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① 鉄道構造物の維持管理の概要

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
技術理事 鉄道本部 構造技術室長

村田 一郎

公開日:2022.10.16

4 維持管理の基本的な考え方

 構造物を長寿命化させるためには、構造物が置かれている環境や構造物に作用する外力等に対して要求性能を満足しているということが条件となります。なお、鉄道構造物では要求性能として、安全性(列車が安全に運行できるとともに、旅客、公衆の生命を脅かさないための性能)、使用性(乗り心地や外観など)、復旧性の3つが定められており、維持管理では安全性を満足することを基本とし、必要により使用性、復旧性を考慮することとしています。

 また、インフラの維持管理に関わる行為として、一般的に診断、点検、検査、調査といった用語が使用されますが、鉄道では、

・ 検査・・・構造物の状態を把握し、構造物の性能を確認する行為
・ 調査・・・構造物の状態やその周辺の状況を調べる行為

 との意味で主として2つの用語を使用しています。つまり、図-3に示すとおり、調査によって構造物の変状を確認し、要求性能を満足しているかを評価します。これらの行為を検査とよび、さらに必要に応じて措置を行い、それらの結果を記録に残します。これら一連のサイクルが維持管理となります。そして、重要なのはこのサイクルを適切かつ継続的に実行することです。そのためには、維持管理に関わる技術基準が整備され、維持管理を実行する組織・体制が確立していて、維持管理技術を確保するための人材育成や技術継承が実施されている必要があります。


図-3 維持管理の考え方

5 維持管理の体系

(1) 技術基準

 鉄道構造物の維持管理に関わる技術基準は国鉄時代の1956(昭和31)年に「建造物保守心得(案)」、1965(昭和40)年に「建造物検査基準規程」がそれぞれ制定され、さらに1974(昭和49)年に「土木建造物取替の考え方」が制定されて、検査方法、健全度の判定区分、修繕の判断基準等が体系立てて示されました。このように、他のインフラに先駆けて維持管理を体系化し、技術基準の整備が為されてきたと言えます。
 JRに移行してからは、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(2001年国土交通省令)、「鉄道構造物等維持管理標準」(2007年国土交通省鉄道局長通達)が発出され、さらに、構造種別毎(コンクリート構造、鋼・合成構造、土構造、基礎構造・坑土圧構造、トンネル)に「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)」(2007年)が鉄道総合技術研究より刊行されています。鉄道事業者はこれらの技術基準に基づいて維持管理を行うことになっており、JR西日本では、さらに社内の基準としてマニュアルおよび手引きを定めて維持管理を行っています。

(2) 検査体系

 「鉄道構造物等維持管理標準」では、検査は、図-4に示す4つに区分され、全般検査については通常全般検査と特別全般検査に区分されます。この中で基本となる検査は全般検査で、通常全般検査では、次項に記載している健全度判定を行うことを目的として新規変状の有無、既変状の進行性、環境変化の有無などを確認しています。2年に1回の周期で目視を主体に実施しており、この周期は「施設及び車両の定期検査に関する告示」(国土交通省)として定められています。また、特別全般検査は、トンネルについてのみ実施が義務付けられており、周期は告示において新幹線トンネルでは10年を超えない期間ごとに、在来線トンネルでは20年を超えない期間ごとに実施するよう定められています。JR西日本ではトンネル検査専用の車両を開発し、至近距離からの検査を実施しています。トンネルを除く構造物の特別全般検査は、実施の有無を含めて鉄道事業者が定めることになっており、JR西日本では、例えば鉄桁については、塗り替えの都度、塗装用の仮設足場を活用して至近距離から実施することとしています。


図-4 検査の区分

(3) 健全度判定

 健全度とは、鉄道構造物に定められた要求性能に対して当該構造物が保有する健全さの程度のことであり、図-5に示すように道路の橋梁点検等で用いられている損傷度とは異なる概念です。健全度の判定は、通常全般検査で各構造物の特性等を考慮して表-1に示すA、B、C、Sの4つのランクに区分して判定し、さらにAランクと判定した構造物については、個別検査を実施して詳細判定(AA、A1、A2)を行うこととしています。また、トンネルについては、剥落が列車の走行安全性に影響を及ぼす恐れがあることから、表-1に示す健全度判定に加え、表-2に示す剥落に対する安全性についてα、β、γの3つのランクに区分して判定を行っています。


図-5 健全度と損傷度の違い


表-1 健全度の判定区分

表-2 トンネルの剥落に関する健全度の判定区分

6 維持管理の実施体制(組織・体制)

 JR西日本における土木構造物の維持管理に関わる組織を図-6に示します。本社組織では技術基準の整備・管理、技術開発、将来の維持管理に関わる諸課題への対応等を、また、支社組織では日常業務に関わる課題への対応、予算管理、安全管理等を実施しています。このうち検査の実務は図-6に示す土木技術センターが担っており、検査を専門とするグループ会社である㈱レールテックと役割を分担して実施しています。例えば、図-4に示す通常全般検査では、㈱レールテックの社員3~4名と土木技術センターの社員1名が合同で実施しており、レールテックの社員(検査主務者)が新規変状の発生や既変状の進行性等を確認し、土木技術センターの社員(検査実施者)がその変状の状況等を踏まえて健全度判定(表-1)を行うこととしています。また、検査の結果、措置が必要と判定された構造物に対する補修・補強等の計画や施工監督も土木技術センターが担っており、設計の実務についてはグループ会社であるジェイアール西日本コンサルタンツ㈱が、施工の実務についてはグループ会社である大鉄工業㈱、広成建設㈱が主として実施しています。
 なお、本連載を担当している構造技術室(コンクリート構造:4名、鋼構造:4名、基礎・トンネル構造:3名、斜面・土構造(施設部本務):5名)では技術基準の整備、土木技術センターからのコンサルティング依頼に対する対応(年間100件以上)、生産性向上等に資する技術開発、異常時(事故・災害)の技術支援、専門技術者の育成等に取り組んでいるほか、学協会活動にも積極的に参画しています。


図-6 維持管理に関わる組織

7 おわりに

 鉄道構造物は歴史の古いものが多く現存しており、先人から引き継いできたこれら構造物を健全な状態で後世に残していくことが我々の責務であると認識しています。そのためにも、検査において変状の捕捉を確実に行うとともに、変状に対する措置を適時適切に実施することが重要となります。このリレー連載では、構造物に発生している変状に対する措置について、JR西日本が実施している対応策を中心に掲載していきます。次回は、Iビーム桁(在来線)の支点部に発生している疲労き裂の対策について紹介する予定です。

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