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㊺新たなる挑戦~インフラの長寿命化に向けて~

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.06.19

(1)はじめに~最近の話題~

①新たな挑戦~近未来の万能素材RDCと美流㈱の設立~
  4月6日(木)、美流㈱(無機塗料メーカーの㈱セラアンドアースが100%出資)の設立発足式が尼崎市のホテルで開催された(写真‐1参照)。微力ながら設立メンバー4人の内の1人として取締役として参加させて頂いた。半年後に前期高齢者に突入するのだが、これからが人生の円熟期であり飛躍期と勝手に自分で思い込んでいるのをお許し願いたい。


写真-1 美流㈱設立発足式と記念講演会

 それでは、「美流㈱」とは何をする会社なのか。京大桂ベンチャープラザ内に本社を置き、大学や企業などと連携しながらRDCを活用した新性能・新機能材料の開発を進める会社である。RDCとは、CNT(カーボンナノチューブ)の欠点を克服した再分散性カーボンである。CNT(カーボンナノチューブ)(図‐1参照)は、直径がナノメーター、グラフェンシートが円筒状になった構造で、熱伝導性、耐久性、電気的特性(導電等)などの優れた性質を持っている。


図-1 CNTの構造イメージ

  この優れた性質を持つCNTを色々な材料と混ぜ合わせることにより画期的な材料に生まれ変わらせることが可能となる。しかし、市販されているCNTは再分散性に大きな問題があり、材料に混ざりにくいという大きな欠点がある※1)。このため、CNTの機能が十分に発揮されていないのが現状である。このCNTの欠点を克服※2)RDC(再分散性カーボン)である。このRDCを塗料とか、コンクリートとか、熱可塑性樹脂とか、電池・デバイスとか、に混ぜることによりさらに高機能、高性能になる可能性がある。
  インフラの老朽化が叫ばれている中、CNTを画期的に改善したRDCが世の中のインフラを救う救世主に成り得ると私は考えている。

 ※1)従来技術では、CNTを機械的に粉砕して均一分散していたが、粉砕することによりCNTのアスペクト比(直径と長さの比)が小さくなり、CNT本来の性能が失われる結果になっていた。
 ※2)㈱美粒の解繊システム(BERYU SYSTEM)を使用することでCNTのアスペクト比を維持でき、性能低下を防ぐことが可能となる。

堤防決壊による被災箇所でHOT JET工法を使って洗浄
 

②伊丹市天神川堤防決壊とHOT JET工法の活躍

 1)天神川堤防決壊
 ゴールデンウイーク連休最終日の7日から降り続いた大雨の影響で8日午前0時50分頃、伊丹市荒牧を流れる天神川(二級河川)の河川堤防が決壊し、周りの住宅街に水が流れ込み、数十軒の民家等が床上(1棟)又は床下浸水(11棟)した。今回の大雨により堤防は約30mにわたって壊れ、周辺道路には土砂が流出、複数の乗用車が流出土砂に埋まった。直接の原因は、堤防の補強工事のために河道の幅をほぼ半分に狭めていたため、急な水位上昇が起こったことによるものとみられる。2022年3月から始まった堤防の補強工事であり、約15mの川幅を土嚢で半分程度に狭め、そこに通水していた。残りの部分の堤防や河床の補強工事と川の下を通る道路の拡幅工事も併せて行っていた。当然の事ではあるが増水時期(6月~10月)を避けて工事を行っていた。また、天神川は周囲の土地より川床が高い「天井川」だったことが更に被害を増大させたようだ。16日(火)現地を訪れた際に天神川の状況を確認した(写真‐2参照)。天神川の流域面積はさほど大きくはないし、通常の水位は写真の通りである。予定していた渇水期施工であれば何も問題無かったのであろうが、今回如何に多くの雨が降ったか、異常気象には気を付けねば。


