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㉘北九州空港連絡橋(その6)~上部工の架設~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.01.01

(1)はじめに

 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。まず最初に、前号の「長大橋伸縮装置雑感」では、原稿修正ミスで関係者に多大なご迷惑をおかけしました。ここに深くお詫び申し上げます。引き続き、少しでも自身の「暗黙知・形式知・実践知」がこのジャーナル紙面に残せるように頑張りますのでよろしくお願いします。

 ところで、岸田内閣が発足してから約2か月が経過した。総裁選や衆議院選挙での公約が二転三転しているのは如何なものかとは思うが挫けず頑張って欲しいものである。最近ホットな話題は何だろうか。一つ目は、前澤友作氏の12日間の宇宙旅行ではないかと思う。費用は、カメラマンと2人で総額100億円とも言われている。重要なのは、自分が行くと決めたからには決められた訓練プログラムを熟し、過酷な訓練を潜り抜け、何もなかったかのように国際宇宙ステーション(ISS)で自分のミッションを実行する。本当に凄いことである。ぬるま湯にどっぷりと浸かって、年金受給まで天下り生活を謳歌する人達とは違う。やりたいことを、出来るうちにする、あるいは挑戦する。中々、一般人では出来ないことではあるが、彼は一般人ではない。二つ目は、子育て世帯への臨時特別給付金の支給方法に関する迷走ぶりであろう。何で「子育て世帯なのか」とは思うが、公明党と連携した自民党のばら撒き施策なのでそれ以上は言わない。現金とクーポン券から始まり、批判を浴びると自治体の状況を鑑みて現金給付もありとか、全て現金給付だとか。日によってコロコロ変わっている。三つ目は、天下の愚策、「アベノマスク」である。まだ、8,200万枚も在庫があり、保管費用だけで6億円以上かかっているそうである。今頃になって保管費の話とか、在庫の話とか、どんどん出てくるのは政治のやり方なのであろう。因みに、我が家では捨てたのではないか、と思うが。四つ目は、新型コロナに替る新たなオミクロン株の上陸と感染だろう。年末・年始にかけて特に用心したいところである。
 今回は、引き続き「北九州空港連絡橋(その6)(以下、「空港連絡橋」という)、「上部工の架設」について紹介する。大ブロック架設工法の選定、架設、等について簡単に紹介する。

(2)空港連絡橋上部工の概要

 空港連絡橋は、橋長2.1km。海上中央部にモノコード式バランスドアーチ橋(橋長400m)(以下、「アーチ橋」という。)、両サイドに10径間(780m)及び11径間連続鋼床版箱桁橋(920m)となっている(図-1参照)。今回紹介するのはアーチ橋についてである。

①全体の工区分割
 通常の作業として、橋梁形式を決めた後、発注単位を決めることになる。私が基本としているのは、1)発注単位はなるべく大きく(発注手続き・工事管理)すること、2)製作・架設(精度管理も含めて)が効率的・合理的になっていること、である。もう一方では、受注業者や受注機会を増やすことも求められることもある。工区分割の基本案については、平成7年夏までに私の方で策定し、部長までのオーソライズは完了した。まず、両サイドの鋼床版箱桁橋については、10径間及び11径間をそれぞれ2工区に分割し、発注者側の工事管理がし易くするように計画した。将来、受注業者や受注機会を増やすような要請があったとしても特段問題無く施工可能と判断したからである。

②アーチ橋のブロック分割
 アーチ橋のブロック分割は、FC大ブロック一括架設を考慮してA,B,Cの3ブロックとした(図-2参照)。これは、大ブロック継ぎ手部(アーチリブと補剛桁の仕口)の製作精度管理を考慮してのものである。

③JV構成について
 公明・公正な入札を期すため、JV施工によるメリットや構成会社を何社とするのか、を契約事務方から求められる。橋長400mの海上橋で、アーチリブが単弦から復弦に変化し、断面自体も四角形から六角形に変化、片側歩道を有する非対称な断面を有する難しい橋である。当然、実績豊富なファブリケーターあるいは専業等によるJV施工が望ましいと判断した。また、JV構成会社数は、中央径間と側径間の3ブロックをそれぞれ担当してもらうものとし、最小の3社とした。

<裏話>
 当時のプロジェクト責任者から工区分割について要請があった。現状3ブロック、3社で1JV。これを1ブロック3社で1JV、3ブロック9社で3JVにしてもらえないだろうか、と。図-2を見てもらえば分かる通り、3ブロックそれぞれ2,460tから3,450tの鋼重である。それまでの県単位の事業では10社とまではいかないが、5社程度以上で施工がなされる規模ではあった。しかし、お断りした。アーチ橋の製作精度管理は最重要課題であり、何も考えず業者を増やすことは避けなければならない。大ブロックジョイント部の品質管理・精度管理が確実に行えるのはこの計画しかない。逆に、どこで切れますか、と聞いたが当然のことではあるが返答は無かった。

