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第40回 耐震補強

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良 氏

公開日:2022.12.01

 以前、脊柱管狭窄症になりましたが、腹筋と背筋の運動を続けることで、治ったことを紹介しました。最近は2度目の四十肩(七十肩)になりました。40、50代のころの四十肩は1年くらいで自然に治りました。今回はまた同じような症状になりました。
 肩が痛くて腕が水平以上に上がらない。肩を伸ばすと電気が走るように痛む。私と同じ年齢で同じような症状の人が、結構テニスの同好の仲間にいます。テニスがうまかった人も、腕が上がらずサーブを下から打ったりしています。右肩のみですが、朝起きたときもうずくように痛みました。整形外科をはしごしてしまいました。2か所では痛み止めと湿布の処置のみでした。痛みは取れません。3か所目の整形外科で、肩にヒアルロン酸?の注射を、日をあけながら5回ほど打ってもらい、注射をしては肩を動かす運動を続けました。痛みも軽くなり、腕は上がるようになってきました。今は腹筋、背筋の運動に加えて、朝起きたら、肩と首を動かすことをしています。
 
 地震の話の最後に耐震補強について紹介します。

 既設構造物を耐震補強するには、2つのパターンがあります。
 1つは、実際の構造物の被災状況を基に、同じ設計思想の同種の構造物に対して、損傷の生じた耐震性能の小さい部材を補強していくパターンです。
 阪神大震災やそれ以降の大きな震災で実際に被害を受けたのは、鉄道高架橋ではせん断破壊や靭性不足での柱の損傷です。橋脚での主な損傷は鉄筋の段落とし部です。これらの実構造物の損傷状況から判断して、高架橋の柱や橋脚を対象に、その靭性を増やす対策が中心の耐震補強が行われています。
 高架橋や橋脚の基礎や、高架橋の梁やスラブも、これらの大きな地震でも被害が生じていないので、補強対象とはしていません。構造物全体としての耐震検討はせずに、実被害の生じた部材への対策を実施するものです。鉄道構造物は、高架橋や橋脚は標準設計を用いており、多くの高架橋や橋脚は同じ基準で造られ、同じような設計図になっているので、壊れ方も同じようになるからです。
 もう1つのパターンは、大規模な改築などの場合です。この場合、新設構造物としての設計ルールが適用されます。最新の設計基準で再計算を行うことになります。基礎も含めて、現行の設計基準に合致するように必要な補強が行われます。
 たとえば、上野-東京ラインは既設の在来線高架橋を用いたり、既設新幹線高架橋の上に継ぎ足したりしています。新幹線高架橋は建設時に継ぎ足すことを見込んで設計していましたが、現行基準は満足しないので、柱の靭性補強は当然ですが、杭やフーチングを大きくするなどの基礎まで補強をしています。
 九州新幹線の博多駅も、在来線の高架橋を再利用しています。この場合も、その時点の設計基準を満足するように古い高架橋を補強しています。北海道新幹線の札幌駅も、既設の高架橋に継ぎ足して、既設部と新設部を一体にして、新しい新幹線の線路をその上に造る計画となっています。この場合も、継ぎ足される既設の在来線高架橋も含めて、現在の設計基準を満足するように補強することになります。
 一般的に言う、既存不適格の構造物を、現行の基準に合うようにするという行為です。耐震補強では主に柱の補強ですが、現行基準に合わせるには、柱以外にも、梁や、基礎の補強も必要となることが多く、コストが非常にかかります。技術基準が変更されても、新設構造物では、一般にコストに大きく影響しませんが、既設構造物が既存不適格となり、既設構造物を補強するとなるとコストが大きくかかります。既存構造物を不適格にする必要が本当にあるのかということについて、技術基準に係る技術者は十分な説明責任を果たすべきだと思っています。

