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⑦補修の時代だからこそ見直すべき新設コンクリートの品質と重要性

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.06.01

 先日、地元メディアで近隣の鉄筋コンクリートの市営住宅(1974年建設)においてコンクリートが剥落したことが紹介されていましたので、現場へ行ってまいりました。記事では建物も何階であるかも特定されておりました。ところが、写真-1・2のように建物全体が補修した痕跡もしくは剥落していて、建物全体が対象に見えて何処なのか全く分かりませんでした。


写真-1 補修箇所多数/写真-2 コンクリート剥落箇所多数

 当時の材料は海砂を洗わずそのまま使っている時代で、コンクリートの加水も標準的だったと考えるのが妥当なことから、既に50年近く経過している建物の一部が剥落するのは致し方なく思いますし、今となっては教訓とするしかないのでしょう。
 記事では、市のコメントとして「建物は3年前に点検して異常が無かった」とありましたが、個人的な意見としては限られた予算、少ない人数、低い技術力から調査の限界もあって今回の事故が起きたと思いますし、全国的にそのようなことが多いだろうと想像しております。その根拠として私が直面した橋梁補修の設計で、最も酷いと感じたことの一部を紹介したいと思います。

調査・設計が杜撰なまま耐震補強された橋梁
 予算、技術者・技術力不足のなかで行われている点検

 紹介する橋梁は、左右非対称の上部工であるのに設計図面では左右対称となっておりましたので調査自体が杜撰であることが疑われました。また、打音調査では異常なしの横梁において、軒並みコンクリートが浮いている軽い音が広範囲で確認できたので斫ってみると、下地に古い横梁があってその周りにコンクリートが増厚されていることが分かったのですが、加重を支える部材に定着されていませんでした。
 おそらく、過去に耐震補強で増厚する工事において、横梁にコンクリートの衣を付けるように増厚したのでしょうが、その衣コンクリートが横梁にぶら下がって構造物の耐震力を弱めていた状況でした。さらに鉄のプレートが錆びて膨張しているのに簡単な当て板溶接で補強することなど、調査も設計もデタラメだったのです。
 全国的にコンクリートの調査が継続的に行われていますが、与えられた予算や点検量に対して、今の技術者数・技術力では難しいのだろうと想像しています。そうした惨状や問題をあるところで発言した時のことです。調査しているコンサルの方曰く「コンサルの数・技術者数に対して橋梁数をみたらできるわけないだろう。そんなことは計算すればわかるし、国がやれと言っているのだから……」と言われ、議論も噛合わず私は孤立しましたが、まったく同意できず考えは変わりませんでした。
 今までの経験から推測するに、「やっつけ調査はダメだが、会社は儲かるし民間が言う立場にないから仕方ない」ということだったかと解釈しました。
 経験上、私を含めた現役世代は新入生の頃から、官公庁は神様、基準書・組織のルールなどのマニュアルは絶対もしくは最優先等、として教わる機会が多かったように思うので、意見を言わず黙ってやることも時にはありました。人によっては都合良く解釈し、グレーゾーンを渡り歩く技術者もいたように思いますが、私同様、皆さんも思い当たることがあるのではないでしょうか。また、追い込まれた建設業でまともにやると赤字で倒産する会社も出てくるかも知れませんのでそれも問題です。
 私を教育する立場にあった先輩方もマニュアル重視でした。そうした傾向は世代が若くなるに従い、より強いと感じます。これが概ね80歳以上の先輩方となると、「世の中ではこう言われているが、皆が正しいとは限らない。自分で良く考えて行動し、人の役に立つことをやりなさい」と個人の経験・哲学や良心に従うことの大切さを先生方に教わった記憶も鮮明です。

供用開始から約1年で確認したコンクリートの不具合
 施工者が手抜き可能な環境にあることが問題

 話を変えますが、上記の市営住宅の近くに、私が少しだけ関係した工事がありましたので見学してまいりました。この現場は供用開始から1年程度経過した状況です。複数の工区で構成されていたことから施工者ごとに仕上がりの傾向が変わるので興味深いです。その中で、1工区だけコンクリート打設においてPDCAを回した事例があるのですが、今は工事中で立ち入り禁止でしたので紹介はまたの機会にしたいと思います。
 今回見ていただく工区において、良い構造物は一つもなく、多くの不具合があるのですが、一部抜粋して関係者以外特定されないよう以下に紹介と解説をさせていただきます。

■写真-3
 上部工破損箇所については、望遠レンズで撮影したので原因については良く分りません。同じような構造物が連続している中で、この工区だけに複数見られる不具合でしたので施工不良ではないかと思います。


