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⑥コンクリート覆工トンネルの剥落対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部
構造技術室 基礎・トンネル構造

塩谷 敦

公開日:2023.03.16

3.新しい補修工法の開発と導入

(1)光硬化型樹脂接着シートの導入
 福岡トンネルでの剥落事故を受けて、当社ではコールドジョイントの下部に濁音の伴う箇所にはL 型鋼や平型鋼をアンカーボルトで固定することによる剥落防止対策を実施してきました。しかし、経年に伴い鋼材の腐食進行による機能低下が懸念されることから、これに替わる恒久的な対策として「高密度ポリエチレン繊維一体型光硬化樹脂接着シート」7 ) (以下、光硬化型シートという)(写真5)を2005年度より導入し、既施工のL型鋼等を光硬化型シートに置き替える工事を進めていました。
 導入にあたっては、複数の材料を対象に試験施工を実施し、施工性(特にシートの硬化に要する時間)や耐風圧性を確認しています。本シートは予め工場で繊維シートを樹脂で挟み込み一体化しており、20分程度の光照射により樹脂が硬化するため短い施工間合いでも施工可能であり、現地での施工品質のばらつきが少ないほか、硬化後に透明となることから、シート施工後も覆工コンクリート表面の状況を確認することが可能という特長を有しています。


写真5 光硬化型シートの施工例

(2)FRP 内巻工の導入
 山陽新幹線のトンネルは大部分が無筋コンクリート覆工構造ですが、土被りが小さい区間や地質不良区間等ではRC覆工構造が用いられ、その総延長は約17km(125トンネル)にわたっています。RC覆工における浮きの発生はコンクリートの中性化等による鉄筋腐食が主な原因であり、かぶりコンクリートの浮きをはつり落とした箇所は少なくありません(写真6)。また、はつり落とし後も露出した鉄筋の腐食が進行することにより、その周囲に変状範囲が拡大していく可能性も高いほか、はつり落とし範囲が大きい場合は夜間の限られた施工間合いではその作業が困難な場合もあり、維持管理上の課題となっていました。
 そこで、より耐久性の高い抜本対策として繊維強化プラスチック(FRP)製の内巻工8) ,9) (写真7)を開発しました。本工法は既設覆工の上半部内面に自立したもう一つの覆工を構築し、RC覆工のアーチ部を完全に覆うことでかぶりコンクリートの剥落を防止するものです。構造の概要を図5に示します。覆工面とリブ付きFRPパネルの間にグラウトを充填することで、覆工のはつり落とし箇所でも既存覆工との一体化を図り、アーチ構造体としての自立性を確保しています。なお、開発にあたっては、鋼材よりも腐食劣化しにくく長期耐久性に優れ、部材として一定の強度を有するFRPを採用しており、内巻工本体とグラウトで構築されたアーチ構造体が自立し、剥落塊重量や列車通過時の空気圧変動等の外的作用に抵抗可能な設計としています。また、夜間の限られた保守間合いにおける施工を想定し、FRP支保工の設置とFRPパネル設置・グラウト充填を別の保守間合いに分割して施工できるようにしています。このとき、支保工のみの状態でも列車通過による風圧や振動で脱落しないよう、支保工をボルトで覆工面に固定(写真8 ) しますが、完成後の保守性を考慮しボルト類はパネルの裏側でグラウトに埋設され、内空側には露出しないよう配慮しています。


写真6 RC覆工はつり落とし後の鉄筋露出/図5 FRP内巻工の断面構造(上)とリブ付パネル(下)

写真7 FRP内巻工の実施状況/写真8 ボルトによるFRP支保工の覆工固定状況

4.終わりに

 連載第6回となる本稿では、JR西日本において1999年に発生させた山陽新幹線トンネルの2度にわたる重大な剥落事象以降、覆工コンクリートの剥落で列車の安全を脅かす事象を二度と発生させないための維持管理に関する取り組みについて紹介しました。 JR 西日本では引き続き適切な保守管理を行いながらも、その手法の改善 向上に取り組み、山陽新幹線をはじめとした鉄道トンネルの安全を 維持するため、将来にわたり取り組んでいきます。

参考文献
1) 運輸省:「トンネル安全問題検討会 報告書」 2000.2.28
2) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物維持管理標準・同解説(構造物編)トンネル,2007.1
3) 鈴木秀門,渡邊恭崇,中山忠雄,村田一郎:トンネル保守管理システムの開発(その1)-システムの機能と特徴について-,土木学会第56回年次学術講演会Ⅳ-209,pp.418-419,2001.10
4) 村田一郎,中山忠雅,鈴木秀門,岸田良平:トンネル保守管理システムの開発(その2)-開発基本方針とシステムの構成-,土木学会第56回年次学術講演会Ⅳ-210,pp.420-421,2001.10
5) 藤井大三:土木構造物検査に使用する検査機器 (4) トンネル覆工表面撮影車,日本鉄道施設協会誌, pp.56-59,2004.4
6) 岡義晃,田上涼平:新幹線用トンネル覆工表面検査システムの開発, 土木学会第77回年次学術講演会Ⅵ-843,2022.9
7) 渡辺佳彦,村田一郎,山本富生: L型鋼に替わるトンネル覆工剥落防止工法の適用について,土木学会第61回年次学術講演会,Ⅴ-51,pp.101-102,2006.9
8) 近藤政弘,濱裕駿,藤井哲也: FRP内巻工の開発と施工,日本鉄道施設協会誌,pp.50-52,2014.8
9) 長山喜則,小林俊彦: FRP 製トンネル内巻き工によるRC覆工の劣化対策,トンネルと地下,Vol.46,No.2,pp55-66,2015.2
10) 長山喜則,小林俊彦,藤井大三:山陽新幹線におけるトンネル維持管理の取組みと課題,日本鉄道施設協会誌, pp.26-29, 2010.7
11) 近藤政弘,濱田吉貞:山陽新幹線トンネルの維持管理と課題への対応,土木施工,Vol.60,No.7 pp.92-95,2019.7

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