道路構造物ジャーナルNET

㊶維持管理の重み(その2)

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.02.01

(3)ホットな話題を一つ~新たな塗膜剥離技術について~

①はじめに
 ジャーナル新年号で西川先生(前土木研究所理事長)が素地調整に「レーザーブラスト」を、と書かれていたので関連して以下に示す。2006年に阪神高速の塗替塗装要領を主査として策定した際、塗り替え塗装(ふっ素系)の素地調整は防食便覧や本四基準を参考にブラストによる1種ケレンとした。当然のことながら、既に重防食塗装系を採用している湾岸線の一部長大橋については、予防保全を前提に下地の無機ジンクリッチペイントを残し、中・上塗りを塗り替える仕様とした(本四橋のアレンジ)。周辺環境等によりブラストが施工出来ない場合は、従来の補修塗りプラスふっ素系の仕様とした。時は経って16年。当時、一緒に要領策定を行った係長さん(現在は管理部のT部長)に現状の施工状況を聞いてみた。

  〇1994年度供用の関空対応路線のケース
 ★新設時の塗装
  防食下地には無機ジンクリッチペイント使用していない。
  中・上塗りは現場塗装。
 ★塗替塗装
  旧塗膜の除去は、塗膜剥離剤を使用。防食下地は有機ジンクリッチペイント。塗装系はふっ素系。
 ★旧塗膜除去及び下地処理
  乾式ブラストもR2.10の厚労省通達で可能にはなったが、安全対策を講じることで塗膜剥離剤が選定された。ミストブラストは、各種問題(クリーンルーム設備や役所対応)があり実施していない。

 〇湾岸線(上記、関空対応の新路線以外)や環状線を含む都市内高架橋のケース
 ★塗替塗装
  要領通り1種ケレン+ふっ素系が基準ではあるが、平成26年以降施工されていない(H26.5.30厚労省通達※1)以降)。
    ※1)基安労(化)発0530第2号鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について

 ②塗装系と下地処理
  長期防錆型塗装系の基本は、防食下地となる無機ジンクリッチペイント(下地処理はブラストによる1種ケレン)を有する「ふっ素系」である。無機ジンクリッチペイントの施工は、環境条件(温度・湿度・風等)に大きく左右され、現場施工が不可能である。このため、新設橋では工場塗装に限定される。それでは塗り替え塗装ではどうか。現場では無機ジンクリッチペイントが施工できないことから、防錆力では劣るが有機ジンクリッチペイントが代用される。有機ジンクリッチペイントのメリットは、エポキシ樹脂の効果によりで高度な下地処理(ブラストによる1種ケレン)が不要で2種ケレン程度でも付着すること、下塗りを施工する場合はミストコートが不要(無機ジンクでは下塗り塗料を50%に希釈したミストコートを目潰し材として塗る必要あり)であり、非常に施工が楽になる。ここで重要なのは最低限「有機ジンクリッチペイント」を防食下地として施工することである。一番良いのは1種ケレンをすること、環境条件・施工条件の縛りでやむを得ない場合は2種ケレンをすること。そのためには十分な下地処理をすること。
 ここで高度成長期以降の塗装系を見てみよう。図‐3に新設時の塗装系の時系列を示す。