(3)アーチ橋の架設

 北九州空港連絡橋は、ある程度の水深を有する海上橋梁である。海上橋梁である場合、FC船による大ブロック架設、大型台船による大ブロック架設(干満の潮を利用)、海上ベント設置による小ブロック架設、が一般的な架設工法となる。計画に当たっては、30年来の付き合いであるX社のS氏(架設計画の神様と呼ばれているスペシャリスト)と議論を重ね、干満の影響や大ブロック継ぎ手部の施工性から「FC船による大ブロック一括架設工法」を選定した。この計画は、平成8年から開催した航行安全委員会(会長;島田海上保安大学校名誉教授(当時))において、自身で作成した作業海域や架設計画をご審議して頂いた。この委員会で委員長から「角課長が作られた計画だから間違いない」と一言頂いたお陰で関係官公庁(第四管区海上保安本部・門司保安部、航路標識事務所等)及び航路利用者・漁業関係者との調整がスムーズに進んだのは言うまでもない。以降には、継ぎ手部の施工方法、架設ステップ、地組立、海上輸送等について紹介する。

①FC大ブロック架設工法 -ピン連結工法とモーメント連結工法-
  FC大ブロック架設工法は、継ぎ手部の接合を容易にし、FC船の開放を早く実施(干満の影響がある場合や水深が浅い海域での施工など)するために、大型のセッティングビームを接合部に設置し、先行架設ブロックに荷を預ける「ヒンジ連結工法」が一般的に採用されている。しかし、ヒンジ連結工法による場合、接合部のせん断力を分担する大規模なセッティングビームが必要なこと、条件によっては架設系の応力で主桁断面が決定されることもある。一方、モーメント連結工法はFC船により大ブロックを吊り上げた状態で継ぎ手部の「仕口」を合わせ、無応力状態で継ぎ手部の高力ボルト締めを行うことにより、逐次剛結を行う工法である。この工法では、FC船解放後には継ぎ手部に連続桁としての所定の死荷重曲げモーメント及びせん断力が発生する。図-3.1と図3.2にヒンジ連結工法とモーメント連結工法をそれぞれ模式図で示す。

 モーメント連結工法のメリットは、FC船で大ブロックを吊り上げた状態で接合部の高力ボルト締めを行うため、大規模なセッティングビームが不要となることである。つまり、大ブロック架設の最大のメリットである工程短縮や工費縮減が可能となる。一方、ヒンジ連結工法のメリットは、FC船で吊り上げた大ブロックを既設大ブロックにセッティングビームを介して荷を預け、FC船が海域を退去出来ることである。日本の沿海の様に干満の差がある程度大きい場合には有効である。FC船が退去した後、接合部の高力ボルト締めを行うこととなる。
 図-4に工法別の仕口とウエブ角度の模式図を示す。

②北九州空港連絡橋では?
 側径間の鋼床版箱桁橋では、継ぎ手部のボルト本数も少ないことからモーメント連結工法を採用した。一方、アーチ橋は、アーチリブのボルト本数及び鋼床版ウエブ・下フランジのボルト本数が非常に多いこと、仕口合わせに時間を要すこと、から昼間作業でのFC離脱は不可能となる。このため、一旦、既設側径間大ブロックに荷を預ける(写真-1にセッティングビームを示す)ピン連結工法とした。図-5にアーチ橋の架設ステップ図を示す。

 <ステップ1>新松山側 Bブロック一括架設(架設重量約2,460t)

 

 <ステップ2>空港島側 Cブロック一括架設(架設重量約2,460t)

  Aブロック落とし込むため、Cブロックを空港島側に150mmセットバックした。

 

<ステップ3>中央径間部Aブロック一括架設(架設重量約3,450t)

 Aブロック落とし込み完了後、Cブロックを新松山側に150mmセットフォアした。

③大ブロック架設計画上の留意点
 1)工場製作段階の留意点
   ・大ブロック地組立ヤード(岸壁)の想定と確保、製作ブロックの製作精度管理(工場が違う場合は断面製作情報を共有。例えば、3次元数値仮組み立ても有効)
 2)地組立ヤードでの留意点
   ・多点支持(地組立時は無応力状態で支持)にて大ブロック地組立を行う。
   ・所定のキャンバーや仕口形状になっているのか。
  3)浜出しから海上輸送での留意点
    ・浜出し用FC船の仕様(定格荷重、揚程、リーチ)と岸壁の水深(干満の影響)
    ・FC船で浜出し後、大型台船に搭載し、架設現地まで曳航する。この際、本橋独自の吊材がケーブルとなっているため桁とアーチの間に支持材を入れる必要がある。
   ・大型台船の偽装(内部補強)が特に重要。支持材の位置と台船偽装のチェックを忘れずに。
   ・今回の輸送は瀬戸内海のみ(広島、大阪堺・阪南~福岡県苅田町)であり、波浪の問題は外洋の場合に比べると少ない。しかし、台船補強と大ブロックの支点位置、波の波長等、十分輸送時の検討が必要。
  4)架設上の留意点
   ・大ブロック重量の精査、FC船の能力(定格荷重、揚程、作業半径)
   ・不均等荷重の考慮等
    ・作業海域の水深(干満の影響)、特に、FC船入域から離脱までの所要時間等
    ・タイムスケジュールの再確認

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