道路構造物ジャーナルNET

㉙技術者の育成~暗黙知・形式知・実践知~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫 氏

公開日:2022.02.01

(4)道路会社の人財育成に馴染むのは?

 道路会社の人財育成に果たしてどの手法が馴染むのか。OJTなのかOFF-JTなのか。以前、所属していた道路会社グループを事例として考える。技術系の職種は、大きく分けて土木・施設・システム。これを細分化すると、計画、設計、積算、工事(建設や維持管理)となる。勝手に分類してみると以下の通り。
  計画 ⇒OFF-JT(形式知化し易い、状況や内容が固定的、機械的に判断が可能、経験を必要としない、知識習得)
  設計 ⇒保全の場合⇒OFF-JT(〃)及びOJT(形式知化が難しい、状況に応じた多様な対応 を必要とする、勘とか経験値といったものが優先される)
     ⇒建設の場合⇒OFF-JT(〃)及びOJT(〃)
  積算 ⇒OFF-JT(〃)及びOJT(〃)
  工事 ⇒保全の場合⇒OFF-JT(〃)及びOJT(形式知化が難しい、状況に応じた多様な対応を必要とする、勘とか経験値といったものが優先される)
     ⇒建設の場合⇒OFF-JT(〃)及びOJT(〃)

 つまり、計画を除く設計・積算・工事(保全・建設)分野においては、OFF-JTに加えOJTが必須であると考える。それでは、OJTが出来る環境にあるのか? 答えはノーである。

(5)技術系子会社の人財育成に馴染むのは?

 高速道路の維持管理部門を担当している子会社に必要なものは何か? OJTでありOFF-JTである。

 以前、所属していた道路会社の子会社を事例として考える。子会社が出来る以前の基地業者自体に教材・人財がフルに残されていた。その後、基地業者の人員が子会社にそのまま移ったわけだから、たちまちお手本となる教師・教材となれるわけである。中途採用社員や新規採用社員は、その教師・教材の「一挙手・一投足」を真似れば良いのである。如何せん、時々刻々と進化・進歩する技術や材料については、OFF-JTにより補っていく必要がある。

 現状の子会社の仕事のやり方は、親会社と同じになってきている。つまり、現場第一主義ではなくなってきているという実態がある。極端な言葉で言うと、「電話交換手」である。親会社から(電話で)命じられた仕事を、次の子会社・協力会社に電話で伝える。これではこういう会社を作った意味も価値もない。現場の最先端にいる子会社・協力会社が「暗黙知・形式知・実践知」すべてを握っているはずなのに。これをどうやって引き継いでいくのか。

 この悪しき環境を打破すべく「研修計画」を立案した。以下に、当時考えた研修計画の全体像を示す。

(6)技術研修計画の策定

 2015年初夏、転職した道路子会社のN社長から研修計画と研修施設設置計画の策定という特命課題を頂いた。2010年代、道路各社ではこぞって研修施設をオープンさせていた頃である。
 土木系、施設系、システム系含めて技術者の育成に着手するためである。

1)各社の研修施設
 ①道路会社等の研修施設
 2015年にNEXCO西日本に茨木技術研修センター(通称;アイトレ)(I-TR)がオープンした。その後、中日本ハイウエーエンジニアリング名古屋にE-MAC技術研修センター、連携して名古屋大学構内に点検・診断に特化した「n2U-BRIDGE(ニューブリッジ)」がオープン。
 首都高技術内には既に「構造物点検技術訓練室」がオープンしていた。

  ②その他研修施設
  大手ゼネコンの中には「安全教育」に特化した研修施設を整備したところもあった。最近ではショーボンド建設さんがつくば研究所内に研修施設(つくば研修センター)を設立した。
 (道路構造物ジャーナルNET、2021.12.03号参照

 ③浙江省交通投資集団有限公司の研修施設の一例
 浙江省交通投資集団では、写真-6.1に示す大規模海上橋梁建設プロジェクトの為に、写真-6.2に示すプレキャストブロック製作工場を現場近くに建設し、その一部に安全体験コーナー(写真6-3,6-4)を作っている(ジャーナル連載2020.5.1 長大橋技術大国へひた走る-中国雑感-より)。20世紀までの中国の橋梁建設に関するイメージは、「早く、安く」であったような気がする。21世紀に入り「早く、安く、良いものを、かつ安全第一に」と変わってきた感がある。

