ⑤ 移動制限装置は降伏させず、性能レベル1を確保する。
 ⑥ 鋼棒の設計はRC標準5)に示される鋼棒ストッパーに準じる。鋼棒の長さも同様に鋼棒ストッパーに準じて打継目上下それぞれ鋼棒直径の6倍、合計12倍とする。
 ⑦ 設計は線路方向および線路直角方向に対して行い、線路方向に対しては片面の鋼棒のみを有効とし、線路直角方向にはすべての鋼棒を有効として照査する。
 ⑧ 移動制限装置の遊間は地震後の復旧性や被災後の列車運行に配慮して、残留変位が軌道整備基準に示される通り狂いの制限値以下となるように設定する。

6 おわりに

 連載第12回となる本稿では、無筋橋脚を対象に河積阻害率に影響を与えない、新しい地震対策工法である打継目移動制限装置について紹介しました。

 無筋橋脚の打継目移動制限装置による地震対策は、貫通ひび割れや多少のずれを許容するという点からこれまでの耐震補強とは異なるものです。地震動を受けて打継目に貫通ひび割れが発生すると、打継目を中心とした回転ヒンジが生じた構造系に変化し、あたかも免震構造のように挙動するため、地震動による残留変位を制限値内に抑制することができれば、移動制限装置を設置した無筋橋脚は、ある意味で合理的な構造形式とも考えられます.このことから、河積阻害率や外形を変化させない本対策は工期やコストの点で適用可能な線区が多いと考えています。

 鉄道構造物には高架下の利用状況や交差している道路といった施工環境により、掘削や寄付きが困難で一般的な耐震補強が施工できないものも多くあります。今後もそういった構造物にも適用可能な地震対策の実現に向けて開発を行い、鉄道の防災・減災に貢献していきたいと考えています。

参考文献
1)新潟大学工学部建設学科地盤工学研究室:新潟県中越地震調査第6報(11.1),
http://geotech.eng.niigata-u.ac.jp/chuetsu/report-1101/report-1101.html(2023年7月19日確認)
2)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計,2012.9
3)Shi, G.H.:Manifold Method of Material Analysis,Transactions of the 9th Army Conference on Applied Mathematics and Computing,Report No. 92-1,U.S. Army Research Office,1991.
4)坂岡和寛,大坪正行,和田一範,小山倫史:無筋橋脚の打継目移動制限装置による地震対策工法の実験的研究,土木学会論文集A1(構造・地震工学),Vol.74,No.4(地震工学論文集第37巻),pp.I_1-I_15,2018
5)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物,2004.4

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム