道路構造物ジャーナルNET

㊹維持管理の重み(その5)

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.05.16

(1)はじめに~最近の話題~

①日本人口が50年後に8,700万人
 国立社会保障人口問題研究所が5年に一度公表する「将来推計人口」で何と50年後の日本の総人口が8,700万人になるという。50年でほぼ4,000万人が減少するという推計である。過去行われた中国の一人っ子政策(1979年~2014年までに実施された夫婦一組につき子供は一人という政策)ではないが、日本でも出生率が減少し、少子高齢化が加速度的に進んでいく。生産人口が減少し、高齢化率が上昇する。当然のことながら税収は減るし、社会保障費は膨らむ。今後100年安泰と言われた(自民党が言っていた)社会福祉制度は崩壊する。それでは社会資本はどうなるのだろうか。今こそ身の丈に合ったインフラ整備が必要ではないのか。

②社会インフラの老朽化
  国内・国外における講演等でよく使わせてもらった単語の一つに「社会資本の老朽化」がある。国交省がまとめた「社会資本の老朽化の現状」によれば高度経済成長期以降に整備された道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等の建設後50年以上経過する施設の割合を図‐1に示す。

図‐1 社会資本の老朽化の現状

 何と、「道路橋」においては2040年3月時点で約73万橋(2m以上の橋)の75%が50年以上経過するということである。こういう老朽化するインフラを救うためには「点検~補修」までを効率的・効果的に実施していくことが重要である。国交省の過去の試算では、「事後保全」から「予防保全」に移行することで2048年までの維持・更新費が半分(10兆円⇒5.兆円)になると言っている。私も含めてどれほどの人が「予防保全神話」を信じているのだろうか。予防保全をすることによる費用や人材育成、体制が構築されると思っているのだろうか。かつて所属した道路会社あるいは道路会社の子会社には点検に特化した組織、あるいは子会社が存在した。通行料金収入の一部を管理費で処理すれば簡単である。同じことが国交省や地公体に出来るのか。5年に1回の定期点検も2巡目が終わり、73万橋の実態が分かってきた。予算が追い付かない。人がいない。健全度Ⅳは速やかに補修。Ⅲは次回の定期点検までに補修。出来ない場合は「通行止め」にする。近畿地方の内陸の吊橋を調査に行くと「通行止め」の寅ロープと札が張ってある。点検・診断報告書でⅢという判定を下したものだから予算がつかないうちは「通行止め」にせざるを得ないのである。こういう橋が誰も通らないまま数年放っておかれると文字通り腐っていく。予防保全はLCCを安くする手段である。人間年齢で30代までであれば予防保全が効果的なこともある。40代を過ぎた吊橋に予防保全は通用しない。「修繕か更新」しかないと思う。前回のジャーナルにも書いたが国交省から新たな仕組みが公表された。橋を単体ではなく「群」として管理するということに私は賛成しない。都市部と山間部の道路橋は一緒に出来ない。一番事情を知っているのは役所の職員のはずである。

能登半島では2000年以降震度5強の地震は5回
 未完? のインフラなのか

③石川県珠洲市で震度6強の地震
 GWの5月5日、午後2時42分頃、石川県能登地方を震源とするマグニチュード6.5の非常 に強い地震が発生した。震源に近い珠洲市では震度6強を観測した。石川県、特に能登地方で は2000年以降度々大きな地震が発生している。震度5強以上を観測した地震は今回を含めると何と5回を数える。何れの地震も震源は浅く、10キロ~10数キロである。

<能登地方で2000年以降発生した震度5強以上の地震>
①能登半島地震   2007年3月25日 震度6強(M6.9) 七尾市、輪島市、穴水町
②   〃      2020年3月13日 震度5強(M5.5) 輪島市
③   〃      2022年6月19日 震度6弱(M5.4) 珠洲市
④   〃     2020年6月20日 震度5強(M5.0) 珠洲市
⑤   〃      2023年5月 5日 震度6強(M6.5) 珠洲市、輪島市(5強)

 地震の原因は、高温・高圧の地下水(流体)が地下10数キロから上昇してきて、この地下水が拡散していく過程で周囲の活断層に刺激を与えることにより発生したということである。

④学会誌投稿記事
 GW明けに届いていたある学会誌の中のとある記事を読んでの私の本音である。未完の巨大インフラ、瀬戸大橋と青函トンネルと題する記事である。20世紀最大のビッグプロジェクトと称された青函トンネルと瀬戸大橋は1988年3月と4月にそれぞれ1月遅れで開通した。何が未完なのか? 