1. 耐震補強

1.1 耐震補強は東海沖地震対策で実施(柱の鋼板巻き補強)
 1978(昭和53)年に「大規模地震対策特別措置法」が制定されています。
 東海沖地震の事前予知ができることを前提に国を挙げて対策がつくられました。その後、地震予知はできないということでこれらの仕組みはなくなりました。
 この時代にも、予知は無理なので、そこに金をかけるよりも補強にかけるべきだと、東大の竹内均教授などは言っていました。私もその通りだと思いました。地震の予知の研究者は国を動かすほどの政治力と,研究に自信があったのですね。
 私が無理だと思ったのは、コンクリートの破壊を微小クラックの発生を振動で計測して、その振動発生数の累加などから破壊を予知するアコステックエミッションという研究に少しかかわったことがあるからです。人工的に造ったコンクリートの供試体に徐々に載荷重を増やして、クラック発生による微小振動の観測から破壊を予知するのですが、予知はほとんどできなかったという経験がありました。人工の供試体でもわからないのに,地下の深い箇所の構造もよくわからないものの微小振動の計測から破壊を予測するのは、より難しいだろうと思ったからです。
 近いうちに東海沖地震が起こるといわれ、震源の想定も発表されていました。
 静岡県を中心にいろいろな対策が行われました。鉄道でも想定された震源を基に東海道新幹線の構造物の応答が計算されました。地震波は決められていないので、長周期の八戸波(1986年十勝沖地震)と短周期の新菊川波(1978年伊豆近海地震)が用いられました。震源にマグニチュード8の地震が起きたと想定し、新幹線に沿った地盤の基盤加速度を求め、それを用いて地盤も大きく分類して地表面加速度を計算しています。
 主に八戸波の影響が大きく、場所によっては弾性応答で1Gを超える値となる構造物もありました。エネルギー一定則を用いて構造物の耐震診断をしています。構造物の配筋から靭性率を計算し、耐震性能の不足している構造物は耐震補強しています。補強方法は主として鋼板巻き補強です1)
 実際に東海道新幹線の橋脚などに鋼板巻き補強が行われました。鋼板とコンクリート躯体との間にモルタルを注入するのですが、当初、鋼板にあけた穴から勢いよくモルタルを注入したら、モルタルが躯体に跳ね返りホースの吐出口が詰まってうまくいかなかったという経験もしました。
 また、東海道新幹線の高架橋は張り出し式の3径間のラーメン高架橋です。高架橋同士が異なる動きをすると列車走行にとって危険ということで、高架橋同士をたすき掛けの鋼棒で結ぶ、目違い防止工の工事も行われました。山陽新幹線以降は軌道構造もスラブ軌道になってきたこともあり、目違いを少なくするという目的で、張り出し方式はなくなり、高架橋間に単純桁を挟むゲルバー形式や、一つの基礎の上に柱を二本造る背割り式などの接続方式が高架橋の主流になっています。
 鋼板を巻いた柱の供試体を造り、耐震性能の向上を調べるための交番載荷実験も実施しました。それらを基に、鋼板の効果と靭性率の算定式をつくりました(図-1)2)。施工に用いた鋼板の板厚は計算よりも、モルタル注入ではらみだしが生じにくいなど、施工性で板厚を選ぶことが多かったと記憶しています。


図-12) 靭性率の増分と補強鋼材比(脚下端)

1.2 本格的耐震補強は阪神大震災以降
 1995(平成7)年の阪神大震災で、多くの構造物が壊れたことから、既設構造物に対して耐震補強が行われるようになりました。
 過去に造った構造物には、設計基準が変わっても、改築などが行われなければ、新しい基準は適用されないということがそれまでのルールです。阪神大震災後に、初めて既存構造物に対する耐震補強が本格的に行われることとなりました。それ以前では、例外的に東海沖地震対策ということで静岡県付近の構造物の補強がされています。
 鉄道構造物の耐震補強の基本は、構造部材の強度バランスを変えないように、部材強度を上げずに降伏する部材の靱性を上げる対策としています。ある部材について強度を上げると、次に弱い部材が先に壊れることになります。この次に壊れる部材の靱性が小さいと構造物全体としては耐震性能がかえって低下する可能性もあります。壊れる部材を変えずに、その部材の変形能力を増やすことが、耐震補強として最も容易で確実な方法です。補強して壊れる部材を変えてしまうと、新たに壊れる箇所の変形性能や強度を用いて解析し、必要に応じてさらに補強が必要となります。
 鉄道の高架橋や橋脚の耐震補強は、柱の靱性を大きくしてほかの部材はそのままとすることを基本としています。それは過去の地震で壊れたのは、柱部材のみなので、実構造物の基礎や列車を受ける梁などはそれ以上強いとの判断で、妥当だと思っています。
 東北新幹線の高架橋では中層梁のせん断破壊が生じます。基本はクラック注入のみで、再度地震で被害を受けたら、またせん断破壊するような直し方をしています。この中層梁が先に壊れることで、柱がせん断破壊しないことや、柱と中層梁の接合部が脆性的な破壊をしないで済むからです。この中層梁を補強する場合は、柱と梁の接合部や柱がせん断破壊しないように、接合部や柱の補強も一緒にしています。
 補強対象の柱については、財産図から、柱の配筋と形状を基に、曲げ耐力とせん断耐力を各構造物について求め、「せん断耐力×せん断スパン/曲げ耐力」の小さいものから順に行うことを基本にしています。また橋脚についてはこのほか鉄筋の段落とし部についても診断し、性能の低いものから補強するようにしています。

