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⑩津山線落石災害の対応 ~道路管理者との連携~

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

株式会社 レールテック 構造物本部 構造物技術部長
(前 西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 施設部 土木課(斜面防災) 技術主幹)

細岡 生也

公開日:2023.07.16

1.はじめに

 わが国の国土は急峻な山地や断層が多く、降雨や地震などに対して極めて脆弱な国土条件を有しています。そのため明治から大正期に敷設された多くの在来線区では、長大トンネルや長大橋梁の施工技術が未熟であったことから、これらを避けて山沿いや河川沿いに路線が選定されており、その多くは切土や盛土の土工設備で構成されています。このような線区では、自然斜面に隣接した箇所も多く線路への土砂の流出入や落石などの斜面災害の危険性が高い環境にあります。
 西日本旅客鉄道株式会社(以下、「JR西日本」という)の線路においてもこの傾向が強く斜面災害が発生する可能性が高いため計画的に斜面防災対策を実施しています。本連載では、災害事例として2006(平成18)年に津山線牧山・玉柏間で発生した落石を取り上げ、その災害の概要と対策工1)、2)、3)、災害後に整備された道路管理者等関係機関との連携4)について紹介します。

2.災害の概要

 津山線は、1898(明治31)年に中国鉄道により岡山県の中央部を南北に敷設された山間線区で、1944(昭和19)年に国有化され、1987(昭和62)年の国鉄分割民営化によりJR西日本が継承しました。線路延長は岡山駅を起点に津山駅までの約59㎞で全線非電化単線の線区です。(図1)

(1) 地形・地質
 災害箇所は吉備高原山地の南部に位置し、岡山平野北端の平野部と山地部の境界付近にあたります。線路は旭川の右岸斜面下部の緩斜面を両切土、片切片盛、純盛土により通過する区間です。また、旭川と線路の間、線路の約8m下には県道218号線が並行しています(図2)。
災害箇所周辺の地質は、古生代の砂岩・泥岩層とそれに貫入する花崗岩類(花崗岩、花崗閃緑岩等)が分布しています。

(2) 災害の概況
 2006(平成18)年11月19日5時30分頃、線路から約200m上方の発生源(図3)から線路際に落下した岩塊の一部がレールに衝突し、軌道狂いが発生したことにより、津山発岡山行きの普通列車が脱線しました。脱線箇所から津山方の30m右側に岩塊(大きさ約5.0m×4.8m×1.8m、重量約110t)が確認されました(図4)。また、線路と並行する道路横の空地にも岩塊(大きさ約5.0m×4.9m×0.5m、重量約50t)が確認されました(図5)。
 当時の降雨の状況は、前日(18日)の15時頃の降り始めから災害発生時まで約9㎜でした。

(3) 原因
 落石の発生源は、線路から約200m離れた位置(線路から約120m間は勾配が約20°、その上部の発生源まで約70m間は勾配が34°)でした(図6)。落石発生源に残る岩盤には鉛直方向で最小約70㎝、最大3~4m程度、水平方向で最小約50㎝、最大2~3m程度の間隔で節理が確認できることから、崩落した岩塊もこの節理間隔程度の大きさに分離して落下したものと推定しました。
 岩塊の落下時期については、一度に全ての岩塊が落下せずに部分的な落下による応力開放が岩盤内に生じ、段階的に崩落が発生して岩塊が落下した可能性が考えられます。崩壊面と考えられる茶褐色の細粒土が付着した部分は、表面水の浸透によって節理沿いに風化が進行し、開口した亀裂に上方から土砂が進入した跡と推定しました。また、崩壊面下部に著しく風化を受けたことにより粘土化および空洞化した節理が存在していました。
 この崩壊の直接的な誘因を特定することは難しいですが、物理的な風化作用に加えて長年にわたり雨水等の浸透が繰り返されたために節理沿いの岩盤が脆弱化していたことで、①節理の付着強度が経年的に低下したこと、②著しく風化を受けた節理部分の強度がその上に載る岩塊の重量をささえきれなくなったこと、が崩壊の原因と考えました。

3.対策工

 対策工の施工は、落石監視員の配置、発生源に落石センサーの設置、簡易柵(H=2m、L=60m)の設置などを行い、安全を確保した上で2006(平成18)年11月から2007(平成19)年3月の間に実施しました。図7に対策工の位置に関する略図を示します。

(1) 発生源対策
 発生源へは以下の対策を施工しました(図8)。
 ・ 鋼製ワイヤロープのネットで露頭を覆うことにより露頭からの岩塊の崩落防止と潜在する節理沿いの岩盤に存在する風化しているブロック化した岩塊を抑えることおよび露岩の安定化を図ることを目的としたワイヤネット工を施工
 ・ 崩壊部の下部に存在する低角度の傾斜の節理に対して強度の低下防止(風化防止)を目的としたコンクリート根固め工を施工
 ・ 上部斜面に点在する露岩に対してワイヤネット工を施工

(2) 斜面途中対策
 斜面途中では以下の対策を施工しました。
 ・ 斜面中に存在した5個の転石に対して、4個を小割し1個を土中に埋めて安定化
 ・ 点在する転石や浮石に対してワイヤネット工を施工

(3) 線路際対策
 線路際には以下の対策を施工しました(図9)。
 ・ 線路際で落石を捕捉するために線路平行方向に延長125m、高さ約3mのコンクリート造の落石止擁壁とその上に高さ2mの落石止柵を施工
 ・ 落石止柵の上端部に落石検知装置を設置

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