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⑪ 惣郷川橋梁における建設時から現在に至る塩害対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 コンクリート構造

岡本 圭太

公開日:2023.08.16

表面から深さ約100mmまでの部分を約10mmごとにスライス
 塩化物イオン濃度 3~5㎏/m3を超える箇所も

②塩化物イオン濃度測定
 橋りょうからコアを採取し、表面から深さ約100mmまでの部分を約10mmごとにスライスし、塩化物イオン濃度を測定しました。

 図5に、柱および床版の塩化物イオン濃度分布を示します。柱について、⑦海側柱-西(海)面は③山側柱-西(海)面よりも全ての深さにおいて塩化物イオン濃度が大きくなっています。鉄筋位置の塩化物イオン濃度(図5塗りつぶしのプロット)と鉄筋腐食度は、⑦は1.38kg/m3とⅡa、③は0.35kg/m3とⅠであり⑦の方が③よりも塩化物イオン濃度も鉄筋腐食度も大きく、塩害により腐食が促進したと考えられます。

 床版は、⑦海側柱-西(海)面と比較して、表面から20mmまでの位置では若干小さいものの、それ以深ではほぼ同じ値でした。これは、床版が梁で囲まれており、飛来塩分が滞留しやすい環境にあるためと考えられます。鉄筋位置の塩化物イオン濃度と鉄筋腐食度は、床版は1.92kg/m3とⅡaであり、床版は⑦よりも塩化物イオン濃度が大きいですが、鉄筋腐食度は同程度でした。

 図6に、縦梁の塩化物イオン濃度分布を示します。⑫海側-西(海)面、⑨山側-東(山)面、⑪海側-東(山)面、⑩山側-西(海)面の順に塩化物イオン濃度が高い傾向にあります。これは、⑫海側-西(海)面、⑨山側-東(山)面は橋りょう外側、⑪海側-東(山)面、⑩山側-西(海)面は橋梁内側であり、波しぶきや山側からの吹き返しによる飛来塩分の供給が橋梁外側からの方が多かっためであると考えられます。

 鉄筋位置の塩化物イオン濃度と鉄筋腐食度は、⑨と⑫について、⑨は2.67~3.22kg/m3とⅡa~Ⅱb、⑫は3.50~5.16kg/m3とⅡaであり、⑫は⑨よりも塩化物イオン濃度が高く、鉄筋腐食度も大きくなっています。⑩と⑪について、⑩は0.43~0.50 kg/m3とⅡa~Ⅱb、⑪は0.27~0.49 kg/m3とⅡa~Ⅱbであり、塩化物イオン濃度、鉄筋腐食度に大きな違いはありませんでした。


図5 柱および床版の塩化物イオン濃度分布 / 図6 縦梁の塩化物イオン濃度分布

③表面被覆材の遮塩性能等
 1990年に施工した表面被覆材の、健全な箇所の一部を採取し(採取位置は海側縦梁の西(海)面)、遮塩性能の確認および塗膜表面および断面の観察を実施しました。

 遮塩性試験の結果、セルを通過した塩化物イオン量が測定限界値以下であり、施工後25年を経過しても遮塩性能を維持できていることを確認しました。

 表面被覆材の表面および断面を撮影した画像を写真4、5に示します。塗膜表面には穴や微細なひび割れが認められますが、この穴が塗膜全体を貫通している可能性は小さく、ごく表層に留まっていると考えられます。

 これらの結果より、塩化物イオンのほとんどは1990年の補修より前に侵入したものであり、今後の補修にあたっては、既に侵入している塩化物イオンの除去と今後塩化物イオンを侵入させないような補修方法や補修材料を選定することが重要であると考えています。


写真4 表面被膜材の表面3) / 写真5 表面被膜材の断面3)

部材面積に対する変状面積の割合が大きければ部材全面を補修
 今後は美観に配慮した電気防食工法も含めて補修工法を検討

(2)補修
 ①補修工法の選定
 2015年度の補修では断面修復を実施しており(写真6)、変状箇所だけを補修するだけでなく、部材面積に対する変状面積の割合が大きければ部材全面を補修することとしました。なお、塩害環境下では電気防食工法による補修が有効となる場合がありますが、面状あるいは線状の陽極材を設置することで惣郷川橋梁の美観を損なう可能性が懸念されたため適用していません。ただし、今後は美観に配慮した電気防食工法も含めて補修工法を検討する予定です。

 ②施工上の留意点
 断面修復を実施しても、既存のコンクリートから断面修復箇所への塩分供給や、マクロセル腐食などによる再変状が懸念されました。そこで、断面修復の際には、腐食している鉄筋の背面20mm以上の深さまではつり取り、鉄筋背面のケレンを入念に行うとともに、マクロセル腐食抑制のため鉄筋防錆材は亜硝酸塩系の材料を使用しました。
 また、惣郷川橋梁に設置している風速計の2015年度冬季平均風速は4.0m/sであり、冬季の施工において強風による施工品質低下が懸念されました。そこで、施工箇所の仮設足場に防音シートを取り付けると仮設足場に風荷重が作用するため、橋梁にワイヤーロープを張り、防音シートをカーテン状に設置して施工箇所への風の進入を防ぎました。さらに、施工後直ちにシートやコンパネを使用して箇所毎に養生を行い、短期間とはいえ施工中の飛来塩分の付着を可能な限り低減することや気温低下に伴う硬化不良防止対策を行いました。


写真6 断面修復状況3) / 写真7 補修後の養生状況3)

5 ドローンを活用した目視点検の試行

 現在、JR西日本では、構造物の調査を効率化させるため、作業員の近接目視について、ドローン撮影した画像の確認への置き換えを検討しており、グループ会社であるレールテック(株)とともに、ドローンによる調査を試行しています。
 特に、惣郷川橋梁のような、高所かつ複雑な地形の場所では、調査を実施する作業員の安全確保、足場の設置費用などを考えるとドローンの活用は非常に有効です。ドローンにより撮影した惣郷川橋梁の部材や全景を写真8、9に示します。惣郷川橋梁は撮影の被写体となることが多いですが、写真9は海上から撮影したものであるため、珍しいアングルとなっています。


写真8 ドローンで撮影した部材 / 写真9 ドローンで海上撮影した惣郷川橋梁

6 おわりに

 連載第11回となる本稿では、惣郷川橋梁の建設時から現在に至るまでの塩害対策について紹介しました。1932年の完成から2023年まで、厳しい環境条件の中、惣郷川橋梁が美観を損なわず健全性を保持して安全に列車を運行させることができているのは、建設時から続く、先人達の不断の努力によるものです。我々も引き続き,新技術の導入などを積極的に行い,より効果的な手法で、惣郷川橋梁のような長きにわたって地域や鉄道ファンのみなさまに愛される構造物を建設・維持管理していきたいと考えています。

参考文献
1)https://www.google.com/maps
2)市川順市:山陰線惣郷川橋りょう工事、土木工事、第2巻第5号、pp.12-18、1933.5
3)渡辺佳彦、内田祐太、荒巻智、植木康文:日本海汀線に位置する山陰本線惣郷川橋梁の維持管理、セメント・コンクリート、No.864、 pp.4-10、 2019.2
4)気象庁ホームページ、山口県須佐気象台および防府気象台データ
5)(公財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物、2007、1

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