道路構造物ジャーナルNET

第85回 フィールドを用意するが、やってみる気はありますか?

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.02.16

1.はじめに

 まだまだ、寒い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?私は、年末から、五十肩(年齢は60過ぎてますが)で、腕が上がらず、夜中に夜間痛で起きてしまい苦しい思いをしてます。やっと、ここにきて、少々和らいできた感じです。聞いてみますと、結構、皆さん経験していて、やはりつらいと言ってます。中には40歳前なのに、そうだという方も居ます。原因もわからず、寝違いかと思ったら、どうも腕が上がらない。それはそれで、まあ何とか我慢できますが、夜間痛がつらい。体の老朽化は突然、確実に来てますね。
 去年から新技術に関する苦情や問い合わせが非常に多いので、一度書きましたが、もう一度復習します。

 前回の伸縮装置の件は、そんなことも踏まえてのことだったのですが皆さんお分かりですか?

2.新技術導入

 笹子の事故から10年が経過し、インフラメンテナンスは第2フェーズに入ったと言われているが、本当に進展はあったのだろうか?「道路メンテナンス事業補助制度の要綱」が改定され、優先的な支援と言う項目に、①「新技術等の活用促進」と、②「実効性ある長寿命化修繕計画の策定促進」と言う2項目が、優先支援項目に挙げられた。私からすれば、当たり前のことで、わざわざ言うことでもないと考えているが、世の中では、支援を得るために過剰反応も起きている。

①新技術等の活用促進
 個人的に、これは大いに推進すべきであると考えている。世の中の動きは遅すぎるぐらいであり、いわゆるフェーズ1の時から、果敢に実証すべきであった。しかし、新技術の公共事業適用に関しては、実は非常に難しい課題である。発注者は、先例のあることを守りたがり、冒険を犯そうという者は、ほとんど居ない(特に自治体は)。逆に先例さえあれば、さほど有効でなくても、馬鹿みたいに、いつまでも適用し続ける。第1例目と2例目では、大きく労力の差も有る。結局は冒険を犯したくないということであり、当事者にしてみればすごく当たり前のことである。いわゆる保身の思考が働くのだ。前回書いた「伸縮継ぎ手」の問題などは、また別で、技術力や判断能力が、根底にある。官民ともに、本来、当たり前のこともできていないのである。つまり、冒険心が足りなく、判断できる技術力が足りないのか? おっくうなのか? わからないが適正な評価ができなくなってしまっている。これは自治体だけではなく民間側も、上位官庁も同等である。
 このような状況下で、より効果的・効率的な維持管理を目指すのであれば、新技術はパーツであり、本来の仕組み、例えば入札・発注形式の検討も必要であると考える。今の形式では無理がある。

(a)技術認証の確認
 その技術が、認証されているか? できれば、「技術審査証明」これが無ければ、土木学会や、NEXCOの認証等があればGOOD。NETISについては、それだけでは、あまり認めたくない。責任の所在が不明確なのである。
 技術審査証明は旧大臣認定である。某政権でおかしくなってしまったが、きちんと、委員会を設定し、委員会を置いて審議し場合によっては実験なども追加で行いながら、認証するものである。審査金額の問題はあるが、認証制度としては妥当なものだと考える。
 しかし、まず「技術審査証明制度」が認識されていない。これに関する知識の無い方が、ほとんど。NETISに関しては、業者側から「国の認証を取りました。」という説明がしばしばあるので「技術審査証明ですか?」と言うと「NETIS」だと答えがほとんど。「NETISは認証ではありませんよ。」というと、ポカンとしている。

 技術審査証明は、信頼できるが、業者の負担が大きく、世の中の変化にはそぐわないので、それに代わる認証制度が必要だと常々思っている。まず、マニュアル、手引き等の整備がキチントされていて、こちらからの問い合わせ時の回答等、責任の所在が明確なことが必要である。担当者が、後に困るのは、その技術の信頼性である、後になってから、問題が指摘された場合にかなり難航する。不都合が生じた場合の対処なども同様であり、公共事業で使用するということは瑕疵担保の覚悟は必要である。

