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-分かっていますか?何が問題なのか-
第67回 ウルトラファインバブルにチャレンジ!
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これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.09.01

1.はじめに
 ファーン・ホロー橋の落橋

  私は、この連載を書き始める前に必ず、国内外で起こった橋梁崩落などの社会基盤施設関連の事故について調べることとしている。その理由は、私の連載読者の中に社会基盤施設の事故や報道について興味を持ち、私がそれらを基にどのように話題を提供するのか期待している人が少なからず存在するからである。直近で私が道路橋崩落事故の詳細について何度か話題提供したのは、2022年1月28日に起こった図-1に示す米国、ペンシルバニア州ピッツバーク市のファーン・ホロー橋(Fern Hollow Bridge)である。


図-1 ファーン・ホロー橋崩落状況:米国・ピッツバーク市

 ファーン・ホロー橋崩落事故から約1年半が経過したが、それ以降も多くの社会基盤施設の事故が発生している。
 直近の橋梁崩落事故としては、①の10 May 2023に発生した仮設歩道橋『Espoo bridge』フィンランド・エスポー、②の11 June 2023に発生した『Interstate 95 highway跨道橋』米国・フィラデルフィア、③の24 June 2023に発生した『Near Columbusの鉄道橋』米国・オハイオ州の3件である。
 私としては、3件の崩落事故の詳細や原因について現地のニュース報道や関連資料を読み、①は、仮設歩道橋の床版(ベニヤ板?が床版)が設計・施工の誤りで抜け落ち、②は、大型車両の火災、③は、列車の脱線であると判断した。先に示す3件の事故原因等を詳細に調べたが、構造技術及びメンテナンス情報として読者が学ぶ価値を考えると低いことから、詳細な事故の技術的解説や私のコメントは省略することとした。読者の中で、先に紹介した3件の事故についてより詳細な情報を得たいと思う人は、私が示した橋梁名や国・地域からインターネット検索によって関連する情報の取得を試みることが良い。

 さて今回の話題提供スタートは、これまでに私が調べた情報を基に何度か解説している、米国・ピッツバーク市ファーン・ホロー橋崩落事故の続編である。今回話題提供する内容は、私自身が、米国連邦政府・国家運輸安全委員会(The National Transportation Safety Board、以降、NTSB)から2023年5月18日に公表された2,137ページに及ぶ事故調査報告書を読み、事故原因等について私の見解を含む解説第二弾である。公開された報告書には、使用材料と建設仕様文書、メンテナンス記録、ペンシルベニア州DOTの橋梁管理と点検に関するマニュアルなどが含まれている。

不適切なメンテナンスが主因
 裸仕様耐候性鋼を使用している約10,000橋が同様な危険性

 ファーン・ホロー橋の崩落事故についてNTSBは、今回公開された追加報告書の中で事故原因は、不適切なメンテナンスが主因であると指摘している。NTSBは、崩落事故発生を受け、ファーン・ホロー橋で何が問題であったのかを調査したほか、ペンシルベニア州の裸仕様耐候性鋼橋10橋を調査し、ファーン・ホロー橋と同様にメンテナンスが適切でない事実を確認している。
 さらにNTSBは、ペンシルバニア州やピッツバーク市等の不適切なメンテナンスを指摘するのみに止まらず、米国内の裸仕様耐候性鋼を使用している約10,000橋(全米道路橋の約1.6%)が同様な危険性を抱えていることについて警鐘を鳴らしている。指摘した内容は以下である。
「NTSBは現在、ファーン・ホロー橋崩落事故に関する調査を進めているが、道路橋を統括している連邦政府及び管理している州当局に対し、今回事故を起こしたファーン・ホロー橋と同様な仕様の耐候性鋼材を使用している道路橋の点検告書を見直し、必要な措置が行われていない橋梁の特定を行うこと」
 この趣旨は耐候性鋼材を主材料としている橋梁の管理に対して注意を促す勧告である。

 公開された資料には、ファーン・ホロー橋を対象に2005年から崩落の4ヶ月前まで行われた全ての点検を確認した結果に基づいて、図‐2に示すように、方杖ラーメン橋の鋼製橋脚が腐食し、鋼部材が断面欠損している状態にあったこと、そして重要部材に大きな穴が開いている状況写真が含まれている。