写真-3 上部工破損箇所

■写真-4
 橋台横割れ0.8㎜については、1本ではなく多数の縦横斜めのひび割れが生じております。横割れの原因は、急速打ち上がりと締固め不足、そしてコンクリートの水分が型枠から抜け出した後にコンクリートが沈む時、鉄筋等の拘束物を境にコンクリートが分断されたものが横割れとなっています。
 紹介したひび割れは0.8㎜と大きな幅であり、周りに小さなひび割れも異常に多い状況ですので、これは上限要求したシャブコン、或いは加水を疑われます。それにしても横割れは再振動すれば解消が可能ですので維持費を考えると供用前に大規模補修しても良かったと思いますが、供用後の今となっては手も出せません。それにしてもこのような大きな横割れが放置されている意図は何かあるのかとても気になりました。


写真-4 橋台横割れ0.8㎜

■写真-5・6
 ブリーディング部分の横割れがひび割れに進展しています。この施工者は丁寧な締固めをしていないので、ブリーディングは生じにくいはずですが、何故か確認できました。これはスランプ上限要求や加水をした時に良く見られる傾向ですが、このブリーディング痕に爪を強く当てるとその部分が凹みました。
 このブリーディング層はイメージとして不規則に動くブラウン運動のように拡散し広く展開していると推測できます。その部分は強度がゼロに近いはずですので大きな地震が発生すれば、荷重をブリーディング層と鉄筋で支えることになります。そこで破損しても、荷重の再配分に似た効果で持ちこたえるかも知れません。ただ、ここで言えるのは、こうした状況は非常に良くないので是正されるべきと思います。蛇足ですが、もし、この駆体が硬いコンクリートで締固められていたならブリーディングは不規則に拡散せずに主に水平方向に展開されます。


写真-5 不規則なブリーディング痕/写真-6 ブリーディング痕の横割れ

■写真-7・8
 粗雑な仕上がりで水がかり部の黒ずみは雨上がりから3時間以上経過した状況です。駆体に隙間が多いと考えられ、水が浸透してなかなか乾かない状態です。今後も湿潤と乾燥を繰り返すなら劣化が早い部分となりそうです。こうしたコケについて、密実なコンクリートの水がかりについては薄ら緑色となる程度で、写真7・8のように黒く大きくなることは経験がありません。


写真-7 水がかりにコケ/写真-8 水がかり乾きが遅い

■写真-9・10
 他現場において吸水について確認した様子を以下に紹介します。写真-10のコンクリートは、左工区と右工区の元請は同じです。左側は昨年度工事において空気が出なくなるまで丁寧に締固めた駆体、右側は一昨年度の工事で示方書に従って締固めを実施したと施工者が主張したものとなります。
 写真-10の左側の緻密なコンクリートに吹きつけた水は地面まで1400㎜流れ落ちました。対して右側の標準的なコンクリートは、吸水されて400㎜しか流れ落ちませんでした。空気が出なくなるまで締固めたコンクリートには、経験上吸水はほとんどされないであろうことから相対的に乾きが極端に早く、標準的に締固めたコンクリートは空隙が極端に多く水が空隙に浸入するために乾きが遅いと言えます。写真-7・8のようなコンクリートについて、乾きが遅いことについてはコンクリートの空隙が大きい証明であり、劣化因子が侵入しやすく、将来的に、これにかかる維持費は丁寧に締固めたコンクリートと比較して圧倒的不利と考えられます。
 写真-10のコンクリートでは左右の工区で透気試験を実施していますが、空気が出なくなるまで締固めた左側においては平均KT値0.004(10-16m2)で、標準的に締固めた右側の平均KT値は2.326(10-16m2)と透気係数だけを単純比較しても580倍の差となりました。供試体による締固め試験においても同じ傾向であることから、丁寧に締固めたコンクリートにおいて劣化因子が侵入する隙間は少なく長期耐久性を有していると推測できます。


写真-9 霧吹きでの散水/写真-10 左は緻密、右は粗い

 以上、不具合等の一部紹介でしたが、この事業は大規模で、発注者は多忙を極めていましたので現場へ出る時間も限られており、そのような状況で監督責任を問うのは難しいと思います。だからと言ってこのままで良い訳ではないのでしょうが、国をはじめどこの事業においても発注者が現場へ行く時間がほとんどないことから、施工者が手抜き可能な環境にあるのは問題です。
 施工者側の立場で考えると、受注金額を元に適正利益を差し引いて施工するので、例え品質がどうであろうと原価を重視した管理をしなければ経営は苦しくなります。発注者も受注者も疲弊が激しいと思いますが、このような業界が未来の担い手に対して魅力的に映るのか大きな課題だと思いました。
 以上、表題の「補修の時代だからこそ見直すべき新設コンクリートの品質と重要性」につながる情報提供でしたが、今回、補修並びに新設コンクリートの品質について、私の経験談をもとに、「なぜ新設コンクリートの品質が重要」と思うのか、これからお話したいと思います。記事に関係ない個人的なこともありますがご容赦願います。

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