道路構造物ジャーナルNET

第33回 鋼構造物の防食(その3)について

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫 氏

公開日:2022.06.01

(5)共同研究の開始と暴露試験

 2015年阪神高速技術に転籍し、2007年から私の頭の中でスタートした「環境にやさしく、耐久性に優れる塗料の開発」をとりまとめることにした。阪神高速時代から積極的に試験施工や実施工に手腕を発揮し、私が本四復帰以降も積極的に開発・改良に携わってもらった上見氏(現;阪神高速)、岩橋氏(現;阪神高速技術㈱)、吉田氏(現;伊丹市役所)には感謝している。
 無機形塗料の基準化・規格化を進めるに当たり、元土木研究所の守屋統括主任研究員をメンバーに招聘し、2017年から「環境にやさしく、耐久性に優れる無機形塗料の開発」をスタートさせた。
 研究項目は、性能評価(屋外暴露試験と促進耐候性試験)と環境を考慮した性能試験、の二つである。暴露試験は、日本ウエザリングテストセンター宮古島(内陸部と海岸部の2箇所)において2018年3月から開始した。また、大気環境や自然環境が異なる阪神高速道路沿線3箇所に同様な暴露試験用供試体を設置した。宮古島の暴露試験では、メンバー全員参加で試験体の初期データを計測した。写真-6に宮古島暴露試験状況を、写真-7に阪神高速沿線3箇所の暴露試験位置図等を示す。


写真-6.1 無機形塗装の共同研究(宮古島暴露試験場)

写真-6.2 無機形塗装の共同研究(試験板計測状況等)

写真-7 阪神高速道路沿線暴露試験場位置図

 なお、暴露試験結果については、5年暴露後のデータを取りまとめ、学会等で発表する予定である。試験板は、新設及び塗替えの重防食仕様(有機系・無機形)、亜鉛メッキ面塗替え仕様、新開発塗料、としている。速報では、当初の期待通り光沢度低下は一切ないと聞いている。

(6)共同研究におけるニーズとシーズのマッチング

 共同研究を進めるうえで特に重要なのが「シーズとニーズのマッチング」である。今回の共同研究のシーズとニーズを以下に示す。

 <ニーズ>道路管理者側
 ①環境に優しい塗料(VOCゼロが目標) ⇒国家的な貢献
 ②長期耐久性を有する ⇒LCCの削減
 ③規制回数・日数を極力減らしたい ⇒お客様サービス・コスト縮減
 ④施工性が優れる ⇒少子・高齢化社会に対応(労働者不足)

 <シーズ>施工者側
 ①に対して ⇒無溶剤・無機形塗料がある。
 ②に対して ⇒ふっ素系(重防食)と同等以上の耐久性が期待できる塗料(仕様)がある。
 ③に対して ⇒省工程仕様がある。
 ④に対して ⇒1日で2コートが可能な塗料がある。
 ⑤品質保証 ⇒講習会制度を確立している。

(7)無機形塗料の過去から未来に向けた挑戦

 前号で無機形塗料を塗替えに採用(試験)した事例を2橋(六間川橋・大日川橋)紹介した。いずれの橋もチョーキングが発生していない。無機形塗料の本領発揮といってよいだろう。しかし、私と平良さんとで約束したことがある。
「塗りました」では「あかん、あきまへん」
「塗ったら経過観察をする。失敗したら原因を究明する」「成功したら要因を探す」
「失敗の経験を踏まえ、納得した補修をする」
 また、以下に示す「開発目標」をあせらず、一つ一つ課題を潰しながら、コツコツクリアしましょうと。

 <10年前に掲げた無機形塗料の開発目標>
 ①完全無溶剤であること
 ②形成塗膜のポリマー主骨格は、シロキサン結合とする
 ③着色には無機顔料を使用すること
 ④当日、重ね塗りが可能なこと(指触乾燥)
 ⑤防錆性がふっ素樹脂塗装系(有機系重防食仕様)と同等以上であること
 ⑥耐紫外線性がふっ素樹脂塗料(上塗り)と同等以上であること
 ⑦屋外暴露で割れや剥がれがないこと

 目標の中には、共同研究(暴露試験含む)で結論が出るもの、日々の試験施工で解決するもの、さらなる化学的な研究が必要なものもある。

(8)身軽な塗装の維持管理に向けて

 本四橋海峡部橋梁の塗装の管理フローを図-2に示す。いわゆる、塗装のPDCAサイクルである。さすがにここまで実行するのには費用も人員もない。であるならば、有機系塗料(耐候性を期待するふっ素樹脂塗料上塗り)の大敵、チョーキングが発生しない「無機形塗料」が鋼橋長寿命化の必須アイテムになりうるであろうと考えている。


図-2 海峡部橋梁の塗装管理フロー(本四橋における事例)

(9)最後に

 前号と今号の2回にわたって無機形塗料との関りについて触れさせていただいた。本四公団、関空、福岡県時代は、何のためらいもなく有機系塗料を使用していた。初めて長大橋(大鳴門橋)の管理を経験して有機系塗料の無力さを知った。
 ある会議に出席した際に、出席者の一人が塗替えの話題になると「ペンキ・ペンキ」と叫ぶ。塗装というものを下に見ていたのであろう。哀れで可哀そうな奴だと思った。鋼構造物の腐食の怖さを知らない。こういう人間を作らないために我々が切磋琢磨し、技術開発を進め、技術を蓄積し、後世の技術者に技術を継承する使命があると考える。
(次回は7月1日に掲載予定です)

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