図-2 耐候性鋼腐食・断面欠損状況:ファーン・ホロー橋

 さらにNTSBは、耐候性鋼材が腐食・断面欠損した原因について、塵埃、土砂や落ち葉の堆積が主因であるとしている。要するに、ファーン・ホロー橋は、土砂や落ち葉等の堆積によって排水システムが正常に機能しなくなり、路面から溢れた雨水等が想定外の箇所に流れ、そして滞水し、滞水した雨水は、耐候性鋼材の長所である防水機能として不可欠な緻密錆形成に大きな障害となったとのことである。
 確かに公開された図-3を見ると、ファーン・ホロー橋の排水桝等のシステムは、明らかに排水桝やその周辺に堆積した土砂や落ち葉等によって路面上の雨水を正常に排水する機能が不全となっている。


図-3 土砂や落ち葉が堆積し機能しなくなった排水桝:ファーン・ホロー橋

 私の経験上から考えると、路面上の雨水が流下しないことは路面上、特に端部付近に滞水し、通行車両や人のスリップ事故発生原因となる。また、冬季になると路面が凍結し、安全上の危険度が増すだけではなく、凍結防止剤が固結し、鋼材の腐食を促進させる。
 私の指摘と同様にNTSBは、堆積した土砂や落ち葉を除去する清掃・浚渫などの定期的なメンテナンスが行われていなかったことで橋面等の雨水が排水不良となり、時間の経過とともに鋼製橋脚の腐食が進行していった事実について、定期点検調書等から確認している。
 NTSBが行ったファーン・ホロー橋の膨大な定期点検調書(2年に1度実施)を紐解く作業は大変なことで、同様な作業に何度も携わった私はその苦労が痛いほど分かる。また、NTSBが指摘した不適切なメンテナンスに関する項目を確認した私は、我が国の耐候性鋼材裸使用橋梁の実態も似通って状態にあると判断している。私の連載でも、何度か現在国内で行われている定期点検等から確認できる、不適切なメンテナンス状況について話題提供している。私としては、国や地方自治体などの公共機関は、定期点検等で把握している不適切なメンテナンスの実態を速やかに明らかにし、早期に対策を講じない限り、いずれ同様な事故が必ず起こると私は確信している。

 図-4は、主たる原因と考えている鋼製橋脚の腐食及び断面欠損部分のNTSBによる調査状況と、図-5は、鋼製橋脚(ファーン・ホロー橋の4橋脚全てを画像処理している)を3Dレーザースキャンし断面欠損状況を見える化した画像である。NTSBがこれら資料を公開する理由は、方杖ラーメン橋の弱点である箇所に、これだけ顕著な断面欠損が発生していたにも関わらず放置していた管理者の安全管理体制を問題視しているからである。NTSBとして、放置できない管理者の実態を把握したことについて明らかにすることで、米国内の各DOT等に警鐘を鳴らすためであろう。


図-4 鋼製橋脚調査状況:ファーン・ホロー橋/図-5 3Dレーザースキャン画像:北西側の脚(横向きに回転)

アライザ氏のレポートから得られる教訓とは
 メンテナンスの欠如は、米国において大きな問題である

 私はここで強く言いたい。
「まさかとは思うが、我が国のインフラストラクチャー管理者・行政技術者の方々は、ファーン・ホロー橋を『対岸の火事』と思って甘く考えているのではないでしょうね!」
 適切なメンテナンスとは、規模を大きくした見せかけの修繕を行うことではなく、発生している変状の原因を明らかにし、それを解消するために必要な日々のメンテナンス、見せかけではなく、実態が伴った小まめな修繕を数多く行うことが必要不可欠であることを、我が国の行政技術者は肝に銘じてほしい。

 NTSBとしては、ファーン・ホロー橋の調査はまだ完了していないが、今回の事故原因調査で得た不適切なメンテナンス事実から、米国内の橋梁安全確保に影響を及ぼす重大な事実が明らかとなったので今回の勧告を行った、とコメントしている。NTSBは今回の報告書の最後に、ファーン・ホロー橋崩落の原因推定、その他の調査結果、勧告を含む最終報告書は、今後数ヶ月のうちに発表すると示している。

