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⑫ 打継目移動制限装置による無筋コンクリート橋脚の地震対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 コンクリート構造

坂岡 和寛

公開日:2023.09.16

1 はじめに

 無筋コンクリート橋脚(以下、無筋橋脚という)は鉄筋コンクリート橋脚に比べ耐震性に劣るため現在は新設されることのない構造ですが、鉄道構造物においては大正~昭和初期を中心に建造され現在も数多く供用されています。地震による強い揺れの影響を受けた無筋橋脚には、写真1に示すように打継目での水平方向の貫通ひび割れやずれ、打継目下部コンクリートの剥落が生じている事例が多く報告されています。橋脚の耐震補強は、一般的に鉄筋コンクリート巻立て工法を用いて実施されていますが、橋脚断面の増加を伴います。そのため、河川内の無筋橋脚においては河積阻害率の観点から実施が困難になる場合が想定されます。

 そこで、河積阻害率に影響を与えない、新しい地震対策工法として打継目移動制限装置(以下、移動制限装置という)を開発し、試験施工を行いました。本稿では装置の効果を確認するための試験や、試験施工を実施した橋脚に対する詳細解析および簡易解析について報告します。


写真1 JR飯山線魚野川橋梁橋脚1)

2 移動制限装置の概要

 移動制限装置は、河川の流下に影響しないように橋脚の外形を変えないことを基本的なコンセプトとし開発しました.これまでの被災事例より弱点と考えられる打継目に、以下の効果を発揮するように変位を制限する装置を設置します。

 ・ 打継目で損傷した場合の地震後の残留変位を小さくし、復旧性を向上させる。
 ・ 打継目を完全に固定せず遊間を設けることにより、回転挙動や多少のずれを許容することで基礎の応答を少なくする。

 移動制限装置は、打継目を跨ぐように鋼棒を埋込むもので、下部を固定し、上部には遊間を確保するよう無収縮モルタルで埋め戻すものとしました(図1)。


図1 打継目移動制限装置の概要図

3 縮小供試体による試験

(1) 対象橋脚および供試体形状

 図2に示す1/2.5の縮小供試体を製作し、静的試験および振動台試験を行って、地震時の挙動や破壊形態の検証、打継目移動制限装置の効果の確認を行いました。供試体は打継目処理の方法や移動制限装置の有無を変化させた表1に示す3体を製作しました。


図2 供試体形状図(供試体No.2,3)

表1 製作供試体一覧

 打継目処理は、分離して製作し打継目を平滑に仕上げて滑りやすくしたタイプAと、打継目を模した付着のあるタイプBの2タイプとしました。
 使用したコンクリートは、設計基準強度24N/mm2で、鋼棒にはSS400を使用しました。No.2の移動制限装置は、φ40mm、L=480mm、2本の鋼棒を供試体製作時にコンクリートの打込みと一体的に設置しました。No.3はφ30mm、L=360mm、4本の鋼棒を打継目の静的破壊試験を行った後に実橋脚と同様の施工手順で設置しました。なお、遊間は被災した場合に橋脚の残留変位が軌道狂いに影響を与えたとしても、軌道整備管理値以内にとどまり、復旧が速やかに進むように20mmに設定しました。

(2) 割裂試験および静的打継目破壊試験

 大型振動台を用いた動的試験に先立ち、打継目の強度を確認しました。付着のあるタイプBの供試体No.3の打継目部からテストピースを採取し、割裂引張強度試験を実施しました。また、同じコンクリートを使用して製作した打継目のないテストピースでも同様の試験を実施し比較しました。打継目があるテストピースの試験では、打継面に沿って破壊面が形成されたので、本試験によって、打継目の引張強度をおおよそ推定できていると考えられます。打継目の引張強度は、0.902N/mm2で、打継目でない部位(以下、一般部という)の引張強度2.491N/mm2の36%程度でした。これにより、被災時には一般部と比べて、打継目が弱点となり損傷する可能性が高いことが推定できます。
 また、付着のある打継目タイプBの供試体No.3の躯体上部に水平荷重を作用させて静的に破壊させる試験を行いました。その結果、一部に著大な凹凸があったものの、概ね打継目で曲げ引張破壊することを確認しました。

(3)動的試験

 大型振動台を用いて、表1に示す3供試体で動的試験を行い、地震時の挙動を計測しました(図3)。なお、供試体No.1,3は静的一面せん断すべり試験実施後に、動的試験を実施しました。
 入力地震動は、鉄道の新設構造物設計に用いる設計基準2)に示される地表面設計地震動(L2 SpⅡ G2地盤)を、相似則にしたがって時間軸を1/ =1/ ≒0.632倍(n:供試体の縮尺)に圧縮した波形とし、同一の供試体を用いて、最大加速度を増加させながら各試験ケースの加振を行いました。
 各試験における加振中の最大水平変位を図4に示します。なお、この値は回転による変位を差し引いています。大きな加速度が作用した場合でも、移動制限装置を設置した供試体No.2,3では最大変位は、ほぼ移動制限装置の遊間である20mm程度で、無対策No.1に比べて小さく抑えられ、移動制限装置の変位抑制効果を確認することができました。
 各試験の残留変位について図5に示します。最大変位と同様に移動制限装置を設置したNo.2,3は無対策のNo.1に比べて残留変位が抑制されています。

 すべての加振が終了した後の鋼棒付近の損傷状況を写真2に示します。鋼棒には降伏ひずみを超える変形が生じ、試験後も塑性ひずみが残留しましたが、鋼棒自体に亀裂等の損傷はありませんでした。埋込み部も圧縮応力による大きな損傷はなく、移動制限装置として十分機能していると考えられます。


図3 動的試験状況(供試体No.1)

図4 各試験における加振中の最大水平変位 / 図5 各試験における残留変位

 (a) 全景 / (b) 打継目上部撤去後接写
写真2 鋼棒付近の損傷状況

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