(b)フィールドを用意するが、やってみる気はあるか?
 開発者のやる気を確認するうえでも、こう言ってみる。さらに、「金額は合わないかもしれないし、試験施工と言うことで出ないかもしれない。それでも、やってみるか?」
 ここまで言うと、ほとんどの業者は、帰って行く。金儲け主義ではないか? 挑戦心があるか? 確認している。あわよくば、お金だけ欲しいと言う業者が多い。さらには、挑戦心があれば、失敗しても、困難な現場でもなんとか実施できる。ここは、共同で、対処しようという提案である。
 時代のキーワードに乗っかれば、金儲けができるという、業者が多いので、それを篩い分けるわけである。ほとんどは逃げる。私は、その企業や担当者の覚悟を見ている。覚悟があれば、トラブルが起こっても、対処してくれる。飴として与えるのは、「うまく行ったら、富山市で実績がある」と他の自治体で言ってよい。「実績や施工結果を学会や技術雑誌に、発表しても良い」とも言っている。お互いのリスクは認め合い、官も民も積極的に新技術に挑戦する心構えが何よりも重要である。

(C)確認内容事項
  その技術の、採用に対して、最初に確認する事項は、以下であろうと考える。
・マニュアルの整備(設計思想や、施工性、耐久性、等の明確な考え方の根拠)
・実証実験結果(実験室などでの実証結果の自社評価。)
・論文等の公表事例
・企業の体制 (できれば、協会的な複数の団体の研究機関)
・問題発生時の対応体制 ⇒会検の指摘事項発生時の説明の可能性
・コストが明快であること

(d)新技術導入に関する課題と対応案を段階的に
 新技術採用は、あくまで特殊事例になってしまうので、一般的な、発注者として新技術導入の“しくみ”を考えると、(しつこいが)第一段階 開発者の提案が、適切かどうかの検討・判断

・開発者の数値解析、実験等による検討結果がそろっていること
・(設計・施工)マニュアル類⇒明確な根拠、考え方、が整備されていること
・できれば、試験施工等実績 ⇒発注者との共同もありえる
・経年劣化試験等が実施済み(少なくても、促進試験)
・コスト評価、積算体系の構築がされていること
であり、公的な第三者機関等が実施し、認定結果した結果を有すること。公的なとは、公益法人、学会等である。
   ⇒ この段階である程度固まっていない物は、非常に採用しにくい

第二段階 発注へ向けての検討(どちらかというと、発注者側)
 ・技術的、コスト的にも、第三者に明確な説明ができること
 ・上司、財政、場合によれば議会を納得させなければならない
 ・発注に関して、おそらく積算がないので金額的に妥当なのか?納得させる必要が有る。(単発)
 ・これを、定常的に運用するためには、協議が必要。
 ・さらには、大規模に使用する場合には、議会への説明や市長、副市長との協議も必要

第三段階 しくみとしての導入(再評価)
 ・新たな提案を、“しくみ”として導入する
 ・価格設定や、実施可能な業者の登録を行う
 ・効果や耐久性などを明確に評価し記録に残す

(e)その他
 ※品質保証
 経年劣化後の保障や、問題発生時の対応体制の充実が必要(開発者側)
 ※トラブル発生時の対応
 開発者側に十分な対応体制が必要です。会計検査では、開発者の意見よりも公的第三者の検証が必要となる場合もあるので、第三者の認証制度の充実があれば、ありがたい。
 ※国レベルと自治体、特に市町村では、できる範囲、やれる範囲がかなり違ってくる。
 導入に関しては、先進的な冒険心がないと、「1番手にはなりたくない」という気持ちが出てくる。十分な認証制度と担保が必要になる。
 ※「試験施工」自体での、正式採用、発注と言うのは、自治体レベルでは難しいと考えられる。
 試験施工は、実際に採用する前に、数ケースは修了しており、検証されていることは必要である。
 ※新技術関係を本当に提案できるのは、高度な技術力を有した企業であると思うが、ほとんど根拠も無く、実証も十分でない企業が、お金になれば良いということで、売り込んでくる。そういう者を、見抜く能力が発注者には必要で、安易に乗っかり、失敗する例がある。

 近年では、公共工事の減少時代の業界再編等により、発注の仕組みもルール理解していない企業も増えている。何か提案すれば採用されると思っているところも多い。素人化が進んできている。先に記述したNETISと審査証明の違いすらも理解されていない。認証制度の周知徹底も必要。官も民も。
 ※かつて「下町ロケット」というTVドラマが高視聴だったそうだが、小さい会社だから誠実なのではなく、個々の企業体質だと考える。技術者個人もしかり。いい加減な施工いい加減な成果が続くと、発注者は貝のふたを閉じてしまい、安全側に、つまり、旧態依然とした、方法を常にとり担保を取っておこうとする。これを何とかするには、第三者的チェックコンサル、検査機関(インスペクター)が必要となってきている。

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