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①山陽新幹線コンクリート剥落事故の発生

山陽新幹線コンクリート構造物維持管理の20年を振り返って

西日本旅客鉄道株式会社
技術顧問

松田 好史

公開日:2021.07.15

2-2 内的要因に関する検討

 1)材料に起因するものとして、乾燥収縮、ブリージング、異常凝結、アルカリ骨材反応、骨材中の泥分、塩分、その他について検討が行われた。
 2)施工に起因するものとして、打設の中断、不十分な締固め、長時間の練混ぜ、長すぎる運搬時間、急速な打込み、早期脱型、型枠の沈下、その他(剥離剤の不足、打設中の土砂・流水の流入、支保工の影響等)について検討が行われた。
 3)劣化促進要因として、経年、漏水、有害水、凍害、塩害、煙害、火災について検討が行われた。

2-3 原因推定

 2-1および2-2の考察から、原因推定が行われた。報告書から抜粋のうえ『・・・』で以下に示す。
 『①覆工コンクリート打設中に、コンクリート材料の供給に中断が生じアーチ下部にコールドジョイントが形成された。
  ②コンクリート打設時の支保工の振動、あるいは、型枠清掃や剥離剤の不足による型枠脱型時の影響等により、コールドジョイント下部の内側に、かなり広範囲にひび割れが形成された。
  ③長時間にわたる漏水、温度変化等の影響に、空気圧変動、列車振動の繰返しの影響も加わり、残っていた接合面にも徐々にひび割れが進展した。
  ④最終的に、空気圧変動、列車振動等により落下した。』

2-4、原因究明で得た教訓

 山陽新幹線は中国地方の瀬戸内海に面した中核都市を連絡する形でルート選定されており、必然的にトンネル延長が長くなっている。新大阪~博多約551kmの延長のうちの約51%に相当する280kmがトンネルで、東海道新幹線515kmのトンネル延長68kmが占める割合約13%と比較して、トンネル延長比率は約4倍となっている。その背景としては、瀬戸内海地方の地形によるところが大きいが、当時の環境意識の高まりや東海道新幹線が抱えていた都市部での騒音振動問題(たとえば、いわゆる名古屋裁判)への対応として、ルート選定時にトンネルを選択したこともある。一般的にトンネル覆工は、坑口付近などの土被りの浅い区間や地山の悪い区間は鉄筋コンクリート覆工(以下RC覆工という)で施工される場合が多いが、それ以外の安定した地山区間では無筋コンクリート覆工(以下無筋覆工という)で施工される。山陽新幹線ではトンネル280kmのうち、RC覆工区間が17km(約6%)、無筋覆工区間が263km(約94%)となっている。

 山陽新幹線のトンネルは山岳工法で施工された。トンネル掘削後、地山種別に応じて標準鋼製支保工(150H、175H、200H)、と支保工建込間隔(1.5m~75cm)、標準巻厚(40、50、70cm)を組み合わせて地山を支保するもので、RC覆工区間では土被り厚に応じて鉄筋(D22、D25、D29)が40cm間隔で配筋された後、移動式鋼製型枠(セントル)が所定の位置に据え付けられてコンクリートが打込まれる。アーチコンクリートの打込みには、コンクリートポンプやコンクリートプレーサーが用いられ、コンクリート打設管を妻型枠側の鋼製支保工から吊り下げて、引抜き方式で施工するのが一般的であった。

 このような当時のコンクリート施工技術からすれば、アーチコンクリートの打込み作業が、何らかの理由により中断するのは想定内の出来事であった。そのため、当時の国鉄土木工事標準示方書(施管第164号、昭和44年3月8日)の解説において、①打継目は、構造物の弱点となりやすいことから、あらかじめ定められた作業区画内は、打ち終わるまで連続してコンクリートを打込むこと、②コンクリートの打ちたしにあたって、下部のコンクリートがいくぶん固まり始めているときに上部のコンクリートを打ちたす場合には、弱い打ちたし継目(追記;いわゆる、完全に一体化していない継目、コールドジョイント)ができるのを防ぐために上部のコンクリートを締め固める際に、振動機を下部コンクリートに差し込み、下部コンクリートが再振動締固めを受けるようにすること、③施工計画で定められていない打継目を設ける場合には、・・・(略)・・・打継目を安全にするために、ほぞ又はみぞをつくるか、打継目に適当な鋼材をさし込むのがよい、と定められている。福岡トンネル事故現場においては、コンクリートの打込み作業が中断してコールドジョイントや初生的なひび割れが覆工のかなり深部にまで発生したことが原因推定されているが、たとえ打込み作業が中断したとしても、再振動締固めやさし筋などの基本的な作業手順が守られてさえいれば、コールドジョイント部からの剥落の発生は、十分に防ぐことができたものと考えている。

 福岡トンネル覆工コンクリート剥落事故が発生した箇所は、無筋覆工区間である。写真-2の剥落部中央に黒く見えているのは施工目地直近の鋼製支保工(150H)である。コンクリート打込み時には、コンクリート打設管は前後左右に揺動し、その反力はコンクリート打設管を吊り下げている鋼製支保工に伝達されるので、コールドジョイント下部のコンクリートが凝結を開始した状態(まだ十分な初期強度が発現しない状態)で鋼製支保工を介して激しい揺れが加えられると、容易にひび割れが発生し内部欠陥として残る可能性が高い。このことは、引抜き方式で施工されたトンネル覆工の初回検査や近接目視点検では、目地近傍にあるコールドジョイントの妻側付近は、特に入念に点検することの重要性を示唆しており、建設当時のトンネル施工法を理解しておくことが、点検時の見落としや事故の防止に繋がるものであると考えている。

(次回は2021年8月16日に掲載予定です)

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