道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第63回 景観とメンテナンス(その3)
‐良いモノを作るための鍵はそのプロセスにある‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2022.09.01

リダンダンシー機能が不足し、橋に作用する力を分散させる経路が限定的
 崩落原因の結論として財源不足を第一の事由

1.はじめに
 2022年1月28日、米国のペンシルバニア州ピッツバーグ市で道路橋が崩落した。崩落事故については、私の連載で崩落した状況や原因について触れて、私見を含めて詳細に説明している。1月に崩落したピッツバークの道路橋と同形式のRigid Frames Bridge(K-Frame Bridge:方杖ラーメン橋)に関する米国における、過去及び現在の解説と評価は以下である。本形式の架設数が多かった1970年代の解説と評価を見ると、メインフレームは多面構成であり、作用する荷重を各面で分散するように脚で支持する構造が特徴で、経済的にも優れている。当時の解説で分かるように、当然、Rigid Frames Bridgeは、設計者において人気のあるデザインであった。図‐1は、初期のRigid Framesであるミネソタ州の道路橋(1968架設)であるが、米国だけではなく他の国でも良く見られる一般の道路橋である。また、維持管理、特に橋梁点検の留意点について米国の『BRIDGEINSPECTOR’S TRAINING MANUAL/90』では、Rigid Frames Bridgeを対象とした点検ポイントを次のように示している。


図‐1 Moir Park Bridge(1968 Minnesota):Rigid Frames Bridge

 Rigid Frames Bridgeに発生する変状について、腐食と疲労に分けて解説されている。腐食については、せん断と曲げゾーンを中心に点検し、特に座屈の兆候がないか、圧縮ゾーンを注意深く確認することが必要である、としている。また、Rigid Frames Bridgeは、湿気や汚染物質を閉じ込める可能性が高く、特に、腐食による劣化の影響を受けやすい水平部材、道路排水がかかる部分、例えば、排水管と床版の接合部は要注意箇所ある、とも追記している。確かに我が国にも、高速道路等を横断する道路橋に方杖ラーメン橋(Rigid Frames Bridge)が山ほど架けられているが、発生する変状は米国と同様であり、ここに挙げた点検ポイントに着目して点検するのは言うまでもない。ひょっとしたら、米国よりも多湿の環境にある我が国の場合、事故発生の確率は高いかもしれない。
 さて、崩落した時点の米国におけるRigid Frames Bridgeに関する評価はどうなっているのであろうか。崩落事故後に事故情報と共に構造について解説している報道を読むと、「Rigid Frames Bridgeデザインの特徴は、リダンダンシー機能が不足し、橋に作用する力を分散させる経路が限定的である。そのため、変状発生等によって力を伝達する経路が絶たれると橋は崩落する構造である」と何時ものリダンダンシーを重視する姿勢がうかがえる。さらに、「現在は、Rigid Frames Bridgeの優位性である建設時の経済性よりも、供用開始後の変状発生時のリスクを重視し、潜在的コストを考えるとRigid Framesを道路橋に選択することはない」と明言している。米国の橋梁設計においては、リダンダンシー機能が重視され、リダンダンシー機能の無い道路橋設計に対して、罰則規定を設けるとの記述もある。崩落事故を起こしたRigid Frames bridgeを含むリダンダンシー機能の無い道路橋の管理は、交通量の制限を行い、定期点検にも追記があり、リダンダンシー機能を持つ構造形式と比較して、より厳しい点検ガイドライン設定や広い範囲の点検を行わなくてはならないとしている。米国の道路橋におけるリダンダンシー機能を必須条件とする考え方は、過去の数多くの苦い事故経験から生まれているが、我が国の橋梁形式選定や設計における考え方とは基本的に大きく異なっている。私としては、米国のリダンダンシー機能重視の考え方は理解できるし、推奨もしている。これに対し、読者の方々はどう考えるか、是非、道路構造物ジャーナルNETに意見を投稿してもらいたい。
 崩落した『Fern Hollow Bridge』の場合は、法に定められた2年に一度の定期点検を変更し、1年に1度の点検を行い安全性確保に努めていたらしいが、結果的には対策が適切に行われず崩落事故を起こしている。ペンシルバニア州の担当者は、崩落原因の結論として財源不足を第一の事由として挙げている。私の連載において過去に何度も言っているが、「マネジメント先進国の弱点を曝け出すようで情けない!!」と大きな声で叫びたい。太平洋を挟んで私が、多くの技術を学んだ、現在も学んでいる米国橋梁マネジメントについて、抱えている課題を指摘する以上に、米国内では管理者を批判する意見が多く飛び交っていると考える。
 米国における崩落報道に興味深い映像がある。それは、崩落した橋と共に落下したバスのサイド、前後に設置されていたカメラが捉えた崩落直前の映像である。図‐2は、バスの前方に設置されていたカメラの映像であるが、確かに伸縮装置(赤マルで囲った部分)は橋台から分離せずに締結されている。図‐3は、バスの側面に設置されていたカメラが捉えた後方の映像である。バスが通過した伸縮装置(赤マルで囲った矢印の先)は、見え難いが橋台から明確に分離しバス側に移行している。ここに示したカメラ映像から分かることは、私が連載で推定した西側橋台側から崩落が始まったことが明らかとなったことである。


図‐2 崩落した道路橋とともに落下したバスの車載カメラ(前方)/図‐3 崩落した道路橋とともに落下したバスの車載カメラ(側面後方)