1.3 各種の工法の開発
 耐震補強工法は、各社でいろいろと開発がなされていますが、ここでは私が直接かかわった開発のいくつかについて紹介します。

(1)溶接継手の代わりにかみ合わせ継ぎ手の開発
 耐震補強は、まずは柱の鋼板巻き補強から始まりました。溶接は天候に左右されるので、天候に左右されないでコの字形の鋼板を柱に巻いて相互の接合を簡単にする方法を模索していました。
 当時の清水建設の小野定さん(現在はC&Rコンサル社長)が案をもっては、何度か私のところに提案に来ました。いずれも溶接に比べてコストがかかる案でした。何回かの打ち合わせで、圧延でかみ合わせる継手を造ればコスト面で溶接と競争できるとの案が生まれました。問題は圧延で、外れないのこぎり状の歯の形が製造できるかということです。圧延はロールの型が抜けなくてはいけないので直角より急な角度にはできません。
 この時それを解決する知恵を出してくれたのが、電炉メーカーの第三製鋼(株)(現在は廃業)という会社の山本さんという技術者です。板を山形状にしてロールに流し、直角にロールの型を抜き、のこぎり状の歯を造り、最後にこの板を直線にすることで直角よりも急角度にし、外れない形状にするという方法です。このアイデアでかみ合わせ継ぎ手が生まれました(図-2)。


図-2 鋼板巻き補強のかみ合わせ継ぎ手

 第三製鋼(株)がこの継手を造るにはロールを造るなどの投資が必要です。大きな企業でないため、投資が回収できるかは経営者としては非常な決断がいるのですね。投資をするかどうかは社長の判断です。その会社の社長は私のところにも何度も見え、どのくらいの市場があるのか、どのくらいの値段だったら溶接からこの継手に変わるのか、何度も見えました。おそらく関係した清水建設の小野さんのところにも何度も行っているのだと思います。会社規模に対して大きな投資をするかどうかという社長としての判断は大変なのだと感じました。
 この継手は溶接継手に変わって多くの箇所で使われ、投資資金は回収できたと思っています。この開発は、小野さんの粘り強さや、電炉の工場、そこの技術者の連携がうまくいってできたと思っています。このような工場にアイデア豊かな技術者がいることは素晴らしいと思いました。この技術者は私よりも年上でした。その時でも一般の会社の定年の年齢を超えていたと思います。
 写真-1はかみ合わせ継ぎ手を用いた鋼板の柱への取り付けの状況です。ワンタッチで接合が可能です。


写真-1 鋼板巻き補強の施工

(2)施工条件の厳しい箇所のために開発したRB工法など
 鋼板巻きの耐震補強が一般の高架橋で進んでくると、次に施工のしにくい箇所の補強が始まりました。
 最初に錦糸町駅の高架橋の柱の補強が行われました。高架下を店舗に利用しているため、鋼板巻き補強用の鋼板を柱近くに運ぶには、搬入路の確保のため内装を壊すことになります。また高架橋の柱に鋼板を巻くために、内部店舗の化粧の大理石調の壁を壊すことも必要ということで、耐震補強の工事費よりも、内装の撤去、復旧工事費が大幅にかかることを経験しました。簡単に人力で補強材を運搬でき、重機を使わずに施工できる工法も開発することが、耐震補強をスムースに進めるには必要ということを知らされました。 
 そこでまず開発したのがRB工法です(写真-2)。部材は人力で運搬でき、施工も人力ででき、鉄筋を柱の4隅の金具で締め付けて、柱に巻くという工法です。それ以外にも、施工条件に応じていろいろの工法を開発しました(写真-3・4・5)。


写真-2 RB工法/写真-3 一面耐震補強

写真-4 リブプレート工法/写真-5 薄板多層巻き耐震補強

 高架下のテナントが一時的にでも退去してくれれば工事はできるのですが、どうしても退去が難しいテナントもいます。いつまでも補強しないというわけにはいかないので、写真-3のような1面のみでも補強できる工法も開発しました。
 写真-4は、鉄筋ではなく帯鋼板を用いた工法です。
 写真-5は柱の太さをできるだけ太らせないことと、人力施工ができるということで薄い鋼板を張り合わせる工法です。この接着剤はアクリル樹脂です。接着面をきれいにして金属同士を接着させます。引張試験で、接着部で破断しないことを確認しています。
 このアクリル樹脂は中越沖地震の時にも、早期に強度を必要とする場合に使いました。この樹脂を使い、鋼構造物を接着で接合しようとする開発を数年間したことがあります。実際に鋼管杭と横梁の接合に夜間の数時間で施工を終えるのに使った事例もあります。列車荷重を受ける構造物ですが、本設ではなく仮設構造物として使いました。本設には長期耐久性の確認と、火災への対処が必要です。
 これらの補強工法は、耐震補強の工事費よりも、内装などの撤去、復旧に多くの費用と時間のかかる施工条件の厳しい場所での適用のために主に開発した工法です。このほか、柱の一部に撤去できないものがある場合には、その部分は補強せずにその前後の補強量を増やして対処するなどの方法も、実験などで確かめながら採用しています。

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