道路構造物ジャーナルNET

① 鉄道構造物の維持管理の概要

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
技術理事 鉄道本部 構造技術室長

村田 一郎

公開日:2022.10.16

1 はじめに

 1872(明治5)年10月14日に我が国で最初の鉄道が新橋から横浜間に開業し、本年で150年を迎えます。この区切りのいい年に鉄道構造物の維持管理に関するリレー連載を掲載することになりました。今号から鋼構造、基礎構造、トンネル、土構造、コンクリート構造の順にJR西日本で実施している鉄道構造物の維持管理の事例について、構造技術室に所属する担当者が毎月、リレー形式で執筆をします。新幹線、在来線に区分せずに掲載しますが、コンクリート構造については、2021年7月から12回にわたって弊社技術顧問松田が本道路構造物ジャーナルNETに「山陽新幹線コンクリート構造物維持管理の20年を振り返って」と題した連載を掲載しましたので在来線にスポットを当てて記載します。今号では、鉄道構造物の維持管理の概要について紹介します。

2 鉄道構造物の維持管理上の特徴

(1) 迂回ができず取替えが困難

 鉄道は、線状に構築されていることから、どこか1箇所でも機能不全に陥ってしまうとその線区の運行ができなくなってしまいます。線区によっては迂回することが可能な場合もありますが、大幅に到達時間を要することとなり、鉄道としての機能を大きく損なうことになります。道路も同様に線状に構築されていますが、通行止めになった場合でも多くは迂回が可能であり、この点が鉄道と大きく異なるところです。迂回ができないことから、大規模な構造物の取替えは運休を伴うことになったり、これを避けるためには線路を付け替えたりする必要があり、コスト面やご利用者のご理解を得にくいといったことからも非常に困難となります。

(2) 経年の長い構造物が多い

 全国の幹線鉄道網(在来線)はほぼ明治末期までに出来上がり、それ以外の路線も大部分が第二次世界大戦までに敷設されています。JR西日本における土木構造物の経年分布を図-1に示します。8割超の構造物が戦前に造られていることが分かります。この傾向はJR各社も同様と思われます。ちなみに、JR西日本の鋼橋梁およびコンクリート橋梁の平均経年はそれぞれ約80年、約60年となっています。


図-1 JR西日本における鉄道構造物の経年分布

 参考に経年を経た構造物をいくつか紹介します。JR東日本左沢線および山形鉄道フラワー長井線の最上川橋梁は、1887(明治20)年に架設された東海道本線木曽川橋梁(単線ダブルワーレントラス)を大正期に移設したもので、経年136年を経た現在も日本最古の鉄道橋として使用されています。 JR西日本では、JR京都線新大阪・大阪間の上り内側・外側線に架設されている上淀川橋梁は1899(明治32)年製作(経年123年)の複線下路ワーレントラス(径間31m、22連)で、戦災による補修や一部の桁では縦桁を交換していますが、主構、床組を含めてほとんどの部材はいずれも当時のままのものです(写真-1)。また、山陰本線米子・安来間の島田川暗渠(径間1.8m、アーチ橋)は鉄道最古の鉄筋コンクリート構造物で1907(明治40)年の完成(経年115年)です(写真-2)。


写真-1 上淀川橋梁(JR京都線 新大阪・大阪間)/写真-2 島田川暗渠(山陰本線 米子・安来間)

 なお、最近、新聞報道などで「インフラ設備は50年が老朽化の目安」や「橋の耐用年数は約50年」といった記事を目にすることがあります。構造物の経年と劣化の程度に関して、建設後50年を超えると劣化が進行するということをデータで示されているものもあります。確かに、構造物は外力や環境によって経年とともに性能が低下することに間違いはありません。しかし、適切に維持管理を行っていたとしても経年が50年を超えると本当に老朽化するのでしょうか。このことに関して、日経コンストラクション(2013年1月28日号)に掲載されていた鋼橋梁の維持管理の専門家の意見を紹介しておきます。「土木構造物は本来40~50年で老朽化などしません。老朽化していたとするとそれは「させた」と言うべきです。多くの事故は「古いもの」ではなく「悪いもの」で起こっています。完成してから150年が経過しても良好な状態で使われているものもあれば、20~30年で劣化が顕在化したものもあります。長持ちしている橋は、決して特別な材料を使ったりお金をかけたりしているのではなく、身近でこまめにメンテナンスしているだけなのです。」
 どのような構造物もメンテナンスフリーのものはありません。適切に手を掛けて大切に使い続けていく必要があります。

(3) 多種多様な構造物が混在している

 図-1に示す施工時期の違いによって設計基準、施工方法、使用材料等の異なる多種多様な構造物が混在しています。例えば、在来線トンネル覆工の材料は、主として明治期にはレンガ(写真-3)や石積みが用いられ、大正期にはコンクリートブロックが、さらに昭和になると場所打ちコンクリートが本格的に使用されるようになりました。トンネルの維持管理では、これら異なる使用材料の特性等を理解しておく必要があります。また、建設年次の古い在来線では長大橋梁や長大トンネルを施工する技術が未成熟であったことから土構造物の占める割合が高く、新幹線では高架橋やトンネルの占める割合が高くなっています(図-2)。


写真-3 桃観トンネル(山陰本線 余部・久谷間)

図-2 在来線と新幹線の構造物の比率

3 維持管理の目的

 鉄道構造物の維持管理の目的は、「ご利用者に安全で快適な輸送サービスを継続して提供していくこと」であり、そのために下記の2点が重要であると考えています。

(1) 構造物の健全性を将来にわたって維持していくこと

 2章(1)で述べたように取替えが困難であるということは、構造物を健全な状態で長期間にわたって使い続けていく必要があるということになります。これを言い換えると、構造物の健康寿命を延ばすこと、つまり「長寿命化を果たすこと」が鉄道構造物の維持管理にとって重要な要素となります。ここでいう健康寿命とは、徐行や一時通行止めをするといった列車運行を制限することなく構造物を供用できる期間を示しています。

(2) 想定していなかったリスク等に対応すること

 想定外事象への対応や既存不適格な構造への対応も構造物の管理者の責務となります。例えば、地震対策で言えば、最大規模の地震が発生した場合でも構造物の崩壊を防ぐ必要があります。現行の鉄道における耐震設計での入力地震動は弾性応答加速度で2,000ガルを越える値になっています。一方、山陽新幹線が設計された当時は、150~250ガル程度(設計水平震度0.15~0.25)の加速度を静的に構造物に作用させるようになっており、加えて当時の設計標準ではコンクリートが受け持つせん断力を過大評価していて高架橋柱の帯鉄筋量が少なかったこともあり、阪神・淡路大震災(1995(平成7)年1月17日)では8箇所の高架橋等が崩壊しました。この地震が契機となって耐震補強が本格的に進められるようになりましたが、東海道新幹線では東海沖で発生する地震を対象として国鉄時代の1979(昭和54)年から高架橋柱を鋼板で巻きたてたり、橋脚を鉄筋コンクリートで巻きたてる耐震補強対策が行われていました。阪神・淡路大震災後に震度7クラスの大規模な地震が複数回発生していますが、いずれの地震においても耐震補強を行った構造物には損傷は発生していません。このように、想定外のリスクに対応し安全を確保することも維持管理の目的を果たす重要な要素です。

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