写真-2 堤防復旧工事状況

  2)これまでの堤防決壊と被害 
 連日放映される堤防決壊と復旧工事の状況や周辺住宅の被害状況を見るに至り、何とかボ ランティアで貢献できることはないのだろうか、と考えていた。これまで多くの河川災害を見てきた私にとって記憶に残るのが岡山県倉敷市真備町での小田川と高馬川の堤防決壊である。2018年7月、西日本豪雨により中国地方、四国地方に多くの被害が発生した。堤防が決壊に至ったのは一級河川高梁川と高梁川水系の一級河川小田川が合流する地点で高梁川の増水に伴い水が堰き止められる「バックウオーター現象」が発生した。この越水により堤防の外側が削られ決壊した。
 妻の実家がある岡山県玉野市に帰った際、復旧の状況を見に行った。工事用車両が絶え間なく走り回り、巻き上がった粉塵で前も見れない状況であった。舗装道路は土砂により変色している。民家や商業施設はヘドロの洗浄で大変な状況である。ヘドロは日数が経つと悪臭が発生する。この被害で50人以上が亡くなり、真備町の全面積の1/4以上が浸水した。地元住民は国・県・市を相手取って係争中である。こういう被災規模になるともはや天災ではなく、人災である、と思うのは私だけであろうか。

 3)HOT JET出動
 道路構造物ジャーナルの連載記事(2023年3月16日号)で紹介したHOT JET工法が今回の被災したエリアで貢献できないものか、と考えていた。多量の流出水や土砂で大きな被害を被った直近のエリアについては県が主体となり市の協力を得ながら応急的な復旧作業が急ピッチで行われていた。そこで、伊丹市の関係者と連絡をとり、HOT JET工法で洗浄できそうな箇所をピックアップして頂き、5月16日(火)の1日、現地にて洗浄作業を行った。ボランティアとはいえ、被害に遭われた市民の方々の感情は厳しいものがある、と認識しつつ。以下に作業場所(図‐2参照)、状況写真(写真‐3,4,5参照)を示す。

図-2  堤防決壊箇所とHOT JET洗浄場所

<HOT JETによる洗浄状況>
 A地点;公園内通路
写真‐3.1 洗浄状況

写真‐3.2 洗浄後(骨材も鮮明に)

B地点;道路脇排水溝

写真‐4.1 洗浄状況

写真‐4.2 洗浄後 / 写真‐4.3  洗浄後(保護石表面の洗浄)

C;住居玄関口・駐車スペース等

写真‐5.1  洗浄前 / 写真‐5.2 洗浄前後の状態

写真‐5.3  洗浄後

 4)作業実施後の感動
 HOT JET工法は、これまで天童眼鏡橋(愛知県犬山市・博物館明治村内)などの重要文化財や壁などの落書きなど公共空間の洗浄に使われてきた。また、水害被災家屋の熱湯消 毒や殺菌など多様な用途での活用が増えてきている。今回は、伊丹市さんの計らいで公園内通路や用水溝の洗浄の機会を頂いた。作業が終わった頃、近隣住民の方から「洗浄をお願い できませんか」と一声頂いた。写真-5.3に示すように見違えるように綺麗になったことへのお礼の言葉を頂いた。今回は、資機材と人員の関係で1日しかボランティア活動が出来なかっ たわけではあるが、住民の方に喜んでもらえたのがよかった。

うめきた新地下駅開業も適切な誘導可能な案内看板を希望

③うめきた(大阪)地下駅開業(写真-6参照)
  2023年春、待ちに待ったうめきた新地下駅が大阪駅の一部として開業した。これにより、大阪駅から関西国際空港や和歌山方面への電車の乗り継ぎが可能となった。5月終わり、和歌山県の白浜町役場での打合せに赴くために念入りに路線情報でスケジュールを組んだ。自宅のある神戸市西区の西神中央駅から神戸市営地下鉄でJR三ノ宮駅。新快速に乗り換えJR大阪駅。20分の乗り換えでくろしお号に乗りJR白浜駅へ。という予定であったが、出発ホームの案内が無い。桜橋口の改札の駅員さんに何とか聞いて駆け足で当該ホームへ。ギリギリで何とか間に合った。新ホームの建設は地下にせざるを得ないのは理解できるが、適切な誘導が可能な案内看板を設置出来ないものか。このままでは宝の持ち腐れになってしまう。元々、大阪駅から関西空港方面に向かう人が少ないのか非常に閑散としていたのは気になる。


写真-6 うめきた地下駅ホーム

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