 次に、私がNTSBの公開した報告書を検索している時に、偶然にもファーン・ホロー橋に関連する興味深い記事を見つけたので紹介しよう。

 米国土木学会(ASCE)のヘルスモニタリング委員であるCarlos Araiza, Ph.D., P.E.がファーン・ホロー橋崩落を受けて出したコメントは、今回の事故から得る教訓を学ぶのに参考になる。その内容を項目に分けて以下に示す。

 ①米国の橋梁は、1956年に州間高速道路網の建設を開始し現在も現役として使われているが、全体の42%が少なくとも50年以上経過している。これら橋梁は、高齢化が進んでいることから定期的なメンテナンスを行うことが重要である。
 ②州間高速道路橋に期待される寿命は約50年から75年である。
 ③これらの道路橋は、寿命を超えると大規模な修繕が必要になるか、もしくは性能の低下が予測される。
 ④現在供用している全ての道路橋が同じレベルの危険に曝されているわけではない。定期的な点検やメンテナンスの実施、メンテナンスに必要な予算が確保されている橋梁は、乾燥した気候の地域にある橋梁と同様に、問題となる可能性は低い。寒冷な気候、高湿度、頻繁な天候の変化に見舞われる地域の橋梁は、沿岸地域の橋梁と同様に、重大な問題が発生する可能性が高い。
 ⑤気温の変化は、橋梁を構成する部材の膨張と収縮を意味し、それによって部材や部位の磨耗と損傷を助長することになる。
 ⑥橋梁上を走行する車両が車道に溶け込んだ塩のしぶきを巻き上げているがこれについては、ある程度設計に配慮済みである。しかし同時に、橋面下の構造部材にも塩分は霧状となって吹き上げていることに注視すべきである。特に、鋼材の腐食による危険性が高いのは、海岸線近くの橋梁であり、また、跨道橋の場合は、環境としては決して好ましいとは言えず、さらに腐食が悪化する可能性がある。
 ⑦ファーン・ホロー橋は、凍結防止剤散布による塩分は排水桝や樋に蓄積し、排水管を通して橋梁下に排出される仕組みである。しかし、排水管等の排水施設に障害が発生すれば、濃縮された塩分が本来存在しない場所に流れ込み、堆積することになる。
 ⑧いずれの橋梁もメンテナンスを怠れば、ファーン・ホロー橋と同様な結果となる。
 ⑨NTSBの報告書では、裸仕様の耐候性鋼橋に焦点を当てているが、問題の範囲は1つのタイプにとどまらず、さらに、報告書でも示しているように点検は行われているが、点検で発見された変状に対する必要な措置を行っていない橋梁が米国には数多くある。
 ⑩メンテナンスの欠如は、米国において大きな問題である。

 アライザ(Juan Carlos Araiza)氏のファーン・ホロー橋及び米国のメンテナンス実態に関するコメントを読んで、私もアライザ氏の意見に同感であり、米国も我が国も一日も早く安全・安心な交通網形成に必要な対策に着手し、同様な事故が発生する前に全てを完了してほしいと思った。

全米の橋梁の7.5%にあたる46,154橋が「構造上の欠陥」
 橋梁の修繕に必要な支出を58%増加させる必要があると推定

 米国に学び、FHWAの資格も取得した私としては、ファーン・ホロー橋崩落事故やアライザ氏のコメントを読んで、米国の道路橋管理の実態を調べる必要を痛感した。私が道路橋管理実態を調べなければと思った理由は、新型コロナ感染禍が明け、メンテナンスやマネジメント先進国である米国に渡って学ぶ、数多くの学生や社会人が増加する現状を踏まえ、それらの人々に対し、少しでも役立てばとの思いからである。そこで私としては、今回、再度調べた米国の公開資料から読み取った道路橋の現状(2019年)を以下に示す。

①橋梁概要について
 全米の道路橋は、617,000橋あり、現在、全橋梁の42%が少なくとも50年以上経過しており、全米の橋梁の7.5%にあたる46,154橋が「構造上の欠陥」を抱えている、つまり「健全度状態が悪い」と評価されている。図-6に全米の道路橋健全度推移グラフを示す。