 しかし、現代社会は、防犯カメラ映像から種々な事件の解決や犯人探しなどが行われるように、橋梁を含む構造物の変状発生確認においても、デジタル画像の活用が主流となってきている。そう言えば、ミネソタのI-39W高架橋崩落事故の動画も河川管理用カメラが捉えた映像であった。時代の移り変わりとともに技術は急速に進歩し、これからは、社会基盤施設、土木、橋梁などにも、画像処理技術などを含む最新ICT技術の活用、駆使する時代が来ていることを、落下したバスの車載カメラ画像から痛感した。
 それから、米国の訴訟社会を実感する報道もあった。Port Authorityのバス運転手は、5月16日付で崩落した橋梁の資料提出を法廷に要求し、訴訟に入ったようである。負傷したバスの運転手がどのくらいの要求額を連邦政府、州、市に対して要求するのか興味深い。
 前回の連載で私は約束していることが一つある。それは、NTSB(National Transportation Safety Board:国家運輸安全委員会)が進めている『Fern Hollow Bridge』崩落事故原因調査最終報告に関することである。あの時の報道では最終報告を出すのに18カ月必要とのことであったから、来年の2023年春までには外部公表されるはずである。私としては、NTSBの最終報告を入手した時点で、再度詳細に事故原因等を説明したいと思っている。それでは、『景観とメンテナンス』の第3回、本題に移るとしよう。

M24一般ボルトを使って行うM24ボルト復旧案を選定
 最終的に外面側からボルトを切断し、その後平滑処理

2.AB橋パイロンの原形復旧実橋試験
 都市景観を考慮して計画し架設され、地域の重要なランドマークとして認知されている、斜張橋AB橋の赤茶色に塗られたアーチ形状パイロンに吊りピースが追加して設置された。増設された吊りピースは、パイロンウェブ全面にほぼ等間隔で設置されたことから髪を抑える簪のように映り、景観を台無しにした管理者の姿勢を問う大きな問題へと発展した。そこで、増設された吊りピース(増設とは??と思われる読者に説明すると、前回の最終章で説明しているが、アーチ形状パイロンには架設当初から維持管理用の吊りピースを設置していた。しかし、既存の吊りピースでは塗装の塗り替え工事は不可能であったのである)を撤去し元の状態に戻すことを決定したが、その原形復旧工事は、残された工期やAB橋パイロンの置かれている環境から失敗が許されず、図‐4の流れで必要事項の確認、室内及び実橋の試験施工を順次行い、最終工法を決定することとした。一般的に同様な事象が起こったことを考えると、ここまで精緻に試験施工を行い、そこで得た結果を基に工法を決定し、施工する事例は数少ないと考える。しかし、私の経験から、曖昧な状態での判断や検討不足が結果的に致命的な事態に陥ることが何度もあったことから、本件の場合は、可能な検討は全て行い、不安を全て払拭することを優先している。当然、試験施工等先の流れにおける各ステップが終了するごとに検討結果を確認し、次の作業に着手している。連載前回までに、ステップ4の室内試験までを説明しているので、今回はステップ5以降の話しを中心とする。


図‐4 増設吊りピース撤去、原形復旧検討の流れ

図‐5 M24ボルト復旧案/図‐6 M24ボルト切断復旧案

 ステップ4で行った室内試験の結果、最終的に選定した一般箇所の原形復旧工法は、図‐5に示すM24一般ボルトを使って行うM24ボルト復旧案とした。M24ボルト復旧案とは、パイロンウェブ外面側からワンサイドボルト用に開けた孔にタップ加工を行い、M24ボルトを外面側から挿入し、パイロンウェブ内面側よりM24ボルトを締付け固定し、最終的に外面側からボルトを切断し、その後平滑処理する方法である。M24ボルト復旧案の課題は、タップ加工の精度確保、長期間内のボルト緩みと外面側の平滑性の確保である。次に、パイロン内側が密閉構造(ケーブル定着部等)の場合は、一般箇所のように内面側からのボルト締め付けが出来ないので、図‐6に示すM24ボルトを外面側からねじ込み、ボルトを外面側から切断して平滑仕上げするM24ボルト切断案とした。

 図‐6は、M24ボルト切断案を示しているが、読者には理解が出来ない可能性を考え、M24ボルト挿入当初のイメージと完成形イメージの2段階表示とした。図‐6の上側はタップ加工した孔にM24ボルトを挿入した状態、下側は、ボルトを切断した完成形である。M24ボルト切断案の課題は、M24ボルト復旧案と共通するが、内面側からのナットによる締め付けが出来ないことから、確実なボルトの緩み対策を如何に行うかである。今回のAB橋パイロン原形復旧に採用するのは以上の2案とした。ここで試験施工を終わったのでは、読者に話題提供をわざわざする意味が半減する。今回の試験施工では、今回実施する原形復旧には皿頭高力ボルトが受注生産であるために適用できないが、最適案であることから追加して、皿頭高力ボルト復旧案を試験施工している。原形復旧に必要な工法以外の工法を試験施工する理由は、補修や補強で既存の孔を塞ぎ、平滑処理を行うことが求められた場合、施工性や耐疲労性などを考える必要となる場合がある。そこで、図‐7に示す、応力を付加できる皿頭高力ボルト復旧案についても実橋試験を行い、検証することとした。次に、AB橋現地で行った実橋試験施工について説明する。


図‐7 皿頭高力ボルト復旧案

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