 ③ブラストに替わる塗膜除去技術
 (3)の②に書いたように、鋼構造物の長寿命化に当たっては防食下地(ジンクリッチペイント)とその被塗面の素地調整(ブラストによる1種ケレン)が特に重要である。塗替塗装では、既設塗膜の除去も重要である。既設塗膜(古い塗膜)中に基準値を超える有害な重金属類(PCBや鉛など)を含んでいる場合、ブラスト等の素地調整(アンカーパターンの形成)前に有害な重金属類のみを塗膜剥離工法によって除去する方法がとられていると聞く。しかし、アルコールを使用した塗膜剥離工法では火災等の事故報告もあり、その他の工法の必要性が叫ばれている。
 その一つに、西川先生が触れられていた「レーザーブラスト」がある(ブラストであるが、所要のアンカーパターンは形成されない)。塗膜と錆を一緒にレーザーで焼き切るものである。阪神高速の子会社で技術開発を担当していた頃に「レーザーブラスト」のデモンストレーションを拝見した。非常に有望な工法であるが、「レーザーで焼き切った後に生成される酸化被膜をどのように処理されるのでしょうか? 多分、簡易ブラストか何かをされるのでしょうが」と質問というか、指摘をさせて頂いた。その際は明確な回答を頂けなかった。6~7年前の話なので既に解決済みであるとは思いますが一度お聞きしたいものです。
 もう一つ、今注目して共同検討を行っているのが「Hot Jet」工法である。本工法は、尼崎出身の(故)安田氏(友人)が開発した「亜臨界水洗浄技術(Hot Jet)」(兵庫県発明賞受賞)である。「加圧高温水洗浄」と呼ばれるこの技術は、水温を100℃以上に上昇させた亜臨界水の外部噴射を行うことで化学洗浄や溶剤を使用せずに有機物の洗浄と抽出が可能になる。亜臨界水には有機物(アミノ酸や脂肪酸など)を抽出したり分子レベルまで分解する効果があるが、反応後は水に戻るため環境への負荷が少ないという特徴がある。従来の高圧洗浄や蒸気洗浄に比べて対象物への負荷が少なく、100年以上も蓄積された汚れでも数分で洗浄することが可能である。亜臨界水の特徴は、①酸性・アルカリ性両方の性質を持ち、加水分解反応を促進する。つまり、化学洗剤不要で有機物の汚れを分解して落とすことが可能となる。②アルコールと同等の低い比誘電率を持つため、溶解力が高い。つまり、水に溶けない脂溶性の汚れも落とすことが出来る、ことである。この亜臨界水を噴射するのが「ノズル」であり、このノズル内でバブル化された亜臨界水は目的物にぶつかった際に押しつぶされ、破裂した時に起こる強力な「衝撃波」で汚れを剥がすメカニズムである。
 この「亜臨界水洗浄技術(Hot Jet)」は、これまでに天童眼鏡橋(愛知県犬山市)などの重要文化財や壁の落書きの洗浄に使われてきた。この技術を鋼構造物の塗膜剥離に活用すべく現在検討中である。図-4に剥離メカニズムを、写真‐1に車体のボディの焼付塗装を剥離するデモを行っている状況を示す。

 Hot Jet工法による剥離技術を鋼橋の塗替塗装に活用するには今後様々な検討や改良が必須である。他工法(塗膜剥離剤、簡易ブラスト等)との併用等を含め切磋琢磨中である。

(4)最後に

 ①阪神大震災の悲劇から28年が経過した。近い将来、未曽有の巨大地震が日本列島を襲う。東海・東南海・南海それぞれ独立したプレート境界型地震や3連動地震により巨大津波が発生し、その死者数は最大32万人と推定されている。一方、関東、特に首都東京を中心に首都直下型地震が襲う。30年以内に70%の確率で発生すると言われる。太平洋沿岸や瀬戸内海を中心に津波対策と称して護岸の新設や補強(嵩上げ)が行われている。(1)で示した地震のランキング(特に、人的被害者数)をすべて塗り替えるようなことは無いようにしてほしいものである。

 ②地域インフラ群再生戦略マネジメントと題して提言がなされた。この10年間の検討、実績、課題を踏まえたセカンドステージへの提言である。この10年で定期点検は進んだが、技術者不足や予算不足が一向に解消されず、措置(処置)は飛躍的に進んでいない。こう感じるのは私だけだろうか。引き続き、微力ではあるが地公体さん等のために鋭意頑張る所存である。

 ③環境にやさしい、人体に影響を及ぼさない、としていた塗膜剥離工法。アルコールを使用した剥離剤で火災事故が発生した。使う側もより慎重になる。アルコールを使わない新たな塗膜除去工法が待たれている。Hot Jet工法、レーザーブラスト共に頑張れ。

 次回は、当社が詳細調査・診断、補修設計を実施した小規模(歩道)吊橋の現地工事が進んでいる。現地からお届けしたいと考えている。(次回は2023年3月1日に掲載予定です)

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