 筆者によれば「瀬戸大橋は使命の一つである新幹線という視点で考えれば、その目的を全く果たしていないか、極めて不完全である」と言う。「青函トンネルは新幹線規格で作られているが、貨物在来線と共用のため三線軌条方式であり、速度制限がされており(160㎞/h)現状のままでは宝の持ち腐れ」と言う。この記事の中で「新幹線と高速道路は競合・競争の関係ではない。むしろ相互補完する輸送機関である。高速道路は物流、新幹線は人流。両社がそろうことによって相乗効果が生じ、地域経済の発展をもたらし、自然災害リスクも分散される」述べている。果たして本当だろうか。筆者が分割民営化された鉄道会社のトップだったからこういう記事を書かれたのだろうが。

 関空会社の係長時代(1990~1992年)、関西国際空港連絡橋の道路・鉄道アロケーション資料の作成を行った。この資料を基に道路(55%):鉄道(45%)の比率が決定された。この比率は瀬戸大橋とほぼ同じだと記憶している。建設費が1兆円を超える瀬戸大橋の道路・鉄道共用部建設費をこのアロケ率で分担するとしよう。当時のJR四国の年間収入分を年間使用料として本四に渡さねばならない。このため、国鉄清算事業団が組織され瀬戸大橋鉄道側負担分を肩代わりすることになった。この政策によりJR四国は生き延びることが出来るとともに、瀬戸大橋線をドル箱路線として現在に至っていることは皆さんご存知でしょうか。2年間、瀬戸大橋線のマリンライナーに乗り、茶屋町(自宅)~高松間を通勤した時の地元の人たちの声である。「岡山、香川共に通勤圏内であり、通学圏内だ」と。四国4県の県庁所在地に行くのには高速道路と在来線特急で十分である。整備新幹線の建設には、国、地公体の一部補助がある。しかし、多くの建設費をJR収入で償還できるのか。答えはノーである。新大阪から松山まで現状JR料金で12,000円(4時間弱)。飛行機利用で23,000円(3時間弱)。あり得ない将来、フル新幹線で100,000円(?血税込み)(1時間38分;四国新幹線整備促進期成会資料)、果たして利用しますか。

 また、「財源問題やB/Cなどの収支論だけでは判断すべきではない。一刻も早く推進すべきプロジェクトと考える」、と述べられている。まだこういうことを発言している人がいることに恐れを感じる。現世代では足りず、次世代までに平気でツケを回す考えをお持ちの方がいることに驚愕するのは私だけだろうか。本四の借金は、1兆3千億円もの真水(税金)を注入することで難を逃れた。誰も知らないうちにこっそりと税金投入である。野党の皆さん、会計検査の皆さん、しっかりと政治をいい方向に戻してください。頼みます。

人道吊橋 利用を考えて撤去か存続か
 みおつくしクルーズで熱い議論

⑤限界集落(限界ニュータウン)
 最近、You Tubeにハマっている。高度経済成長期に作られたニュータウンや地方の集落の惨憺たる状況を紹介しているものも中にある。限界ニュータウン(市街化調整区域等に建設されたニュータウン。建築条件に制限があったり、ニュータウンの中の共有施設の老朽化により荒廃している)については、道路構造物ジャーナルNETには関係ないのでここでは限界集落(今は無き小麦集落)とそこにアクセスする人道吊橋である小麦橋(写真-1参照)について紹介する。この人道吊橋は、You Tubeで紹介されていたこと、非常にきれいであること、吊橋営業のための調査、ということで現地へ赴いた。

<小麦橋の情報、諸元等>
所在地  :和歌山県田辺市合川(殿山ダム貯水池)
橋梁形式 :単径間無補剛吊橋(両側径間は、桁橋)
橋   長:182m
幅   員:1.5m(グレーチング床版)
主   塔:RC製
建 設 年:1957年頃(約65年経過)

 小麦橋の終点側(写真‐1.2、南側)を進むと林道に入り、しばらくするとかつての小麦集落(現在は廃集落)が現れる。恐らく、関西電力殿山ダム(合川ダム)の完成により水没した里道の機能復旧橋として架けられたが、現在は観光客が時々訪れるのみとなったようである。和歌山県や奈良県にはこのような人道吊橋が多数現存する。前回・前々回のジャーナル連載にも書いたが撤去か存続か、関係住民との合意形成を図る必要がある。

⑥「みおつくしクルーズ」の開催
 2023年4月30日(日)、大阪市天満橋の八軒家桟橋スタートで大阪市内の各河川を10人定員の船で周遊する「みおつくし※1)クルーズ」が開催された。㈱特殊高所技術の山脇氏の企画で「橋をこよなく愛する技術者」が全国から集い、2時間程で大阪八百八橋の一部を見学するもの。日本は言うに及ばず海外への技術支援も積極的に実施されている。日本のインフラメンテナンスの在り方や今後の技術開発等について熱い議論が船上で飛び交った(写真‐2)。船で周遊するわけですから大阪市の橋梁群を真下から目視調査出来る。また、大阪市の三大水門※2)の内、安治川水門(写真‐4.1)や尻無川水門(写真‐4.2)を船上から望むことができた。

 ※1)みおつくし(澪標) ;水路標識(写真‐3参照)  現在の大阪市章
 ※2)大阪市三大水門とは;西大阪を流れる安治川、尻無川及び木津川の三大水門。高潮による被害から市街地を守るため、国内では珍しいアーチ型の巨大な防潮水門が建設された。現在、西大阪地域の津波・高潮対策として三大水門の更新事業を実施中。

写真-2 みおつくしクルーズと橋をこよなく愛するメンバー

写真-3 みおつくし(澪標)(水路標識)と大阪市章

写真-4.1 安治川水門 / 写真-4.2 尻無川水門

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