 

2)研修プログラムの骨子
 研修プログラムについては、計画通り2018年度よりスタートしている。以下に研修プログラムの骨子をそれぞれ示す。
 ①目指す姿
  ・メンテナンス、エンジリアリング部門を担う高度な人財の育成
  ・各部門(土木・施設・システム等)におけるスペシャリストの育成
  ・道路事業以外の関連事業(外販等)も熟せる人財の育成

 ②育成方法(OJTは当然実施)
  ・階層別研修
  ・専門分野別研修
  ・スペシャリスト育成研修

  ③アウトプット
  ・高速道路(以外も)の保全技術力の向上
  ・専門技術力の向上⇒ゼネラリストからスペシャリストへ⇒人事の固定化(専門職化)
  ・キャリアアップ機械の付与や資格取得

3)研修施設
 研修施設の構想は以下の通りである。残念ながら、当時(2017年)策定した研修施設構想については、親会社等(OB・出向者)の猛烈な抵抗に遭い未だ実現していない。早期の成就を願ってやまない。
 ①研修室
 ②非破壊検査実習室
 ③実物供試体研修室
 ④料金収受用設備研修室
 ⑤電気関係安全訓練室
 ⑥工事安全研修室(VR体験室等)

4)技術研修の意義とは・・・3つの知の継承(暗黙知・形式知・実践知)

 最近では、第三の知識として「実践知」がクローズアップされている。「実践知」とは、現場で適切なジャッジをするために必要とする経験に基づく「暗黙知」のことである。暗黙知、形式知、実践知の3つの「知」が継承されていけば組織は安泰となるのである。
「温故知新」ということわざがある。「ふるきをたずねてあたらしきをしる」。まさに研修の目指す目標・成果である。新しく起こる事象(出来事)に対処するためには、古典の世界に分け入って、先人の知恵からよく学ぶべきだとする教えである。
 とにかく、先人の知識・知恵を形式知に変換し、さらには現場での高度な判断を実践知として形式知化することが非常に重要である。

(7)最後に

 道路構造物ジャーナルNETを購読されている方の多くは「人財育成」という課題に直面されていることと思う。とある道路系子会社の話である。一定水準の基礎知識を持った学生が来てくれない。さらには、現場部門の人員が不足しているので入社早々現場に配属される。基礎知識が不十分な上に、不十分なOJTを受ける可能性が有る。これで良いのだろうか。こういう場合は、「私達は、OJTで新人教育をする」というような無責任な理想論は唱えず、OJTよりもOFF-JTの割合を多くして指導すれば良いと考える。
 会社は新入社員という宝を育てる義務・責任がある。夢を持って総合職で入社した技術系新人を将来的にどういう方向に導くのか。所謂、「ゼネラリスト」として育成するのか、「スペシャリスト」として育成するのか、本人の意向もあるが上司の見極めが非常に大事である。但し、上司を選べないのが難点ではあるが。例えば、ゼネラリストを選択するならば、OFF-JTで幅広く・薄く・臨機応変に仕事をすれば良い。ゼネラリストからスペシャリストに移行した人は、その専門知識をさらに深く濃いものにしたら良い。

 
 橋梁維持管理のスペシャリストであれば「橋守」を希望して欲しいものである。「一般職と総合職」、「ゼネラリストとスペシャリスト」。一般職とスペシャリストは、地域が限定、仕事が限定、もって給与減額、と良いことは無いと聞く。退職までの約40年間、形式知に基づく(マニュアルに基づく)仕事をしてゼネラリストとして評価され給料をたくさん稼ぐ道を選ぶのか、暗黙知・形式知・実践知を経験豊富かつ有能な先輩・社会から吸収し、卓越したスペシャリストの道を選ぶのか、果たして皆さんはどちらの道を選びますか?

 過疎化が進む地方の集落。それもライフワークとしている吊橋の上での何気ない会話。ふと知り合った老人との会話から「研究開発」や「技術継承」の重要性を改めて感じた。(次回は2022年3月1日に掲載予定です)

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