図-6 道路橋の健全度の推移グラフ:全米

 ここに示した「構造上の欠陥」を持つ橋梁に毎日1億7,800万の車両が通行している。平均供用年数が44年となる現状において、構造的に欠陥のある橋数は減少しているが、橋梁修繕に必要推定額は1,250億ドルである。これら橋梁の健全度改善するためには、修繕資質額を年間144億ドルから227億ドル(プラス58%)増やす必要がある。
 現行の投資率から換算すると修繕完了には2071年まで要することとなり、今後50年間の橋梁劣化は非常に厳しい状況となる。解決策としては、多くの州で採用されている既存の劣化に優先順位をつけ、予防保全に重点を置く体系的な橋梁保全プログラムを連邦政府として取り組むことが必要である。

②健全度状態と交通容量について
 過去10年にわたり、全米の「構造上の欠陥」を抱えている橋梁の数を減らすため、連邦政府、州、郡や市などのあらゆる公共機関を巻き込んだ協調的な取り組みが行われてきた。
「構造上の欠陥」を抱えている橋梁は、本質的には安全ではないとは断言できないが、架け替えや大規模な修繕という形で多額の投資が必要であり、適切な投資を行わないと、将来の橋梁の通行止めや重量制限のリスクが高くなり、交通容量が不足する事態となる。

③資金調達と将来にわたる投資の必要性について
 近年、公共機関が橋梁の修繕を優先し、投資を行っている。ここに示す投資を行うために2010年以降、37の州がガソリン税の引き上げ、または改革を行った。しかし、各州が投資を増加したにもかかわらず、国内の橋梁に対する支出としては依然として不十分である。
 FHWAが発表した最新のコンディション・アンド・パフォーマンス・レポートでは、既存の橋梁修繕のために必要となるプロジェクト管理費用は1,250億ドルに上ると推定されている。また、橋梁の状態を改善するためには、橋梁の修繕に必要な支出を年間144億ドルから年間227億ドルへと58%増加させる必要があると推定している。

④オペレーション&メンテナンスについて
 米国内の橋梁は、地域や環境別にそれぞれが固有の速度で劣化が進み、特定の時期に異なった措置が必要となる、また、管理橋梁は共通ではなく、個別で特殊・複雑な構造形式で構成されている。この膨大な数の固有の特徴を持つ橋梁資産を適切に管理するため、現在、連邦政府から各州は交通資産管理計画(Transportation Asset Management Plans:TAMP)の策定と活用が義務付けられている。
 連邦政府によって義務付けられたTAMPには、各州が管理供用している道路橋を適切に管理する目的で、データに基づいた体系的なアプローチを示している。また、策定するTAMPには、今後10年間に健全度が良好な橋梁と問題を抱えている橋梁を予測し、管理目標設定を行うことも義務付けている。TAMPによる戦略的な資産管理は、橋梁の老朽化と劣化に対処する最も費用対効果の高い方法の一つである。

⑤公共の安全とレジリエンスについて
 橋梁を対象に投資を行う際には、橋梁をより強靭にするための体系的なアプローチを取るべきである。架設年次の古い橋梁の多くは、異常気象や洪水などの影響を受けやすく、その結果、越水や流出、その他の自然災害に起因した災害となる可能性がある。実際、ほぼ21,000橋の橋梁が、異常な暴風雨の際に越水したり、基礎が崩壊したりする可能性を抱えていることが明らかとなっている。また、地震が発生する地域では、地震は重大な脅威であり、対象となる橋梁が地震発災に対して十分な耐力があるかどうかは、安全上の重大な問題である。

 以上が、私が米国の公開資料を見て、私見を含め取り纏めた内容である。私は、米国の資料を確認すればするほど、我が国が抱えている実態と共通する課題が多いと感じ、これから渡米する多くの技術者に対し、帰国後早期に米国で学んだ具体的な課題解決の手法や事例を示してもらいたいと思う。
 ここで、米国で供用している道路橋の健全度を議論する際に取り上げられ、今回も何度も使った「Structurally Deficient:構造上の欠陥」についても説明をしておこう。米国の道路橋健全度で定義されている「構造上の欠陥」とは以下である。

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