道路構造物ジャーナルNET

⑤神橋と錦帯橋

筑波山の麓より

国土交通省
国土技術政策総合研究所
所長

木村 嘉富 氏

公開日:2022.03.31

2.錦帯橋

【錦帯橋の構造】
 木橋というと、日本を代表するのが、錦帯橋でしょう。令和元年の2月、小学生の頃に家族で旅行して以来、久しぶりに訪れました。事前に、インターネットで錦帯橋に関する情報を調べたところ、色々な情報が公開されていました。錦帯橋についての岩国市公式ホームページでは、歴史の他、技術として構造や材料等が紹介されています。また、平成30年に岩国市によりまとめられた「世界遺産暫定一覧表記載資産候補提案書 錦帯橋」にも、詳細な情報がまとめられています。これらの資料を事前に頭に入れた後に、錦帯橋を見てみると、改めてその素晴らしさを感じることが出来ます。
 錦帯橋は、写真-13に示すように、中央の3連のアーチ橋を含む5連の構造となっています。写真-14は、下方からの写真です。以前、マスコミの方と話していた際、「橋梁屋さんは、橋を下から見るのですね」と言われました。確かに、一般に橋梁の写真というと横からの写真が多いのですが、私が写した写真を改めてみると、その多くは下からの写真となっていました。皆さんも、同じではないでしょうか。
 錦帯橋の美しさとしては、そりを持った5連の橋梁という形状の美しさの他、写真-14の様な構造の美しさもあります。アーチリブの高さは1m以上ありますが、6寸角(約18cm角)の部材を組み合わせて作られています。アーチリブ間にX状に配置されたのは「振止め」と呼ばれ、ブレースとして水平剛性を高めています。また、アーチリブに沿って設置された斜材は「鞍木」で、アーチリブのせん断力を負担し、アーチリブを構成する部材間のせん断力を低減させる役割を担っています。なお、このような構造は、1673年の建設当初には設けられておらず、人が通るときの振動を抑えるために、1683年に新たに加えられたとのことです。

写真-13 錦帯橋/写真-14 錦帯橋の構造

【長持ちさせる工夫】
 さて、今回の主題である、木橋を長持ちさせるための工夫について、紹介します。図-2は、錦帯橋で用いられている木材について、その種類により色分けしたものです。構造部材には、赤い色で示したマツと緑色で示したケヤキが使われています。橋脚にはヒバ、そして高欄や床材といった通る人の目に付く箇所は、その美しさからかヒノキとなっています。強度や耐久性、美しさ等、木材の種類の特徴によって使い分けられています。
 木材にとって、最も劣化を促進させるのは、いうまでもなく、水です。このため、写真-15の様に、桁の側面には雨水が当たらないように「蔀板(しとみいた)」で全面を覆い、部材端部は写真に四角く写っている「鼻隠し(はなかくし)」が設けられています。また、主桁の上方は、写真-16のように、銅板が張り付けられています。なお、桁側面の蔀板と桁の間には隙間を設けています。これは、水を入れない、流すという事に加えて、早く乾かすという狙いと思います。床板にあたる橋板は、滞水しないように勾配が設けられ、また、そこからの水が集まる橋脚上(写真-17)では、スムーズに排水されるよう葛石(かずらいし)や亀の甲石(かめのこういし)を設ける等、細部まで工夫されています。

図-2 使用木材の種類(岩国市HPより)/写真-15 桁側面での配慮

写真-16 桁への銅板張り付け(岩国市HPより)/写真-17 橋脚上での排水への配慮

 橋面を構成する橋板の継ぎ目から水が滲入するのを防ぐために、その接合部に雇い核という接合キーを設けたり、端部に水返し核という加工を施されています。橋板の接合部からの水を防ぐ構造については、現在も検討が進められているようです。写真-18は、そのための実験橋です。錦帯橋をわたり、岩国城に行く途中の公園内に設置されています。説明板によると、接合部の構造や材料を変化させた13通りの方法を設け、将来の架け替えに向けた実験が行われているとのことです。錦帯橋を訪れられた際は、工法の違いによる水の浸透の差をご確認ください。なお、この公園の奥には岩国徴古館という博物館があります。錦帯橋の模型も展示されており、構造を確認できますので、お勧めします。

写真-18 実験橋/写真-19 橋板接合部の工法(13通りのうち4通り)

 ところで、写真-20は、我が家のコンクリート塀の目隠しです。ホームセンターに行き、比較的安価な木製の製品をそのまま使っていました。概ね、8年後の状況です。何も手当しなかったためか、雨と太陽の光により10年も持たずに、ボロボロになってしまいました。このため、交換した際には、設置前に防食塗料を塗るとともに、写真-21の様に、上面には錦帯橋を参考にステンレス板を張り付けています。さて、10年後には、どうなっているでしょうか。

写真-20 コンクリート塀の木製目隠し/写真-21 交換後の木製目隠し

【洪水に耐える】
 錦帯橋について、長持ちさせるための水への対応について紹介してきました。そもそも、錦帯橋がなぜこのような橋梁形式になったかというと、洪水に対して流されない橋を追求した結果です。中国の「西湖志」に描かれた5つの小島に架かるアーチ橋の絵にヒントを得て、小島の様な橋脚を築き、そこにアーチ橋を架けたそうです。橋脚は水の抵抗を最小限とするよう、水流方向にとがった紡錘形とし、流向にあわせるためか、橋軸方向とは必ずしも直交していなかったそうです。しかしながら、この橋も翌年の洪水により橋脚が崩壊して流失しています。
 このため、その復旧に際しては、河床に護床工が施されています。古文書によると、護床工は三層で構成されています。最下層は、橋の上下流それぞれ108mにわたって大・中・小の石を混ぜ合わせた捨石です。その上の中間層は、上下流それぞれ72mにわたり雑石を敷いて捨て張りとし、その上の最上層は、上下流それぞれ36mにわたり割石を敷き均しています。なお現在の護床工は、昭和25年の台風被害後に修復されたもので、写真-22のように、上流20m、下流50mにわたり、重さ500kgの花崗岩の大石を据え、目地にコンクリートを充填しています。また、洗掘の被害が大きかった箇所では、直径20cmの松杭を打ち込み、その上方に捨石、大石を敷いた構造とされています。現在の橋も、洗掘対策が重要な課題ですが、河川の状況や長年の災害との戦いにより蓄積された先人の知恵も参考としたいものです。
 橋脚の構造は、図-3となっています。河床に打ち込まれた松杭の上に、松丸太を井桁状に組み基礎とし、その上に石を積み上げています。石積みは、岩国式穴太積みといわれる手法で、外側に石を積み上げ、内部には栗石が埋め込まれています。昭和25年流失からの復旧に際しては、図-4のように、基礎はケーソン工法、橋脚はRC構造となっています。橋脚表面には石が張られています。昔の橋脚では桁の端部が土で覆われており、その部分の腐食が課題となっていましたが、RC橋脚とされたことにより、桁を受ける部分に鋳鉄の部材が設置され、桁端部の腐食という課題が解消されています。

写真-22 錦帯橋周辺の護床工の状況(建設コンサルタンツ協会HPより)

図-3 旧橋脚の構造(岩国市HPより)/図-4 新橋脚の構造(岩国市HPより)

 錦帯橋の周辺には、海上の木造構造物としての宮島や、コンクリート船武智丸を用いた防波堤等、道路構造物関係者にとって参考となるものがありますが、またの機会とします。
 次回は、前回からの木造構造物における工夫を基礎情報として、平成29年に改正した道路橋示方書における、長寿命化を合理的に実現するための規定等を紹介する予定です。(原稿執筆2022年3月23日、同31日掲載)

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